どこかで見たような異世界物語

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第八章

第181話 秘密の会談 その3

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「そ、それ、は……本当の事なのかね?」

 震える声でそう問いかけるナイルズは、いつになく焦りの表情を隠す余裕もなくなっていた。
 それだけ先ほどの北条の話は、ナイルズにとっても驚くべきものだった。

「ああ、残念ながら、な。実は、これもツヴァイの予知能力によるものでなぁ。本当ならツヴァイも能力の事は隠しておきたかったんだろうがぁ、敢えてこの能力を晒したのも、それだけの理由・・があったという事だぁ」

 そう言われて、ナイルズが改めてツヴァイの方に視線を移す。
 すると、ツヴァイの顔には怒りや悲しみ、絶望といったものがない混ぜになった複雑な表情を浮かべていた。
 彼が一体予知能力で何を見たのかは分からないが、その表情はとても演技とは思えず、赤の他人であるナイルズにも事態の深刻さが伝わってきた。

「だとすると、私の手だけでは追いきれん。《鉱山都市グリーク》にも連絡を取らねば……」

「そいつぁ助かる。だが、手をこまねいて見ている訳にもいかん。少しでも相手の戦力を削るために、魅了解除はしていきたいのだがぁ……」

「しかし、それは危険ではないのかね?」

「だが、このまま放置するのも危険だぁ。なぁに、俺も自分の命は惜しい。その辺は上手くやるさぁ」

 それ位は分かってるさ、という北条の覚悟のようなものをナイルズは感じ取る。
 話を聞いた限りでは、これまでも下調べのようなことはしていたようだし、自分ならやれるという目算もあるのだろう。
 そう判断したナイルズは、魅了解除については北条に一任する事に決めた。

「そうか。ではその件についてはよろしく頼む。後は向こうにも早速連絡を取らねば……」


 冒険者ギルドでは、遠方のギルドと連絡を取り合うための連絡網が構築されている。
 小さな村や町にあるギルドでは短距離通信用の魔法道具が、そして大きな街では長距離でも使える通信魔法道具が設置されている。

 そうした通信網のため、直接村にあるギルドから遠方に連絡を取る事はできないが、最寄の大きな街にある、長距離用の施設を経由して情報を伝える事は可能だ。
 そして小さな通信魔法道具は、この新設されたばかりの《ジャガー村冒険者ギルド支部》にも設置されていた。

 しかしそういった装置でグリークと連絡を取る前に、ナイルズは二人に告げる。

「と、その前に。まずは君のスキルの確認からしよう」

 こうしてナイルズに引き連れらた北条とツヴァイらは、ギルド内の更新部屋にてツヴァイを鑑定し、ギルド証を更新する。
 そして、非表示となっていた箇所をツヴァイが操作して中身を明らかにすると、そこには"予知夢"というスキルが表示されているのだった。



▽△▽△



「……という訳でね」

「むううん、それはまた大ごとだなっ!」

 ナイルズが人払いをしてギルドの通信室で連絡を取っているのは、《鉱山都市グリーク》の冒険者ギルドマスターである、ゴールドルだった。
 北条らの話を聞き終えたナイルズは、ひとまず彼らを帰してから、情報の裏取りを始めようとした。

 といっても、二人の話が本当なら、すでに魅了されている人物が相当数いるという事になる。
 "魅了の魔眼"の特性から、同性にはかけづらい事や、レベル差のある格上相手にはかけづらいことは分かっている。
 それに基本的に目線を合わせないと効果は薄い。

 そうした幾つかの条件が必要とはいえ、既にギルド職員にも魔の手が伸びている可能性を、ナイルズは危惧していた。
 なのでツヴァイのスキルを確認した後に、幾人かナイルズの指定したギルド職員相手に、魅了解除の魔法道具を使ってもらった。

 その結果、幾人かの職員の内、二人が魅了されていたことが判明する。
 内ひとりは、北条達とも縁が深いジョーディであったが、こちらはまだかかりが浅く、特に何かされていた訳ではなかった。

 しかし、もう一人の職員。
 ジョーディと同じく、何人かの部下を持つ立場にある男は、これまで冒険者から収集した情報などを、長井に漏らしていたと自白した。

 魅了状態から解除されたその男は、当初ぼんやりとした様子で何が起こったのか判然としていない様子だったが、目の前に立つギルドマスターの視線を受けて、徐々に自分のしてきた事を思い返していく。

 そして指定した職員全員に魔法道具を使用し、北条らがギルドを立ち去った後、ずっぷりと長井に魅了されていた職員は重い口を開く。
 その自白をナイルズと、他の魅了されていなかった職員らは黙って耳を傾ける。
 最後にナイルズは、全員に箝口令を敷いてから、ゴールドルへと連絡を取った。


「ああ。まだ全部が全部彼の話が本当だとは限らない……気になる点も幾つかあるのだが、どちらにせよ、こちらだけでは対処できそうにないね」

 北条らの話には不振な点も見受けられた。
 例えば、未来予知――"予知夢"のスキルを持つツヴァイという男の態度には、引っかかる部分が幾つかあった。
 最後にスキルの確認をしようといった時の反応。
 一瞬ではあったが、ツヴァイが浮かべた苦い表情を、ナイルズはしっかりと捉えていたのだ。

 ナイルズは二人が帰った後、別の者を使って同じ更新用の魔法道具を使わせてみたり、専門ではないが知識を持つ者に装置を調べさせてもみたのだが、不審な点は何も見つからなかった。
 鑑定用の魔法道具に何かされたという可能性はなさそうだった。

(結局あれは、隠匿していたスキルを晒す事に対しての、忌避感という事かね)

 ナイルズがそう推測していると、通信装置からゴールドルの声が流れてくる。


「まずは……魅了を解除するのに"神聖魔法"の使い手がいた方がいいな」

「そうだね。彼とはこれから協力してこの村の"被害者"を解除していくつもりだが、あの魔法道具が後どれだけ使えるかも分からないからね」

 魔法道具の中には、一定回数で使用できなくなるものと、自身の魔力を使って何度も効果を発揮出来るタイプが存在する。
 中でも前者は高度な魔法効果を持つものに多く、中級以上の効果を発するものは、大抵が使用回数に制限があるタイプだ。

「だが、魅了を解除出来る使い手となると、そうそう見つかるまい」

 長井と濃厚接触の疑いのある、《ジャガー村》の教会にいる神官たちはあてにはできない。
 北条の魔法道具を使ってもらえば、神官自身を解除も出来るだろうが、そもそも魅了状態を解除する"神聖魔法"、【リリースチャーム】は中級魔法に分類されていて、扱える者がそれほど多くはない。

 精神に関わる状態異常である"魅了"は、"神聖魔法"の特性から少し外れている分、難度が高いのだ。
 "回復魔法"には【平穏】という心を落ち着ける魔法は存在するが、これでは解除することは出来ないし、初級~上級の"回復魔法"の中には、魅了を治す魔法は知られていない。

 精神を専門に扱う"精神魔法"ならば、魅了解除をするにも、もう少し難度は下がるのだが……。


「ま、少し時間はかかるかもしれんが、それはこちらでどうにかしてやろう! ガハハハッ!」

「うむ、済まんな。《ジャガー村》に赴任したばかりだというのに、迷惑をかけてしまって」

「いや、なあに。話を聞いた限り、そんなの誰が赴任していようがどーにもならんかっただろーしな!」

 ガハハッと笑うゴールドルは、通信装置越しなのに暑苦しさをも感じられる程だったが、今はそれがどこか頼もしくナイルズには感じられた。

「あと問題は、ホージョーが言っていた例の件なのだが……」

 事態解決の方向性が見えてきたことで、ナイルズに圧し掛かっていた重りも若干軽くなっていた。
 しかし、一番の問題点に関しては未だ未解決のままだ。

「そっちも俺に任せろ。ギルマスなんて立場じゃなけりゃー、俺が直接乗り込んでやるとこなんだが……。今回はアイツに任せるとしよう」

「……ああ、なるほど。彼女・・を派遣してくれるのだね。それは非常に助かる」

 思いの外強力なカードを切ってくれるという、元上司であり元後輩でもある男にナイルズは感謝の言葉を贈る。
 それからも二人の話し合いは続き、予定外に通信装置の燃料となる魔石を大量に消費してしまったが、お陰で話し合いは大分進み、今後の方針も決定していくのだった。



▽△▽



「ふう、あの時は焦ったよ」

 ギルドの建物を出て、拠点予定地へと向かっていた北条とツヴァイ。
 周囲に誰もいないのを確認したツヴァイが、北条に話しかけていた。

「ワハハッ! もう少し打ち合わせでもしといた方が良かったかもしれんなぁ」

 ナイルズに、スキルの確認をしようと言われた時のツヴァイの顔を思い出して、思わずといった感じで笑っている北条。
 それは単純に面白かったから、という理由もあるかもしれないが、毎回この件の話になるとどうしても暗くなってしまう雰囲気。それを、北条は和らげようとしているようにも、ツヴァイは感じていた。

「ま、それはもういいけど……一体何をしたんです?」

「なあに、ちょいと誤魔化した・・・・・たけだぁ。お前さんのスキルが変化したって訳じゃあないから心配いらんぞぉ」

 ツヴァイは、これまでも北条のこうした不可思議な所を何度も見てきている。ただ、問いただしてもぼやかすだけで、質問に答えてくれはしない。
 だがこれまでその事で不利益を被ったことはなかった。それどころか、逆に助けてもらってばかりだ。
 なのでツヴァイとしても、北条に強く問いただす事は出来なかった。

「……まあ、手を貸してもらってるのはこちらだし、そういう事にしておくよ。それで、この後の事だけど……」

 それからも二人は会話を続けながら、拠点予定地へと歩いていく。
 事態が大きく動き始めた事で、ツヴァイの眼には強い決意の光が灯っていた。と同時に、どす黒い炎も僅かに一瞬覗かせる。


「ようやく、アイツを……」


 ツヴァイが漏らした小さな呟きは、隣を歩く北条に拾われる事もなく、空へと散っていった。



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