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第11話 借金返済のために
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借金取りのアザドには、このまま死んでもらおう。
さっさと、死体を処分する方法を考えよう。
そう考えていた時だった。
なぜだか分からないが、頭の中が嫌な感覚でいっぱいになってきた。
このまま、この男を殺してしまうのは、良くないのでは。そんな気がしてきたのだ。
俺は頭の中に浮かんでいるヒールのコマンドに向かい、『はい』と念じた。
すると、右手が白く輝き始めた。とても心地の良い光を発している。
その手をアザドの頭部に近づけた。
頭全体が白い光に包まれると、不思議なことが起こった。
ビデオを巻き戻しているかのように、血の海がみるみる小さくなってきたのだ。アザドの体の中に、流れ出ていた血液が吸い込まれていくように見える。
全く動く気配のなかったアザドだったが、やがてその手が小刻みに震えてきた。首を動かし、頭の方向が変わった。
顔面にあった大きな傷口は完全に塞がっていた。
「うう」
小さくうめき声をあげながら、アザドはゆっくりと目を開いた。
「俺は、まだ生きているのか?」
アザドは上半身を起こすと、周囲を見渡しそう言った。
俺はすぐさま床に落ちているアザドの斧を持ち身構えた。この男が、もう一度襲ってくるのではと思ったのだ。
だが、アザドはおとなしくその場に座り続けた。そして、ゆっくりと立ち上がるとこう言った。
「俺は、お前に助けられたのか」
返事をせず、アザドの様子を伺っていた。
「俺にはまだ、死ぬわけにはいかない事情があるんだ。だからとりあえず礼は言っておく」
そう述べたアザドは、目をつぶりながら深く頭を下げたのだった。
俺は、アザドの言葉が気になった。
「死ねない事情とは、どういうことだ?」
「お前には関係のないことだ」
そう言われると余計に気になってしまう。
「関係ないことはない。俺はあんたを殺しかけた男だ。場合によっては今後も殺してしまう可能性だってある。なので、そうなった時のために、死ねない事情を教えておいてほしい」
「言う必要はない」
アザドは短くそう答えるのみだった。
ここまで言われると、それ以上詮索する必要もない。そんなことよりも気になるのは、この男をこれからどうするかということだ。このまま、無罪放免にするなら、また店を潰しにくるだけだろうし、いったいどうすればいいのだろうか。
「俺はあんたを助けたが、また店を潰しにきたら、今度は本当に殺すかもしれない。俺はできれば、そんなことをしたくないと思っているのだが、あんたはどうなんだ? 死ねない事情があるのだったら、もう二度とこの店には関わらないと誓ってくれないか」
「お前の言っていることはよく分かる。しかし……」
「しかし、どうなんだ?」
「俺はクロー様に雇われている身だ。クロー様の命令には絶対に従わなければならないのだ」
つまり、金貸しクローの気分次第で、この男はまた店を潰しにくるというわけだ。
ただ、俺はこう思った。
アザドは、この場を取り繕うためだけに、もう二度と店は襲わないと、適当なことも言えたわけだ。しかし、アザドは、そうしなかった。また、この店を襲う可能性があると、本当のことを述べてきたのだ。そんなアザドの言動を考えると、この男が単なる悪党には見えなくなってきた。
アザドとやり取りをしている時、ミルの姿が目に入った。アデレードさんのスラッと長い足に隠れながらこちらを見ている。
きっと、アザドのことが怖いのだろう。アデレードさんにしても、一切声を出すことなく、固まってしまっている。
早くこの男を店から追い出したほうが良さそうだ。この男をここで殺してしまっても、クローは逃げてしまっているので、また別の刺客を送ってくるだけなのだ。
「さあ、もうここから出ていってくれないか。そして、できることならもう二度と俺たちの前に姿を見せないでくれ」
「ああ」
アザドは短く返事をすると、アデレードさんへと顔を向けた。次に、破壊した作業台を見ながらこう言った。
「店の大切なものを壊してしまい、申し訳なかった」
アデレードさんは、その言葉に小さく頷いた。ミルも真似をして、一緒に頷いている。
その姿を見たアザドは、くるりと背を向け、店の出口へと向かった。
俺はずっとアザドの斧を持ったまま、彼が完全に店から出ていくまで、緊張を解くことなく凝視し続けた。
アザドが出ていき、1分ほど様子をうかがっていたが、何も起こることはなかった。
「もう大丈夫です」
俺はアデレードさんとミルに向かってそう声をかけた。
その言葉を聞いたミルが、駆け寄ってきたかと思うと、俺の足に抱きついてきた。
「お兄さん、ありがとう! お兄さんは、ものすごく強い魔法使いなのね」
「ああ、そうだよ。俺はとても強い魔法使いだ。だからミル、もう何も心配することはないからね」
「うん、そうだね」
ミルがやっと笑顔になった。
「お兄さんがいると、もう怖いものなんかない。これからもお母さんとミルを守ってね」
「ああ、約束するよ。これからもミルとアデレードさんを守り続けるよ」
ちょっと言い過ぎな気もしたが、子供を安心させるためなら、このくらいはいいだろうと思った。
さっさと、死体を処分する方法を考えよう。
そう考えていた時だった。
なぜだか分からないが、頭の中が嫌な感覚でいっぱいになってきた。
このまま、この男を殺してしまうのは、良くないのでは。そんな気がしてきたのだ。
俺は頭の中に浮かんでいるヒールのコマンドに向かい、『はい』と念じた。
すると、右手が白く輝き始めた。とても心地の良い光を発している。
その手をアザドの頭部に近づけた。
頭全体が白い光に包まれると、不思議なことが起こった。
ビデオを巻き戻しているかのように、血の海がみるみる小さくなってきたのだ。アザドの体の中に、流れ出ていた血液が吸い込まれていくように見える。
全く動く気配のなかったアザドだったが、やがてその手が小刻みに震えてきた。首を動かし、頭の方向が変わった。
顔面にあった大きな傷口は完全に塞がっていた。
「うう」
小さくうめき声をあげながら、アザドはゆっくりと目を開いた。
「俺は、まだ生きているのか?」
アザドは上半身を起こすと、周囲を見渡しそう言った。
俺はすぐさま床に落ちているアザドの斧を持ち身構えた。この男が、もう一度襲ってくるのではと思ったのだ。
だが、アザドはおとなしくその場に座り続けた。そして、ゆっくりと立ち上がるとこう言った。
「俺は、お前に助けられたのか」
返事をせず、アザドの様子を伺っていた。
「俺にはまだ、死ぬわけにはいかない事情があるんだ。だからとりあえず礼は言っておく」
そう述べたアザドは、目をつぶりながら深く頭を下げたのだった。
俺は、アザドの言葉が気になった。
「死ねない事情とは、どういうことだ?」
「お前には関係のないことだ」
そう言われると余計に気になってしまう。
「関係ないことはない。俺はあんたを殺しかけた男だ。場合によっては今後も殺してしまう可能性だってある。なので、そうなった時のために、死ねない事情を教えておいてほしい」
「言う必要はない」
アザドは短くそう答えるのみだった。
ここまで言われると、それ以上詮索する必要もない。そんなことよりも気になるのは、この男をこれからどうするかということだ。このまま、無罪放免にするなら、また店を潰しにくるだけだろうし、いったいどうすればいいのだろうか。
「俺はあんたを助けたが、また店を潰しにきたら、今度は本当に殺すかもしれない。俺はできれば、そんなことをしたくないと思っているのだが、あんたはどうなんだ? 死ねない事情があるのだったら、もう二度とこの店には関わらないと誓ってくれないか」
「お前の言っていることはよく分かる。しかし……」
「しかし、どうなんだ?」
「俺はクロー様に雇われている身だ。クロー様の命令には絶対に従わなければならないのだ」
つまり、金貸しクローの気分次第で、この男はまた店を潰しにくるというわけだ。
ただ、俺はこう思った。
アザドは、この場を取り繕うためだけに、もう二度と店は襲わないと、適当なことも言えたわけだ。しかし、アザドは、そうしなかった。また、この店を襲う可能性があると、本当のことを述べてきたのだ。そんなアザドの言動を考えると、この男が単なる悪党には見えなくなってきた。
アザドとやり取りをしている時、ミルの姿が目に入った。アデレードさんのスラッと長い足に隠れながらこちらを見ている。
きっと、アザドのことが怖いのだろう。アデレードさんにしても、一切声を出すことなく、固まってしまっている。
早くこの男を店から追い出したほうが良さそうだ。この男をここで殺してしまっても、クローは逃げてしまっているので、また別の刺客を送ってくるだけなのだ。
「さあ、もうここから出ていってくれないか。そして、できることならもう二度と俺たちの前に姿を見せないでくれ」
「ああ」
アザドは短く返事をすると、アデレードさんへと顔を向けた。次に、破壊した作業台を見ながらこう言った。
「店の大切なものを壊してしまい、申し訳なかった」
アデレードさんは、その言葉に小さく頷いた。ミルも真似をして、一緒に頷いている。
その姿を見たアザドは、くるりと背を向け、店の出口へと向かった。
俺はずっとアザドの斧を持ったまま、彼が完全に店から出ていくまで、緊張を解くことなく凝視し続けた。
アザドが出ていき、1分ほど様子をうかがっていたが、何も起こることはなかった。
「もう大丈夫です」
俺はアデレードさんとミルに向かってそう声をかけた。
その言葉を聞いたミルが、駆け寄ってきたかと思うと、俺の足に抱きついてきた。
「お兄さん、ありがとう! お兄さんは、ものすごく強い魔法使いなのね」
「ああ、そうだよ。俺はとても強い魔法使いだ。だからミル、もう何も心配することはないからね」
「うん、そうだね」
ミルがやっと笑顔になった。
「お兄さんがいると、もう怖いものなんかない。これからもお母さんとミルを守ってね」
「ああ、約束するよ。これからもミルとアデレードさんを守り続けるよ」
ちょっと言い過ぎな気もしたが、子供を安心させるためなら、このくらいはいいだろうと思った。
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