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第14話 スパゲッティーの味
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「では、早速スパゲッティとやらを食べさせてもらいましょうか」
絹の服に身を包んだ男は、椅子に座るなりそう言った。
「わかりました」
緊張しながら厨房に入る。
ただ、使い古されたコックコートを着ていると、なぜか自分が料理人だという自覚が芽生えてくる。
俺は小麦粉から作った自家製麺を茹で、その上に肉と野菜、トマトを絡めた特製ソースをかけた。
完成したスパゲッティーをアデレードさんに渡した。アデレードさんも、緊張した面持ちで、料理を運んでいく。
「お待たせしました。どうぞお召し上がりください」
男はじっと皿の上に盛られたスパゲッティーを見つめていた。そして、おもむろに木製フォークを使い自分の口に含んだ。
しばらくじっと目をつぶり味わっている。
そんな姿を、ミルは柱の陰に隠れながら覗き見ていた。
男の口が止まり、フォークが皿に置かれた。何やら呼吸を整えているようにも見える。
やはり、ハッピーロードの世界では、スパゲッティーなんて料理は受け入れられないのだろうか。
男の様子を見て、ほとんどあきらめかけていた時だった。
アデレードさんが、男につかつかと近づいていった。
「あのー、お味はいかがでしょうか?」
男は、アデレードさんに顔を向けた。
その顔は無表情で、何か怒っているようにも見える。
何も言わない男に、アデレードさんがあきらめてその場を離れようとした時だった。
「シェフを呼んでくれませんか」
男はそう口を開いたのだった。
アデレードさんが厨房に戻り、俺に言った。
「なんだか怖そうな顔をしてゴブマールさんを呼んでいるわ」
俺は緊張しながら、席へと向かった。
あの顔から察するに、きっと「何だこの料理は!」と叱責されるに違いない。
男はスパゲッティーを一口だけしか食べておらず、残りは皿に盛られたままだった。皿のフチには木製のフォークが置かれている。
俺がテーブルの脇に立つと、男が顔を上げた。そしてこう言った。
「この料理はどこで覚えたのですか?」
「私が以前住んでいた所で習ったものにアレンジを加えました」
「ほう」
男は一息つき、続けた。
「こんな料理は、今まで食べたことがない。とても珍しく、そして美味でもある」
想像していなかった言葉だった。どうやら褒められているようだ。
「そこで、君にお願いしたいことがある」
「お願いしたいこと?」
「この料理を王宮で振る舞って頂けませんか?」
「王宮で?」
「そう。私は、王宮料理人なのです。実は、新しい料理を求めて町を散策していたのです。この料理は素晴らしい。是非、王宮で王族の皆様に振る舞っていただきたい」
「王族の皆様……」
俺は、あまりの展開に頭がついていかなかった。
けれど、王族といえば。
頭の中に一人の女性が浮かんできた。
長い黒髪に、二重のパッチリとした目、どんなときも微笑みを絶やさない女性。
そう、王宮には、俺の恋人だったミナエと瓜二つの女性、ローラ姫がいるはずだった。
俺はこう思っていた。
死んだミナエは、ローラ姫としてこの世界に転生しているのではないのか。
だとすれば、ミナエは、またもや死ぬ運命にあるのだ。
なんと残酷な話だろう。こんな話、絶対に受け入れることなどできなかった。俺を励まして、事故にあってしまったミナエが、またもやゲームの世界でも死んでしまう運命だなんて。何としてでも、死亡フラグを背負ってしまっているミナエ、いやローラ姫を助けなければならない。
俺はずっとそんなことを考えていたのだ。
ただ、今現在、ハッピーロードをプレイする世界中のゲーマー誰一人として、ローラ姫を死なすことなく、ゲームクリアした者などいない。
そんな状況で、俺はローラ姫を無事に救うことができるのだろうか。
男は王宮で料理を振る舞うように言ってきた。
つまりそれは、王宮にいるローラ姫と接触できる最高のチャンスでもある。
しかし。
俺には料理屋エルフィンを立て直すという使命がある。このままでは、店は潰れ、アデレードさんとミルは奴隷商に売られてしまうのだ。
今、エルフィンを離れるわけにはいかない。
けれど、ミナエと会える絶好のチャンスを逃したくもない。
いったい、どうすればいいのだろうか。
「是非、王宮でこの料理を作ってくれませんか」
男はもう一度聞いてきた。
俺は、すぐに返答できずにいた。
「何か不都合なことでもあるのですか?」
「はい。実はこの新メニューで店を立て直そうとしているのです。今、俺がここを離れるわけには行きません」
「それなら心配いりません。王宮で料理を振る舞えば、そのことが大きな評判となります。そうなれば、たくさんのお客様がこのお店に押し寄せてくることになりますよ」
男の言葉にアデレードさんも同意した。
「ゴブマールさん、王宮の皆様に料理をお出しできるなんて、すごいことです。そこでもし、スパゲッティーが美味しいと王族の人が言ってくださったなら、とんでもないことになります。それこそ、この店に、さばききれないほどのお客様が押し寄せてくることになります」
ミルも目を輝かせた。
「ゴブマールお兄さんは、怪我を治してくれて魔法の天才だと思ったけど、料理だってすごいんだね。料理の天才でもあるんだね」
みんなの言葉を聞くと、考えが変わった。
そうだ、王宮で評判になることで、この店を立て直すことができるのだ。今のままでは、せっかく新メニューを考案しても、今日みたいに閑古鳥が鳴いたままではないか。
やってみなければ何も変えられない。
王宮で料理を作り、それが評判になればこの店も繁盛するに違いない。
そして、もし俺が王族に料理を振る舞うことができれば、そこでローラ姫と会うことができるのだ。直接ローラ姫と話し、彼女がミナエなのかどうかも確かめられるかもしれない。
俺は意を決して男に返事をした。
「わかりました。是非王宮で料理を作らせてください」
「ご承知頂けましたか」
男は満足そうにつぶやき、手を差し伸べ自己紹介をはじめた。
「私は王宮料理長のアジルサと申します。どうぞよろしくお願いします」
俺はアジルサの手をしっかりと握った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。スパゲッティーがこの世界の皆様に知っていただける絶好のチャンスですので、しっかり頑張りたいと思います」
絹の服に身を包んだ男は、椅子に座るなりそう言った。
「わかりました」
緊張しながら厨房に入る。
ただ、使い古されたコックコートを着ていると、なぜか自分が料理人だという自覚が芽生えてくる。
俺は小麦粉から作った自家製麺を茹で、その上に肉と野菜、トマトを絡めた特製ソースをかけた。
完成したスパゲッティーをアデレードさんに渡した。アデレードさんも、緊張した面持ちで、料理を運んでいく。
「お待たせしました。どうぞお召し上がりください」
男はじっと皿の上に盛られたスパゲッティーを見つめていた。そして、おもむろに木製フォークを使い自分の口に含んだ。
しばらくじっと目をつぶり味わっている。
そんな姿を、ミルは柱の陰に隠れながら覗き見ていた。
男の口が止まり、フォークが皿に置かれた。何やら呼吸を整えているようにも見える。
やはり、ハッピーロードの世界では、スパゲッティーなんて料理は受け入れられないのだろうか。
男の様子を見て、ほとんどあきらめかけていた時だった。
アデレードさんが、男につかつかと近づいていった。
「あのー、お味はいかがでしょうか?」
男は、アデレードさんに顔を向けた。
その顔は無表情で、何か怒っているようにも見える。
何も言わない男に、アデレードさんがあきらめてその場を離れようとした時だった。
「シェフを呼んでくれませんか」
男はそう口を開いたのだった。
アデレードさんが厨房に戻り、俺に言った。
「なんだか怖そうな顔をしてゴブマールさんを呼んでいるわ」
俺は緊張しながら、席へと向かった。
あの顔から察するに、きっと「何だこの料理は!」と叱責されるに違いない。
男はスパゲッティーを一口だけしか食べておらず、残りは皿に盛られたままだった。皿のフチには木製のフォークが置かれている。
俺がテーブルの脇に立つと、男が顔を上げた。そしてこう言った。
「この料理はどこで覚えたのですか?」
「私が以前住んでいた所で習ったものにアレンジを加えました」
「ほう」
男は一息つき、続けた。
「こんな料理は、今まで食べたことがない。とても珍しく、そして美味でもある」
想像していなかった言葉だった。どうやら褒められているようだ。
「そこで、君にお願いしたいことがある」
「お願いしたいこと?」
「この料理を王宮で振る舞って頂けませんか?」
「王宮で?」
「そう。私は、王宮料理人なのです。実は、新しい料理を求めて町を散策していたのです。この料理は素晴らしい。是非、王宮で王族の皆様に振る舞っていただきたい」
「王族の皆様……」
俺は、あまりの展開に頭がついていかなかった。
けれど、王族といえば。
頭の中に一人の女性が浮かんできた。
長い黒髪に、二重のパッチリとした目、どんなときも微笑みを絶やさない女性。
そう、王宮には、俺の恋人だったミナエと瓜二つの女性、ローラ姫がいるはずだった。
俺はこう思っていた。
死んだミナエは、ローラ姫としてこの世界に転生しているのではないのか。
だとすれば、ミナエは、またもや死ぬ運命にあるのだ。
なんと残酷な話だろう。こんな話、絶対に受け入れることなどできなかった。俺を励まして、事故にあってしまったミナエが、またもやゲームの世界でも死んでしまう運命だなんて。何としてでも、死亡フラグを背負ってしまっているミナエ、いやローラ姫を助けなければならない。
俺はずっとそんなことを考えていたのだ。
ただ、今現在、ハッピーロードをプレイする世界中のゲーマー誰一人として、ローラ姫を死なすことなく、ゲームクリアした者などいない。
そんな状況で、俺はローラ姫を無事に救うことができるのだろうか。
男は王宮で料理を振る舞うように言ってきた。
つまりそれは、王宮にいるローラ姫と接触できる最高のチャンスでもある。
しかし。
俺には料理屋エルフィンを立て直すという使命がある。このままでは、店は潰れ、アデレードさんとミルは奴隷商に売られてしまうのだ。
今、エルフィンを離れるわけにはいかない。
けれど、ミナエと会える絶好のチャンスを逃したくもない。
いったい、どうすればいいのだろうか。
「是非、王宮でこの料理を作ってくれませんか」
男はもう一度聞いてきた。
俺は、すぐに返答できずにいた。
「何か不都合なことでもあるのですか?」
「はい。実はこの新メニューで店を立て直そうとしているのです。今、俺がここを離れるわけには行きません」
「それなら心配いりません。王宮で料理を振る舞えば、そのことが大きな評判となります。そうなれば、たくさんのお客様がこのお店に押し寄せてくることになりますよ」
男の言葉にアデレードさんも同意した。
「ゴブマールさん、王宮の皆様に料理をお出しできるなんて、すごいことです。そこでもし、スパゲッティーが美味しいと王族の人が言ってくださったなら、とんでもないことになります。それこそ、この店に、さばききれないほどのお客様が押し寄せてくることになります」
ミルも目を輝かせた。
「ゴブマールお兄さんは、怪我を治してくれて魔法の天才だと思ったけど、料理だってすごいんだね。料理の天才でもあるんだね」
みんなの言葉を聞くと、考えが変わった。
そうだ、王宮で評判になることで、この店を立て直すことができるのだ。今のままでは、せっかく新メニューを考案しても、今日みたいに閑古鳥が鳴いたままではないか。
やってみなければ何も変えられない。
王宮で料理を作り、それが評判になればこの店も繁盛するに違いない。
そして、もし俺が王族に料理を振る舞うことができれば、そこでローラ姫と会うことができるのだ。直接ローラ姫と話し、彼女がミナエなのかどうかも確かめられるかもしれない。
俺は意を決して男に返事をした。
「わかりました。是非王宮で料理を作らせてください」
「ご承知頂けましたか」
男は満足そうにつぶやき、手を差し伸べ自己紹介をはじめた。
「私は王宮料理長のアジルサと申します。どうぞよろしくお願いします」
俺はアジルサの手をしっかりと握った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。スパゲッティーがこの世界の皆様に知っていただける絶好のチャンスですので、しっかり頑張りたいと思います」
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