395 / 398
第十三章
第346話 意外な訪問者
しおりを挟む「そんじゃあ、オレらも行ってくんぜ」
「北条さん、留守はお任せする」
「おおう、おう。任せとけぃ」
昨日のキカンスやムルーダらのクラン加入を受け入れ、今頃は彼らも合同でレイドエリアを目指している所だろうが、ここにもダンジョンに向かおうとする集団があった。
拠点の東門前で挨拶を交わすのは、北条とそれ以外の主要面子だ。
北条一人だけを残し、残りのメンバー全員で向かうのはレイドエリアの十八層。森や草原が広がるフィールドエリアだ。
二十三層の迷宮碑にも登録はしてあるが、あちらはDランクの魔物が多いので、まずは一つ前のポイントで腕試しをすることになった。
このレイドエリアのアタックは、北条が拠点でクランメンバー用の魔法道具などを作っている間に、少しでもダンジョンに潜っておきたいという龍之介の提案を元に、急遽決定された。
大黒柱の北条を欠いた状態で、魔物の大群を相手にするのも一つの経験になるし、北条との差を少しでも埋める事にもなるだろう。
予定ではそう長い事潜る予定ではないので、恐らく合同パーティーが帰ってくる頃には信也達も戻ってくるはずだ。
その間に、北条は魔法道具の開発や拠点開発に勤しむ予定になっている。
そういった流れで、北条はダンジョンへと向かう信也達を見送るのだった。
▽△▽△▽
最初は町に素材を買いに行き、それらの素材とこれまで貯めこんでいた素材や魔石を元に、簡単な戦闘用の魔法道具を量産していた北条。
しかし、二、三日もすると同じ作業に少し飽きてきた北条。
そこで、気分転換に新区画へと訪れていた。
「ううむ、四分の一は〈ウージャ〉を植えるとして、後は何にするかな」
この新区画は、本区画の南西部にあった農業エリアをそのまま拡大した場所になっている。
外壁の四隅に立つ塔の内部に魔法装置を設置して、一年中気温を一定に保てるようになっていた。
「農業エリアで試験的に育ててみた結果、〈ウージャ〉は地下茎で増えていくから育成は楽なんだが、水を大量に必要とする事が判明したんだよな。そうなると、水路を少し拡張するか? いや、それともこのままでも……」
ブツブツと独り言を言いながら、ここに何を植えようかと今後の農業計画を考えていく北条。
農業エリアでは、他にもダンジョンから採取した作物の種を試験的に育てていて、それを元に農業区画の今後の計画を立てていく北条。
そこへ、農民の一人が走り寄ってくる。
「あ、あのホージョー様。お客さまが訪ねてきたのですが……」
「客ぅ? ギルドでランク昇格の手続きはもうしたし、一体どこのどいつだぁ?」
「とりあえず中央館に案内してありますだ」
「分かったぁ、すぐに向かおう。お前は作業に戻ってていいぞぉ」
「分かりましただ」
北条が少し駆け足気味で中央館へど戻り、客人が待っているであろう応接室へと向かうと、そこには予想外の人物が待っていた。
「お前は……」
「あ、う……、ほ、ホージョー。お前に話が……ある」
そこで待っていたのは、アウラのお付きの従士であるマデリーネだった。
初めの頃は、親の仇のような態度で北条に接していたマデリーネだが、一緒にアウラを救出した後からは少しずつ態度も軟化していた。
とはいえ、プライベートで会ったり一緒にどっかに出かけるなどといった事もなく、時折アウラと会う時に、傍にいるマデリーネにも少し話をする程度の関係性だ。
だから尚の事、マデリーネが一人でこの拠点に訪れるというのは珍しい。
「なんだぁ? 用があるならまず先触れの使者でも……もしかしてお前がその先触れの使者なのかぁ?」
「い、いや、そうではない。今回私がここを訪ねたのは、私の個人的な理由だ」
益々もってマデリーネの意図を測りかねる北条。
マデリーネの態度もいつもとは違い、どこか緊張しているというか、とにかく少し落ち着きがない様子。
「では一体何の用で尋ねてきたんだぁ?」
「それは、その……」
以前はあれほど北条に対してズバズバと言っていたマデリーネ。
しかし今日は借りてきた猫のようにおどおどとしている。
「わ、私は先日! アウラ様にお暇を頂いたのだ」
「ん? クビになったって事かぁ?」
「ちっがああああうッ! あ、いや……そうではなく、そのだな……私自ら願い出たのだ」
「つまり依願退職か」
「イガンタイショク? ……よくは分からんが多分そうだ」
マデリーネは話の最初のとっかかり部分を乗り越えた事で、少し落ち着きを取り戻してきたらしい。
それから北条に、アウラの元を一時的に去る決意をした理由について、語り始めた。
▽△▽
「……つまり、力不足を感じたと」
「……そうだ。ベネティスの貴族に護衛としてついてきたあの男。あの男はアウラ様の護衛である私の事など、見向きもしていなかった」
これでもマデリーネはこれまで鍛錬に手を抜くことはなかった。
この国だけに関わらず、この世界の兵士や騎士といった、組織に所属する戦闘職の者達は、対人訓練などの他に魔物退治も行っている。
職業経験値の方は訓練だけでも上がっていくが、レベルを上げるための経験値は、魔物を倒さないとほとんど入手できないからだ。
これは魔物を間引いて肉や皮などの資源を得ると同時に、周辺の町や村々の安全を守る事にも繋がる。
《鉱山都市グリーク》の東には《マズル砦》が建てられており、近くにある《ドルンカークの森》や、その更に奥にある森から出てくる魔物の防波堤になっている。
《マズル砦》では定期的に大規模な魔物の討伐も行われ、グリーク領の兵士達の質の向上に貢献していた。
「私もこのアリッサと共に、この付近の森に度々魔物を狩りに行っていたのだ。しかし、どうもここ最近は魔物の数も減ってきていてな……」
「そ、そうかぁ……」
何気ない風に返事していた北条だが、実はその件については心当たりがあった。
北条が召喚し、契約してる十近い魔物たちは、普段は東の《マグワイアの森》で放し飼いにされてある。
冒険者を襲わないように指示を出し、経験値を稼いで強くなるようにと命令された北条の従魔たちは、随所で魔物を狩りまくっていて、最近では更に奥の山の方まで出張っていた。
そのおかげで、この《ジャガー町》周辺で魔物を見かけることがすっかり減っていた。
「これではレベルを上げる事もままならない……そう考えて、行きついたのがダンジョンの存在だった。あそこなら魔物の数に困る事などはあるまい。そう考え、私は冒険者ギルドに赴き、冒険者登録をしてきたのだ」
これは何も特殊なケースといったものではなく、この世界では比較的よく聞く話だ。
マデリーネのように、わざわざ冒険者登録までする者は少数だが、騎士などでもダンジョンに潜って冒険者のような真似をする事がある。
レベルを上げれば強くなれるというのが、この異世界の大前提の仕組みである以上、これも当然の帰結と言える。
「しかし、その、一緒に潜る相手が見つからなくて、な。私は冒険者について詳しい訳ではないが、一人で潜るような場所ではない事は知っている」
「そりゃあ、〈ソウルダイス〉で六人までパーティーが組めるからなぁ。一人でダンジョン潜るなんて、どこぞの獅子獣人か自殺志願者位だろう」
「そうなのだ。だから、私も一緒に潜る相手を探していたのだが、声を掛けてくるのは色に満ちた下品な男や、何かを企んでるような視線をした者たちだけだ! かといって、こちらから声を掛けても首を横に振られるばかり……。これでも前衛としてそれなりに戦えるし、魔法も使えるのだぞ? だというのに……」
興奮したり、落ち込んだりと浮き沈みの激しいマデリーネを見つめる北条。
どうやらマデリーネは普段からアウラの傍に付いていたせいか、裏心を持った相手には敏感らしい。
マデリーネは、冒険者では余り使用してる者が少ない立派な金属鎧に、騎士が持っているような大き目のヒーターシールドを使用している。
そのどちらにもグリーク家の家紋が刻まれており、冒険者の中に混じったらさぞや目立つだろうなと思われた。
(というか、この家紋付けた女騎士っぽい奴相手に、そっち目的で声を掛ける冒険者もいたのか……)
「ま、まあ、その装備はちょいと目立つからなぁ。冒険者としての鉄則に、下手な事に関わりを持たない、ってのもある位だし」
「む? しかし、この装備はアウラ様より下賜された大事なものなのだ。それに装備がなければ、私は"水魔法"位でしか活躍出来ん……」
「俺がどうこう言う事ではないかもしれんがぁ、お前さんの恰好だと冒険者からは特別な目で見られるのはしゃあないな。というか、そんな事を愚痴りにわざわざここまで来たのかぁ?」
「なっ、ち、違うぞ! 私は、ただ、その……。誰か冒険者を紹介してもらうとか、お、お前たちの冒険に一緒についていかせてもらえないか、とか思って訪ねて来たのだ!」
かつてあれだけ罵倒してきた相手に、頭を下げに来たことが屈辱的なのか、マデリーネは顔を赤らめている。
といっても、半ば開き直り気味に言っているので、北条からするとマデリーネが下手に出ているという風には見えていない。
しかし、こう見えて、マデリーネは必死であった。
「だ、だから頼む! 私を、私を受け入れてくれ!」
興奮の余りか、思わず席から立ちあがって北条の両肩に手を置いて語りかけるマデリーネ。
知らず知らずの内に声も大きくなっており、離れた部屋にいたツィリルにもその声が届くほどだった。
そこに、応接室の扉が開く音が聞こえてくる。
「うわーーお! マディちゃんったら情熱的ぃぃ!!」
扉の開いた先に現れたのは、マデリーネの幼馴染であり、同じくアウラに従士として仕えていた、アリッサ・ラディスであった。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる