どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
120 / 398
第五章

第105話 新エリア到達

しおりを挟む

 トントントン……。

 右の方へ弧を描きながら、下へと続く階段を下りていく北条達一行。

 横幅はそこそこ広いとはいえ、閉鎖空間で他に物音がほとんどしないせいか、彼ら自身の足音が妙に耳に残っていく。
 先を進む北条は静かに階段を下りていて、その雰囲気に合わせたのか、それとも単に話題がなかっただけなのかもしれない。
 いつもはよく二人でお喋りしている由里香と芽衣も、黙って北条の後をついていく。

 やがて最下段へと到達した北条は、その勢いのままスタスタと通路を先へと進み始める。
 他の者もそのまま北条の後をついていったのだが、ふとある事に気付いた。

「ここってあの蒼い光がなくて見難いですね~」

 芽衣が静かに囁くような声を発する。
 確かに言われてみると、通路には相変わらず松明が設置されているものの、壁が蒼い光を発することはなかった。

 蒼い光もうっすらと光量が増減して見辛い部分はあったが、松明のゆらめくような明りは更に視認性がよろしくない。
 単純に明るさだけでいっても、松明の方が照らす範囲が狭いので、これまでの階層より真っ暗で見通せない領域が増している。

 だがそんな薄暗い道をものともせず、北条は先へと進む。
 とはいっても、すぐに通路は終点へと到達し、その先の広大な部屋へとたどり着いた。



「う、わあぁぁ……」

 そこは部屋というよりは巨大な空間と呼ぶべき広さを持っていた。
 ここのダンジョンの転移部屋も相当な広さであったが、この空間もそれに匹敵するか、それ以上の広さのように思える。

 思える、というのは部屋が暗いので先が全部見通せず、いまいちはっきりとしないからであった。
 壁際には等間隔に松明の明かりが照らされているものの、そんなものではこの広大な空間を照らすには力量不足……いや、光量不足であった。


「ヤッホーーーーッッ!!」

 ヤッホー……ヤッホー……。

 突如大声で叫んだ由里香の声が、木霊のように微かに帰って来る。

「ちょ、ちょっと由里香ちゃん。そんな大声で叫んだら魔物が寄ってくるわよ!」

「あ、すいませんっす! なんか、つい叫びたくなっちゃって」

 由里香の突然の行動にあわあわとして注意をする陽子。だが、幸いにも由里香の声によってつられてやってくる魔物はいないようだった。

「ふう、魔物がわらわら寄ってこなくてよかったっす」

「由里香ちゃんは頭じゃなく心で動いてるからね~」

 何気に辛辣な言葉を投げかける芽衣だが、由里香の方はいつもの事といった感じで気にした様子はない。

「おいおい、お前達。じゃれるのはその辺にして、ほらぁ……そこにあるのは迷宮碑ガルストーンじゃないかぁ?」

 そう言いながら指で指し示す北条。
 まるで誘蛾灯のように、その指先に釣られて視線を移した彼女達は、ひっそりと聳え立つ迷宮碑ガルストーンを発見した。

「おお、まじっす。これが例のあれっすよね!」

「そうね~。これが例のあれだね~」

「そうだぁ。コレをアレすればびゅびゅんびゅんだぞぉ」

 本当にこの転移装置である迷宮碑ガルストーンを理解してるのか判断しにくい由里香の反応と、それに乗っかる形の芽衣の発言。
 そんな二人に乗っかる形で、北条も急に幼稚園児のような発言をしながら迷宮碑ガルストーンへと近づいていく。

 そして〈魔法の小袋〉から取り出した〈ソウルダイス〉をセットして、この迷宮碑ガルストーンの情報を登録する。
 これでこの〈ソウルダイス〉でPTを組んでいる北条達六人全員に、ここの迷宮碑ガルストーンの情報が記録されたので、以降は別の〈ソウルダイス〉を使っても転移部屋からここまで飛んでこれるという訳だ。

「あの、これでいつでもあの転移部屋まで戻れるって事ですよね?」

 "びゅびゅんびゅん"については何も触れず、気になる事を質問する咲良。

「そうだぁ。そしてこのフロアからが新たなエリアってことだな」

 そう言って北条はダンジョンのエリアについて語りだした。
 ダンジョンには多種多様の種類が存在していて、地下迷宮のようなものもあれば、今まで通ってきたような洞窟タイプのものもある。

 更には同じ洞窟タイプでも壁が光らないで、松明で明りが取られている所もあれば、まったく明りの付いていない真っ暗なタイプもある。
 この辺は地下迷宮タイプも同様だ。

 他にもフィールドタイプのエリアというのもあって、更にそこから平原フロアとか森林フロアとか色々なタイプに派生する。

 こうした様々な特性を持つダンジョンであるが、規模の小さいダンジョンの場合は、最深部までずっとどれかひとつの特徴だけしかない、単純な構造をしている事がある。
 だが転移部屋が用意されているようなダンジョンの場合、大抵は複数のタイプのエリアが混在しているのが基本だ。

 そういった切り替え部分のつなぎ目付近には、先ほどのように下へと下る階段の両脇に、これまでは無かった松明が設置されていたりして、その先のフロアが松明の明かりになるという事を示してくれる場合がある。
 これが逆に、松明の明かりのフロアから壁の蒼い光のフロアに移動する場合、階段の途中から壁が蒼く光始めるなどで、先のフロアについて知る事が可能だ。

 そして重要なことがひとつある。

 新たなエリアへと進む場合、その先には大抵の場合その入り口部分に、迷宮碑ガルストーンが設置されているのだ。
 北条が先へと進んだのも、この事を知っていたからだった。

「ここがどのようなエリアかは分からんがぁ……エリアが変われば出現する魔物の系統もガラッと変わったりする。何でダンジョンに迷宮碑ガルストーンが設置されているのかは分からんがぁ、こいつのお陰で大分ダンジョン探索も楽だなぁ」

 新しい領域の魔物が前の階層の魔物よりも強く、戦闘が厳しくなってしまった。
 或いは魔物のタイプが相性悪かったり、フロア自体が寒かったり暑かったりで、先に進むのに四苦八苦してしまった。
 そんな場合でも、そのエリアの始まり部分には迷宮碑ガルストーンがあるので、いざとなればそこからすぐに脱出することが可能だ。

 エリアの切り替えというのはダンジョン探索では大きな意味を持っていて、出現する敵が一段飛びで上がる場合もあれば、前のエリアの最後の階層――つまり、新エリアのひとつ前の階層よりも弱い敵が出てくることもある。


「それで、これからどうするの?」

 何か考えがあれば意見を出していたであろうが、特にこれといった考えが浮かばなかった陽子は北条にそう尋ねた。

「そうだなぁ。一先ずはこの階層を探索してみるのでいいんじゃあないかぁ? あまり迷宮碑ガルストーンから距離を取り過ぎない程度になぁ」

「そうですね、エリアが変わってどうなってるのかも早く知りたいし!」

 新しく訪れた迷宮の変化に咲良のテンションはあがっているようで、今にも駆けだしていきそうな様子。
 陽子や他のメンバーも異論がないようだったので、新エリアの探索が決定した。


 まずは迷宮碑ガルストーンの周辺からの探索から始まった。
 このエリアは壁全体が蒼く光るさっきまでの場所と違い、壁の松明の明かりだけしか光源がない。
 そのため、視界を確保するために、北条が自身のハルバードと陽子と芽衣の木の杖の先端部分に、光量を多めに意識した【ライティング】を掛ける。

 そうしてから周囲に気を配りながらの探索を始めてから十五分程が経過した。
 魔物に遭遇することなく探索を続けた結果、この広い空間で自分達が探索した場所はおおよそ半円状になっていて、円周部分の端っこの方に、上へと続く階段と迷宮碑ガルストーンが設置されている事が判明した。

 そして直系部分の中央辺りには真っすぐ先に続く道があり、その両脇は底が見えない谷のような空洞になっている。誤って落下したら幾らレベルアップで強化されているとはいえ落下死は免れないだろう。


「うわぁ……これはちょっと怖いわね」

 そーっと端の部分まで近寄って下の様子をチェックした陽子が、こわごわと感想を口にする。
 高所と暗所というダブルパンチはヒット率が高かったようで、他の面子も似たり寄ったりの反応だ。

「この通路のような所で戦闘になったら、ちとやりにくいなぁ」

「で、でも! 何だかんだで道幅は結構ありますし、気を付ければ大丈夫……ですよ」

 そう口にする咲良もどこか不安そうだ。

「とりあえず、俺と由里香は前衛として動くので、下に落ちないように要注意だぁ。後は里見を中心に、後衛が俺達二人の様子をチェックして、端部分に近よってしまったら注意してくれぃ。百地も遊撃として行動する時にはよく注意するように」

「わかったわ」

「は、はい……。気を付けます……」

 こうして細心の注意を払いながら一本道を進んでいく北条達に、空中からの刺客が近づいてきていた。

「……っ!。みんな、注意しろぉ。空から何かくるぞぉ」

 北条の声にみんなの意識が上空へと向く。

 その先に薄っすら見えたのは、ダンジョンに潜るようになってからはすっかりお馴染みとなっていた、蝙蝠の集団であった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...