どこかで見たような異世界物語

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第六章

第115話 金箱、再び

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 その日の夜。

 深刻な様子の者が多いことで、いつもより切迫した雰囲気が漂う中、何時も通り『女寮』の方で話し合いが持たれた。
 議題は勿論、村にやってきた冒険者達についてだ。
 幸い、あの時現場にいた以外の面子は、『青き血の集い』の連中と揉める事もなく、一番の問題パーティーである『流血の戦斧』も、結局村に戻ってきた様子はない。

 まずは、信也の口からそれらパーティーの問題点や、個人個人の特徴などが語られる。

「……チッ。蛮人共が」

「…………」

 それを初めて聞くメンバーの反応は芳しくない。
 石田は不愉快気な様子を隠すつもりもないし、長井も何やら考え込みながら話を聞いていた。


「――という訳だ」
 
 信也の口から粗方説明が終わると、この問題にどう対処していくかについて話し合われる。

「まずは、接触を避けるべきですね」

「それは勿論そうだが、ダンジョンに潜っている限り、いつどこで接触するか分からないぞ?」

「いっそのこと、調査期間中は家でじっとしてる?」

「いやいや、流石にそれはねーだろ。ダンジョンっても、中は広いんだし、五層からは分岐もしてっから、余計出会う確率もすくねーだろ」

「じゃあアンタ。もし中でそいつらに接触したらどうすんのよ?」

「そりゃあ……ヤバそうだったらケツまくって逃げるしかねーだろ」

「あ、あの! わ、私達よりレベルが上の相手から、その……無事逃げられるかどうか、自身ありません……」

「ぬ、ぬううう……」

 喧々諤々といった感じで話し合いは進んでいくが、これだ! といった案は出てこない。
 しかし話し合っていく内に幾つかの案は出され、それらを実行していく事でとりあえず話はまとまった。

 その方針とは……まずダンジョン探索については中止しない。
 これは基本方針として決定した。

 確かに話を聞く限り危険な相手ではあるが、ダンジョン内で見つかったら最後。百パーセント襲ってくる、とも限らないからだ。
 もしそんな事をすれば、眼を付けられていた冒険者ギルドに今度こそ確実に手配され、処罰を受ける事になるだろう。
 ただこれは、あくまで希望的観測であり、そういった常識が通用しそうにない相手だからこそ、ガルドからも警告を受けているのだ。

 なので、実際にダンジョン内で襲われた場合の事も、話し合って決定した。
 それは二手に分かれて逃走する、というものだ。
 もし相手も二手に分かれた場合、こちらは更に二手に分かれる。

 相手は格上の相手とはいえ、全員が盗賊職という訳でもないので振り切る事も出来なくはないだろう。
 更に向こうは奴隷を二人抱えているので、一緒に行動する可能性は高い。
 相手がまとまって行動していれば、少なくとも半分は確実に逃げられる。

 最悪な事態を想定すると、心が委縮してしまいそうになるが、他にも対策は幾つか実施する。
 その一つとして、あのギルドから派遣されてきたナイルズという男に相談するというものがある。

 相談した位でどうにかなるとは思っていないが、少なくともこれでダンジョン探索中に、信也達に何かがあった場合、疑いの目が『流血の戦斧』に向きやすくなるだろう。

 それから、ダンジョンの転移部屋までは十二人全員で移動する。
 そして、信也達『プラネットアース』の面々は、広大なフィールドタイプの《フロンティア》での活動をメインにする。

 あのエリアに行くには、レア魔物っぽい金箱を倒さないといけない。
 それに内部は広大なフィールドでもあるので、ダンジョンの中では比較的安全だと思われる。
 それでも絶対安心とはいかないが、いざとなったら慶介のアレ・・に賭けるといった手段も残されている。

 北条達については、敵の感知に妙に長けている北条に頑張ってもらい、それでも襲われそうになった場合は、芽衣の"召喚魔法"も惜しまず使って逃げの一手を打つ。
 なお、一緒にダンジョンを探索しないのは、十二人全員でかかっても勝てるかどうかが怪しいからだ。
 そうなると、レイド向けのエリアでもない通常ダンジョンは、十二人が一緒に探索するには窮屈になる。

 一先ず、話し合いで出た大まかな結論は以上となるが、信也達にとって若干救いになる事はある。
 それは、相手とのレベル差があるということそのものだ。
 初心者レベルの信也達の成長速度は、既に実力的にCランクだという相手よりも早い。
 少しでも実力差が縮まれば、その分何かあった時に助かる可能性は増すし、新たなスキルなども覚えていく可能性は十分ある。


「では今後はより気を引き締めていこう」


 信也の締めの言葉に、一同は静かに頷くのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 信也達の話し合いから三日が経過した。
 あの翌日には準備を整えつつ、早速ナイルズに相談にいったのだが、思いの外こちらに協力的で、色々とアドバイスをもらっていた。
 どうやら彼も『流血の戦斧』については気になっていたらしい。

 それと、『リノイの果てなき地平』と『青き血の集い』も、今日の昼過ぎにはダンジョンへと調査に向かうとのこと。
 それらの報告を聞いた後は、食料などの準備を整え、一路信也達はダンジョンへと向かった。

 その後は、信也達は予定通りフィールドエリア《フロンティア》に、北条達は鉱山エリアへと、即座に迷宮碑ガルストーンを使って移動する。
 当初はビクビクしながらの探索であったが、流石に迷宮碑ガルストーンで移動したので、すぐに追いつかれる事はない、と徐々に何時ものペースを取り戻していくのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そんな信也達の事を知る由もない――というよりも、まだ会った事すらないヴァッサゴは、椅子・・に座りながら干し肉を齧っていた。
 塩気がかなり強いはずだが、気にした様子もなく口にしているヴァッサゴは、赤毛をした身長百九十センチ近くの筋骨隆々の男だ。
 上半身、下半身共に最低限の革製の防具しか身に着けておらず、得物である両刃のバトルアックスはすぐ近くの壁に立てかけてある。


「ようやく次のエリアか」

 ヴァッサゴの野太い声が地下迷宮・・・・へと反響していく。
 そこは、それまでの蒼い光が照らす洞窟風の場所ではなく、人工的な壁が敷き詰められたいかにもといった様子の地下迷宮だった。
 床も完全に石畳となり、等間隔に配置されている松明の明かりだけが、唯一の光源となっている。

「そうみたいっすねー。どうしやす、親分? ここで一旦引き返しやすかい?」

 そう卑屈な態度で伺いを立てる小男は、全身から小物臭が漂う見た目をしているが、これでも職業を二つ持つ、歴とした実力者である。
 しかし、奴隷以外のパーティーメンバーに対しては、このような卑屈な態度を取っている。

 それは自分以外の三人が明らかにヤバイ奴らだからであった。
 コルトというこの小男は、根っからの小心者。
 強い者にはゴマをするが、弱者には強く出るという、ある意味分かりやすい性格をしていた。

「いや……このまま進む。食料はまだあるんだろう?」

「へぇ、それはもう。たっぷりと用意しときやした!」

 そのたっぷり・・・・と用意した食料をここまで運んできたのは、勿論この小男ではなく奴隷の二人だった。
 その奴隷の内の一人、ドワーフのドランガランは、ヴァッサゴの椅子として・・・・・地面に跪き頭を垂れている。
 頑健な肉体を持つとはいえ、体格差が違いすぎるヴァッサゴを乗せ続けているドランガラン。

 だがその表情は余り辛さを感じさせないものだった。
 何度もやらされて、慣れているといった側面もあるが、辛そうな表情を表に出すと「俺の椅子になるのが不満だってのか?」と、理不尽に殴られるのだ。

 だが最近は、不本意ながら暴虐な主人たちに対し慣れてきた部分があり、ヴァッサゴ達も以前ほど積極的に手を出さない。
 代わりに、新入りの獣人であるジェイが次のターゲットとなっている。
 今もダンジョンの中だというのに、ドヴァルグという男と"模擬戦"を行っており、すでにジェイの体には幾つも傷やアザが浮かんでいた。

「オラオラ、どうしたあ! 逃げるばかりじゃなく、少しはかかってこいやあ!」

 そんな無茶な要求にも従わないと酷い目に合わされる。
 すでに奴隷になった当初に抱いていた反骨心は失われ、すっかり牙を失っているジェイ。

 ドヴァルグの掲げる戦斧は、ヴァッサゴのものよりは長い柄を持つ。
 剣を得物としているジェイからすると、相手の方が先に射程距離に入ってしまうため、非常に近づきにくい。

 しかし、ここで消極的な戦いを続けても後でヤキ・・を入れられるだけだ。
 その言葉の通り、熱したダガーを押し付けられるのは、何度やられても慣れるものではない。
 覚悟を決めたジェイは、無謀な突撃を敢行する。

「ハンッ! ただ突っ込めばいいってもんじゃあねえだろ!」

 そう言うと、ドヴァルグは石突の部分で、突撃してくるジェイをしたたかに打ち付ける。

「ぐはぁ!」

 みぞおち部分をもろに穿たれたジェイは、その場にうずくまって苦し気にしている。
 そもそも二回り位はレベル差のある両者の間で、互角な戦いが成立する訳はない。

 しかも、もし万が一ジェイが上手い攻撃を当てる事が出来たとしても、後に待ってるのは理不尽な暴力だけだ。
 何をしても痛めつけられる、という状況はジェイという獣人の心を芯から捻じ曲げてしまっていた。

 くずおれたジェイに対し「オラ、早く立てよ」と要求してくるドヴァルグだが、これまでのダメージに加え先ほどの一撃をもらったせいで、立ち上がる事が出来ずにいた。

「チッ」

 苛立たし気に舌打ちをするドヴァルグが、ゆっくりとジェイに近づいていく。
 と、そんな時だった。

 ギィィィ……。

 という、木板がきしむような音が聞こえてきたのは。

「あん? なんだ?」

 ドヴァルグが周囲に視線を這わせるが、特にこれといった異常は見当たらない。

「そこっ!」

 短く声を発したコルトは、同時に手にした短剣を通路の先へと投擲する。
 暗視能力がある訳ではないが、コルトは"気配感知"のスキルでその場所から何かの気配を瞬時に感じ取ったのだ。

 キィィィンッ!

 確かにそこ・・には音の正体が潜んでいたようだったが、コルトの投擲した短剣は見た目の割に素早く動くソイツ・・・に躱され、短剣は虚しくダンジョンの壁へと当たり、甲高い反響音を響かせただけだった。

 バコオォォ……。

 その様子を、金色の箱型をした魔物はあざ笑うように、側面にある口部分を笑みの形にして、宝箱の箱部分を開閉させていた。
 そこに、

「シィッ!」

 いつの間にか接近していたヴァッサゴが、"ローキック"を魔物にぶちかます。
 しかしこの攻撃すらもひらりと躱し、再び人を馬鹿にするような態度を見せる。

「アレは何でスかね……? 【アースニードル】」

 更に続くデイビスの"土魔法"は、四本の土の槍を生み出し、一斉に魔物へ向かって射出されていく。
 それぞれが微妙に異なる軌道を描いて飛んでいく土の槍は、避けられた場合の事も考慮してのものだ。

 グイイィィィッ!

 そんな連携攻撃も、ひときわ大きい声を上げた魔物はひらひらと躱していく。
 やがて、そのままダンジョンの奥へと姿を消していった。

「……一体ありゃあ何だったんだ?」

 そのドヴァルグの声に答える者はいなかった。
 ともあれ、ジェイは一先ずこれ以上の暴力を受ける事なく、夕食の時間を乗り切る事に成功するのだった。



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