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第九章
第214話 外道、石田
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ギィッ……。
建付けの悪い山小屋の扉が開く音が、やけに大きく周囲に響き渡る。
それは扉を開けた者達の心理的状況から、実際の音量以上に大きく聞こえてしまったのかもしれない。
ツヴァイ達は龍之介らと別れた後、敵のアジトである建物の中への侵入を果たしていた。
そこは戦闘が始まって騒がしくなっている外とは違い、吸い込まれるような静けさに満ちている。
中に入った咲良や陽子らも、自然とこの静寂を打ち破らないように、物音を立てないよう部屋を物色していく。
ドアを開けてすぐのリビングのような部屋には、すでに人の気配はなく、雑然と物が置かれているだけの状態だった。
なのでここは置いて先へ行くことにし、そろりそろりと足音を殺しながら、部屋の先にある廊下から先へと進む。
すると、廊下の突き当り脇にある扉の先から、何か物音が聞こえてきた。
ドスッ、ドスッという鈍い音は、何か鈍器でモノを叩きつけているような音に似ている。
ツヴァイは無言で顔をそちらの扉の方に向け、静かに扉の方へと近づいていく。
陽子らもその後へと続き狭い廊下を歩いていく。
緊張の為か、やたらと喉が渇くの感じながら陽子が扉の近くまで接近すると、最前を歩いていたツヴァイが一度他のメンバーに振り返った。
扉に手をかけ、無言で合図を送ったツヴァイは、音を立てないようにしていたそれまでとは打って変わり、勢いよく扉を開いた。
「うぁッ! ……なんだ、テメーらかよ。驚かせやがって」
突然響いた大きな音に、中にいた男――石田は驚きの声を上げる。
しかし、石田以上にこの場に踏み入ったツヴァイ達の方が大きな驚きを隠せずにいた。
「ほ、北条……さん」
「……ッッッ!!」
「ちょ、ちょっと……これは……」
そこに展開されていた光景を見て、ツヴァイ達は息を呑んだ。
この山小屋の中でも割と広いと思われる部屋の大半は、食料と思われる物資で埋め尽くされており、ツヴァイ達が話してるスペースは余り広くはない。
それでも石田達がいるのは、入り口の扉から三メートルほどは離れた場所であり、一足で駆け寄れる距離ではなかった。
その石田の立っている傍には、椅子に括りつけられた状態のままの北条が座らされていた。
口には猿轡をされており、両手両足もキッチリと縄で縛られているので、暴れようと思っても何も為す術はない。
……いや。最早この状況の北条を見て、暴れ出すなどと考える者はいないかもしれない。
それだけ北条は半死半生といった状態であった。
左目はえぐり取られたのか、ポッカリと眼下が暗くへこんでおり、右耳は刃物で切ったのではなく、まるで力で強引にちぎり取られたかのように、根本からなくなっている。
体のあちこちには青あざと出血が見られ、無事な場所が見当たらない位だ。
北条の座る椅子の足元には、北条の体から流れたと思われる血が血だまりとなってこびりついている。
一度乾燥した上に重ねられる新たな血が、地層のように積もっているのをみる限り、長時間にわたって流血するような仕打ちをされていた事が窺える。
石田の手にしている、鋭い金属のトゲが付いたこん棒にも、いたるところに血の赤によって彩られていた。
それを見れば、誰が北条をこのような状態に持って行ったのか、一目瞭然だ。
そしてツヴァイらが部屋へと突入し、その際に大きな音を出したというにも関わらず、北条はピクリとも反応を見せず項垂れたように顔を下へと向けたままだった。
距離が離れているせいか、それとも別な理由のせいなのか。
北条から呼吸音は一切聞こえてこない……。
「お前が……やったのか?」
衝撃の光景に、時を縫い留められたかのようになっていたツヴァイであったが、少ししてから掠れるような声でそう尋ねた。
「んん? なんだテメーは?」
突入してきた中に、一人だけ見知らぬ男がいる事に疑問の声を上げる石田。
石田はダンジョン探索から村に帰った時も、他のメンバーと行動を共にすることはなく、ムルーダらのパーティーとの接触はほとんどない。
そのためツヴァイを目の前にしても、誰なのかが分からなかった。
『ムスカの熱き血潮』のメンバーのロゥやディランは、石田も面識はある相手であるのだが、この場に本人がいてもそれと気づかない位、元々石田はムルーダらに関心を持っていなかった。
「いいから答えろ! これはお前がやったのか!!」
そんな石田の不躾な返しに対し、再度最初の質問を突き付けるツヴァイ。
抑えきれない苛立ちを前面に出すツヴァイに対し、石田は満足気な表情を浮かべながら質問に答えた。
「ああ、そうだ。これは俺が、俺がやってやったんだ! 前々からぶっ殺してやりてえって思ってたコイツを。俺が……俺がっ!」
話していくうちに石田の感情も高まってきたのか、聞き取りにくい声はそのままに、声量だけは大きくなっていく。
「ああ、言っておくが、俺は『正気』だぜ? あの女に"魅了"されていたのは最初だけだあ。へっへっへ……。だから、北条の野郎は俺の意志で! ボッコボコにしてやったんだよおおお。ざまあぁぁみろっ!」
そう言って、高らかに笑い声をあげる石田の様子は、本人の弁とは裏腹に、この場にいる誰もが『正気』であるとは思えなかった。
ただ一人、ツヴァイを除いては。
「…………そうか。それで、そっちのソレは何なんだ?」
そう静かに問いかけるツヴァイだが、その静かな口調とは裏腹に、強い激情が裏に込められていた。
その証拠に、問いかける際のツヴァイの口元からは、赤い血が滴れ落ちている。
強く唇を噛み締めながら、ツヴァイがソレと称したものを指し示すと、石田は興が乗っているのか、或いは狂が乗っているのか。
いつになく饒舌にペラペラと話し始めた。
「ああ、これかあ? コイツは俺専用の便器でな? どうも北条の野郎を甚振ってると興奮してきちまうんで、時折コイツを使って発散してたんだよ」
そう言って石田は好色な視線をソレ……床に全裸のまま座り込んでいる、既にアンデッドと化した女性へと向けた。
元は一介の村娘であったろうに、見るに堪えない程に男の欲望を一身にぶつけられたその体は、北条以上に体の各部が破損していた。
しかし既にアンデッドとなった彼女は、その痛ましい状態であろうと何ら痛痒を感じる事はない。
当然ながら瞳には生気はなく、全身からは若干の腐敗臭が漂ってくる。
「まあコイツも散々遊びつくしたし、そろそろデイビスの奴に新しいのを用意してもらうつもりなんだけどな。最初は少し抵抗はあったが、どんな無茶をしても壊れねえオモチャってのはいいもんだぜえ?」
計り知れぬ石田のどす黒い感情が、強く女性陣へと突き刺さる。
陽子は顔を真っ青にして、今にも倒れそうな程フラフラし始め、咲良はこらえきれずその場で嘔吐してしまっている。
唯一楓だけは表面上冷静そうに見えるが、その目は視線で人を殺せるかのように鋭く尖らせており、気の弱い人ならそれだけで気圧されてしまう程に、静かに、そして強く感情を表していた。
そして一番強く反応しているツヴァイは、忍耐の限界を超え無言で一歩前に足を踏み出した。
それを目敏く察知した石田は、腰に帯びていた短剣を素早く抜き取り、北条の首元へと突き付ける。
「おおっとお、それ以上動くなよお。コイツはこんな状態だが、まだ死んじゃあいねえんだ。良かったぜえ……、うっかり殺さずにおいてよお」
そう言ってヘッヘッヘと下卑た笑い声を上げる石田。
しかし先ほどからうんともすんとも言う事がない、ずたぼろ状態の北条が本当に生きているのかどうかは、この状況では確認のしようがなかった。
そして石田のその言葉に、無意識のうちに一歩前へと踏み出していたツヴァイは、これまで抑えていた激情が爆発し、憤怒の表情を滾らせる。
血の涙を流しそうな程の勢いで石田を睨みつけるツヴァイ。
「おおう、いいぞ、いいぞっ! そのお前の反応! コイツはいくら甚振っても反応が鈍くてイマイチだったが、やっぱそうこなくっちゃあなあ」
北条に視線を一瞬向けつつ、喜悦の声を上げる石田の股間部分は、盛り上がりを見せつつある。
畜生に堕ちた石田には、最早倫理や道徳などといったものは微塵も存在していなかった。
北条へと短剣を突き付けた石田とのにらみ合いは、人質を取られているツヴァイの方が不利に思える。
しかし石田としても決め手にかけるこの状況は、このまま千日手のようになるかと思われた。
そこへ転機が訪れたのは、廊下の方から聞こえてきた二つの足音。
それぞれ手に短剣とメイスを持つ、二体の人形が迫って来ていたせいだった。
「ちょ、後ろから来てるわよ!」
そう言って、部屋の入口付近で固まっていた陽子に押される形で、ツヴァイらは部屋の隅の方へと移動していく。
下手に近づいて石田を刺激しないように部屋の隅に移動した結果、人形との挟み撃ちになる事は防ぐことが出来た。
しかし、代わりに部屋の出口を人形達に抑えられて、袋小路になってしまうツヴァイ達。
「ああ? 二体だけが起動してここに来るってことは、向こうも余裕がねえのか? チッ、仕方ねえな……。おい、お前も戦え」
石田がそう言うと、傍らに座っていたアンデッドの女性は、むくりと立ち上がりツヴァイらの前に立ちはだかった。
そうして立ち上がった事で、余計石田のしでかした有様がむざむざとツヴァイらの前に晒され、生理的な嫌悪感が強く刺激される。
「こいつはこう見えて、デイビスの野郎が実験で色々弄繰り回してるから、ただのゾンビとは格が違うとの話だぜ」
勝ち誇るようにそう口にする石田。
人質を取られ、戦力的にもどう転ぶか分からなくなってきた状況に、ツヴァイの首元に冷たい汗が流れ落ちるのだった。
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