セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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第6章 変化

第2話(2)

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 はじめは内容自体がぼんやりとして形を成さず、掴みどころのない印象しか残らなかった。夢を見ているという自覚すらなく、目覚めた直後から理由もわからぬまま気が滅入る。ただそれだけのことだった。否、心に蓋をしていた旅のはじめは、気持ちが沈んでいることにさえ自分で気づいていなかった。だが、シリルと行動をともにし、さまざまな経験を通じて少しずつ心を開き、その心そのもので『感じる』経験を積み重ねていくにしたがい、リュークの見る夢は、次第に明確に、くっきりと記憶の中に刻まれるようになっていった。
 いい内容ではない。リューク自身が知らぬ、遺伝子保有者オリジナルの過去。その人物が実際に生き、経験した出来事に関する内容だった。

 いつも、追いつめられていた。いつも激しい焦燥に駆られ、不甲斐ない己に憤り、苦しみ、もがき、必死で結果を出そうと追いこまれていた。


 ――早く……早くしなければ。なぜだ、どうしてできないっ。時間がない。力が足りない。自分はなんと非力で、そして無能なのか。
 耐えられない。こんなことは許されない。不甲斐ない。口惜しい。いっそこの生命と引き換えにすることができたなら――


 厳しく己を責め立て、怒り、苦悶し、絶望する日々。それでも諦めきれず、もがいてもがいて懸命に足掻きつづけ、身を粉にし、文字通り生命を削っていった。


 ――お助けしなければ。なんとしてもお救いしなければ。王家の血の呪いを必ず断ち切らなければ……っ!。


 悲痛な思いはリュークの心を日増しに圧迫し、夢から覚めて以降の精神状態に影響を及ぼすようになっていった。
 淡々とした無表情の内側に伏せられた重苦しい余韻。最初はシリルも、その微妙な変化がわからなかった。関わりを持つようになってからの時間が浅く、互いへの理解もないところからスタートしている。リュークの心にも分厚い覆いがあり、それこそ環境の激変や怪我という要因もあった。もともと口数も少ないうえに表情にも乏しい。それでも時折、体調が悪いのか、あるいは機嫌が悪いのかと感じる瞬間があった。だが、本人に尋ねても、なんでもないと言う。リューク自身がわかっていなかったのだから、そう答えるのも無理もないことだった。

 旅がスタートしてまもなく2週間。
 リュークがようやく夢の話を口にしたのは、ほんの数日まえのことだった。
 一般に人が見る夢というのはどういうものなのか。自分の経験に基づかない出来事でも、繰り返しおなじ内容が再生されることはあるのか。そしてその内容は、再生の回数を重ねるごとに明確に、詳細になっていくものなのか。

 どういうことかと、くわしく事情を尋ねたシリルに、リュークは夢を見るのだと言った。あきらかに自分のものではない過去を、繰り返し、毎夜、夢に見る、と。
 最初は目覚めるとともに内容それ自体も薄らぎ、記憶に残らなかった。そのため、感じとることができたのは印象だけだった。それが日を追うごと、回を重ねるごとに色濃く、重くのしかかってくるようになった。次第に目覚めてからも夢のあらましが記憶の片隅に残るようになり、それはやがて、細部までくっきりと思い起こすことができるまでになっていった。
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