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第十章
第229話 "刻印魔法"
しおりを挟む北条が中心となって拠点中心部に築いた中央館で、信也不在のまま会議が行われてから数日。
異邦人達は未だにダンジョンへと潜ることなく、日々拠点での訓練や話し合いなどを行っていた。
それは石田が死亡し、長井がどこぞへと姿を消してしまった為だ。
更に付け加えると、北条の能力が明らかにされた事で、パーティ―のバランスなども再考する必要が出てきた事もあるし、信也がまだ完全に復帰出来ていないのも理由のひとつだった。
そういった理由で拠点を中心に活動していた異邦人達。
龍之介たちは、北条から教えられた『称号』や様々なスキルの知識などを元に、これまでとは違った明確な方向付けをしながら、修行を行っていた。
称号というのは、種別ごとに決められた数のスキルを取得する事で得る事が出来、それらの必要スキル数は種類によって異なっている。
"剣術"などの戦闘系スキルの一段階目の称号『戦闘を知る者』は、戦闘スキルが六つ。
"火魔法"、"召喚魔法"などの、魔法系スキルの一段階目の称号『魔法を知る者』の場合は、魔法スキルを四つ。
こういった情報は、一部の人の間では知られている情報であるが、一般的に広まってはいない。
さらに言えば、称号が何段階まであるのか、スキルの種別がどのように分類されているのか、などといった情報を知るものは皆無だ。
なぜなら、そこまで大量のスキルを得ることが通常の人間には不可能だからである。
しかし、北条というイレギュラーな存在は、それらの称号についての情報を実体験として得ている。
その情報を活用して、後一つ闘技スキルを覚えれば称号を得られる状態だったメアリーは、新しい闘技スキルの習得を目標に掲げた。
龍之介も少しでも力を底上げする為に、"剣術"以外の戦闘スキル習得に乗り出した。
現在"剣術"と"軽装備"の二つしか戦闘スキルを所持していない龍之介だが、北条の話によると"剣神の祝福"の効果は何も"剣術"に限ったものではないらしい。
"短剣術"、"大剣術"、"双剣術"など、剣系のスキルにも効果の差はあれど適用されるとの事だ。
そして、これらの戦闘スキルを習得出来れば、それぞれの系統の闘技スキルの取得も容易になってくる。
となれば、闘技スキルの称号も一段上のものも狙えるようになってくるだろう。
こういった修行方針は、この世界の人たちでも一部行っている者はいる。
魔力を少しでも増やすため、複数の属性に手を出してみる者。彼らは、魔力の増加だけでなく、称号の獲得をも視野に入れて修行を重ねる。
《ジャガー村》の冒険者ギルドにやってきた鑑定士。その護衛として付き従うアレクルトも、持ち前のレアスキルを活かして、多くの戦闘スキルを身に着けている。
その実力は、Bランクパーティー『巨岩割り』のジババをも上回る程だ。
アレクルトの場合、レアスキルである"取得職業経験値上昇"によって、多くの戦闘スキルを身に着けるに至ったが、異邦人達の場合は『異界の来訪者』の称号がそれ以上の効果を発揮している。
おまけに、北条が持つ上位の称号効果によって、北条が指導した相手のスキル習得倍率にはさらに補正がかけられる。
こうして北条は他のメンバーに指導をしつつ、これを機に拠点の強化を図っていた。
▽△▽△
「北条さん、これは何してるんですか?」
北条が外壁の近くで何やら作業してるのを見て、気になった咲良が尋ねてくる。
すでに外壁部分は【土を石へ】や、【アースダンス】などの魔法によって、アウラが仰天する程の壁へと仕上がっていた。
だが、北条はそこに更に何か手を加えていたのだ。
魔法に関しては貪欲な姿勢を見せる咲良は、何気ない北条の行動を見逃さない。
「今は外壁を更に強化している所だぁ」
「強化ですか? んー、なんか見た事ない魔法の系統ですけど……」
北条が壁に向かって魔法を発動すると、壁に何やら光を発する魔法陣のようなものが刻まれていく。
しかしその壁に刻まれた魔法陣は、光が消滅していくと同時に跡形もなく消えていった。
「これは"刻印魔法"という魔法だぁ。……こいつの存在は、特に外部の人間には漏らさんでくれよぉ」
「え、なんかヤバイ魔法なんですか?」
「以前俺が〈白聖石〉を魅了解除の魔法道具だと言って、使用していた事があったのを覚えているかぁ?」
「んーと、最初私達に呪いを解除するって言って、使ってた奴ですか?」
「そういやぁそうだったなぁ。あれは、元々俺たちがダンジョンで発見した〈白聖石〉を、俺が"刻印魔法"で魔法道具に仕立てたもんだぁ」
「へぇ、そうだったんですかぁ。…………ほえっ?」
「効果としてはぁ【キュアポイズン】と【キュアパラライズ】両方の効果がある。状態異常を治すための魔法道具だなぁ」
「ちょ、ちょっと。それって凄いんじゃないですか?」
「だから言ったろう。『ヤバイ』ってなぁ」
マジックアイテムは、ダンジョンの宝箱やドロップなどから手に入るものが多いが、人工的に作られたものもまた数多く存在していた。
そのマジックアイテム制作の要となるのが、"刻印魔法"である。
この専用魔法は"召喚魔法"と同様に所有者が少なく、希少なスキルだ。
天然の才能としてこの魔法を覚えるものは極わずかで、そうした才能を持った人が『魔具士』などの職業に就くことで、ようやく覚える事が出来る。
大きな街ともなれば、ひとりやふたりはこの魔法の使い手が存在するので、"召喚魔法"よりはまだ使い手は多いと言える。
そして北条は《鉱山都市グリーク》に滞在時、密かに楓の持っていた"透明化"スキルや各種隠密系のスキルを駆使して、実際に"刻印魔法"を使って仕事をしてる場所にまで乗り込み、そのスキルを手にいれる事に成功していた。
「ふあぁ、マジですか」
「マジよマジ。大マジ」
感心したような呆れたような咲良が観察する中、北条は次々と壁に向かって"刻印魔法"を使っていく。
「ちなみに、今やってるのはどんな効果があるんですか?」
「今やってるのは、"付与魔法"の【プロテクション】と【レジストマジック】の効果を刻印している所だぁ。そこいらの建材や素材だと、余り高度な魔法が刻印できなくてなぁ」
"刻印魔法"では、刻みこむ素材のクオリティーや相性などといったものが、重要となってくる。
熱と相性のある、もしくはそういった性質をもつ素材には、より高度な"火魔法"が刻みやすい。
「"付与魔法"? それって北条さんは"付与魔法"も使えるって事ですか?」
そして"刻印魔法"で重要なのは、刻み込む魔法を使用できる者が別に必要になるという点だ。
"刻印魔法"は器を用意するようなものであり、魔法道具へと仕上げるにはそこに刻み込む魔法を、別途用意しないといけない。
通常であれば、"刻印魔法"の使い手がそんな幾つもの魔法スキルを扱える訳ではない。
なので、魔法道具を作るには少なくとも"刻印魔法"の使い手と、刻む魔法を使える魔術師。
それから魔法を刻む素体を作る者など、複数の人間が協力してひとつの魔法道具を作り上げるものだ。
しかし北条は単身で"刻印魔法"と多くの魔法スキルを手にしている。
複数人で作るより、一人で刻印から魔法封入までやった方が、より成功率も高まるし品質もいいものが出来上がる。
「まあそういうこった。"召喚魔法"も使えるし、俺も今度契約をして第二のマンジュウを作るのもアリかもなぁ」
「ふぁあああ…………」
改めて北条のチートっぷりを聞いた咲良は、大きく口を開いて間抜けな声を上げる。
「ああ、それと今後のダンジョン探索で必要になりそうなマジックアイテムも、作らんとなぁ。もっとも、それには素材が必要になってくるがぁ」
このように、隠していた能力を明かした北条によって、異邦人達は大きく改革が進んでいく。
拠点づくりの方も外壁への刻印が着々と進み、とりあえず完成といった状態だった中央館も、家具などが搬入され各所に配置されていく。
他にも、使用してみて問題のあった部分を修正していったりして、完成度が徐々に高められていった。
▽△▽
こうして更に幾日かが過ぎた頃。
新たな決意を胸に、立ち上がる者がいた。
「俺もいい加減、前を向いて、進まないと……な」
しばらく部屋に籠りっきりだったせいか、だるさと軽い頭痛を感じながらも、信也は小さくそう呟く。
そして、太陽の光が降り注ぐ寮の外に通じる扉を開いた。
久々にまともに感じた陽光に、うっと思わず声を上げる信也。
そして彼はゆっくりと、だがしっかりとした足取りで、仲間がいるであろう拠点へと向かって歩き始めたのだった。
信也の事を見守っていたマンジュウと共に。
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