どこかで見たような異世界物語

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第十章

第235話 下水工事と新魔法

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「ここはこのまま真っすぐ掘り進めていくかぁ」

 まるでダンジョンの中のような薄暗い地下通路の中、北条が独り言を言っている。
 その声は大部分が周囲の空間に吸収されていったが、わずかに反響した音がくぐもったような声として微かに響く。


 ここは拠点の地下部分。
 信也達『プラネットアース』がレイドエリアの迷宮碑ガルストーンを目指している間、『サムライトラベラーズ』の面々は拠点でのスキル修行に励んでいた。
 ただし、北条だけはこうして拠点の地下を掘り進み、下水道を掘り進めている。

 高さ二メートル半、横幅三メートルの寸法で掘り進められている下水道は、壁や天井などの部分をしっかり【土を石へ】などの魔法で固められている。
 そして実は中央館を建築する時も密かに活用していたのだが、北条は『ラーニング』によって生産系や知識系のスキルも多く手に入れている。

 それらの中には"石材建築"、"石工"、"木材建築"、"建築知識"などが含まれており、本人は「素人が作るものだ」と言っていたものの、その実しっかりとした建物が作られていた。
 今作っている下水道も、地上部の事や水の流れの事も考慮してしっかりと作られている。

「あー、それにしても少し土地を広く確保しすぎたかもしれん」

 調子に乗って当時は森との境目だった部分の木を次々切り倒し、そこに壁を築いていったのは北条自身だ。
 しかし、一辺が一キロ以上の土地ともなると、インフラ整備も相応の労力を伴う。

 幸いなのは、上水道については余り気にしなくてもいいという事だろうか。
 まだちゃんと着手していない部分ではあるが、水に関しては水を生み出す魔法道具を作って、それを各家に設置すればいいだろうと北条は考えている。
 一応それとは別個に井戸も数か所掘るつもりではあるが、メインの水供給源は魔法道具となるだろう。

「いや、敷地内に小さな川を作るのも有りかも?」

 今後の開発方針を考えていくと、色々とアイデアやああしたいこうしたいという事が浮かんでくる。
 それは最早仕事的な作業ではなく、北条の趣味と重なりつつある。
 色々と考えている時間、そして考え出したものを作っていく過程が、純粋に楽しいのだ。


 そもそもこうして下水道を作り始めたのにはきっかけがあった。
 それはロベルト達『巨岩割り』の生き残りであるツィリルを、この拠点で受け入れる事に決まったからだ。

 当初ロベルト達は冒険者ギルドを働き先として考えていたが、そこに北条が待ったをかけてこの提案を持ち掛けた。
 この拠点の管理人を任せたい、と。

 現在の所、余分なメンバーがいない『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』。
 そうなると両パーティーがダンジョンに探索に出かけると、この広大な拠点はすっからかんの状態になってしまう。

 今は内部に中央館くらいしか建物が建っていないが、後々の事を考えるとこの状況はよろしくない。
 そこで元Bランク冒険者でもあるツィリルに、ここで住み込みをしてもらいつつ、侵入者を追い払う役目を頼んだのだ。

 未だ自意識がハッキリとしないツィリルに代わり、ロベルトはこの件について了承の返事をした。
 それから急遽中央館の一部を拡張して、ツィリルの寝泊まりする部屋が作られた。

 いずれは下水道も作っていく予定ではあったが、人が住み始めたとなれば早いとこ作った方がいい。
 そういった訳で、北条はこの期間を利用してせっせと穴掘りに励んでいるという訳だった。

「そうだ。ツィリルだけじゃなくて、他にも防衛戦力を用意せんとな。となるとアイツらが適任か?」

 ブツブツと呟きながらも"土魔法"でどんどん通路を掘り進める北条。
 このような時折独り言を挟みながらの下水道工事は、この後数日に渡って続けられることになった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ん~~。 【ライトニングベルト】」


 訓練場の隣。
 魔法の練習用に作られたスペースで、芽衣は魔法の訓練をしていた。
 この魔法練習場には、北条が片手間で作った木製の人形が幾つか設置されている。
 "刻印魔法"で刻まれた魔石が埋め込まれた人形は、木製でありながら火にも強く、魔法に対しての耐性も持ち合わせていた。

 そうした木製の人形の一つに、芽衣の"雷魔法"が発動されている。
 見ると、人形の腹部には雷で出来た茨のようなものが巻き付いていた。
 パチパチと放電しているその茨は、更に人形を締め付けるようにギュッと引き絞られる。
 どちらかというと、ダメージより拘束性の方がが強そうな魔法と言えるだろう。

「わぁ。芽衣ちゃん、その魔法完成したんだね!」

 そこへ門の方から駆けてきた由里香が声を掛ける。

「ん、どうにか満足いくものになったよ~」

 そう言って満足気な笑みを浮かべる芽衣。
 今しがたの魔法は実は基本魔法ではなく、以前北条との話の中でポンと出たものを形にしたものであった。

 既存の魔法ではなく、新しい魔法を作り上げる事に成功した芽衣。
 それは以前北条も言っていたが、なかなか奥が深く、それでいて楽しいものだった。
 ここ最近はすっかり魔法創造にハマってしまい、他の訓練が疎かになるくらいだ。

 だがひとまず結果は出せたので、これからは"召喚魔法"の研究や後少しで身に付きそうな"精霊魔法"の練習もしておきたい。
 当人は意識することはなかったが、芽衣は日本にいた頃よりよほど充実した楽しい生活を送っている。

「ううー、あの魔法はやばそうだよね。もうビリビリがキケンだよ!」

 今も人形を締め付けるようにして、パチパチと放電を続ける雷の茨。
 見ての通り効果時間もそこそこ長いので、使用勝手も悪くなさそうだ。

「そうね~。余り大きい魔物には使えないと思うけど~。ところで、由里香ちゃん。何か用があったんじゃないの~?」

「あ、そうだった! なんかね、冒険者ギルドの人が門の所に着てるんだよ」

「冒険者ギルド~? ああ、そういえばここ数日はなんか伝令がきてたね~」

「そうそう。でも北条さんが全然ギルドの方に顔を出さないから、いい加減早く顔見せて欲しいんだって。使者の人もなんか涙目だったよ」

「あらあら~、それは大変ね~。北条さんだったら多分今日も地下じゃないかな~?」

 そう言いながら地面を指さす芽衣。

「そっかあ。じゃあちょっと探しにいってくるね」

「うん、またね~」

 別れの挨拶を交わし、由里香は北条が掘り進める地下通路へと向かう。
 しかし入り組んだ構造をしていないとはいえ、広い拠点の地下に伸びる通路は、それなりに距離があって広い。

「ほ、北条さん。どこっすかああ!?」

 その結果、余り方向感覚がよろしくない由里香は、への字眉になりつつ地下通路を駆け回る事になるのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ざわ・・ざわ・・ざわ・・。

 多くの冒険者で賑わいを見せる、《ジャガー村》の冒険者ギルド支部。
 毎日のように外部からの冒険者がこの村を訪れ、その数はどんどん膨れ上がっていく。
 今では更なる建物の拡張工事をも、急遽発注される事になったほどだ。

 そんな賑わいを見せるギルドだが、先ほどギルドを訪ねた人物が現れてから、より一層ざわめきが大きくなっていた。
 その人物はそんなギルド内の様子を気に留める事もなく、スタスタと建物の奥へと向かっていったのだが、それを見ていた冒険者が一斉にその人物について語り始める。

「あれが噂の……」

「ハンッ。あんな冴えないオッサン、そんな強そうにはみえねーけどな」

「ほおう、なるほど……」

 冒険者たちの反応は様々で、挑戦的な目を向ける者もいれば、何かに気づいたような顔を浮かべる者もいる。
 そして、丁度ギルドの軽食スペースで食事をとっていた『鑑定屋』のコーネストは、そんな彼らの様子を観察していた。
 その隣には、いつものように彼の護衛であるアレクルトの姿もある。

「……アレクルト。あなたなら、中位クラスの悪魔と一対一で戦って勝てますか?」

「いえ、無理でしょう。実際に相手をみないとハッキリとは言えませんが、時間を稼ぐのが精いっぱいかと思います」

 謙虚、というか冷静で客観的な判断を述べる護衛に、コーネストは納得したように頷きを返す。
 実際の所、アレクルトのレベルは七十一で、冒険者ランクとしてはBランク相当にあたる。
 しかし、悪魔との闘いでは現役のBランク冒険者複数が戦いを挑み、そして無残な結果となっていた。
 それを考慮すれば、アレクルトの言う事は間違っていないだろう。

「やはり、彼ら……いえ。あの男は只者ではなかったという事ですね」

 以前一度、コーネストは彼らから鑑定依頼を受けた事があった。
 その時、いつもの手癖で相手を鑑定した途端、コーネストは心の芯まで凍てつくような恐怖を味わったのだ。
 それ以降、直接的に手出しをすることはやめていたのだが、間接的に彼らの情報については集めていた。

 その調査によって、一部の人にしか伝わっていない、遠くの国で発生した事故によってあのダンジョンに転移してきた、という情報まで調べは進んでいた。
 しかし、そのほかの情報については、ほとんど掴めてはいなかった。
 以前、《鉱山都市グリーク》の傍で、山賊の集団を倒したという情報位しか集まらなかったのだ。

 それもまあある意味当然の結果ともいえる。
 なんせ、話が本当なら、彼らは遠い異国からやってきてまだ日も浅い。
 しかも彼らの冒険者としての活動は、ほぼダンジョンの中で終始している。
 これでは情報を集めようと思っても、なかなか捗らないのは仕方ない。

 そんな所へ舞い込んできたのが今回の悪魔騒動。
 当初は悪魔についての情報は一般には伏せられていた。
 だが、ギルド内で鑑定屋としての地位にあり、背後にメッセ―ナ商会という大きなパイプを持つコーネストは、いち早く情報の収集に務めていた。
 そして、それらの情報は雇い主であるシノンへと随時送られている。

 あのホージョーという男の仲間であった女が、"魅了の魔眼"スキルで暗躍していた事も、コーネストは独自の情報網で掴んでいた。
 結局今回の騒動の結果、その女は死亡したという報告がされていたが、コーネストはその報告についてそのまま信じている訳ではない。
 スキルがスキルだけに、誰かに生きて捕らえられていたとしても、死んでいると報告されるのは明らかだったからだ。

 この件についても一応裏付けを取るように、商会から派遣されている情報調査員に指示を出してはいる。
 しかし、あまり深入りしすぎると火傷を負うことになるだろうと、コーネストは慎重に事を運んでいた。

 あのホージョーという男には、そこまでの注意を払うべきなのだ。
 でないと、あの男・・・のような目に会ってしまうのだろう。
 思考を巡らせていたコーネストは、視点をギルド内の一か所に定める。

 そこでは、北条に絡んでいこうとしている冒険者の姿があった。


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