セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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第4章 渓谷のオアシス

第3話(1)

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 イーグルワンの機能を地上車に切り替えたシリルは、峡谷の合間を縫いながらチラリと上空を見やった。

 ――あいつが司令塔か……。

 内心で呟いて、ふと傍らを顧みる。人形のように固まっている助手席の麗人に、さりげなく声をかけた。

「大丈夫か?」

 シリルの問いかけに、美貌のヒューマノイドは無言のまま頷いた。舌を噛むからしゃべるなという指示に従っているのか、あるいはこの旅いちばんのチェイスに居竦んでしまったのか。

「乗り物酔いはしてないな?」

 再度の問いかけに、やはり無言の頷きが返ってくる。シートベルトを握りしめる指先が白くなっていることに気づいたシリルは、内心で苦笑を漏らした。

 まだ序の口なんだがな。

 思いつつ、ごく軽い調子で言った。

「もう少しの辛抱だ。すぐにカタをつける」

 シリルの言葉に、やわらかなブロンドの頭がもう一度しっかりと頷いた。
 ハンドルを握りなおしたシリルは、渓谷の出口でゆっくりとアクセルを踏みこんでいった。後方から追い縋る敵影は1機のみ。操作パネルとミラー越し、双方で距離を確認して、さらに速度を上げていった。

 大小問わず岩石が至るところに転がる悪道を、シリルは巧みなハンドル捌きで最小限の振動に抑えてイーグルワンを移動させていく。背後に迫った敵機が、わざと煽るように近づいては遠ざかり、追い越してはまた後方に下がるといった飛行を繰り返した。そして、真後ろにピタリとついた直後、イーグルワンの天井を掠めるように通過していった。
 通過直後に浴びせられたジェット噴射が、イーグルワンの機体に叩きつけられる。通常であれば、瞬く間に吹き飛ばされて地面に叩きつけられるところを、シリルは瞬時にエアカーに切り替え、強風の威力を利用して安全圏まで飛んでみせた。

 着地と同時に地上車モードでふたたび荒れ地を爆走する。フロントガラスから覗く上空を見やり、周辺の様子と双方の位置関係とを確認したシリルの口許に、笑みが浮かんだ。そのシリルの通信機が、不意に着信を告げた。
 ひどい雑音が入り乱れたそれは、正規の回線からのものではない。いままさに攻撃を仕掛けてきている、敵機からのものと思われた。ギリギリまで接近したことで、イーグルワンの通信システムのシグナルを読み取り、強引に割りこませて繋いできたものだった。

「いやあ、やっぱさすがだわ」

 途切れ途切れの音声ながらも、機内のスピーカーから悪意ある嗤笑ししょうが聞こえてきた。その声を耳にした途端、ハンドルを握るシリルの指先がピクリとふるえた。雑音にまぎれて音声は途切れがちだが、その口調、声には、たしかに聞きおぼえがあった。

「……おまえまさか、ラーザ?」
「あれえ? もしかしてひと声でわかっちゃった? やっぱ期待を裏切らないねえ」

 シリルの反応に、相手の声がひときわ喜悦の色を滲ませた。相手の正体を確信するには、それで充分だった。スピーカーから漏れる雑音が次第にひどくなる。周辺が急激に暗くなり、異様な轟音が刻一刻と大きくなっていった。それに伴い、機体が不自然に激しく揺れはじめた。
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