【完結】ゲーム転生、死んだ彼女がそこにいた〜死亡フラグから救えるのは俺しかいない〜

たけのこ

文字の大きさ
50 / 55

第49話 ローラ姫が

しおりを挟む
 石像に変えられたローラ姫に、リヴァイアサンがゆっくりと近づいていく。

 ローラ姫が危ない! アーク、今こそ戦え!
 目の前のリヴァイアサンを倒し、今こそ勇者であることを証明しろ!

 しかし、石になってしまっている俺の叫びなど、当然アークには届かなかった。アークは尻もちをつきながら、ジリジリと後ろに下がるばかりだった。もう、逃げることしか頭にないようだ。

 気がつけば、ローラ姫とリヴァイアサンの距離が一メートルにも満たなくなった。その至近距離で、リヴァイアサンは足を止めた。
 リヴァイアサンは、その場でくるりと一回転した。
 尻尾が、ローラ姫に直撃し、石の砕ける音がした。
 一瞬のうちに、ローラ姫の石像が粉々に破壊されたのだった。

 俺は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
 これは、現実に起こっていることなのだろうか。
 ふと、視線を下に向けると、ローラ姫の砕けた石の欠片が、俺の足近くにも転がっていた。

 石が砕けたということは、ローラ姫は……。

 ミナエ……、ミナエ……。

 気がつくと俺は、心の中で何度もミナエの名前をつぶやいていた。

 結局そうだったのだ。
 これでは、ハッピーロードのシナリオ通りだ。
 結局、勇者アークの盾になったローラ姫は魔王に殺されたのだ。
 俺は何のためにこの世界に転生してきたのだ。
 俺がいてもいなくても、何も変わらなかったじゃないか。
 そう、いっさい何も変わらなかったのだ。

 このあと、あのへっぴり腰のアークが覚醒して、魔王を倒すというのか。
 とても、そんなふうには見えないが。どちらにしても、もうそんな事はどうでもよかった。
 ミナエが死んでしまった。
 この事実は変わらないのだ。

 そんな思考が頭の中を駆け巡っている時だった。黒いマグマのような熱い何かが俺の体に充満しはじめた。

 なんだ? なにが起こっているんだ?

 やがて体内を満たしている黒いマグマが、沸騰し体の外へと溢れはじめた。

「うぉー!」

 気がつけば俺は大声を上げていた。その声は、日頃の俺のものではなく、低くエコーがかかったような異様な音をしていた。

 石と化していた体が動き出し、黒いオーラが俺を覆った。
 ゴブリンだったはずの俺の体が、三倍ほどの大きさになっている。

 巨大化したのは体だけではなかった。怒りがどんどんと膨らんでいるのだ。もう、自分の中から溢れ出る怒りを収めることができずにいた。

 今は一つのことしか考えられない。

 どんなことをしてでも、ミナエを殺したリヴァイアサンを抹殺する!

 動き出した俺に向かい、リヴァイアサンが再び金の粉を吹きかけてきた。
 しかし、俺が石に変わることはない。リヴァイアサンの攻撃が、今の俺にはまったく通じないのだ。

 俺は指を光らせ、真っ黒な魔法陣を空中に描いた。

「スピア!」

 巨大な黒い矢が、俺の右手に出現した。

「お前だけは、絶対に許さない!」

 そう怒鳴った俺は、手に持つ黒い矢をリヴァイアサンの頭部めがけて投げつけた。

 放った矢は、一直線に進み、見事にリヴァイアサンの頭に突き刺さった。矢は、額から後頭部を貫いている。

「ギギギギギ」

 機械が軋むように、リヴァイアサンがうめき声をあげた。

 リヴァイアサンは、矢が刺さったまま首をばたつかせ、俺に視線を合わせてきた。その瞬間だった。リヴァイアサンの目が赤く光った。気がつけば赤い光線が俺の胸を貫通していた。
 見ると俺の胸に大きな穴が開いてしまっている。
 俺はここで死ぬのか。
 瞬時にそう思った時、頭の中にコマンドが現れた。

『ヒールを使用しますか?』

 俺が『はい』と念じると、胸の傷はみるみる塞がっていった。

 リヴァイアサンの目が連続的に光る。
 赤い光線が何本も放たれ、俺の体を貫いていく。
 しかし、ヒールをかけ続けている俺に、その攻撃はまったく通じない。
 何事もなかったように、ただただ光線が俺の体を通り抜け、体には傷一つできない。

 リヴァイアサンの顔が歪んだ。
 驚きを通り越し、恐れを抱いているように見えた。

 とどめを刺してやる。

「スピア!」

 真っ黒いスピアが俺の右手に現れた。
 それをしっかりと握りしめ、俺は一歩一歩リヴァイアサンに近づいていった。

 リヴァイアサンが体を回転させ、尻尾をぶつけてきた。
 左腕を上げガードすると、勢いよく向かってきていた尻尾を完全に受け止めた。

 リヴァイアサンの心臓に焦点を合わす。

 粉々になったローラ姫の欠片が、床に散らばっている。

 こいつだけは、絶対に許さない。
 こいつだけは、この世界から抹殺し、完全に消し去ってやる。

 俺は真っ黒い矢を振り上げると、叩きつけるようにリヴァイアサンの胸へと突き刺した。

「ギエ!」

 リヴァイアサンの口から苦痛を伴った声が漏れ聞こえた。
 矢を一度引き抜き、もう一度胸へと突き刺した。

「ギッ!」

 リヴァイアサンは短い鳴き声をあげた。そして、ドンとその場に崩れ落ちた。
 やがて、目は生気を失い、ただの物体へと変化した。
 体は微塵たりとも動かなくなっている。

 間違いなかった。
 リヴァイアサンは死んでいる。

 そう確認した時だった。
 石に変えられていたバザルークとスフィンクスが、元の姿へと戻った。

 バザルークは自分の両手のひらを見つめながら口をぽかんと開けていた。
 そして、俺を見ながらこう言った。

「俺は、助かったのか」

 その横にいるスフィンクスが俺に視線を合わせた。

「そなたは、ついに真の魔王へと覚醒したのだな」

 覚醒……。
 やはり俺が、真の魔王なのか……。

 そう思いながら、床に散らばるローラ姫の欠片を見つめた。
 バザルークとスフィンクスが元の姿に戻ったため、ローラ姫もそうなるのではと期待した。しかし、石の欠片は何にも変化せず、無惨に床にばらまかれたままだった。

 ミナエは死んでしまった。
 あいつが、勇者アークがミナエを盾にしたから、こんな結果になってしまったのだ。

 俺は怒りを込めて、この場から逃げ出そうとしていたアークを睨みつけた。

「ま、ま、魔王だ。あのゴブリンが本物の魔王だったのか」
 アークは回らない口でそうつぶやいた。そして、尻もちをつきながら後ずさりを続けた。
「た、た、助けてくれ。ど、どうか、助けてください」

「スピア!」
 俺は、逃げようとするアークに矢を向けた。
 そして、その矢を振りかぶり、思いっきり投げつけた。

「ひぃー」
 矢が、アークの脇をかすめ、地面へと突き刺さる。

「この場から出ていけ!」
 俺の声は怒りに震えていた。
「今すぐ、俺の前から姿を消せ!」

「は、は、はい。すぐに出ていきます」

 アークは四つん這いになりながら、城の空庭出口に向かい、なんとか立ち上がるとこの場から走り去ったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...