どこかで見たような異世界物語

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第九章

第216話 フイダマ

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 ツヴァイ頼人がゆっくりと、石田に打ち付けられたメイスを手元へと戻す。
 木製の柄の部分の先に、金属製の打撃部分が取り付けられたそのメイスは、総金属製のものに比べると耐久性に難はあるが、重さが軽減されて値段の方も軽減されており、求めやすい値段になる。

 そのメイスの金属部には、石田のものを思われる血がベットリと張り付いており、それを見たツヴァイ頼人は忌々し気にメイスを振り払った。
 しかしそれで完全に血が払われる事はなく、未だにメイスの表面部は赤くぬらりとした輝きを放っている。

「あの、その……」

 先ほどまでとは違い、しんと静まり返った部屋の中、そうしずしずと話し始めたのは陽子だった。

「さっき言っていた事って、つまり、そういう事なのね?」

 陽子に声を掛けられたツヴァイ頼人は、酷く衝撃を受けたような、今にも泣き出しそうな、なんともつかない表情を見せる。
 その表情を見た陽子は、直感的にそこに何かを感じ取った。

 ソレが何なのかは、言葉にすることは出来ない。
 まるで、同じ部屋にいるのに別の時空にでも存在しているかのような、ツヴァイ頼人の立ち居振る舞い。
 そういった部分から、陽子はソレが重要な"何か"であろう事が、垣間見えた気がした。

「……ああ。そういう、事だ」

 重苦しい場の空気に、更に重しを乗せるようなツヴァイ頼人の言葉。
 聞きたいことが山ほどありそうな陽子や咲良であるが、おいそれとそれを口に出せないような、或いは何から聞けばいいのか測りかねているような。
 そんな微妙な空気の中、口火を切ったのは北条であった。

「ところで、外は一体どうなんてるんだぁ? 何やら騒がしい事になってるようだがぁ……」

 北条のその言葉で、再び時が動き出しかのように、陽子の口が開いた。

「あ、そうよ! そもそも北条さん何でそんなケロンとしてるの!? 見た感じ、とってもヤバイんですけど。それに細川さんの話だと、呪具とかいうので拘束されたって話らしいけど……」

「ん? ああ、これかぁ。解除するのをすっかり忘れていたぁ」

 そう言うと、北条の体周辺の空間が一瞬蜃気楼のように揺らめいたかと思うと、一瞬後には傷一つ負っていない、北条の健全な体へと移り変わった。

「え……」

 まるで狐やタヌキにでも化かされたような表情をして、ポカンと口を開ける咲良や陽子。
 ポーカーフェイスな楓もこれには驚きを隠しきれてはいない。
 ただ一人ツヴァイ頼人だけは、「まあ、北条さんならこれくらいは……」と何やら納得の様子だ。

「え、それっ? なんなんですか?」

「こいつはぁ、"幻魔法"の【イリュージョン】という魔法だぁ」

「ちょ……。~という魔法だぁって、何なのソレ!? 大体猿轡だってされて……、ああぁッ! それもそもそも幻だったという訳なのね」

「いやぁ? 最初に猿轡で口を封じられたのは確かだぞぉ。だが、口を封じられても"無詠唱"のスキルがあれば、魔法を発動させる事は可能だぁ。あの呪具とかいうのも、【リムーブカース】で解除出来たしなぁ」

「無詠唱って……」

 先ほどから開いた口が塞がらずに、せっかくの美人顔がもったいない陽子。
 咲良もぽけーっとした顔で話を聞いており、頭の処理が追い付いていないようだ。

「ちなみに、"あの姿"は【イリュージョン】によって生み出されたものではあるがぁ、あのような姿になるような事を奴らが実際にやっていたのは事実だぁ。最初、あの女が左目に短剣をぶっ刺した時は、脇で見ていた俺もビビったぞぉ」

 ブルブルと体を震わすような仕草を見せ、その時の感情を表現する北条。
 しかしそれ所ではないといった陽子達は、そんな北条の仕草に気づく気配はない。

「まあそれよりもさっきの質問だぁ。外は一体どういう状況になってるんだぁ?」

 陽子らにとっては、急にポンポンと見知らぬスキルを使い始めた北条の方が"それよりも"気になる事ではあったのだが、確かに言われてみると今はここでゆっくり話をしている場面ではない事もまた事実だ。

「そう、ね。まあ北条さんの事は後でたっぷりと聞くことにして……。外の状況は――」

 そう言って陽子が、アジトの山小屋に突入するまでの話を北条へと語っていく。
 所々北条からの質問なども交えながら、手短に状況を伝え終わった陽子が一息ついた。
 北条の方も状況を説明されて、何やら少し考え込んでいる。


 長井らに囚われて、窮地に陥ったかと思われていた北条であったが、今の状態からも伺えるように余裕が十分残されていた。
 そして、この囚われの状況からどう動くべきか。
 石田の外道なふるまいに付き合いつつも、どのように動くべきか模索していた北条だったのだが、まさかこんなに早く大きな動きがあるとは想定外であった。

 しかし、すでに"事"は起こってしまった後なのだ。
 これ以上考えても詮無き事だと北条は割り切って、後は出たとこ勝負で行くしかないか? などと考え始めていた。


「とりあえず、今はこの四人でパーティーを編成してるんだったなぁ? なら、まずは俺もそこに加えてもらうぞぉ」

 パーティーを編成するという事は、経験値の分散など以外でも、スキルや魔法の効果的にも有効的である。
 まずは戦いに行く前に準備を整えようという北条の提案に、陽子が〈魔法の小袋〉から〈ソウルダイス〉を取り出した。

「はい、これ。それで、パーティ―を組んだらどうするつもりなの?」

「そいつぁ、状況に応じて柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになるだろう」

「……つまり、どういう事よ?」

「要するに出たとこ勝負で行くって事だぁ」

 結局の北条のそんな返しに、苦虫を噛み潰したような顔を向ける陽子。
 それでも現在の状況が掴めていない以上は、ここで議論をしていても仕方がない。
 この場に残された亡骸の内、石田はともかくとして、女性の方は篤く弔ってやりたい所ではあったが、今は一分一秒を争う時だ。
 北条を加えて五人となった一行は、狭い廊下を抜けて再び出口から外へと踊り出す。


 表へと出た北条達が目にしたのは、真の姿を現した悪魔の姿。
 そしてその周囲にいる多数の冒険者たちの姿であった。

 しかし、どうしたことか冒険者たちはまるで石の彫像にでもされてしまったかのように、その場を動かずにジッとしている。
 苦しそうにフラフラとしている者や、意識を失ったかのように倒れている者もいる事から、悪魔が何らかの範囲攻撃をしたのだろうとは予想がついた。

 そして肝心の悪魔はというと、何事かを語りながら、とある冒険者集団へと近づいていくのが遠目に確認出来た。
 戦闘開始した場所は山小屋から少し外れた場所であったのだが、戦闘が進むにつれて、少しずつ戦場が移動してしまっていたらしい。
 悪魔と冒険者たちが現在いる場所は、山小屋からは少し距離がある場所だった。

 山小屋周辺は本来はもっと樹木が生い茂っていたのだが、山小屋の拡張用の木材確保や、見晴らしを確保するために大きく切り開かれていた。
 その森の中でもポッカリと切り開かれた平地と森の境目辺り。
 悪魔の話している言葉が、陽子らの耳に届かない位に距離が離れていたのだが、視界だけは通っている、そんな場所。

 悪魔が異邦人達のいる方へと歩み寄っている姿も……、勿論視界にとらえる事が出来ていた。

「あれは! い、急ぎましょう!」

 それを見て咲良が急かすように声を掛けるが、北条はそれに待ったの声を掛ける。

「咲良、ちょっと待ってくれぃ。奴はこちらの方にまで注意を向けてはいない。ここは俺が不意打ち・・・・を掛けにいく。お前たちはゆっくりと近づいてくればいい」

 そう言うなり、突然北条の姿が消え失せる。
 余裕があればもう少し詳しい説明をしたい所だったが、生憎と猶予が残された状況ではなかった。
 "聴覚強化"のスキルを持つ北条には、先ほどから現場で交わされている会話が耳に入っていたのだ。

「え、ちょっと!?」

「……ここは北条さんの言う通りにしましょう」

「では、私が【非存影】を使うので……。そっと近づき、ましょう」

 北条の突然の行動には慣れつつあった陽子だが、今回はツヴァイ頼人の方が即対応を見せていた。
 更に楓も流れるように、【非存影】を発動させる。

 これは自身の存在感を薄め、周囲から目をつけられにくくする、初級"影術"【薄影】を、パーティ―メンバー全員にかける事が出来る中級の"影術"だった。
 悪魔相手にどれだけ通用するかは不明だが、距離もあるし悪魔の興味は他に向いているので、そっと近づく位なら気づかれない可能性は十分ある。


 そうして残された四人が『状況に応じて柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する』間にも、姿を消した北条は気配を悟られぬように悪魔の下へと急いでいた。

 "隠密"スキルで気配を消し、更に"気配遮断"、"魔力遮断"を発動して、更にそこに人がいるという痕跡を徹底的に消す。
 "木隠森"のパッシブスキル効果は、更に北条という存在を世界から覆い隠し、"サイレントステップ"によって、移動の際にでる足音を大きく軽減させる。
 更に"透明化・・・"スキルによって、見た目的には完全にステルス状態に入っている。

 ガッチガチにスキルを使って隠蔽を施した北条は、悪魔に気づかれる気配もないまま、近距離までの接近に成功していた。
 そこで更に、相手に気づかれずに不意打ちが成功した場合、大幅にクリティカル率が上昇し、与えるダメージそのものも大きく強化される"フイダマ"スキルを発動させる。

 そして肝心の攻撃に使用する闘技スキルは、斧系闘技応用スキル"ボンバーアクス"をチョイス。
 斧槍ハルバード専用の闘技スキルも選択肢にはあったが、使いどころ的に考えると、斧槍ハルバードと相性のいい槍と斧の内、斧系の闘技スキルが最終的に選ばれた。

 魔法とは違い、特殊なスキルなどなくても闘技スキルは言葉に発しなくてもスキルを発動する事が出来る。
 悪魔が芽衣に契約を持ち掛ける中、北条は特大の不意打ちの一撃を悪魔へとぶちかました。


 ドカアアァァァァン!


 インパクトの瞬間、まるで映画でよくある爆発シーンのような派手な音が周囲に鳴り響く。
 その強烈な不意討ちによって、悪魔の右上半身は大きくはじけ飛び、残された半身も衝撃によって大きく吹っ飛ばされる。


「そいつぁ、困るなぁ」


 かくして不意打ちに成功し、ふてぶてしい態度でそう言い放つ北条。
 しかし、不意打ちによって強烈なダメージをもらい、遠くへと吹っ飛んでいった悪魔に、その声は届いてはいなかった。


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