男装令嬢はもう恋をしない

おしどり将軍

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第6話 月を浴びて

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散発的な襲撃を、その都度撃退していきながら、私たちは藪をかき分け、道なき道を突き進んでいった。アーロン師匠は時々、立ち止まって偽装を施したり、罠を仕掛けたりししていた。

「まあ、気休めだけどな」

アーロン師匠がそう言った。

「今までうまく切り抜けているのも、黒騎士殿のおかげです」

殿下は感謝を込めてそう言ったが、アーロン師匠は殿下の言葉を軽く受け流し笑っている。

でもじっさいに師匠には本当に助けられている。この森を迷いなく進むことができるのも、食料をうまく確保できるのも、敵の襲来をいち早く察知し撃退できるのも、彼がいなくてはできない芸当だった。

私は戦うことしかできなかった。

「黒騎士なんて、もう昔の話さ。それに堅苦しいぜ殿下、アーロンと呼んでくれ。この場は3人だけだしな、仲良くやろう。敬語もなしだ」

「では、僕のこともジョージと呼んでくれ」

「おう、分かった。ナイアスもジョージって呼びなよ」

急に私の方に師匠が言ったので、すごく焦った。

え、そんなわけにはいかない。

「ナイアス。よろしく頼む」

殿下にもそう言われて、余計困った。

「いえ、私は無理です。殿下、それに師匠」

「相変わらず堅苦しい奴だな」

「全くだ」

二人が笑い合っている。私もつられて笑った。



「一旦ここで休憩しよう」

アーロン師匠の一言で、私たちは川のそばの少し窪んだ地形の場所で休憩することにした。

切り立った渓谷の間を清らかな川が流れ、川の両脇から木々が覆うように枝葉を伸ばしている。枝葉の間から、チラチラと太陽の光が川面を照らし、河原には木々を縫うようにして、ひんやりと湿った風が流れていた。

川はある程度水量があり、とても澄んでいて、小魚が泳いでおり、川底の石がよく見える。素足を入れるとひんやりして、とても気持ちがいい。

師匠は魚を取るため器用に罠を作り、川に仕掛けていた。王太子殿下はそれを興味深そうに眺めている。私は馬に水を飲ませたり、手入れを行ったりしていた。

「近くにちょっとした滝があって、とても綺麗だから、あとで見にいくといい」

師匠にそう言われた。それから夕食の準備を行い、皆でくつろいで語り合った。

「明日の朝、その滝を見に行こう」

ジョージ殿下に誘われて、少し胸が高鳴ったが、あまり表には出さないように振る舞う。その後、師匠と殿下は睡眠を取り、私は辺りを見回りに出て行った。

あたりは暗かったが、目はすぐに慣れる。私は足元に注意しながら、夜道を歩いた。

川のせせらぎが耳に心地よい。

遠くから、鳥の鳴き声がする。

なるべく音を立てないように歩く。何か獣の気配がした。素早く確認するとどうやら狐のようだった。じいっと狐はこちらの様子を伺っていたが、すぐにいなくなってしまった。

念の為、周囲に敵がいないことを確認し、問題ないとわかったので、私はまたみんなのところに戻ってきた。

二人とも寝息を立てて眠っている。

私は安心すると河辺に行って、罠の様子を見に行った。中には数匹の魚の姿があった。明日の朝は魚を食べることができそうだ。

川の流れは緩やかで、木の枝から漏れた月明かりが川面に映って揺らいでいる。私は川を覗き込んでみた。私の顔がそこに映った。

私は確かに妹に似ている。

金色の髪は同じだが妹はかなり長く伸ばしているけれど私は短い。サファイアのような色合いの瞳も同じだが、瞳の形は愛らしい印象がある妹よりもやや切長で少しきつめの印象がある。顔の造形はそれほど変わらなかった。

公爵領一の美貌を持つと評判の妹だった。

私も髪を伸ばしてドレスでも着ることができれば、殿下に気に入ってもらえるかもしれない。

ぼんやりとそう思ったが、すぐに、頭の中からその考えを追い出した。

昨晩は私の顔をきれいだと言ってくれたけれど、殿下は私のことを女性として意識していたわけではない。

私の顔は泥と血で薄汚れている。殿下に女性として愛されるなんて夢のようなことは考えない方がいい。

私は立ち上がって、周囲を窺ってみた。特に異変は感じない。あたりは静かで何も気配を感じなかった。そこで私は滝の方を下見に行ってみようと思い立った。



滝はほど近いところにあった。そこまで道は険しくなく、これなら、殿下と一緒にきても大丈夫だと思った。

滝自体は小規模だったが、とても綺麗な滝だった。切り立ったところから絹糸でできた白布のような水が音を立てて滝壺に落ちていく。ここで溜まった水が、私たちの休憩している所まで流れてきていた。

私は水に手を入れてみた。ひんやりしていたが、水浴びくらいはできそうだ。

しばらく水浴びをしていなかったので、体の汚れが気になっていた。せめて、殿下の前では少しでも綺麗にしておこうと思って、私は体を拭くための布を持ってきていた。

滝壺のそばに服を置き、私は水の中に入った。

水の冷たさが体にしみたが、すぐに気にならなくなり、心地よさを感じるようになった。

清らかな水できよめられていくような気がする。髪を綺麗に洗い、体の汚れをとって水面に月明かりを浴びている自分の姿を映した。

うん、これなら大丈夫かな。

そう思った時、何かの視線を感じた。

「誰!」

視線を感じる場所を見た。そこにはまた狐がいて、私の声を聞くとすぐに立ち去っていった。

私は少しほっとして、すぐに滝壺から上がると、体を拭いて着替えをし、すぐに皆が休んでいるところに戻ってきた。二人はすやすやと眠ってている。特に異変はないようだった。

念の為、辺りを見回りにいき、何もないことを確認すると、師匠を起こして交代することにした。
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