スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

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第二章 レッドドラゴンの角

第15話 受付のお姉さんが謝る

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 逃げ去っていく男たちを眺めている僕の背中から声がした。

「あのー」

 僕は振り向く。
 ああ、そうだった。
 僕はからまれている女の人を助けたのだった。

「ありがとうございます」
 女は繊細そうな声でそう言ってきた。

「いえ、当然のことをしたまでです」
 モーリーを斬り、まだ気持ちが高ぶっている僕は、英雄にでもなった気持ちでいた。

「私の名前はミルヴァと言います。助けていただいたお礼を何かさせていただけませんか?」
 ミルヴァと名乗る女性はそんなことを言う。
 僕はその時になってはじめて気づいた。
 繊細そうなミルヴァの肌が、きめ細かく輝いていることを。
 年は僕と同じくらいかな。
 仲良くなれたら、すこし嬉しいかもしれない。
 不謹慎にも、そんなことを思った。

「お礼など、結構です。けれど教えてほしいことがあるのです」

「教えてほしいこと? なんですか?」

「ブルカイトに会いたいのです」

「ブルカイトに? どうしてですか?」

 僕はミルヴァに今までの経緯を話した。
 知り合いが禁術マヤカシにかけられていること。
 禁術を解くためにはレッドドラゴンの角がいること。
 角を斬るために、ブルカイトが持っているオリハルコンの剣が必要なこと。

「そうなんですね。でも、レッドドラゴンなんてランキングトップのブルカイトでも手が出せない最強モンスターですよ。その角を取るなんて、あなたのしようとしていることは危険すぎる話に聞こえます」

「……そうですよね」

「それにブルカイトは、そんなに簡単に会える人ではないわ」

「そうですよね。冒険者ランキング一位の超有名人で、しかもブルカイト軍団なんて恐ろしい集団のトップなんですから。僕なんかと会ってくれるはずないですね」

 そんな話をする僕をじっと見つめていたミルヴァは静かに口を開いた。
「……、いいわ」

「いい?」

「ええ。ブルカイトに会わせてあげます」

「ええ?」

「私、ブルカイトの知り合いなの。会わせてあげるわ」

「ブルカイトの知り合いなのですか? 今、ブルカイト軍団にからまれていましたけど?」

「ブルカイト軍団なんて、あいつらが勝手に作っているだけのものよ。悪党たちがブルカイトの名前を使っているだけ」

「そうなんだ、じゃあ……」

「そうよ。ブルカイトはあなたが思っているような悪のトップなんかではないから、安心して」

 そうなんだ、よかった。
 でも、ランキング一位なんだから、むちゃくちゃ強い人なんだろうな。もし会えたとしても、礼儀だけはきっちりとしておかないと。
 怒らせたらとんでもないことになりそうだし。

「冒険者ギルドで待っていて。すぐにブルカイトをそこに向かわせるから」

「わ、わかりました」
 僕は言われるがまま、今来た道を引き返し、冒険者ギルドへと戻っていった。

 それにしても、あのミルヴァという女性、ブルカイトをすぐに向かわせると言っていたな。
 かなり親しい知り合いなのだろうか。
 そう考え歩いている間に、僕は冒険者ギルドへと到着した。

 ああ、この扉を開けば、またあの嫌な受付のお姉さんが僕をバカにした目で見るんだろうな。
 そんな状況が頭をよぎり、僕はビビりながら、木製のドアを開けたのだった。

 カウンターの奥に、その人はやっぱりいた。
 さっき僕をバカにして追い返したお姉さんだ。

 僕の姿を見ると、お姉さんはあからさまに嫌な顔をした。

「あなた、また戻ってきたの? さっきも言ったでしょ。ここにはブルカイトはいないって」

「いや、ブルカイトが僕に会いに来るのでここで待ってるようにって……」

「また、なに寝ぼけたこと言っているの? あんたなんかにブルカイトが会いに来るわけないでしょ。もう、さっさと帰ってくれない!」

 やっぱりお姉さん、僕のことをかなり下に見ている。
 みすぼらしい身なりに安物の剣じゃ、そう思われても仕方ないのかな。
 でも、身なりで人を小馬鹿にするなんて、ちょっとひどい人にも思えるな。

「ねえ、私の声が聞こえないの? ここはあんたなんかが来る場所じゃないのよ。邪魔なんだから、帰ってちょうだい!」

 お姉さんがまたコバエを追い払うような表情でそう言った時、向こうでカランと音が鳴った。
 ギルド玄関の木製のドアが開いたのだ。

「あっ!」

 開いたドアに目を向けたお姉さんが目を丸くした。

 僕もドアに目を向ける。

 そこには一人の剣士が立っていた。
 背はそれほど高くない。なんなら僕より低いかもしれない。
 体の線もどちらかと言うと細身な方だ。

 誰だろう?

 そう思っていると、受付のお姉さんの口が開いた。

「ぶ、ブルカイト……」

 ブルカイト?
 あの華奢な感じの剣士がブルカイトなのか?

「やあメリー、元気かい?」
 剣士が受付のお姉さんに軽く挨拶すると、僕に目を向けた。
「お待たせしました。マルコスさんですね、私がブルカイトです」

 やっぱりだ。
 この人がブルカイトなんだ。

 ブルカイトが僕に手を差し出してきた。
 僕も自分の出を伸ばす。
 そして僕たちはその場で握手をした。

 結構細い指をしている。
 この人が、冒険者ランキング一位なんだ……。

「ど、どういうこと?」
 受付のお姉さん、メリーさんがまだ目を丸くしている。
「ブルカイトが本当に会いに来た……」

「メリー、ここにいるマルコスさんは私の大切な客人なんだ。まさか失礼なことなど言ってないよね」
 何かを察したのだろう、ブルカイトがそんなことを言った。

「す、すみません!」
 メリーさんが深々と頭を下げる。
 そして僕を見て言った。
「あなたが、本当にブルカイトの大切なお客様とは知らず、大変な失礼をはたらいてしまいました。どうか、どうかお許しください!」

「いえ、別にいいですが……」
 どういうことだ。
 ブルカイトが僕に会いに来たことがわかると、こうも態度を変えるなんて。
 さっきの偉そうな言葉はなんだったんだ。
 釈然としない僕は、ちょっと文句を言いたくなった。

「ええっと、メリーさんだったよね。僕の身なりをみて、小馬鹿にしたようなことを言ってきたんだろうけど、そういうことはもう止めたほうがいいよ。言われた方はどれだけ傷つくかわかっているのかな」

「も、申し訳ありませんでした! これからは必ずや心を入れ替えて受付業務を行います! ですから、本当に、本当に、どうかお許しください!」
 メリーはカウンターに額を打ちつけるほど深く頭を下げてそう言った。

「わかったなら、もういいよ。でも、今後のメリーさんの態度、ちゃんと見させてもらいますからね」

「はい! これからは誰に対しても偉そうな口を聞くようなことはいたしません! 今後の私を見て、もしマルコス様が気になるようなことがございましたら、いつでもご指導ください!」
 そう言いながらメリーは頭を下げ続けるのだった。

 メリーの態度はちょっとわざとらしい気もした。けれど、一応謝ってきたので、僕はそれ以上は何も言わないことにした。

 それにしてもメリーの態度が一変したのを見て思った。
 ブルカイトってすごい人なんだなと。
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