スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

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第四章 魔王討伐とマチルダさん

第38話 一度だけ?

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 どういうことだろう。
 頭の中でレベルアップのメロディーが流れている。
 僕はすぐさま、自分のステイタスを確認した。
───────────────
勇者マルコス LV5
【攻撃力】 12
【魔力】  0
【体力】  18
【スキル】 レベル5
【スキルランク】 S
【スキル能力】
・体を輝かせる
・回避
・ハイパーヒール(一度だけ)
【持ち物】
・アイテムボックス
・オリハルコンの剣
───────────────

 えっ?
 僕の名前が……。
『勇者マルコス』になっている。
 僕は、本当に勇者になってしまったのか?

 けれど、勇者になったからといって、マチルダさんを救えるわけではない。ミルヴァさんが戻ってくることもない。
 今更、勇者になっても……。

 そんなとき、ある言葉を思い出す。
 ミルヴァさんの言葉だ。

(あなたのそのスキルは神が与えてくれた最高のスキルよ。困ったときはそれを使えば、きっとラッキーなことが起こるんだから)

 僕は今、最高に困っている。
 何もかも失って、どうしていいか、これからどうやって生きていけばいいのか、何もわからなくなっている。

 亡くなってしまったミルヴァさんの言葉。

 ラッキーなことが起こる……。
 ミルヴァさん……。世の中、そんなうまいこと行くわけないよ……。

 そう思っているとき、僕はステイタスに記されているある文字に気がついた。

『ハイパーヒール(一度だけ)』

 なんだこれ?
 確か、ここには単にヒールと記されていたはず。
 それがこんな文字に変わっている。

 なんだろう?
 一度だけと書いてあるが、それがどういう意味なのか全くわからない。
 どんな場面で使えばいいんだ?

 なにも説明がないので皆目検討がつかない。

 訳のわからないことには手を出さないほうがいい。
 何もせずに、じっとしておいたほうがいいのでは。
 いつもの僕なら、そう思っていたかもしれない。

 けれど、今は違った。
 僕は、亡くなってしまったミルヴァさんの言葉を思い出す。
 ランキング1位の天才は、恐ろしく前向きな感覚人間だったんだから。

 何もしないでじっとしていても何も変わらない。
 とりあえず、やってみることも大切なのかも。
 やってみると、何かラッキーなことが……。

 このスキルを使うのは……、一度だけと書かれたハイパースキルを使うのは、今しかないはずだ!
 今使わずして、いつ使うというんだ!

 そう感じた僕は両手を広げ、大きく空気を吸い込んだ。

 神様お願いします。ラッキーなことを起こしてください!
 僕はそう念じながらスキルを発動する。

『ライト』!

 いつも通り、身体が輝きだしたかと思った。
 が、その輝きはいつもとは違った。
 僕から発せられる光が広間全体に広がっていき、倒れているミルヴァさん、球に閉じ込められているマチルダさん、床に転がる無数の魔石たちを照らし始めたのだった。

 僕から白い光がどんどんとみんなに流れ込んでいく。
 白い光が煙のようにミルヴァさんたちの身体に吸収されていく。

 何だ?
 何が起こっているんだ?

 僕には全く分からなかったが、ずっとスキルを発動し続けていた。こうしてスキルを続けたほうがいいと、感覚的に理解していたのだ。

 やがて、カタカタと音が鳴りだした。
 揺れているのだ。
 床に転がる無数の魔石が揺れはじめているのだ。

 そして……。
 もう動かなくなっいるはずの……。
 地に伏せているミルヴァさんの身体が、わずかばかり動いたように思えた。

「ミルヴァさん!」
 僕は声をあげた。

 そうすると、ミルヴァさんの身体はピクリと反応した。
 間違いない。
 ミルヴァさんは自分の力で床から起き上がろうとしている。

「ミルヴァさん!」
 僕はもう一度声を出す。

 その声に反応するように、ミルヴァさんが四つん這いになり、そのままゆっくりと床から立ち上がった。

「ミルヴァさん、大丈夫ですか!」
 起き上がったミルヴァさんに声をかける。

 ミルヴァさんの顔がこちらを向いた。目が合う。
 そして口を開けこう言ったのだった。
「私、生きているのね」
 奇跡……。
 いや、ミルヴァさん風に言うと、ラッキーなことが起こった瞬間だった。

 そして。

 生き返ったのはミルヴァさんだけではなかった。
 なんと床に転がっている魔石たちが揺れだしたかと思えば、次々と元の魔族の姿に戻っていった。
 僕たちに斬られて倒された魔族たちが、全て生き返っていく。
 やがて、閉じ込めたれているマチルダさんの球体が割れ、中からマチルダさんの身体が前方の床へと流れ出てきた。そして、マチルダさんがその場で立ち上がる。無事に球から脱出できたのだ。

「マチルダさん! 大丈夫ですか!」

 僕は彼女にかけよっていった。
 マチルダさんの顔から、先ほどの苦渋に満ちた表情は消えてなくなっていた。
 あの吸い込まれるような笑顔を僕に向けてくれた。
 その笑顔のままマチルダさんの目からは涙があふれ出し、次の瞬間、クシャクシャな笑顔へと変化した。

「マルコス、ありがとう。私、助かったのね」

 マチルダさんはそう言うと、僕に飛び込むように抱きついてきた。
 僕もしっかりとマチルダさんに腕をまわし、抱きとめる。

 よかった。
 けど……。

 魔族たちまで生き返ってきているということは……。

「マルコス、あれを見て!」
 そう声を出したのはミルヴァさんだった。

 僕はミルヴァさんの指さす方向に目を向ける。

 あれは!

 なんと、黒い血の塊の中心にあった魔石、他の魔石とは明らかに模様が違う魔王ザットの魔石が、カタカタと音を立て揺れ始めていたのだった。

 まさか!

 魔石から黒い煙が吹き出し、やがてその煙は人の姿を形成していった。
 背中から羽が生え、のっぺらぼうだった顔に目や鼻が浮かび上がってくる。

 まさか、魔王まで復活してしまうのか?
 これなら、また元の状態に戻っただけではないか。
 また、僕たちは無益な戦いを始めなければならないのか?

 完全にその姿を取り戻した魔王ザットが、信じられないといった表情でこうつぶやく。
「生きている。私は、生きているのか?」

 くっ!
 僕は、あらためてオリハルコンの剣を抜くと、剣先をザットに向けた。

「ま、待ってくれ!」
 僕の姿を見て、ザットが慌てて声をあげる。
「マルコス、私はもう、お前と争うつもりはない」

「え?」

「お前が強くて勇敢な男だということはよく分かった。それに、こうして私を生き返らせてくれたのも、お前の力なんだろ」

「ああ、スキルを使ったら、ここにいる全員が生き返った。僕自身もなぜそんなことが起こったのかよくわからないんだが……」

「奇跡だ……」
 ザットはつぶやく。
「お前は奇跡を起こす男だ。私は魔界に伝わるこんな伝説を聞いたことがある。勇者の中には相手を倒すばかりではなく、死んだものをよみがえらえる奇跡の力を持った者がいるということを。まさにお前がその奇跡の勇者なのだろう」

「僕が、奇跡の勇者……」

「お前は言ってくれた。人間と魔族が争うことを終わりにしたいと。お前が勇者になった時、その負の連鎖を終わりにしたいと」

「……」

「その言葉、信用してもいいのか?」

「ああ」
 僕は答えた。
「もうこんな無駄な戦いは止めにしよう。僕は、魔王を討伐するつもりはない。そのかわり、魔王も世界征服の夢はあきらめてくれないか」

「もちろんだ。勇者が私の命を狙わないのであれば、私が世界を征服する必要もなくなるんだ」
 魔王の顔は、どこかほっとしているようでもあった。
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