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第20話 料理を作ったのは誰
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エルフィンの将来のためにも、ここは勇気をだして事実を伝えなければ。
「ルアンダ国王、失礼ながら申し上げます」
「なんだ?」
「今日のこの料理、スパゲッティーを作ったのはすべて私でございます。アジルサ料理長はいっさい関わっておりません」
「うん? どういうことだ? ゴブマールと言ったな。そなたの話が本当なら、クリスタルソロス城の専属料理長が嘘をついていることになるぞ。この城にはそのような卑怯な料理人はいないはずだ」
「国王その通りでございます」
アジルサは顔を真っ赤にして続けた。
「私は決して嘘などついておりません。今回お出ししたスパゲッティーなる新メニューは、今までの知識と経験を活かして作り上げた私の料理です。確かにここにいるゴブマールのアイデアを活用したメニューではありますが、そのアイデアにしてもほんの微々たるものです。全ては私が作ったと言っても過言ではないのですが、ゴブマールがどうしても言って聞かないもので、この場にお連れした次第なのです。それなのに、ゴブマールはありもしないことを述べて手柄を自分のものにしようとしています。本当にひどい男でございます」
「ゴブマール、これではっきりしたな。私も料理長の話に偽りはないと感じている。もうそなたの顔は見たくないぞ。この場から立ち去るのじゃ」
最悪だった。このままでは真実は捻じ曲げられ、エルフィンを救うどころか、国王の前で虚言をはいたひどい男として、世間の信用を失ってしまうではないか。そうなれば、ますます店を繁盛させることなどできなくなってしまう。
やはり、ハッピーロードにある通り、エルフィンは潰れてあの場所はただの空き地になってしまう運命なのだろうか。
そう思っていた時だった。
ダイニングルームの扉を開け、最後のデザートを運んできた男がいた。運んできたのは、副料理長のコザックだった。
コザックは、この部屋に流れている不穏な空気には気づかず、神妙な顔つきで、ぶどうとオレンジの載ったデザートを国王から順に置いていった。
「ねえ、お父様」
不意にローラ姫が口を開いた。
「コザック副料理長なら、本当のことを知っているのではないかしら?」
ルアンダ国王は静かに答えた。
「確かめるまでもないが、聞きたいのならそうするが良い」
「ねえ、コザック副料理長、今日のスパゲッティーを作ったのは誰なのかしら」
ローラ姫が躊躇なく聞いた。
「はい。そこにいるゴブマールさんです」
「では、アジルサ料理長はどうしていたの?」
「料理長は、厨房にはおられませんでした」
「でしたら、料理長は、スパゲッティーを作ってはいないのですね」
「はい。作っていません。作ったのはゴブマールさんです」
その答えで、張り詰めた空気が一層強くなった。
「それは本当のことか?」
今度はルアンダ国王が口を開いた。
「はい、間違いありません。私は横で見ていましたので嘘のつきようがございません。卓越した技術と豊富な知識で、この新しい料理を皆の前で作り上げたのは、ここにいるゴブマールさんです」
横を見ると、アジルサの額から汗が吹き出し、手はブルブルと震えていた。
「お父様、副料理長の話を聞く限り、どうやら嘘をついているのはアジルサ料理長のようですね」
「うむ」
ルアンダ国王がアジルサを睨みつけた。
「どういうことなんだ?」
「も、もうしわけございません」
アジルサはその場に膝をつき、頭を深く下げた。
「実は、料理に自信をなくしてしまい、なんとか自分の腕を認めてもらいたいがために、このような食事会を開いてしまいました。たいへん恥知らずなことを仕出かしてしまいました。誠に申し訳ございません」
「アジルサ、なんということだ。このような失態をしでかしたからには、もう料理長の任は解かせてもらうぞ」
アジルサはぐっと歯を噛みしめながら、目をつぶり頭を下げ続けていた。
「まあ、お父様」
ローラ姫が割って入った。
「そんなにお責めにならないでください。アジルサ料理長は、毎日宮廷料理を作り続けていたのですから、色々なことに疲れ切ってしまっていたのだと思います。許して差し上げましょうよ」
「うむ、……わが娘がそういうのなら」
「アジルサ料理長、もう嘘をついて、他人の料理を自分のものだということは止めにしてくださいね」
「はい」
アジルサは小さく震える声でそう答えたのだった。
「さて、ゴブマールさん、今日のあなたの料理、本当においしかったですよ。このようなすばらしい料理を、私ははじめて食べさせていただきました」
今のローラ姫の言葉で、一つ分かった。
ミナエと同じ姿のローラ姫だが、スパゲッティーのことは全く知らないようだ。もしミナエがこのゲームの世界に転生してきたとしても、記憶はいっさい失ってしまっているということか。
「ローラ姫、ありがとうございます。私はエルフィンという小さな料理屋で働いています。今後、エルフィンの看板メニューとして、このスパゲッティーを王宮御用達として宣伝しても構わないでしょうか?」
「もちろん、構いません。このようなすばらしい料理でしたら、たくさんの人に味わってほしいですから。ローラ姫の折り紙付きとして、宣伝してくださいね」
ローラ姫はそう言うと、人懐っこい笑顔を向けたのだった。その笑顔は、ミナエがよく見せたものと全く同じであった。
「ルアンダ国王、失礼ながら申し上げます」
「なんだ?」
「今日のこの料理、スパゲッティーを作ったのはすべて私でございます。アジルサ料理長はいっさい関わっておりません」
「うん? どういうことだ? ゴブマールと言ったな。そなたの話が本当なら、クリスタルソロス城の専属料理長が嘘をついていることになるぞ。この城にはそのような卑怯な料理人はいないはずだ」
「国王その通りでございます」
アジルサは顔を真っ赤にして続けた。
「私は決して嘘などついておりません。今回お出ししたスパゲッティーなる新メニューは、今までの知識と経験を活かして作り上げた私の料理です。確かにここにいるゴブマールのアイデアを活用したメニューではありますが、そのアイデアにしてもほんの微々たるものです。全ては私が作ったと言っても過言ではないのですが、ゴブマールがどうしても言って聞かないもので、この場にお連れした次第なのです。それなのに、ゴブマールはありもしないことを述べて手柄を自分のものにしようとしています。本当にひどい男でございます」
「ゴブマール、これではっきりしたな。私も料理長の話に偽りはないと感じている。もうそなたの顔は見たくないぞ。この場から立ち去るのじゃ」
最悪だった。このままでは真実は捻じ曲げられ、エルフィンを救うどころか、国王の前で虚言をはいたひどい男として、世間の信用を失ってしまうではないか。そうなれば、ますます店を繁盛させることなどできなくなってしまう。
やはり、ハッピーロードにある通り、エルフィンは潰れてあの場所はただの空き地になってしまう運命なのだろうか。
そう思っていた時だった。
ダイニングルームの扉を開け、最後のデザートを運んできた男がいた。運んできたのは、副料理長のコザックだった。
コザックは、この部屋に流れている不穏な空気には気づかず、神妙な顔つきで、ぶどうとオレンジの載ったデザートを国王から順に置いていった。
「ねえ、お父様」
不意にローラ姫が口を開いた。
「コザック副料理長なら、本当のことを知っているのではないかしら?」
ルアンダ国王は静かに答えた。
「確かめるまでもないが、聞きたいのならそうするが良い」
「ねえ、コザック副料理長、今日のスパゲッティーを作ったのは誰なのかしら」
ローラ姫が躊躇なく聞いた。
「はい。そこにいるゴブマールさんです」
「では、アジルサ料理長はどうしていたの?」
「料理長は、厨房にはおられませんでした」
「でしたら、料理長は、スパゲッティーを作ってはいないのですね」
「はい。作っていません。作ったのはゴブマールさんです」
その答えで、張り詰めた空気が一層強くなった。
「それは本当のことか?」
今度はルアンダ国王が口を開いた。
「はい、間違いありません。私は横で見ていましたので嘘のつきようがございません。卓越した技術と豊富な知識で、この新しい料理を皆の前で作り上げたのは、ここにいるゴブマールさんです」
横を見ると、アジルサの額から汗が吹き出し、手はブルブルと震えていた。
「お父様、副料理長の話を聞く限り、どうやら嘘をついているのはアジルサ料理長のようですね」
「うむ」
ルアンダ国王がアジルサを睨みつけた。
「どういうことなんだ?」
「も、もうしわけございません」
アジルサはその場に膝をつき、頭を深く下げた。
「実は、料理に自信をなくしてしまい、なんとか自分の腕を認めてもらいたいがために、このような食事会を開いてしまいました。たいへん恥知らずなことを仕出かしてしまいました。誠に申し訳ございません」
「アジルサ、なんということだ。このような失態をしでかしたからには、もう料理長の任は解かせてもらうぞ」
アジルサはぐっと歯を噛みしめながら、目をつぶり頭を下げ続けていた。
「まあ、お父様」
ローラ姫が割って入った。
「そんなにお責めにならないでください。アジルサ料理長は、毎日宮廷料理を作り続けていたのですから、色々なことに疲れ切ってしまっていたのだと思います。許して差し上げましょうよ」
「うむ、……わが娘がそういうのなら」
「アジルサ料理長、もう嘘をついて、他人の料理を自分のものだということは止めにしてくださいね」
「はい」
アジルサは小さく震える声でそう答えたのだった。
「さて、ゴブマールさん、今日のあなたの料理、本当においしかったですよ。このようなすばらしい料理を、私ははじめて食べさせていただきました」
今のローラ姫の言葉で、一つ分かった。
ミナエと同じ姿のローラ姫だが、スパゲッティーのことは全く知らないようだ。もしミナエがこのゲームの世界に転生してきたとしても、記憶はいっさい失ってしまっているということか。
「ローラ姫、ありがとうございます。私はエルフィンという小さな料理屋で働いています。今後、エルフィンの看板メニューとして、このスパゲッティーを王宮御用達として宣伝しても構わないでしょうか?」
「もちろん、構いません。このようなすばらしい料理でしたら、たくさんの人に味わってほしいですから。ローラ姫の折り紙付きとして、宣伝してくださいね」
ローラ姫はそう言うと、人懐っこい笑顔を向けたのだった。その笑顔は、ミナエがよく見せたものと全く同じであった。
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