374 / 398
第十二章
第330話 強襲! シルヴァーノ
しおりを挟む◆◇◆◇◆◇◆◇◆
信也達がダンジョンから脱出し、拠点に戻ってきた時には、拠点に在住している農民一家などしかいなかった。
北条達『サムライトラベラーズ』も、ゼンダーソンもダンジョンに向かってから戻っていないらしい。
ロアナからそう報告を受けた信也達は、ひとまずドロップ買い取りのためにギルドへ向かう事にした。
なおマンジュウとダンゴは拠点でお留守番だ。
拠点から冒険者ギルドまでは歩いて数十分といった所だが、この世界の暮らしに慣れてきた異邦人たちは、これくらいの距離なら最早ご近所レベルに感じてきている。
今回の冒険での話などを交えながら、ギルドにたどり着いた一行は、すぐさま買い取りや依頼の確認などを済ませ、長居せずにギルドを出る。
当初の予定ではこの後は各自自由行動となる予定だったが、信也の緊張した声がそれを打ち消した。
「みんな、悪いが自由行動はなしだ。このまま全員で拠点に戻るぞ」
「え、リーダーどうしたんですか?」
きょとんとした表情で尋ねる咲良。
「俺の"悪意感知"に何かが引っかかった。……それもねっとりとした、かなりに強い悪意だ」
「それは……」
信也にそう言われて、咲良の脳裏に浮かんだのはやはりあの自称『勇者』の事だった。
咲良以外の面々も、軒並み渋い顔つきになっている。
「念のため"付与魔法"を掛けておいた方がよさそうね」
「ああ、頼む。それとこちらが気づいたことを感付かれたくない。出来るだけいつも通りに振舞ってくれ」
「う、うう。そう言われてもー」
「由里香ちゃんは変に後ろを振り向かないで、前だけ向いて歩いてればいいよ~」
「うん……そーする」
由里香と芽衣がそんなやり取りをしてる中、陽子は"付与魔法"を掛けていく。
比較的長時間持つ~増強系のステータスアップ系と、【レジストサンダー】と【レジストマジック】を全員に施していく。
【レジストマジック】は魔法に対する抵抗力を上げ、更に【レジストサンダー】で、雷属性の攻撃に対しての抵抗力と、防御力を上げる。
これは事前に北条から知らされた情報を参考にしたもので、シルヴァーノは"雷魔法"を上級レベルで扱い、更に上位魔法である"轟雷魔法"も使えるという事だった。
これらレジスト系の魔法は、ステータス増強の魔法より効果時間が短かったが、ふんだんに魔力を込めて出来るだけ効果時間を延ばして使用される。
こうして一通り魔法を掛け終わったころには、すでに町のはずれに到達しており、ここから先拠点までの間は、何もない平野が広がっている。
「……どーやら、後をつけていた気配は町の端っこで止まったみたいッス」
ロベルトが"生命感知"によって得た情報を報告する。
このような人の多い町中では、よほどの熟練者であったり、対象人物をよく知ってでもいない限り、"生命感知"で個人を特定する事はできない。
しかし予め信也に、悪意を向けて尾行してくる者がいると知らされていたので、自分たちの後をついてくるような動きの生命反応を注意してみれば、尾行者の位置を掴むことは出来た。
「前回が前回だっただけに、大分警戒しちゃったけど、流石にこれ以上手出しはしてこないようね」
「というか、前回あれだけ騒動起こしておいてお咎め無しってのもどーかと思うッス」
結局この間のギルドでのもめ事は、冒険者同士の喧嘩として処理されていた。
にしても、Aランク冒険者がDランク冒険者に絡んでいくというのは、普通は見ない光景だ。
そんな事をすれば、Aランク冒険者側の評判が著しく低下するのは目に見えている。
「ギルド側としても、Aランク冒険者がそのような問題を起こした事を公にしたくなかったのかも……なぁっ!?」
「ん、これって!?」
「マズイッス! やる気ッス!」
それまで普通に話していた信也は、最後何かに気づいたように語尾が上がる。
ついで、"野生の勘"スキルに引っかかった由里香も反応を示す。
そしてただ一人、シルヴァーノからは殺しても構わないと判じられていたロベルトは、"危険感知"スキルによって異常に気付く。
「凄いスピードで近寄ってきてるッス! ヤバイッス!!」
「……私に考えがあるわ。上手くいくか分からないけど、成功するにしても失敗するにしても、打って出るのはその後にして」
「分かった。コレは使用しても構わんか?」
刻々と悪意の塊が迫ってくる中、最早綿密な打ち合わせをする余裕は彼らにはなかった。
信也は仲間を信じつつも、自分でも出来ることを模索し提案する。
「ええ、それなら問題ないわ。とにかく結界内から出なければ……」
「……ッ来るッス!!」
"機敏"スキルを使用までして、ここまで一瞬で駆けてきたシルヴァーノは、有無を言わさず先制攻撃をしかけてくる。
その第一弾は、北条からの前情報にも合った通り、お得意の"雷魔法"だった。
「無数の落雷よ、俺の前に立ちふさがる愚か者どもに降り注げ。【ライトニングストーム】」
ロベルト以外の面子に関しては、生きたまま捉えるのが目的であったが、それにしてはシルヴァーノの選んだ魔法は強力なものだ。
上級"雷魔法"の【ライトニングストーム】は、【落雷】の魔法を指定の範囲内に何発も打ち付ける魔法だ。
そこいらのDランク冒険者では、場合によってはこの魔法だけで命を落としてしまう危険もある。
だというのにこの魔法を最初に選択したのは、予め"鑑定"スキルによって信也達が普通の冒険者ではないと知っていたからだ。
特に"結界魔法"がかかってるなら、そうそうにくたばることはない。
実際、シルヴァーノのその予想は間違っていなかった。
しかし魔法を放った後に、更に距離を詰めていったシルヴァーノが見たのは想定外の状態だった。
(ちっ、どういう事だ。全員ピンピンしてるじゃねーか)
全くのノーダメージという事は流石になかったが、見た感じだと大してダメージを与えているようには見えない。
それどころか、咲良の【キュアオール】によって即座にほぼフルHP状態にまで持ち直していく。
「みんな、速攻で行くわよ! 【敏捷低下】」
前衛の由里香や信也は、最初に陽子が言っていた通り、魔法を打ち終わった隙に前に出るような真似はせず、陽子の結界内にて待機していた。
そして最初に陽子が選んだ手は、〈スロウワンド〉と【敏捷低下】による速度の低下だ。
これまで北条の摸擬戦や悪魔との闘いの時に、一番厄介だったのは動きがはやすぎてついていけてないという事だった。
その問題点をまず真っ先に潰す。
予め"エンハンスドスペル"と"増魔"スキル。それから【敏捷低下】に込められる限界ギリギリまでの魔力を込め、先制で放つ。
これによって、〈スロウワンド〉の効果は抵抗されてほぼ無力化されてしまったが、【敏捷低下】の方はきっちり入っていた。
そして先ほどの陽子の掛け声と同時に、由里香が"機敏"を使って高速に接近戦を仕掛けにいく。
信也も"光の魔眼"と"闇の魔眼"を発動させながら、その後に続く。
最初は二つ同時に発動することさえ出来なかった信也だが、今では戦闘しながら魔眼を発動させる事も可能になっていた。
しかし、魔眼ダブル発動時は体の動きの方に割く思考が弱まり、動きが鈍ってしまう。
なので、今の所は攻撃する事を放棄し、防御や注意を引くことに専念しつつ、魔眼を発動し続けるというスタイルを取っていた。
「雑魚どもが調子に乗りやがって!」
思わぬ反撃にシルヴァーノが罵声を浴びせている間にも、次々と攻撃の手が紡がれていく。
「わたしの呼びかけに応え、肉壁として頑張ってください~。【妖魔召喚】」
「私と、私の仲間たちが自由に動き回れる場を。【加速領域】」
芽衣の"召喚魔法"によって、トロールウォリアーが五体召喚され、命令通りに愚直にシルヴァーノの方へと向かっていく。
そしてほぼ同時に完成した陽子の【加速領域】によって、今召喚されたばかりのトロールウォリアーを含めた全員の敏捷が強化される。
Aランク冒険者であるシルヴァーノだが、世界各地を旅してまわったという事もなく、狭い範囲の物事しか知らない。
"結界魔法"の使い手自体は会ったこともあるが、普通は貴族などに囲われているので戦闘することなどない。
"召喚魔法"に至っては、芽衣が初めて出会った使い手だ。
こうした戦い慣れないスキルの使い手を相手に、さしものシルヴァーノであっても初めは完全に抑え込まれていた。
ここまでは陽子が最初に取った作戦勝ちだと言える。
しかし地力で勝るシルヴァーノは、いつまでも格下相手にいいようにされているのを良しとはしなかった。
「て、めえらああッ! よほど死にたいらしいなあッ!!」
ここでシルヴァーノは"纏気術"を発動させ、身体能力を向上させる。
未だに【敏捷低下】の影響は受けたままだが、それでも"纏気術"の発動によって、並のCランク戦士であれば身体能力だけでごり押せるほど強化される。
唐突に始まったシルヴァーノと『プラネットアース』の闘いは、第二ラウンドに突入しようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる