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第5章 夢を売る街
第3話(2)
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「キュプロスやミスリルとは、だいぶ雰囲気が違うだろう」
緊張がゆるんだタイミングを見計らって声をかけると、リュークはシリルを顧みて頷いた。
「ここは、街全体が娯楽施設になってるからな。アトラクションにカジノに遊戯場。観劇もできるし、あらゆるリゾート気分も味わえる。皆、日常と切り離された世界で羽を伸ばすことを目的に訪れているから、俺たちみたいに、ただ通りすがっただけってほうが珍しいだろうな」
特別な祭りではなく、毎日が来訪者のための祭りなのだ。先の質問に対してシリルがそう答えを返すと、リュークはお伽の国のような、全体に華美な装飾が施された色とりどりの建物の様子や極端にデフォルメされた大袈裟なデザインの看板が立ち並ぶ店構えをじっくりと眺めた。人々の服装も個性的で趣向を凝らしたものが多く、客はもちろんのこと、働く店員の姿も、その店のテーマに合わせた制服やキャラクターの仮装をするなどして、非日常の世界を盛大に演出していた。
家族連れやカップルの姿がとくに目につく中、しばしそれらに目を向けていたクリスタルの双眸が、不意に傍らの男を盗み見た。
リュークにとって、ヒューマノイドである自分がこういう場にそぐわないことは充分わかる。だが、その自分を連れ歩く男もまた、馴染まない空気を身に纏っていた。
気づいた男が振り返る。
「気になる場所があるなら付き合うぞ」
乗ってみたいものや入ってみたい場所があるなら遠慮しなくていい。リュークが抱いた思いに気づかぬまま、シリルは気軽な調子で言った。緊張を強いられる、追われる身だからこそ、気晴らしは必要である。その前提でうながしたのだが、外の世界で直面する殆どがはじめての体験になるリュークには、市場での買い物時同様、難易度の高い提案に感じられた。
「悪いな。市場のときみたいに、ある程度助言してやれるとよかったんだが、こういうところは俺も不案内で、リードしてやるのが難しい」
苦笑まじりに肩を竦めたシリルの顔を、宝石のように澄んだ双眸が不思議そうにじっと視つめた。
「どうした? なんか変か?」
「地図にも載っていない地中のルートに精通している人に、不案内な場所があるというのが不思議でした」
「そりゃ仕事柄あちこち行くことも多いが、さすがにこういう娯楽都市とは縁がないからな」
「プライベートでいらっしゃることもないのですか?」
あまりに率直に訊かれて、シリルのほうが気恥ずかしさをおぼえた。
「プライベートなら、なおのことないな。賭けごとには興味がないし、それ以外にはもっと興味がない」
「子供のころに、ご家族といらしたことは?」
「そうだな。そのころにはもっと縁がなかった」
答えたシリルは、なんでもないことのように付け加えた。
「孤児院育ちのガキに、こういう場所は贅沢すぎたからな」
言葉の意味を理解した途端、シリルを見つめるリュークの表情が微妙に変化した。
「……すみません。私はひょっとして、とても無神経な質問をしていたでしょうか」
途端にシリルは低く笑った。
ぱっと見には、その表面は無表情で覆われている。言葉つきにもまるで抑揚がない。だが、感情がどこにも見当たらない言動の奥で、妙に細やかな心配りをしていることが可笑しかった。
緊張がゆるんだタイミングを見計らって声をかけると、リュークはシリルを顧みて頷いた。
「ここは、街全体が娯楽施設になってるからな。アトラクションにカジノに遊戯場。観劇もできるし、あらゆるリゾート気分も味わえる。皆、日常と切り離された世界で羽を伸ばすことを目的に訪れているから、俺たちみたいに、ただ通りすがっただけってほうが珍しいだろうな」
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家族連れやカップルの姿がとくに目につく中、しばしそれらに目を向けていたクリスタルの双眸が、不意に傍らの男を盗み見た。
リュークにとって、ヒューマノイドである自分がこういう場にそぐわないことは充分わかる。だが、その自分を連れ歩く男もまた、馴染まない空気を身に纏っていた。
気づいた男が振り返る。
「気になる場所があるなら付き合うぞ」
乗ってみたいものや入ってみたい場所があるなら遠慮しなくていい。リュークが抱いた思いに気づかぬまま、シリルは気軽な調子で言った。緊張を強いられる、追われる身だからこそ、気晴らしは必要である。その前提でうながしたのだが、外の世界で直面する殆どがはじめての体験になるリュークには、市場での買い物時同様、難易度の高い提案に感じられた。
「悪いな。市場のときみたいに、ある程度助言してやれるとよかったんだが、こういうところは俺も不案内で、リードしてやるのが難しい」
苦笑まじりに肩を竦めたシリルの顔を、宝石のように澄んだ双眸が不思議そうにじっと視つめた。
「どうした? なんか変か?」
「地図にも載っていない地中のルートに精通している人に、不案内な場所があるというのが不思議でした」
「そりゃ仕事柄あちこち行くことも多いが、さすがにこういう娯楽都市とは縁がないからな」
「プライベートでいらっしゃることもないのですか?」
あまりに率直に訊かれて、シリルのほうが気恥ずかしさをおぼえた。
「プライベートなら、なおのことないな。賭けごとには興味がないし、それ以外にはもっと興味がない」
「子供のころに、ご家族といらしたことは?」
「そうだな。そのころにはもっと縁がなかった」
答えたシリルは、なんでもないことのように付け加えた。
「孤児院育ちのガキに、こういう場所は贅沢すぎたからな」
言葉の意味を理解した途端、シリルを見つめるリュークの表情が微妙に変化した。
「……すみません。私はひょっとして、とても無神経な質問をしていたでしょうか」
途端にシリルは低く笑った。
ぱっと見には、その表面は無表情で覆われている。言葉つきにもまるで抑揚がない。だが、感情がどこにも見当たらない言動の奥で、妙に細やかな心配りをしていることが可笑しかった。
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