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第9章 奪還
第2話(2)
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「よーし、しばらく歯ァくいしばっとけ。じゃねえと舌噛むぞっ」
「えええええ~~~~~っっっ!!?」
マティアスが状況を理解するより早く、シリルは握った操縦桿をガッチリと掴みなおし、滑空態勢に入った。
こんな状況だというのに、その口許にはじつに愉しげな笑みさえ浮かんでいる。エンジンが切られた機体は、一気に地上めがけて降下しはじめた。エアブレーキで失速させた挙げ句の操縦不能による墜落どころの話ではなかった。
「ひっ、ひぇえぇぇぇえええぇぇ~~~~~っっっっっ!!」
マティアスの口から、人のものとも思えぬ悲鳴が迸った。
強いGが全身にかかるなどという甘いものではない。体内におさまっている内臓が、すべて口から溢れて零れ落ちていきそうなありさまだった。テーマパークの絶叫系アトラクションといえば聞こえはいいが、あれらはすべて、敷かれているレールが目で確認できて、この次に上るのか落ちるのか、あるいは回転するのかがわかるだけ遙かにマシだった。
いまのこの状態は、『目隠ししたまま崖っぷちを全力疾走する』よりなお悪い、終わりの見えない奈落に突き落とされたかのような空前の恐怖だった。
恐ろしすぎるがゆえに、かえって目を瞑ることができない。そのマティアスの目に、眼前に迫る戦闘機の機体が飛びこんできた。
「ひっ、ひぃいぃぃぃっっっぶつかるぅうぅぅぅうううっっっ!!」
コンマ数秒。それだけの時間さえあれば確実につっこんで双方空中分解する。そんな状況。だが、シリルはほんのわずかな角度調整でブラック・バードの機首を見事に反すと、その難局をあっさりと躱した。その躱した先に、今度は編隊を組んだ3機が迫る。
「はわっ、はわわわわっ、もっもももっ、もうダメだぁあぁぁぁっっっ!! 死ぬっ死ぬっ死ぬぅうぅぅうっっ!!!」
「うるせぇな! 少し黙ってらんねえのかよっ」
機内に響きわたる絶叫に、シリルは眉間の皺を深くした。
言う間にも迫る機体は、いずれもかなり密着している。その片方を瞬時に選択したシリルは、素早く操縦桿を引いて横に倒し、ブラック・バードの機体を横転させてそのあいだを摺り抜けた。
別の場所から獲物を追いかけ、あるいは狙っていた敵機がシリルのその飛行についていけず、味方につっこみ、そのおなじタイミングで発射されたミサイルが、さらなる大爆発を巻き起こした。
ブラック・バードのエンジンをかけなおしたシリルは、直後にアフターバーナーを全開にしてその機首を一気に引き上げ、落ちた高度をふたたび盛り返した。
「ぐえぇえぇぇっ」
マティアスの口から、今度は潰れたヒキガエルのような声が漏れた。
マティアス以上に重傷を負っておきながら、この集中力。そのうえ、これほどの耐圧さえものともしない操縦技術。ミスリルで、ひょろい青二才と侮って自分の絡んだ相手がどういう人物だったのかを、荒くれ者で鳴らした巨漢は身をもって思い知らされることとなった。
一気に高度を上げたブラック・バードは、そのまま中空で大旋回すると、ようやくめまぐるしく変わっていた天地が安定し、落ち着いて座っていられるようになった。わずかに息をついたマティアスを、黒い瞳が操縦席からチラリと見やった。
「安心するのはまだ早ぇぞ」
あくまでも飄々とした物言いに、マティアスはふたたびギクリとその身を硬張らせた。
飛行速度はリミッターをはずすまえの、通常飛行レベルまで落としているものの、獰猛な肉食獣を思わせるその顔つきを見るかぎり、なにか意図するところがあっての速度調整であることは間違いなかった。
「ラスト5機。地上にいる奴らも、まとめてカタしとくか」
シリルはニヤリと口唇の端を吊り上げた。悪い予感しかしない。マティアスが内心で慄え上がったとしても、無理からぬことであろう。そして実際、そこから先のバトルは、マティアスの想像を絶する凄まじい激闘となった。
「えええええ~~~~~っっっ!!?」
マティアスが状況を理解するより早く、シリルは握った操縦桿をガッチリと掴みなおし、滑空態勢に入った。
こんな状況だというのに、その口許にはじつに愉しげな笑みさえ浮かんでいる。エンジンが切られた機体は、一気に地上めがけて降下しはじめた。エアブレーキで失速させた挙げ句の操縦不能による墜落どころの話ではなかった。
「ひっ、ひぇえぇぇぇえええぇぇ~~~~~っっっっっ!!」
マティアスの口から、人のものとも思えぬ悲鳴が迸った。
強いGが全身にかかるなどという甘いものではない。体内におさまっている内臓が、すべて口から溢れて零れ落ちていきそうなありさまだった。テーマパークの絶叫系アトラクションといえば聞こえはいいが、あれらはすべて、敷かれているレールが目で確認できて、この次に上るのか落ちるのか、あるいは回転するのかがわかるだけ遙かにマシだった。
いまのこの状態は、『目隠ししたまま崖っぷちを全力疾走する』よりなお悪い、終わりの見えない奈落に突き落とされたかのような空前の恐怖だった。
恐ろしすぎるがゆえに、かえって目を瞑ることができない。そのマティアスの目に、眼前に迫る戦闘機の機体が飛びこんできた。
「ひっ、ひぃいぃぃぃっっっぶつかるぅうぅぅぅうううっっっ!!」
コンマ数秒。それだけの時間さえあれば確実につっこんで双方空中分解する。そんな状況。だが、シリルはほんのわずかな角度調整でブラック・バードの機首を見事に反すと、その難局をあっさりと躱した。その躱した先に、今度は編隊を組んだ3機が迫る。
「はわっ、はわわわわっ、もっもももっ、もうダメだぁあぁぁぁっっっ!! 死ぬっ死ぬっ死ぬぅうぅぅうっっ!!!」
「うるせぇな! 少し黙ってらんねえのかよっ」
機内に響きわたる絶叫に、シリルは眉間の皺を深くした。
言う間にも迫る機体は、いずれもかなり密着している。その片方を瞬時に選択したシリルは、素早く操縦桿を引いて横に倒し、ブラック・バードの機体を横転させてそのあいだを摺り抜けた。
別の場所から獲物を追いかけ、あるいは狙っていた敵機がシリルのその飛行についていけず、味方につっこみ、そのおなじタイミングで発射されたミサイルが、さらなる大爆発を巻き起こした。
ブラック・バードのエンジンをかけなおしたシリルは、直後にアフターバーナーを全開にしてその機首を一気に引き上げ、落ちた高度をふたたび盛り返した。
「ぐえぇえぇぇっ」
マティアスの口から、今度は潰れたヒキガエルのような声が漏れた。
マティアス以上に重傷を負っておきながら、この集中力。そのうえ、これほどの耐圧さえものともしない操縦技術。ミスリルで、ひょろい青二才と侮って自分の絡んだ相手がどういう人物だったのかを、荒くれ者で鳴らした巨漢は身をもって思い知らされることとなった。
一気に高度を上げたブラック・バードは、そのまま中空で大旋回すると、ようやくめまぐるしく変わっていた天地が安定し、落ち着いて座っていられるようになった。わずかに息をついたマティアスを、黒い瞳が操縦席からチラリと見やった。
「安心するのはまだ早ぇぞ」
あくまでも飄々とした物言いに、マティアスはふたたびギクリとその身を硬張らせた。
飛行速度はリミッターをはずすまえの、通常飛行レベルまで落としているものの、獰猛な肉食獣を思わせるその顔つきを見るかぎり、なにか意図するところがあっての速度調整であることは間違いなかった。
「ラスト5機。地上にいる奴らも、まとめてカタしとくか」
シリルはニヤリと口唇の端を吊り上げた。悪い予感しかしない。マティアスが内心で慄え上がったとしても、無理からぬことであろう。そして実際、そこから先のバトルは、マティアスの想像を絶する凄まじい激闘となった。
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