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第8章 急襲
第2話(2)
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「リューク」
これ以上ないほど真剣な顔で自分の腹部に丁寧に新しい包帯を巻いていくリュークを見下ろしながら、シリルは呼びかけた。巻きかたがきつすぎたかと問いかけてくるクリスタル・ブルーの目を、そうではないと覗きこむ。
「おまえさ、笑えよ」
言われたことが意外だったのか、そのまま動きが静止した。
「せっかく感情が顔に出るようになってきたんだから、心配だったり不安そうだったりとかじゃなくて、そのうち自然に笑えるようになれ。気に入らないことがあれば、怒ったっていい」
じっとシリルの目を見返していた美貌のヒューマノイドは、やがて目線を落とすと作業を再開した。
「さっき、とても怖い夢を見ました」
短い沈黙の末、囁くような声がポツリと呟いた。
「またユリウスに、悩まされたか?」
尋ねたシリルに、俯いた黄金の頭が無言でかぶりを振った。幼い子供のような仕種。
「……あなたが、いないんです」
下を向いたまま、リュークは囁いた。
「一緒に花火を観ていたはずなのに、気がついたらあなたがどこにもいなくて、それで、それから……」
言葉を途切れさせたまま、つづきが出てこない。巻き終わった包帯を止める指先が、かすかに顫えた。
おそらくリュークは、夢の中でシリルの『死』を経験したのだろう。己が『機能を停止する』ことに関して、あれほど冷静で無関心だったヒューマノイドが取り乱し、激しく動揺するほどの恐怖。意識を失ったシリルと機内にたったふたり取り残されたことで、その恐怖が増幅され、己を『人間』ではないものと認識していたリュークは、生命が失われることの本当の意味を知ることとなった。
「目が覚めたら、本当に俺がいなくて驚いたか?」
かわりに、別の言葉でその気持ちを受け継いだシリルの問いかけに、リュークはやはり俯いたまま頷いた。
「テーマパーク中を、捜したんです。アクアリウム、劇場、レストラン、ホテル、ミラーハウス、観覧車。でも、どうしても見つけられなくて……」
「なんだ、そんなにあちこち捜しまわってくれたのか」
声を立てずに笑うシリルの目の前で、黄金の頭がふたたびこっくりと頷いた。そのタイミングで、水滴がポツリと落ちた。シリルは黙ってその頭を自分の肩口に引き寄せた。華奢な骨格の背中に、腕をまわす。
「でかい赤ん坊だな。おまえ、添い寝癖がついたんじゃないのか? そのうち独りでも寝られるように、等身大の抱き枕でも買うか」
シリルの冗談にも、リュークは答えなかった。
「リューク、笑えよ」
シリルはやわらかな黄金の髪を掻き交ぜた。
「俺はちゃんと傍にいる。おまえを置いて、どこにも行ったりはしない」
肩口に顔を埋める黄金の頭に自分の頭を寄せながら、シリルは言った。
「王都に行って、それからどうなるのかはまだわからねえ。けど、おまえが呼べば、俺はいつだってイーグル飛ばして会いに行ってやるよ」
「――いつでも、会いに?」
「これでも名の知れた運び屋だからな。アフターケアも万全だぞ? 特別大サービスだ」
シリルの首に、腕がまわされる。リュークは自分からも身を寄せると、先程とおなじようにしっかりとシリルにしがみついた。本当に大きな赤ん坊だと、シリルの口から苦笑が漏れる。ユリウスによって夜ごと植えつけられていく絶望の深さにリンクした死の概念は、真っ白なその心に、よほど強烈な恐怖の傷跡を残したのだろう。
「いろんなことが落ち着いたら、そのうちにまた、花火を観にいくか?」
シリルの問いかけに、ずっと伏せられていた顔がようやく上がった。すぐ間近で自分を見上げるクリスタル・ブルーの双眸を、シリルは見返して笑った。
「おまえ、花火好きだろ?」
オマケで綿菓子もつけてやる。リュークはふたたびしっかりとシリルに抱きつくと、その肩口で「はい」と答えた。
これ以上ないほど真剣な顔で自分の腹部に丁寧に新しい包帯を巻いていくリュークを見下ろしながら、シリルは呼びかけた。巻きかたがきつすぎたかと問いかけてくるクリスタル・ブルーの目を、そうではないと覗きこむ。
「おまえさ、笑えよ」
言われたことが意外だったのか、そのまま動きが静止した。
「せっかく感情が顔に出るようになってきたんだから、心配だったり不安そうだったりとかじゃなくて、そのうち自然に笑えるようになれ。気に入らないことがあれば、怒ったっていい」
じっとシリルの目を見返していた美貌のヒューマノイドは、やがて目線を落とすと作業を再開した。
「さっき、とても怖い夢を見ました」
短い沈黙の末、囁くような声がポツリと呟いた。
「またユリウスに、悩まされたか?」
尋ねたシリルに、俯いた黄金の頭が無言でかぶりを振った。幼い子供のような仕種。
「……あなたが、いないんです」
下を向いたまま、リュークは囁いた。
「一緒に花火を観ていたはずなのに、気がついたらあなたがどこにもいなくて、それで、それから……」
言葉を途切れさせたまま、つづきが出てこない。巻き終わった包帯を止める指先が、かすかに顫えた。
おそらくリュークは、夢の中でシリルの『死』を経験したのだろう。己が『機能を停止する』ことに関して、あれほど冷静で無関心だったヒューマノイドが取り乱し、激しく動揺するほどの恐怖。意識を失ったシリルと機内にたったふたり取り残されたことで、その恐怖が増幅され、己を『人間』ではないものと認識していたリュークは、生命が失われることの本当の意味を知ることとなった。
「目が覚めたら、本当に俺がいなくて驚いたか?」
かわりに、別の言葉でその気持ちを受け継いだシリルの問いかけに、リュークはやはり俯いたまま頷いた。
「テーマパーク中を、捜したんです。アクアリウム、劇場、レストラン、ホテル、ミラーハウス、観覧車。でも、どうしても見つけられなくて……」
「なんだ、そんなにあちこち捜しまわってくれたのか」
声を立てずに笑うシリルの目の前で、黄金の頭がふたたびこっくりと頷いた。そのタイミングで、水滴がポツリと落ちた。シリルは黙ってその頭を自分の肩口に引き寄せた。華奢な骨格の背中に、腕をまわす。
「でかい赤ん坊だな。おまえ、添い寝癖がついたんじゃないのか? そのうち独りでも寝られるように、等身大の抱き枕でも買うか」
シリルの冗談にも、リュークは答えなかった。
「リューク、笑えよ」
シリルはやわらかな黄金の髪を掻き交ぜた。
「俺はちゃんと傍にいる。おまえを置いて、どこにも行ったりはしない」
肩口に顔を埋める黄金の頭に自分の頭を寄せながら、シリルは言った。
「王都に行って、それからどうなるのかはまだわからねえ。けど、おまえが呼べば、俺はいつだってイーグル飛ばして会いに行ってやるよ」
「――いつでも、会いに?」
「これでも名の知れた運び屋だからな。アフターケアも万全だぞ? 特別大サービスだ」
シリルの首に、腕がまわされる。リュークは自分からも身を寄せると、先程とおなじようにしっかりとシリルにしがみついた。本当に大きな赤ん坊だと、シリルの口から苦笑が漏れる。ユリウスによって夜ごと植えつけられていく絶望の深さにリンクした死の概念は、真っ白なその心に、よほど強烈な恐怖の傷跡を残したのだろう。
「いろんなことが落ち着いたら、そのうちにまた、花火を観にいくか?」
シリルの問いかけに、ずっと伏せられていた顔がようやく上がった。すぐ間近で自分を見上げるクリスタル・ブルーの双眸を、シリルは見返して笑った。
「おまえ、花火好きだろ?」
オマケで綿菓子もつけてやる。リュークはふたたびしっかりとシリルに抱きつくと、その肩口で「はい」と答えた。
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