358 / 398
第十二章
第314話 拠点への案内
しおりを挟む「うん! あたし達と同じグループの人なんだよ」
「同じグループ……つまりクランみたいなもんか」
「んーと、多分そう、かな? 今はもう一つのパーティーと一緒にダンジョンに潜ってるとこだよ」
「ほおう。そら一度会ってみたいもんや」
「えっと、北条さんと会ってどうするつもりなんですか?」
ここで陽子がゼンダーソンの意図について質問する。
北条本人が余り騒がれたりするのを好まないのをは知っていたので、ゼンダーソンがどう反応するかについて知っておきたいという考えだ。
「決まっとるやろ。強い奴とは戦いたくなるゆうんが、男ちゅうもんや」
「そ、そうですか……」
バトル脳全開のゼンダーソンに、陽子は返す言葉もないようだ。
「んー、北条さんたちなら、多分あと数日で帰って来るんじゃないかなー?」
「んならまずは宿を探さんといかんな。町について早々ギルドに来てもうたから、まだ宿泊する所すら決まっとらん」
「あ、じゃあウチにくるー?」
「ウチって嬢ちゃんとこのクランハウスか何かか?」
「んーと、仲間のみんなと一緒に暮らしてるとこがあるんだよ!」
「ほーー。それは助かるが、広さは大丈夫なんか? ほれ、見ての通り俺はタッパがあるからなあ。小さな宿だと屈まへんと中に入れん事もあるんや」
「うううん、多分だいじょぶじゃないかなー? そんなに余裕はないかもしれないけどー」
「ちょ、ちょっと由里香ちゃん……」
困惑した様子の陽子に気づかず、次々と話を進めていく由里香。
陽子や他のメンバーからしても、危ない所を助けてもらったので口を挟む事も出来ないでいる。
「ほんでウチってのはどこにあるんや?」
「あ、それならちょっと待ってくれ。今ダンジョンのドロップを買い取りに出してる所なんで、それが終わったら一緒に行こう」
「了解や」
結局信也もゼンダーソンを拠点に迎える事を認めたようで、拠点までの案内を申し出る。
拠点ではメンバーの持ち家の建築ラッシュが始まって以降、中央館にも来客用の部屋などが増設されていた。
なんだかんだあって、預かっているジャドゥジェムは現在農業エリアの方でテントを張って暮らしているので、ゼンダーソンを迎えれば初めての本格的な客室利用者になる。
査定の結果を待っていた信也達は、シルヴァーノの一件で思いのほか時間を取られていたせいか、その後すぐに番号札の呼び出しがかかり、今回の探索の成果を受け取る。
それからすぐに、ゼンダーソンを連れて拠点へと向かう事になるが、その道中で陽子が拠点内部での事については、秘密を守るようにお願いしていた。
「なんやよう分からんけど、分かったで。こう見えて口は堅いから任しとき」
そんな事を言っていたゼンダーソンだが、拠点に近づくに連れて陽子の言っていた言葉の意味が薄々理解出来てきたようだ。
「お、おお? アレか? アレが嬢ちゃん達の言うとる拠点なんか?」
『ユーラブリカ王国』ではSランク冒険者として、広大な敷地の豪華な家を持っているゼンダーソンであったが、敷地面積だけでいえば恐らく同程度はありそうな拠点の様子に、驚いた様子だ。
それも周囲を囲む外壁はゼンダーソンの家よりも堅固であり、水堀なんてものは街中に建てられているゼンダーソンの家周りには存在していない。
「見たとこ、魔物暴動に備えて建てられた砦のようやが……」
これは外部から流れてきた冒険者が、この町に着いてこの拠点を見た時によく抱く感想だった。
というか、未だにそうだと信じている冒険者も僅かながら存在している。
「これは主に北条さんが中心になって造った拠点なんだよ!」
「ホージョーが造った? ホージョーいうんは、建築家か何かなのか?」
「うううん。北条さんは、何でも出来る人だよ!」
「何でも……?」
首を傾けながらも、西門を潜り抜けて拠点の中へ入っていく一行。
すると目に飛び込んでくるのは、無駄に高い構造物であるウェディングウォーターだ。
一番高い部分で十五メートルほどの高さがある、明らかに人工的に作られたウェディングウォーター。
最も高い中央部から湧き出した水が、周囲を伝って下へと流れていくその様は、初めてみる者を圧倒させる。
「ほおおお、こらまたごっついオブジェやな」
「だよね! これもホージョーさんが造ったんだよ」
「……どんな奴かまったく想像できんくなってきたわ」
そう言いつつも、ウェディングウォーターそのものは気に入ったようで、感心した様子のゼンダーソンであったが、北条に対するイメージがますます謎のベールに包まれているようだ。
その後も、拠点内を警備しているゴーレムのアルファやベータ。
アーシアやだんごが"眷属服従"で支配しているスライムや、マンジュウなどの使役されている魔物を見て、益々ここが特殊な場所だという事をゼンダーソンは実感していく。
「という事なんで、ツィリルさん。この人をよろしくッス」
「うん、分かったよ。ボクに任せてくれ」
ロベルトに対して自信有り気に答えるツィリル。
定期的に北条からの治療のようなものが続けられているせいか、既に表面上はほとんど問題なさそうに見える。
先ほどの発言も、ツィリルの感情が少し載せられていたように感じられる。
しかし当人の感覚では、相変わらずその辺りの情動の機微が薄かった。
さっきの発言も、周囲の人の様子をつぶさに観察するようにしていたので、それらしい振る舞いが出来るようになったに過ぎない。
「ん、自分。なかなかやるな」
「ツィリルさんは元Bランク冒険者なんッスよ」
そんなツィリルと対面したゼンダーソンは、すぐに相手の力量を見て取ったようだ。
ゼンダーソンは"鑑定"のようなスキルは持っていないが、これまでの経験や"野生の勘"などのスキルで、対峙した相手の力量がおおよそ量れる。
「そら納得や。にしても、あの姉ちゃんが秘密にしてくれ言うんも納得やわ」
中央館の建物の中は、セントラルヒーティングのように全体的に暖かく保たれているが、ゼンダーソンが外から見た限りでは煙突から煙は上がっていなかった。
つまり、この暖かさは魔法道具などによるものなのだろう。
ゼンダーソンも超一流の冒険者として、こうした魔法道具などは見慣れたもんだった。
そしてこれら魔法道具ひとつひとつが、売り払えば中々の値段になる事も知っている。
そういった高価なものを取り揃えているだけあって、ここが普通ではないという事を更に実感するゼンダーソン。
その後、ゼンダーソンを来客用の部屋に案内し、夕食などを共にしながら色々な話を聞く信也達。
なんでも、久々にダンジョンから戻ってきたら、異国に最大規模のダンジョンが新たに出現したという情報を聞いたらしい。
そこで仲間をほっぽって、単身この町までやってきたとの事だ。
「仲間の人を置いてきぼりってなんでッスか? 幾らSランク冒険者でも、仲間がいないと深い所までは潜れないんじゃ……」
「あー、それな。実は、『ブレイヴキャッスル』に出てくる悪魔との戦いで、仲間が少しやられてしまってな。今は冒険活動は休止中なんや」
「悪魔……ッスか」
「そや。奴らの使う"暗黒魔法"や"漆黒魔法"はホンマ厄介なんや。俺らでも、まともに喰らうと、今回のように後遺症が続くことがあってな」
「後遺症?」
「悪魔の使うた魔法によって症状はちゃうんやけど、今回のは魔力の最大値が減って、更に回復速度も若干下がったってとこやな」
「……それって治るんッスか?」
真剣な様子のロベルトを見て、そういえばここでも悪魔との戦闘があったんだなと思い出すゼンダーソン。
「まあ、俺らはこれでもユーラブリカでは名の知れた冒険者や。格上の悪魔相手ならともかく、同格の悪魔の魔法なら、少し休めば元に戻るやろ」
「そう……ッスか」
「あ、そうそう。その悪魔についてだけど、色々教えてもらえないかしら?」
ゼンダーソンの話を聞いて落ち込むロベルト。
しかし以前に比べて、ツィリルも大分良くはなってきているので、そこまで落ち込むには至らなかった。
ただちょっと場の雰囲気が暗くなってしまったので、慌てたように陽子が話題を少し変えていく。
完全に話題を変えていかないのは、実際に悪魔と戦ってきたというゼンダーソンから色々話を伺いたいからだ。
こうしてゼンダーソンを拠点に迎え、時に模擬戦の相手をしてもらったり、時に冒険に役立つ話をしてもらいながら、『サムライトラベラーズ』が帰還するのを待つ日々が続いた。
結局『サムライトラベラーズ』が帰還したのは、それから四日後。
それまでの間、『プラネットアース』としても休息日として、有意義な時間を過ごすのだった。
0
あなたにおすすめの小説
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる