どこかで見たような異世界物語

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第十三章

第346話 意外な訪問者

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「そんじゃあ、オレらも行ってくんぜ」

「北条さん、留守はお任せする」

「おおう、おう。任せとけぃ」


 昨日のキカンスやムルーダらのクラン加入を受け入れ、今頃は彼らも合同でレイドエリアを目指している所だろうが、ここにもダンジョンに向かおうとする集団があった。
 拠点の東門前で挨拶を交わすのは、北条とそれ以外の主要面子だ。

 北条一人だけを残し、残りのメンバー全員で向かうのはレイドエリアの十八層。森や草原が広がるフィールドエリアだ。
 二十三層の迷宮碑ガルストーンにも登録はしてあるが、あちらはDランクの魔物が多いので、まずは一つ前のポイントで腕試しをすることになった。

 このレイドエリアのアタックは、北条が拠点でクランメンバー用の魔法道具などを作っている間に、少しでもダンジョンに潜っておきたいという龍之介の提案を元に、急遽決定された。

 大黒柱の北条を欠いた状態で、魔物の大群を相手にするのも一つの経験になるし、北条との差を少しでも埋める事にもなるだろう。
 予定ではそう長い事潜る予定ではないので、恐らく合同パーティーが帰ってくる頃には信也達も戻ってくるはずだ。
 その間に、北条は魔法道具の開発や拠点開発に勤しむ予定になっている。
 そういった流れで、北条はダンジョンへと向かう信也達を見送るのだった。




▽△▽△▽



 最初は町に素材を買いに行き、それらの素材とこれまで貯めこんでいた素材や魔石を元に、簡単な戦闘用の魔法道具を量産していた北条。
 しかし、二、三日もすると同じ作業に少し飽きてきた北条。
 そこで、気分転換に新区画へと訪れていた。

「ううむ、四分の一は〈ウージャ〉を植えるとして、後は何にするかな」

 この新区画は、本区画の南西部にあった農業エリアをそのまま拡大した場所になっている。
 外壁の四隅に立つ塔の内部に魔法装置を設置して、一年中気温を一定に保てるようになっていた。

「農業エリアで試験的に育ててみた結果、〈ウージャ〉は地下茎で増えていくから育成は楽なんだが、水を大量に必要とする事が判明したんだよな。そうなると、水路を少し拡張するか? いや、それともこのままでも……」

 ブツブツと独り言を言いながら、ここに何を植えようかと今後の農業計画を考えていく北条。
 農業エリアでは、他にもダンジョンから採取した作物の種を試験的に育てていて、それを元に農業区画の今後の計画を立てていく北条。
 そこへ、農民の一人が走り寄ってくる。

「あ、あのホージョー様。お客さまが訪ねてきたのですが……」

「客ぅ? ギルドでランク昇格の手続きはもうしたし、一体どこのどいつだぁ?」

「とりあえず中央館に案内してありますだ」

「分かったぁ、すぐに向かおう。お前は作業に戻ってていいぞぉ」

「分かりましただ」


 北条が少し駆け足気味で中央館へど戻り、客人が待っているであろう応接室へと向かうと、そこには予想外の人物が待っていた。

「お前は……」

「あ、う……、ほ、ホージョー。お前に話が……ある」

 そこで待っていたのは、アウラのお付きの従士であるマデリーネだった。
 初めの頃は、親の仇のような態度で北条に接していたマデリーネだが、一緒にアウラを救出した後からは少しずつ態度も軟化していた。

 とはいえ、プライベートで会ったり一緒にどっかに出かけるなどといった事もなく、時折アウラと会う時に、傍にいるマデリーネにも少し話をする程度の関係性だ。
 だから尚の事、マデリーネが一人でこの拠点に訪れるというのは珍しい。

「なんだぁ? 用があるならまず先触れの使者でも……もしかしてお前がその先触れの使者なのかぁ?」

「い、いや、そうではない。今回私がここを訪ねたのは、私の個人的な理由だ」

 益々もってマデリーネの意図を測りかねる北条。
 マデリーネの態度もいつもとは違い、どこか緊張しているというか、とにかく少し落ち着きがない様子。

「では一体何の用で尋ねてきたんだぁ?」

「それは、その……」

 以前はあれほど北条に対してズバズバと言っていたマデリーネ。
 しかし今日は借りてきた猫のようにおどおどとしている。

「わ、私は先日! アウラ様にお暇を頂いたのだ」

「ん? クビになったって事かぁ?」

「ちっがああああうッ! あ、いや……そうではなく、そのだな……私自ら願い出たのだ」

「つまり依願退職か」

「イガンタイショク? ……よくは分からんが多分そうだ」

 マデリーネは話の最初のとっかかり部分を乗り越えた事で、少し落ち着きを取り戻してきたらしい。
 それから北条に、アウラの元を一時的に去る決意をした理由について、語り始めた。



▽△▽



「……つまり、力不足を感じたと」

「……そうだ。ベネティスの貴族に護衛としてついてきたあの男。あの男はアウラ様の護衛である私の事など、見向きもしていなかった」

 これでもマデリーネはこれまで鍛錬に手を抜くことはなかった。
 この国だけに関わらず、この世界の兵士や騎士といった、組織に所属する戦闘職の者達は、対人訓練などの他に魔物退治も行っている。

 職業経験値の方は訓練だけでも上がっていくが、レベルを上げるための経験値は、魔物を倒さないとほとんど入手できないからだ。
 これは魔物を間引いて肉や皮などの資源を得ると同時に、周辺の町や村々の安全を守る事にも繋がる。

 《鉱山都市グリーク》の東には《マズル砦》が建てられており、近くにある《ドルンカークの森》や、その更に奥にある森から出てくる魔物の防波堤になっている。
 《マズル砦》では定期的に大規模な魔物の討伐も行われ、グリーク領の兵士達の質の向上に貢献していた。


「私もこのアリッサと共に、この付近の森に度々魔物を狩りに行っていたのだ。しかし、どうもここ最近は魔物の数も減ってきていてな……」

「そ、そうかぁ……」

 何気ない風に返事していた北条だが、実はその件については心当たりがあった。
 北条が召喚し、契約してる十近い魔物たちは、普段は東の《マグワイアの森》で放し飼いにされてある。

 冒険者を襲わないように指示を出し、経験値を稼いで強くなるようにと命令された北条の従魔たちは、随所で魔物を狩りまくっていて、最近では更に奥の山の方まで出張っていた。
 そのおかげで、この《ジャガー町》周辺で魔物を見かけることがすっかり減っていた。

「これではレベルを上げる事もままならない……そう考えて、行きついたのがダンジョンの存在だった。あそこなら魔物の数に困る事などはあるまい。そう考え、私は冒険者ギルドに赴き、冒険者登録をしてきたのだ」

 これは何も特殊なケースといったものではなく、この世界では比較的よく聞く話だ。
 マデリーネのように、わざわざ冒険者登録までする者は少数だが、騎士などでもダンジョンに潜って冒険者のような真似をする事がある。

 レベルを上げれば強くなれるというのが、この異世界ティルリンティの大前提の仕組みである以上、これも当然の帰結と言える。

「しかし、その、一緒に潜る相手が見つからなくて、な。私は冒険者について詳しい訳ではないが、一人で潜るような場所ではない事は知っている」

「そりゃあ、〈ソウルダイス〉で六人までパーティーが組めるからなぁ。一人でダンジョン潜るなんて、どこぞの獅子獣人か自殺志願者位だろう」

「そうなのだ。だから、私も一緒に潜る相手を探していたのだが、声を掛けてくるのは色に満ちた下品な男や、何かを企んでるような視線をした者たちだけだ! かといって、こちらから声を掛けても首を横に振られるばかり……。これでも前衛としてそれなりに戦えるし、魔法も使えるのだぞ? だというのに……」

 興奮したり、落ち込んだりと浮き沈みの激しいマデリーネを見つめる北条。
 どうやらマデリーネは普段からアウラの傍に付いていたせいか、裏心を持った相手には敏感らしい。

 マデリーネは、冒険者では余り使用してる者が少ない立派な金属鎧に、騎士が持っているような大き目のヒーターシールドを使用している。
 そのどちらにもグリーク家の家紋が刻まれており、冒険者の中に混じったらさぞや目立つだろうなと思われた。

(というか、この家紋付けた女騎士っぽい奴相手に、そっち下系目的で声を掛ける冒険者もいたのか……)

「ま、まあ、その装備はちょいと目立つからなぁ。冒険者としての鉄則に、下手な事に関わりを持たない、ってのもある位だし」

「む? しかし、この装備はアウラ様より下賜された大事なものなのだ。それに装備がなければ、私は"水魔法"位でしか活躍出来ん……」

「俺がどうこう言う事ではないかもしれんがぁ、お前さんの恰好だと冒険者からは特別な目で見られるのはしゃあないな。というか、そんな事を愚痴りにわざわざここまで来たのかぁ?」

「なっ、ち、違うぞ! 私は、ただ、その……。誰か冒険者を紹介してもらうとか、お、お前たちの冒険に一緒についていかせてもらえないか、とか思って訪ねて来たのだ!」

 かつてあれだけ罵倒してきた相手に、頭を下げに来たことが屈辱的なのか、マデリーネは顔を赤らめている。
 といっても、半ば開き直り気味に言っているので、北条からするとマデリーネが下手に出ているという風には見えていない。
 しかし、こう見えて、マデリーネは必死であった。


「だ、だから頼む! 私を、私を受け入れてくれ!」


 興奮の余りか、思わず席から立ちあがって北条の両肩に手を置いて語りかけるマデリーネ。
 知らず知らずの内に声も大きくなっており、離れた部屋にいたツィリルにもその声が届くほどだった。

 そこに、応接室の扉が開く音が聞こえてくる。


「うわーーお! マディちゃんったら情熱的ぃぃ!!」

 
 扉の開いた先に現れたのは、マデリーネの幼馴染であり、同じくアウラに従士として仕えていた、アリッサ・ラディスであった。


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