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第六章
第119話 従魔登録
しおりを挟む「こいつは従魔の首輪だ。その名の通り冒険者ギルドが従魔として認める証明書のようなものだ。サイズはかなり自由が利くので、成長や進化などで大きくなったとしても、ある程度は対応できるようになっている」
「わあっ。ほら、マンジュウ。従魔の首輪だって! あたしが付けてあげるね!」
早速由里香は従魔の首輪をつけようとする。
マンジュウも嫌がる事なく素直にじっとしていて、取り付けはすぐに完了した。
「従魔の首輪などと大層な名はついているが、特にこれといった機能はない。なので、そのマンジュウ君が暴れ回る事のないよう、しっかり管理したまえ」
「はい!」
「わかりました~」
そもそも野良の魔物をテイムしたのではなく、"召喚魔法"によって召喚されたものなので、普通の従魔とは性質を異にしているマンジュウ。
更に"契約"をしたことによって、普通に召喚された魔物とも別の存在になってしまったようで、【デポテーション】によって送り返す事は出来なくなってしまった。
"契約"を交わすと具体的にどうなるのか? 通常の従魔との違いは?
その辺りは今度ディズィーにあった時にでも聞いてみようかな、と芽衣は考えていた。
「ところで、従魔の事なんだがぁ。どうも俺達と同様にレベルアップをしているようなんだが、経験値の扱いはどうなってるんだぁ?」
北条が一番疑問に思っていた事を質問する。
ゲームによっては、召喚士が魔物を召喚すればするほど召喚士に入る経験値が減少していくタイプも存在する。
召喚した魔物にも経験値が分散されてしまうからだ。
「ああ。確かに従魔も経験値を得てレベルアップをしていく。一定以上のレベルになったり、特別な条件を満たせば"進化"する事もあるだろう。経験値については、従魔には『魔物使い』が得た経験値の何分の一かが流れ込むようだ」
「つまり、従魔と一緒にいると、『魔物使い』が得られる経験値が減るってことですか?」
「おっと、言い方が悪かったようだね。そうではなく、『魔物使い』も他のパーティーメンバーも得られる経験値は同じだ。そして、『魔物使い』が得た経験値とは別に、『魔物使い』が得た量の何分の一かが従魔へと渡る。これは従魔の数が増えてたとしても、それぞれの分配が減る訳ではないようだ」
「んー?」
いまいちよく理解できていないのか、由里香はハテナ顔だ。
他にも完全に理解できていない者もいて、頭の中で先ほどの説明をかみ砕こうとしていた。
「えーと、つまり従魔の数がたくさんいた方が、総合的に多く経験値が得られる、のかな?」
「そういう事になる。といっても、一度にテイム出来る従魔の数はそう多くはないがね。それと従魔が増えたからといって、本来得られる経験値が目減りする事もない。つまり、従魔を連れていれば、従魔の数だけプラスで経験値が入るという訳だ」
『魔物使い』は希少な職業ではあるが、『召喚士』に比べたら断然人数は多いので、こういった検証などは昔から行われていた。
そしてそれが今に伝え残っているからこそ、今もなお少ないながら『魔物使い』は絶えていないのだ。
『召喚士』も本来ならもう少し素質を持つ者はいると思われるのだが、ガイドラインのない職にわざわざ就こうとする者は少ない。
それよりも他に選択肢があるなら、そっちの分かりやすい方を人々は選ぶ。
「ほおう、そいつはなかなか便利だなぁ。マンジュウには今後も頑張ってもらわないとな。ところで、さっき進化と言っていたが、進化すると具体的にどうなるんだぁ?」
「基本的には上位の魔物へ生まれ変わる事になる。そこのマンジュウ君なら狼系のより上位の魔物に進化できるだろうねえ。もしマンジュウ君に闇属性の素質があって、レベルアップによって"闇魔法"が使えるようになれば、ダークウルフ系統への特殊進化をすることもある」
「ふおおおぉぉっ」
ゲームなどではよくある設定だが、どうやら琴線に触れたのか、やたらと咲良が興奮していた。
そして咲良の強い視線がマンジュウへと送られると、「わふぅ!?」と少しビクついた反応を見せる。
「ハッハッハ。マンジュウ君がどのように進化していくのか、私も楽しみだよ」
当初の目的であったマンジュウの件も片付き、少し小話をした後に、北条達は次の目的地へと向かうため、この場を辞する事にした。
しかし、背を向けて大きなテントを出ていこうとする北条達に、ナイルズの呼び止める声がかけられた。
「あーそうそう。その従魔の首輪だが、首輪の代金を含めて従魔の登録料が必要なのだった」
その言葉に出足をくじかれた気分になりつつも、登録料を支払って今度こそテントを出るのだった。
▽△▽
ザッザッザッ……。
複数の土を踏み鳴らす足音が微かに響く。
この辺りの道は、昔から村人が森へと出入りする際に使われていたので、土がむき出しになっている。
北条達は、ナイルズのテントを辞去してから、ダンジョンのある森の方へと歩いていた。
といっても、ダンジョンに向かうのではなく、目的地はそのもっと手前――拠点予定地であった。
今日は元々一日休みの予定だったのだが、少しでも力を付ける為にみんなしてこの場所に訪れたのだ。
それにこの場所ならば、信也達が帰ってきた際に、いち早く気付く事が出来る。
こうして六人はそれぞれ修行やら、模擬戦やら、魔法の練習を兼ねた基礎工事などに精を出す。
ダンジョンに潜ってレベルも上がってきたせいか、魔法による基礎工事の進み具合も加速したようで、サッカーグラウンド何面分といった単位になりそうな、広い土地の確保が完了していた。
切り株もきれいさっぱりとなくなり、平面が広がるその場所は、とてもじゃないが短時間で造形したとは思えない。
その広い土地をマンジュウが駆けずり回っていて、その後を由里香が追いかけ回っている。
レベルが多少上がっていたマンジュウだが、更に上のレベルで身体強化系のスキルも持つ由里香には敵わないようで、結局最終的には捕まっていた。
「はぁ、なんだか楽しそうね……」
由里香が追いかけっこしている様子を見た咲良は、そう口にしながらも魔法による工事を続けている。
土地の確保は一先ず終わったので、今はその周囲を覆う土壁と、空壕を形成している所だった。
そんな折、ふと視線を周囲に向けた咲良の目に飛び込んできたのが、由里香とマンジュウの追いかけっこだったのだ。
更に別の場所に視線を這わすと、陽子が生み出した【魔法結界】をどうにか打ち破ろうと、芽衣の"雷魔法"がバチバチと何度も放たれていた。
"雷魔法"が当たるたびに結界の強度を補強している陽子は、まだまだ余裕はありそうだ。
そんな二人とは離れた場所では、楓が一人、苦無を手にして「黒い影」と戦っていた。
この「黒い影」は楓自身が使用した"影術"の【影分身】という術で生み出されたものだ。
その名の通り、自分の影で出来た分身を生み出して攻撃させる術で、前回のダンジョン探索で、最後の方に覚えた出来たてほやほやの術だ。
そのため、もっと使い勝手を理解しようとして使っていたのだが、この分身は相手を指定すると自動的に攻撃してくれる事が分かっていた。
そのオートアタックを利用して自身の影と模擬戦をしているのだが、やはりオートアタック状態だと動きが単純で読みやすくなってしまうようだ。
そういった実戦的な事も、この模擬戦では幾つも発見する事ができた。
実際の敵を相手にする場合、分身をどのように操作し、どの部分で自動的に動かすかなど、色々考慮する部分はありそうだ。
これまで特に趣味というものを持たなかった楓は、まるで休日にスポーツを楽しむかのように、自分を鍛え上げる事に夢中になっていた。
そして残る北条はというと……。
「うううーーん」
一人資材置き場にある丸太の前で、うんうんと唸っていた。
MPが尽きて休んでいるという訳ではないようで、時折魔力の気配をなんとなく
感じてはいた。
しかし、これといった魔法らしき効果は一見確認できず、気になってきた咲良は作業を中断して北条の元へと向かった。
「北条さん、さっきから何してるんですか?」
「ん? ああ、ちょっと新しい魔法を構築していてな……」
そう言いながら、眼の前に転がっている丸太に手を振れる北条。
そしてまたうんうんと唸り始めるが、相変わらず何も変化は見られない。
「何をしようとしてるのか分かりませんけど、うんうん唸っている姿はちょっと危ない人みたいでしたよ」
「む、むうう……。いやぁ、この丸太から水分を取り除いて乾燥させようとしてたんだけど、見ての通り苦戦していてなぁ」
「ああ、なるほどお。そういえば建材として使うには乾燥させた方がいいんでしたっけ」
とは言うものの、咲良は乾燥させた方がいいという知識だけしか持っておらず、何故そうするのかまではいまいち把握していない。
それは北条も似たようなものだったが、木材は乾燥していく内に中の水分が失われていき、収縮や変形が起こってくるので、先に乾燥させてから使うんだろうという認識は持っていた。
他にも「丸太に切れ目を入れて乾燥させると良い」とか、「水中で乾燥させる方法もある」だとか、部分的で曖昧な知識も持っていたが、詳しいやり方などを理解している訳ではない。
「"水魔法"が使えればもっとやりやすい気はするんだが、"火魔法"の高熱でもって蒸発させようとすると、どうも調整が上手くいかなくてな」
「"水魔法"ねえ」
咲良も木材の乾燥に興味を持ったのか、或いは"土魔法"での作業に飽きていたのか、手ごろな木材を見つけ"水魔法"による脱水乾燥を試みる。
「んんん、んーー? こう、かな……」
しかしそう上手くいくわけはなく、木には何の変化も見られない。
結局北条と同じようにうんうんと唸りながら、北条と共に木材に向かい合う咲良。
こうしてしばらくの間、二人の唸り声が開けた土地の一角に木霊するのだった。
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