男装令嬢はもう恋をしない

おしどり将軍

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第4話 王太子救出作戦

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私は王太子救出隊が準備をしているところにやってきた。隊員の編成的には正直最精鋭とは言い難かった。身元不明の傭兵ばかりで数も足りない。明らかに寄せ集めに近い編成だった。アーロン師匠は彼らを前にして、檄を飛ばしている。

「お、ナイアス。いいところに来たな。おい、お前ら、ナイアス様がいらっしゃったぞ」

全員が私の方を見て敬礼している。

「じゃあ、一言。彼らを激唱してやってくれ。少しは励みになるだろう」

「ちょっとそれより師匠に話があるのです」

「ん、分かった」

師匠はちょっと首を傾げた後、私と一緒にその場を離れた。



私は師匠を連れて少し離れた場所に来た。ここであれば、誰も聞く耳を立てる人はいない。

「なんだ、話って」

「私をジョージ殿下の救出隊に加えて欲しいのです」

「バカ言っちゃいけない。お前はここにいるんだナイアス。危ないぞ。お前は次期公爵様じゃないか」

「ですが、それなら師匠だって危ないじゃないですか」

「俺はいいんだ。もう覚悟は決めている」

「それはどう言う意味ですか?」

「多分、俺たちは王太子殿下を助けられない。それどころかたどり着く前に全滅するだろう」

「それが分かっていて、どうして引き受けたんですか?」

「俺は死ぬべき時に死ぬことが出来かった半端者さ。だがな、聞き捨てならない名前を聞いちまってな。だから、やってやることにしたんだ。別にお前の親父に言われたからやるわけではない」

「誰ですか、その名前とは?」

「ドミニク・バリエさ」

「ドミニク・バリエって、あのドミニク将軍ですか? シャーリー王国の」

「そうだ。やつだ。この戦い、奴が直々にこの作戦の指揮をとっているという話を聞いた。俺は奴に借りがあるのさ」

ドミニク・バリエ将軍は隣国シャーリー王国のエースで、数々の戦歴を持つ優れた将軍の一人だ。今回、彼が前線に赴くということはシャーリー王国が本気でガーネット王家をつぶしに来るつもりということになる。

「こんな部隊で、借りを返すことなんてできるのですか?」

傭兵の寄せ集めで、士気も低い。いくらアーロン師匠でもどうしようもないのではないだろうか。

「ふふん。王太子殿下を王都に無事送り届けることができれば、奴に一泡吹かせることになるだろう。直接戦うのはもちろん無理だ」

「無事に殿下を送り届けることが、彼らにとって痛手になると?」

「シャーリー王国は王自身が戦争に前のめりになっているが、王以外ではそれほど熱心じゃない。だから戦いが長引けばこっちが優位になってくる。元々国力に差があるしな。そのことはもちろん王や将軍たちも十分知っている。だから、短期決戦で勝負をかけてきた」

「短期決戦?」

「つまり王太子狙いだ。都合よく公爵領にジョージ殿下が訪問するという。しかも、ガーネット王国とランバート公爵家は微妙な関係にあるからな。公爵領に王太子殿下が入った後に、奴らはいったん王都への侵攻を開始、慌てた王太子が帰国している途中で、捕縛ないし殺害する。そういうつもりなんだろう」

「そんな話があったなんて……」

「王国は次々と後継者が亡くなってしまい、残るはジョージ王太子だけだ。王も病弱でいつ死ぬかわからない。殿下が捕まると王国自体に内紛が起こりかねない。もしかしたら、すでに裏でガーネット王国内の勢力と手を結んでいる奴らもいるかもしれない」

私は父の狡猾な表情が目に浮かんだ。もしかしたら、父も一枚噛んでいるのかもしれない。

「王太子殿下を救出して、尚且つ王都まで送り届ける。とても出来そうにない話だが、お前がいたら、ちょっと話は違うかもしれんな。何せ、お前は俺の見てきた剣士の中でも群を抜いている。俺とお前が組めば面白くなりそうだ。だが、いいのか? 次期公爵の座を捨てても。生きて帰れるかどうかすら保証できないぞ」

「私はもう、父の言いなりになりたくないんです。私は一人の意思を持った人間でありたい。殿下の危機を救ってあげたいのです」

アーロン師匠は少し考えて、それからこう言った。

「そうか、ジョージ殿下はなかなかいい男だしな」

「ちが…… 違います。彼とは親友になったんです。だから救いたいのです。それに父には正義がありません。同じ国だというのに、協力し合おうとしないなんて許されない裏切り行為です」

「まあ、分かった分かった。じゃあ、俺たちが先行していくから、後からついてこい。バレないように。迷いの森の前で待っているから」

「迷いの森ですか?」

「ああ、王太子殿下はあそこに逃げ込んだそうだ。早く行かないと大変なことになる。助ける前に捕まっていたら、この作戦も無意味になるからな」

「分かりました」



私は馬で後から救出隊を追った。迷いの森の入り口で彼らは待っていた。

迷いの森は王都と公爵領の間にある広大な森のことだ。今では、街道が設けられているので、そのまま街道を行けば迷わずに王都に行けるようになっているが、一歩街道をそれると大変なことになる。起伏が激しく多彩な地形で迷うどころか、一歩間違って足を踏み外したら、崖に転がり落ちるなど、命の危険まである。

それゆえ、うまく逃げ込めば敵の手から逃れられるかもしれないけれど、この森に不慣れな人はそのまま森から出られなくなる可能性がある。

「さあ、行こうか」

急がなくては手遅れになってしまう。私は、はやる気を抑えてアーロン師匠と共に迷いの森へと突入していった。



入り口から入ってほどなく藪の中から伏兵が出てきたが、アーロン師匠の的確な指示で事なきを得た。王太子殿下を救出しようと、公爵領からくる援軍に対して敵は対策をとっているようだ。

しかし、それほど、数は多くなく敵が潜んでいそうな場所には弓矢で先制攻撃を仕掛けていったので、ほぼほぼ無傷だった。問題なのは自軍の部隊だった。

攻撃を受けるたびに、次々と部隊の人数が脱落していくのだ。

森に入って1kmくらい過ぎた地点で、すでに私と師匠のみになっていた。大多数のものが、ちょっと負傷しただけで弱気になり、目を離した隙に逃げていってしまう。寄せ集めとはいえ、ひどい有様だった。

「まあ、予想通りだな。まともな奴など一人もいなかった。いたのは高額な報酬目当てのやつばかり。まあ、公爵のヤツの人選だからな」

「父上も形ばかり整えただけで、殿下をまともに救出する気はなかったようですね」

「ああ、戦争が終わった後、もし、ガーネット王国側が勝った場合、救出するふりでもしておかないと責任問題になるからな。ほとんどが傭兵ばかりだったし、まあ、俺も結局流れ者だったからな、使い捨てさ」

「師匠がいてくれてよかったです」

「まあ、そんな感想は終わってから聞きたいものだな」

馬上の私たちは先へ先へと急いで行った。街道を辿ってもまだ争った形跡が残されていなかった。王太子殿下が最初に襲われた場所はまだ先の方だろう。

王太子殿下がどこにいるのかは、襲われた現場を見ないとわからない。そして、いまだに捕まっていないのか、それともすでに捕まってしまったのかもまだわからない。

ただ、相手が警戒を緩めていないところを見ると、まだ、王太子殿下は捕まっていないのではないか、というのが師匠の見立てだった。

師匠は時折、馬を降りて、道の状態を探ることがあった。何かの痕跡があれば見つけることができるのであろう。伏兵に対しての的確な対処だけでなく、この辺りの地形に関しても熟知している。とても私にはできない真似だった。

アーロン師匠は公爵邸で雇われる前の経歴を明らかにはしていない。

ただ、非常に腕が立ち、公爵邸で雇われていたどの剣士もかなうものがいなかったので、すぐに、私の剣の師匠に抜擢された。付き合いはだいぶ長くなっているけれど、今まで彼自身の話は教えてもらえなかった。

ある場所に来ると、師匠が馬を止めてこう言った。

「これはひどい」

師匠の指差した場所には、街道から少し外れて横倒しになっている、無数の矢が突き刺さっている馬車があった。



馬車を引いていた馬はすでにいなくなっていた。馬車の中には誰もいなかったが、周囲に数人、そして、街道を少し入った場所にも数人、従者たちと敵兵の遺体が放置されていた。ジョージ殿下は結局見つからなかった。

本当は丁寧に穴を掘って埋めてあげたかったが、ジョージ殿下を探すことが優先されたため、やむなく手を合わせたあと、周囲にあった木の枝や草などで少し覆ってあげた。

「こっちの方だ」

師匠が何かを見つけたらしい。私はすぐにその場に行った。藪の中に不自然に木の枝が折れている部分が見つかった。

「こっちの方に逃げたかもしれないな」

私はアーロン師匠の後をゆっくりとついていった。



しばらく、獣道をかき分けて進んでいくと、灌木の色が不自然に変わっているところがあった。

師匠は何も言わず、ここで弓矢を構えて待っていろと身振りで私に伝えると、ゆっくりのその場所に忍び寄っていった。

私は弓矢を構えて、その場所に狙いを定めていた。師匠はついにその場所につき、薮の中を伺おうとした瞬間、師匠の背後に突然現れた人影が師匠を襲った。

とっさに私がその人影に弓矢を射ようとした瞬間、師匠が大きな声をあげた。

「射ってはダメだ、ナイアス」

私は手が止められなかったので、弓を持つ方の手首を少し動かし、狙いをずらして矢を射った。飛んでいった矢は人影から大きく外れて空に飛んで行った。

師匠を襲った人影はジョージ王太子殿下だった。



「助けに来てくれたのか、本当に申し訳ない」

「王太子殿下を救いに向かうのは当然です」

我々は再会した。ジョージ殿下は特に負傷した様子もなかった。

「従者のみんなが、私を逃がしてくれた。だが、みんな死んでしまったかもしれない」

「従者の数が足りなかった気がするのですが?」

「多分俺と違う方向に逃げて、敵を誘導してくれたんだ。追われている最中に服を交換したから、敵はそっちの方に行ったのだろう。もしかしたら、王太子と間違えて捕まえているのかもしれない」

「そうか、もしかしたら、今、確認作業をしているのかもな。もしそいつが偽物だとバレた場合はすぐに追っ手を差し向けてくるだろう。すぐにここから離れたほうがいい」

アーロン師匠がそういうと、ジョージ殿下が少し不思議そうな顔をして、アーロン師匠を見た。

「あの、この人はアーロン・タイラー。私の師匠です」

私は殿下が師匠のことを知らないと思って紹介した。

「うん、知ってる。又の名を黒騎士アーロンだな」

「黒騎士ですって?」

私がびっくりして師匠を見ると、少し困った顔をした師匠が頭を掻いていた。

「すぐにわかっちまうとはな。殿下とは初対面なはずだが」

「第七王子だった時に一度会っている。忘れるはずはないだろう。我が国の英雄なんだからな」

黒騎士といえば、前回の対戦で我が国の窮地を救った英雄として知られている存在だった。腕が立つ人ではあると思っていたが、まさか師匠があの黒騎士アーロンだったなんて。

「昔のことはもう忘れてしまったからな。ここで静かに余生を過ごすはずだったんだが、まあいい。とにかくここを離れよう。ここの地形を俺はよく知っている。だが、シャーリー王国の奴らは迷いの森のことをよく知らないはずだ。とにかく裏道を通って奴らの目を掻い潜れば、なんとかここを脱出できるかもしれない。殿下と合流できること自体が奇跡のようなものだ。俺たちはついているに違いない」

私たちは強く頷くとすぐにこの場所を離れることに決めた。
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