【完結】ゲーム転生、死んだ彼女がそこにいた〜死亡フラグから救えるのは俺しかいない〜

たけのこ

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第7話 店を潰さないために

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 雑草だらけの荒れ地に立つ俺は、魔法辞典を片手に、ゆっくりと魔法陣を空中に描いていった。
 白く光る指から描かれる線は、灰色に輝いている。
 二重に描いた線の中に、本にある通りの不思議な文字を記していった。
 魔法陣の図柄が完成した瞬間、空中を漂う灰色の文字が電気を灯したかのように明るくなった。

「ブロック!」
 すかさず魔法を出現させる詠唱を、本の通りに行った。

 すると、地面の上に一メートル四方の大きな箱のようなものが現れた。

 これは、なんだろうか。

 魔法辞典に書かれている、わずかな説明文にもう一度目を通した。

『ブロック:攻撃、防御ともにすぐれている。魔法陣自体は複雑なものではないため、初歩的な魔法に分類されるが、ブロックの扱いは難しく、自在に操るためには熟練の技が必要である』

 攻撃、防御ともに優れている?
 この四角い箱で、攻撃ができるのか?
 だいたい、この箱は動くのか?

 そう思いながら俺は目の前に現れた箱を指差し、前に向かって振った。
 すると箱が勢いよく前方へと飛び出していった。
 このままでは荒れ地の向こうに立つ家に激突してしまう。
 瞬時にそう判断した俺は、慌てて前へと向けた人差し指を自分の顔に向けて戻してみた。

 わっ!

 指の向きに合わせて、大きな四角い箱が俺の顔面めがけて一直線に戻ってきた。

 やばい。自分の出した魔法の箱で、自分の顔面が叩き潰されてしまう。この勢いからすれば、怪我だけでは済まない。
 逃れる方法はないのか?

 迫りくる四角い箱を避けるため、俺は地面に両手をつき、体を地に伏せてみた。
 考える暇が無かったため、とりあえずそうしたのだった。
 すると、こちらに突き進んできた箱が、ピタッと止まり、地面に落ちた。

 なぜか、俺が伏せると、箱も地面に落ちた。

 動きが箱に関係しているようだったが、細かい操作方法などは全くわからない。ただ、なんとかこの箱に自分自身が激突しなくて良かったと思うばかりだった。

 しばらく地面に伏せていた俺は、気持ちの落ち着きを取り戻したところで、そっとその場から立ち上がった。
 前に落ちたはずの四角い箱は、すでに消えていた。俺が描いた魔法陣も無くなっていた。

 時間が経てば、魔法は自動的に消えるということか。

 今回、魔法を試して、はっきりとしたことがある。
 それは、ゴブリンの俺が、なぜか魔法を使うことができるということだ。ゴブリンにもかかわらずだ。
 ミルの足を治す時、いきなり回復魔法が使えた。今回は初めて試した魔法陣でブロックが使えてしまった。

 ハッピーロードでは、魔法を使うゴブリンなど、まったく登場しなかった。ゴブリンはゲーム初期のイベントにのみ現れる弱小モンスターだった。冒険者たちのレベルと経験値を上げるためだけに存在するモブキャラなのだ。
 そのゴブリンである俺が、なぜか魔法が使えるモンスターになっている。
 どうして魔法が使えるかは分からないが、俺がただのモブキャラではないことだけは確かだ。
 いったいどういうことだろう。
 考えても、今は答えなど出なかった。

  ※ ※ ※

 翌日、俺は目が覚めると同時にベッドから飛び起きた。日本にいる時なら、まだ眠っていたいとベッドの中でグズグズしているのだが、今日は違った。
 昨日の夜、眠る前にずっと料理のことを考えていると、とっておきのアイディアが浮かんできたのだ。そして、そのアイディアを、今朝さっそく試してみたくなったのだ。

 これが成功すると、料理屋『エルフィン』が潰れることはない。
 アデレードさんのホッとした顔や、ミルの元気に走り回る姿が目に浮かんでくる。

 俺が考えついたとっておきのアイディアとは、エルフィンの新メニューを開発することだった。
 これでも俺は料理専門学校を卒業している。料理の基礎は学んでいるし、自分の味覚にも自信はある。
 昨日読んだ料理本から判断すると、この世界の料理は、俺がいた世界と比べてまだまだ未熟なものばかりだ。
 元の世界で流行っている料理を作れば、きっとこの世界の人たちも美味しいと受け入れてくれるに違いない。そんな料理を提供すれば、エルフィンはお客の集まる大繁盛店になるに違いない。きっと行列を作ってお客さんが押し寄せてくるだろう。

 具体的なメニューも思いついている。
 専門学校時代、俺はイタリア料理を専攻していた。
 将来、美味しいイタリアンの店を出すことが夢だったのだ。
 イタリアンといえば、この料理を外すわけにはいかない。
 日本人の誰もが好んで食べるイタリア料理といえば。

 俺の頭の中にくっきりとその料理の映像が浮かんできている。
 丸いお皿に濃いオレンジ色をした麺が盛られている。

 そう、俺が頭に描いている料理は、イタリアの代表的な麺料理、パスタだった。いや、もっと具体的に言えば、パスタを日本流にアレンジしたスパゲッティーだ。
 この料理なら、老若男女問わず誰もが喜んでもらえるに違いないはずだ。
 オレンジに輝くスパゲッティーを想像しただけで、アデレードやミル、そして店に来てくれるすべてのお客さんの明るい笑顔が浮かんできた。
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