セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

文字の大きさ
111 / 161
第10章 秘密

第3話(1)

しおりを挟む
 王都が間近に迫ったところで、シリルは解除していたブラック・バードの安全装置リミッターを作動させた。計器類の表示が立ち上がり、ひととおりの機能が使えるようになる。

「通信、借りるぞ」

 助手席のマティアスに短く言うなり、シリルは回線を繋いだ。
 時刻は明け方。午前5時前。だが相手は、シリルの呼び出しに即座に応じた。

「ご無事ですか?」

 画面上に姿を現したイヴェールに、寝ていた気配は見当たらなかった。

「まあな。ところで、マティアスから例の話を聞いた。事実か?」

 単刀直入に用件を切り出したシリルに、イヴェールはすべてを承知しているように即答した。

「事実です。もちろん私が知るかぎりにおいて、ではありますが」
「……それでおまえは、それをどう見る?」

 シリルの問いかけに、黄色い丸眼鏡の奥に表情を隠した情報屋は淡然と応えた。

「あなたが推察しているとおりかと」

 シリルは無言で奥歯を噛みしめた。
 ローレンシア陸軍王室師団所属の近衛兵。先王の信任厚かったノエラ・チェンバレン准尉は、26年前、その先王じきじきによるある密命を受けて部隊から姿を消したという。

『そういや兄ィ、イヴェールの旦那が妙なこと言ってましたぜ』

 マティアスがそう切り出したのは、襲撃のおそれが完全になくなった頃合いを見てのことだった。
 先王イアン・アルフレッドには、隠し子の噂があった、と。
 その噂を知る者自体、殆どいない。だが、先王の身辺に、一時期おかしな動きがあったことは否めなかったという。

 女性ながら若くして王室師団に所属し、准尉という地位にあったノエラ・チェンバレン。その彼女があるとき、単身、王の許に呼ばれた。公務をおこなう時間帯ではなく、呼ばれた場所も、王の私室であったという。人払いがされたその部屋で、しばしの時が経過した後に退室した彼女は、その翌日、陸軍に辞表を提出して姿を消した。

 国王の寵を受けた女性士官が、子を身籠もった事実が発覚することを怖れて軍を辞した。

 王室師団の中では、そんな噂もまことしやかに流れた時期があった。しかし、聖人君子として知られる国王の艶聞は長くはつづかず、ほどなく立ち消えとなった。噂される女性士官の、軍を辞するタイミングが召された翌日ということで、妊娠説と合わなかったことも要因のひとつといえる。
 だが、軍除隊後、王都から姿を消したノエラに、ある人物との長期間にわたる接触の形跡が見られることが判明した。それが、ユリウス・グライナーだった。イヴェールがマティアスに言づてしたのは、そのことだった。

 ノエラの情報からユリウスにたどり着いたのではない。シリルがリュークに関する情報の詳細について探りを入れさせたことでユリウスの名前が浮上し、その中にノエラの情報も絡んできた。ついで、そのノエラから芋づる式に王室師団にいた経歴と噂とが引き上げられ、関係者の中にシリルの名前も挙がってきた、という次第だった。なにより、軍を辞したはずのノエラは、14年後の死亡時に『殉職』の扱いを受けていた。

「――どこでにたどり着いた?」

 尋ねたシリルに、イヴェールは変わらず、淡然とした口調のまま抑揚のない声で答えた。

「あなたのリングに、例の石を細工したのは私ですから」

 依頼を受け、細工を施した時点でその真価がわからぬはずもない。と同時にそれは、一連の情報からひとつの結論を導き出すのに、なんら不足のない値打ちを有していた。つまりは、そういうことだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...