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第十二章
第307話 『勇者』シルヴァーノ、再び
しおりを挟む「問題なら大アリだぜ! お前みたいな、人を人とも思わない奴に彼女を渡したら、ろくでもない目に会うに決まってるからな!」
大きな口を叩いた龍之介は、ここでようやく相手の正体を思い出していた。
ほんの一度会っただけの相手とはいえ、『勇者』だというシルヴァーノの事は記憶の端に残っていたらしい。
道理でギルドの様子もいつもと少し違うハズだ、と龍之介は納得する。
「……先ほどから貴様はいったい何なんだ? 何故人族のお前がそこまでケモノの肩を持つ?」
「オレは『サムライトラベラーズ』の龍之介。オレにとっちゃこいつらはダチなんだ! 困っていたら助けるのは当然だろうが!」
「『サムライトラベラーズ』…………。あの男の仲間かっ!」
龍之介の所属パーティー名を聞いて、一瞬だけ眼光が鋭くなるシルヴァーノ。
以前ちょっとだけ揉めただけの相手に、これだけの反応を示すのは龍之介も意外に思ったようだ。
そもそも揉めたと言っても二言三言、言葉を交わしただけであったし、大体あの時は互いに名乗りもしていなかった。
あれしきの事でこちらの事を調べたのか? と、龍之介はシルヴァーノの執念深さを感じたが、話はそう単純なものではない。
(どれどれ……。リューノスケ・オオタ……、スキルは…………、ッッ!?)
シルヴァーノは、この町に来た目的の一つを果たすために、この町に着いてからはここで活動している冒険者について調べていた。
高ランクのパーティーは軒並みチェックしてあるし、特殊なスキルを持っている冒険者なども、いくつかチェックをしていた。
その中で一番注目していたのは、最近ちらほら増えてきたBランクのパーティーではなく、悪魔を単騎で討ち倒したという北条という男。そして北条のパーティーメンバーの存在だった。
(単に希少スキルを持ってるだけの奴らかと思いきや、あのサクラとかいう女も、このリューノスケというガキも、スキルの保有量が尋常じゃない)
高レベルの者であったり、何らかのスキルを持っていれば、自分が相手に"鑑定"系スキルを使われた時にそれに気づく、もしくは違和感を感じることが出来る。
しかしそういった例は稀で、普通は相手に気づかれる事など滅多にない。
そのため、シルヴァーノは気になった相手にはすぐ"鑑定"を使用していた。
「オレ達の事を知ってんのか? 名乗った覚えはねーんだけどな」
「フンッ。癪な事に、この町では私よりも貴様らの方が有名らしいんでな」
「ま、ここはオレらのホームだからな。これ以上ジャドゥジェムを寄越せってゴネるなら、『サムライトラベラーズ』が黙ってねえぜ」
「チッ……、まあ、いい。今回は引いておいてやろう。代わりが見つかったことだしな」
最後まで尊大な態度を崩さず、シルヴァーノはギルドを去っていく。
途端、どこか緊張感が漂っていたギルドの中の空気が緩やかになっていった。
「おーう、よく言ってやった!」
「あのいけ好かねえ野郎にはムカムカしてたたんだよ。グッジョブ、リューノスケ!」
「リューノスケ、表歩くときは気を付けろよー」
シルヴァーノが完全に立ち去った後、少しして再び活気のある声がギルド内に甦った。
顔見知りの者もそうでないものも、一部始終を見ていた冒険者らはこぞって野次の声を飛ばす。
「りゅ、リューノスケ、ありがとう。お陰で助かったが……その、いいのか?」
「ん、何がだ?」
「アイツにあれだけ啖呵切った事だよ。リューノスケは知らないかもしれないけど、アイツはあれでもAランクの冒険者なんだ」
「ああ、それなら知ってるよ。『勇者』とか呼ばれてる奴だろ?」
「知ってるのか……。それならこれ以上とやかく言わないが、気を付けてくれよ?」
「気を付けるったって、流石に町中でいきなり襲ってきたりは…………うわぁぁっ」
絡まれていたところを助けてもらったキカンスは、野次の声が飛んでいる中、龍之介へ礼の言葉をかける。
それからキカンスと龍之介が少し会話をしていると、そこに勢いよく飛び掛かって来る者がいた。
「リューーーッッ!! さっきのカッコ良かったよ!」
「ちょっと、ルー……。そのタックル張りの飛び込みは止めろっていつも言ってるだろ!」
「え~、だって、だって~!」
「最近知ったのだが、リューノスケを前にした時のルーティアのような態度の事を、『ぶりっ子』と呼ぶらしいな? 男にアピールする為らしいが、どう見てもリューノスケには効果ないようだぞ?」
「ま、まあ……、それだけルーティアも必死なんですよ」
「…………」
俊敏な動きでいつものように龍之介に取り付くルーティアに、すっかり慣れた様子の『獣の爪』の仲間たち。
周囲からはやっかみの混じった冒険者たちの声が、龍之介の元に寄せられる。
そんな中、龍之介が必死にルーティアを引きはがすと、一先ず先ほどまで食事をしていた軽食スペースに移動する。
「今回はどうにか切り抜けられたけど、アイツに目を付けられたのは痛いね」
「奴が我らを見る時の目……。非常に不愉快である!!」
「私達はまだいいですけど、ジャドゥジェムさんは……」
「アイツ! 今回は引いたけど、諦めるとは言ってなかった。リューは強いからいいけど、ジャドゥジェムは心配ね」
「うっ! い、いや……。流石にオレもAランクの奴相手は……」
シルヴァーノに対して腹を立てている龍之介であるが、まともに戦って勝てるとは思っていない。
それでも大事なものを守るためならば、龍之介は戦うつもりでいる。
「せっかくここまで移動してきたのに、またアイツらの影が付きまとってくるなんてね……」
「そーいや、お前たちもロベルトと同じく、ば、べ、ベレンティア領から来たんだっけか」
「リュー。ベレンティアじゃなくて、ベネティス領ね」
「そう、それそれ」
「うん、そうだよ。ベネティス領では人族史上主義が広がっていてね。俺らも大分ひどい目に会ってきたし、酷い目に会ったやつらを見てもきた」
「しかもだ。我が聞いたところでは、最近は同じ人族にも重税を課していて、力で民衆の不満を押さえつけていると聞くぞ。まったくもって業の深い奴らよ」
「あの調子じゃ、ウチら亜人だけじゃなく、人族の農民たちもどんどん逃げ出すんじゃない?」
「そっか……。大分ヒデー状況なんだな」
話が暗い方向になっていき、周囲の騒がしい冒険者たちとは打って変わって、ここだけ沈黙のスペースが生まれる。
「まあベネティスの事を俺らがここでとやかく言っても詮無い事だ。それよりも、ジャドゥジェムの事だが……」
「あの男の事はベネティスにいた時に散々噂に聞いてた。欲しいものは必ず手に入れる。それが当然だとも思っているって」
「そうだな。ルーの言う通り、Cランクの審査を通ったのが不思議な位、性格に難ありの奴だった。今度は力づくでジャドゥジェムを奪いに来るかもしれない」
肝心のジャドゥジェムはというと、詳しい事態は飲み込めていないようだが、キカンスらの表情や、先ほどの男とのやり取りからして、何か問題が発生したという事は理解していた。
「ヴァーデルンバ? ガルリィィンシ、グララララ」
しかし相変わらず《ヌーナ大陸》で一般的に使われているヌーナ語を話すことは出来ず、彼女の言っている事は理解できない。
幾つかかの簡単なヌーナ語の単語を教える事は出来ているが、それらをつなぎ合わせて会話するまでには至っていなかった。
「…………リューノスケ。彼女を匿ってくれないか?」
「そう……か。それはいいかもしれない」
普段は無口で、ここぞという時にしか言葉を発しないシュガル。
そのシュガルの出した提案に、キカンスも同調する。
「ウチに、か? ううーん、お前らはそれでいいのか?」
「本来なら俺らの手で守ってやりたい所だが、今回ばかりは相手が悪すぎて……な」
そう言うキカンスの表情は、手放しでこの提案に賛成しているというものではない。
キカンスだってできれば自分達だけでどうにかしたいとは思っている。
しかしそれで無理をした結果、ジャドゥジェムが拐かされでもしたら本末転倒だ。
「そうか、分かった。オレからみんなに話してみるよ」
「助かる、龍之介」
「なあに、良いって事よ。で、どうする? 早速これから拠点に向かうか?」
「その方がいいね。俺達も一緒に同行させてもらうよ」
「うむ。あの拠点は前から興味があったのだ。これで堂々と中に入れるな」
「もう、ジェンツーったら。これはジャドゥジェムを守る為なのよ?」
「ふん。そういうお主もシッポをブンブンと振り回しているではないか。どうせ、リューノスケの家に上がり込もうとか考えているのだろう?」
「にゃっ! そ、そんな事はにゃいにゃ」
ルーティアは慌てたように言うが、自分では止められないのか、ルーティアのシッポは元気よく動いたままだ。
その動きが気になったのか、ジャドゥジェムがそっと両手でルーティアのシッポをつかむ。
「みぎゃあああっ!」
途端発情期の猫のような声を上げると、ルーティアはへにょへにょになって床に頽れる。
「あっ、ジャドゥジェム。ルーのシッポは掴んではだめだよ?」
それを見て、キカンスは身振り手振りでジャドゥジェムに獣人族のシッポはみだりに触るものじゃないよと説明をしていく。
「はぁ…………。やっぱ良いわ」
「なっ! リューノスケ!! 我は男色の気はないぞっ! や、やめ……」
そして隣では、ジェンツーの柔らかいお腹の毛を撫でている龍之介の姿があった。
それに対し暴れるジェンツーであるが、後衛職のジェンツーが前衛職バリバリの龍之介に敵うハズがない。
龍之介に腹をまさぐられ、ゾワゾワっとした感覚の中に、経験した事のないナニカを僅かに感じ取ったジェンツーは、危機感迫る声でまさぐるのをやめるように訴える。
「………………」
「み、みんな~。早くギルドを出ませんか~?」
そんなちょっとした騒ぎの中、静かに荷物を背負い準備を整えるシュガルと、場をまとめようとするティスティル。
結局、全員揃ってギルドを出る頃にはもう少し時間が必要となるのだった。
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