セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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第5章 夢を売る街

第1話(1)

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 闇の中で、だれかが嘆く声が聞こえる。なぜ、こんなことが許されるのだ、と。
 感じられるのは、深い絶望と悲しみ。
 こんなことがあってはならない。なぜ、どうしてこんなにも残酷な現実が起こりうるのか、と。

 ――陛下……、陛下。どうぞお嘆きになりませぬよう。この生命に代えて、陛下のお心の憂いを取り除いてみせることをお約束いたします。
 わたくしがお守りいたします、陛下。必ずや、この生命に代えてでも……。
 ですからどうか、お心安くお過ごしください。

 陛下――我が君……。全霊をかけて、お守り申し上げます―――






 翌朝、シリルたちは早めに身支度を調えて渓谷の水場を出発した。
 地上へは戻らず、渓谷の底部を地形に則してかなり長い時間移動する。似たような景観がつづくうえに陽の光が差しこまないこともあり、リュークの目には、ずっとおなじ場所をまわりつづけているような印象があった。しかし、操縦桿を握るシリルにいっさいの迷いはない。分岐点に差しかかる都度、地図に目を向けることもなく進路を定めていった。

「昨日の想定外の追撃は、かえって好都合だったかもしれないな」

 途中差しかかった分岐点で、狭い洞窟を選択したシリルは、漆黒の闇の中、エアカーに切り替えたイーグルワンを飛ばしながら、ごく軽い調子で言った。

「王都まで少し遠回りになるが、このルートなら完全に追っ手の目を欺ける」

 追跡班の主力部隊に関しては、イヴェールに手配させた複数のダミーでかなり情報を攪乱することができた。問題のラーザにしても、地中に潜って以降の機影を完全に見失っているため、見つけ出すことは容易ではないだろう。現在使用している地中ルートは、シリルが仕事とプライベート双方で愛機を飛ばすうち、独自に見いだしたものだった。公には知られておらず、そもそも知っていたとしても、だれもこんな危険な場所を飛ぼうなどとは思わない。操縦技術に自信のある者でも、まず間違いなく後込しりごみをする。シリルが飛んでいるのは、そういう場所だった。飛ばすとすれば、せいぜい無人の小型探査機くらいなものか。砂嵐の中に飛びこんで、そのまま谷底に身を隠したことで、一般には未開のルートを選択できたのは、むしろ僥倖だった。当面、身を隠したまま移動できるし、追っ手を気にする必要もない。もうしばらく進んだ先で峡谷を抜けて地上に出ることになるが、前日取っていた経路とはまったく異なる方角となるため、足がつくまでに、そこそこの猶予が期待できそうだった。
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