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第五章
第96話 目利き その2
しおりを挟む罠突破の報酬として出現した鉄の箱が開封され、その中身が衆人環視のもとに晒される。
先ほどの銅の箱より大きいサイズで、更にランクも上という事もあって、非常に期待が高まっていた北条達。
果たしてその中身は、一見しただけで先ほどよりも良いものが入っていることが窺えた。
「よぉーし、じゃあ順番に見ていくぞぉ」
そう言って北条がまず手に取ったのは、少し大きめな長方形の携帯ゲーム機のようなもので、厚みは三センチ程。
その携帯ゲーム機風の長辺の縁の中央部分。
そこは、虹がかかるような感じで盛り上がっており、その盛り上がった虹の輪の内側には、白く長方形状に盛り上がった石の部分があった。
そして同じく反対側には球の形をした水晶のようなものが嵌めこまれている。
本体部分は外側部分が大理石のような材質で縁取りされており、その内側には透明なガラスのような、反対側が透けて見える物質で構成されている。
そして、一番外側の部分が透明な素材でがっちり覆われ、その内側には小さなメスシリンダーのようなものが、十本平行に並んでいる。
どうやらそれぞれのシリンダーの中は、液体で満たされているようだ。
「これはぁ……まあ、ここが怪しいなぁ」
そう言って中央下部に嵌めこまれている、水晶玉のような物質に魔力を通してみる北条。
すると、その効果は見た目にも劇的な変化が起こり、魔法道具が動作したことがすぐに伺えた。
まず魔力を通すことによって、魔力を通した部分とは反対側にあった白く盛り上がった部分が蒼い光を放ち始める。
次に、水晶玉のある方の長辺を下部とするならば、一番左にあるメスシリンダーの最下部から蒼い光が放たれ始め、みるみるとボリュームメーターのように光が最上部まで伸びていく。
そして次は左から二番目のメスシリンダーが同様に光が下からぐんぐんとと伸びていき、それは一番右端の十本目のメスシリンダーまで連動するように続いた。
まるでSF的な装置を起動したかのような演出に、思わず目を見張る北条達であったが、一番右端のシリンダーが最上部まで達すると一旦全てのシリンダーの蒼い光がふっと消える。
直後、上部の蒼く点灯していた部分も一瞬消えて、即座に今度は赤く点灯をし始めた。
すると再び一番左端のメスシリンダーから光がぐんぐんと伸び始め……結局左端から三本のメスシリンダーが完全に蒼く輝き、四本目のシリンダーの下部が僅かに光った所でようやく動きが止まった。
「おおぉ……、おおぅ!」
その様子にいつになく北条が興奮しているようだった。
日本にいた頃にこの謎装置の起動を見ていたら、素直に綺麗だと感じたり、驚きを感じても不思議ではない。
だが、この蒼い光というのは、こちらの世界に来てから何度も見た事のある光で、ある意味見慣れてしまっている。
装置の挙動についても、「まあ魔法道具だから」で片づけられてしまうような……実際北条以外の面子は、特にこれといった反応は示していない。
「え、ちょ、北条さんどうしたんですか? これなんかすごい魔法道具だったりします?」
戸惑うような咲良の声に、我に返った北条がほんの一瞬叱られた子供のような顔を見せる。
そして先ほどの興奮をごまかすかのように、咳払いをしてからこのアイテムについて語りだした。
「ヴェヘンッ……あー、ちょっとこういったギミックは好みなので、少し我を忘れてしまった部分はあるがぁ、決してそれだけじゃないぞぉ。今の起動風景を見て察した人もいるかもしれんがぁ、こいつはいわゆる"懐中時計"のようだなぁ」
北条の説明を聞き、改めてその"懐中時計"を見てみると、見慣れた時計とは全く別物であることが際立っている。
メスシリンダーについては、メモリが細かく刻まれていて、シリンダーの一本だけを見たならば、砂時計の水verである、水時計に見えなくもない。
しかしそれが十本も並んでいる理由が分からない。それぞれのシリンダーは中身の液体が行き来するようには繋がっておらず、それぞれ独立していた。
「かいちゅー時計って、確かに光ってはいたっすけど、どこら辺が時計なんっすか?」
由里香の質問に一瞬場が静まり返るが、すぐに芽衣がフォロー? に入る。
「由里香ちゃん。『かいちゅうどけい』って言っても懐中電灯みたいな時計って訳じゃないんだよ~」
「え、ほんと? じゃあかいちゅーって何なの?」
「それはね~……」
などと横道に逸れ始めた二人をとりあえず見なかった事にして、北条が続きを話し始めた。
「……あー、つまりは、えーと。そう、まずはこの今は赤く光ってる所だが、恐らくこいつが午前か午後を示している。最初は青く光ってたけど、あれが午前中ってことだなぁ」
この大陸を初めとして多くの地域では、一日を二十の刻に分けた時法を用いている。
分かりやすく一日を二十四時間とするならば、一刻は一時十二分、二刻は二時二十四分と、一刻増える度に七十二分ずつ増えていき、十刻で正午になる。
つまりこの十本のメスシリンダーがその十刻の時を表していて、時間が経過するたびに、左のシリンダーから内部の蒼い光が上に伸びていく。
今は上部が赤く光っているので午後。そして、左の三本が全て蒼く光っており、四本目に入って間もない頃……という事は十三刻とちょっと、という事になる。
地球時間でいえば十五時四十分、といった所か。
「しかもこいつの凄い所は、最初に起動した時に、自動的に時間を調整したってことだぁ」
つまり最初のあの魔法道具の起動の一連の動作だと思っていたのは、時刻合わせも兼ねていたということだ。
とはいえ、他に時間を知る方法がないので、これが正確な時刻なのかはダンジョンを出るまでは知りようもなさそうだが、大まかな彼らの時間間隔からしたら恐らくは合ってるだろう、とは思えた。
「へぇー、時計ねえ。そういえば《鉱山都市グリーク》でも朝・昼・夕には鐘が鳴らされていたけど、そんなに時間って意識してこなかったわね」
そもそもこの世界では農村などで時間を知る方法と言ったら、太陽の動きといったものや、夜だったら星の動きを見て知る位しかない。
だが昼も夜もないようなダンジョンに潜る冒険者の場合は、ちゃんとした生活リズムを送るために、こうしたものがあると便利だろう。
ちなみに彼らが《鉱山都市グリーク》に滞在中に見て回った店では、懐中時計は見かけなかった。
恐らくは、こいつも売ればそこそこな値段にはなるはずだ。
「まあ、こういったものは、まずは売らずに自分達用に確保だなぁ」
そう言って査定を終えた北条は、次のアイテムを手繰り寄せる。
それは猫目の形をした、薄灰色の滑らかな質感をしている石を、ワインレッドの色をした金属っぽいもので周囲を包み込んで、飾り付けされているペンダントだった。
飾り自体も余り派手なものではなく、全体的に落ち着いたデザインになっている。
北条はいつものように色々な角度から見たり、触れてみたり、魔力を送ってみたりと試しているが特にこれといった反応はない。
やがて、
「ううん。あまり自信はないんだがぁ、これは身に着けると耐性を得ることが出来るペンダント、だなぁ」
「耐性?」
「あぁ。恐らくは石化に対する耐性か土属性に対する耐性か……。ちょっとどちらの耐性かは分からんし、もしかしたら全く違う効果かもしれん」
大分曖昧な表現ばかりで、はっきりとは断言しない北条。
ただ、なんらかの魔法効果があるのは間違いなさそうだ。
その後も北条の査定は続いていく。
最初の銅のの箱にも入っていたポーション、――それも恐らくさっきの箱に入っていたものより高品質なもの――なども何本も入っていた。
それに、先ほどの箱には入っていなかった、体力や疲労を回復する緑色のポーションも中には含まれていた。
それから謎のスクロール――北条曰く戦闘で使うものではなさそう――に金属のインゴット、見ていると妙に落ち着く絵画に、長方形のスピーカ―のような形状で、背後に取っ手がついた形の魔石灯。
それから薄い青色をした水晶玉の中に、星が二つ埋め込まれた謎のアイテム。
こちらについては、実はゴブリンのドロップを集めている時に同じようなものをひとつドロップしているのが確認された。
しかし、そちらの水晶玉の中には、星がひとつしか埋め込まれておらず、新たにこの星二つの水晶玉を見て思わず由里香が、
「なんかこれ、七つ集めたら願いが叶いそーだね!」
などと言っていたが、これには流石の芽衣もツッコミを入れられなかった。
今回改めて星二つが出たので北条が査定してみたが、結局いまいち何に使うのかが分からなかったので、これも保留ということになった。
残るアイテムは三つ。
それも見た目からして大いに期待の出来る物達ばかりだ。
その中のひとつを北条が手に取り調べ始める。
「んー、こいつは――」
やがて見定めが終わったのか、査定結果を話始める北条にいつも以上の注目が集まっていた。
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