男装令嬢はもう恋をしない

おしどり将軍

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第7話 王太子殿下の変化

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昨晩、師匠と交代した後、私はぐっすりと眠っていた。目覚めると二人とも起きていて、朝の準備をしていた。

「殿下、おはようございます」

「ああ…… おはよう」

「師匠、おはようございます。魚が取れていると良いですね」

「おお、ナイアスか。おはよう」

師匠は朝食の準備をしていて、殿下はそれを手伝っていた。

「水を汲んできてくれ」

「はい」

師匠に言われたので、私が鍋を取ろうとすると、殿下も鍋を掴もうとしたのか手が触れ合ってしまった。殿下はすぐに手を引っ込めて慌てた様子で謝ってきた。

「あ、ごめん」

ジョージ殿下は少し顔を赤らめながらうつむく。私はどうしたんだろうとちょっと不思議に思いながら殿下に声をかけた。

「殿下はここで待っていてください。私がやりますから」

「で、でも、僕にも何かやらせてもらえると助かるのだが」

「何を言ってるんですか。殿下はここにいてください。くれぐれも一人で行動しないようにしてくださいね。狙われているのは殿下なんですから」

「そ、そうか。なんだかごめん」

「謝らないでください。殿下はもっと大きく構えていてください」

そう言って、私は水を汲みに行こうと川に向かったが、殿下がのこのことついてきた。

「一緒に行ってもいいかな」

「別に、構いませんが」

そう言って一緒に行くことになった。殿下は道の途中、ずっと黙っていた。なんとなく、今までと雰囲気が違って、少し気まずい。

「そうだ、魚が取れているといいですね」

「うん、一緒に見に行こうよ」

「分かりました」

魚の仕掛けを見ると、昨日見た魚の他に数匹大きめの川魚が引っかかっていた。私はその仕掛けを引き上げて魚を持ち、殿下は鍋に水を汲んで持った。鍋の方が重そうだったが、殿下は重い方を持つと言って聞かなかった。

「重くないですか殿下」

「いや、これくらい大したことはない」

見ているとややよろけながら歩いていて、水が少しづつこぼれている。

「やっぱり変わりましょうか」

「いや、大丈夫」

ようやく師匠のいる所に着くと、師匠が待ちかねたようにこう言った。

「ずいぶん遅かったじゃないか、あまり長い間火をつけていると煙で敵に見つかっちまうから、すぐに焼いて食べてしまうぞ」

「師匠すいません。私がついていながら」

「いや、僕が悪いんだ。君の足を引っ張る真似をしてすまない」

「ふーん。そうか。まあいい。すぐに終わらせて出発しよう」

師匠は私と殿下の顔を見比べた後、微妙な顔つきでそう言うと、手早く朝食の準備を開始した。



移動の時も殿下はおかしかった。なんとなく、私に対してよそよそしいのである。それでいて、何か様子を伺うように私の方をチラチラと見てくる。

何か私に言いたいことでもあるのだろうか。

全然よく分からない。

いつもだったら、何かあるたびに私に話しかけてくるのに、今朝からなんだか殿下の態度がおかしい。

もしかしたら知らずに知らずに殿下の意に沿わないことを言ったり、行動していたりしたのかもしれない。直接、私に言っていただければ、何かしら対処ができるのだけど、何も言われないと、こっちとしてもどう対処していいか分からない。

これから、森の出口に近づくにつれ、敵の襲撃の回数は増えていくだろう。今までのようにはいかない可能性だってある。それなのに、チームワークが乱れてしまったら、敵に隙をつかれてしまう。そのような事態は避けないといけない。現に、最近では数回襲撃を受けている。

私は悩んだ末、こっそりと師匠にそのことを話すことにした。



次の休憩地で休んでいる間、殿下から少し離れたところで、思い切って師匠に尋ねてみた。

「今朝から殿下の様子がおかしいのです。急に何か自分でやろうとしたり、私によそよそしくなったり…… 私何か殿下に失礼なことでもしたのではないかと、心配になっているのですが」

「ああ、そうか。うん、大丈夫。そのうち理由も分かるんじゃないかな」

アーロン師匠が少し困った顔をしていて、誤魔化そうというような口ぶりになっている。

「そのうちではいけません。このままでは連携が乱れて大変なことになります」

「うーむ。だが、あまりこういうことはあせってもしょうがないような気がするんだが。なんというか、その、自然とこう盛り上がっていってだな」

「そんな悠長なことを言っていてはいけないと思います」

「だが、俺が解決する問題でもないような気が…… まあ、あいつが相談してきたら話は聞いてやるけど、あいつも男なんだし、自分でなんとかする方が……」

「いったい師匠は何を言いたいんですか?」

煮え切らない態度に少し私はイライラしてきた。

「俺はあいつからはっきり聞いたわけではないから…… そうだな、お前にはよく分からないかもしれないな。そういう風に育てられたこともあるし、そんな態度をされたのも初めてなんだろうし、うーん、どうすれば一番うまくいくかな」

「いいです。分かりました。私が直接聞いてきます」

「おい、ちょっと待て」

私は慌てて止めようとする師匠を置いて、直接殿下に話を聞きにいくことにした。



「殿下、話したいことがあるのですが」

「え、なに。どうしたの」

殿下はびっくりした顔をしていた。

「今朝から殿下の態度は少し変です。私に何か言いたいことはないのですか?」

「え、その。ないわけではないけど、その……」

「はっきり言ってください。私のことで何かお気に召さないことがあればすぐに直します」

「いや。お気に召さないっていうんじゃなくて、とても気に入っているというか、なんというか。いや、その、そうだ、ナイアスは弱い男は嫌いか?」

「え、なんですって?」

突然、予想もしなかったことを言われたが、私には意味があまりよく分からなかった。

「あまり守られてばかりいるような弱い奴は、尊敬できないというか頼りにならないとか、そう思っていないのか?」

殿下はさらにそんなことを言ってきた。

……そうか、殿下は自分があまり戦うことが強くないので、気にしていらっしゃるのだ。それで私に引け目を感じていたのか。

「人にはそれぞれ、分というものがあります。ですから、殿下はあまり気になさらないでください。私や師匠は殿下を守るためにここにいます。でも、私たちとは違い殿下には殿下の役割というものがあります。それぞれ違うのです。だから、あまり我々に気を遣わないでください」

「そ、そうか。うん、でもやっぱり剣が強い方がナイアス的にはいいんだろう」

「身を守るためには必要だと思いますけれど……」

「そうか、分かった」

結局、殿下の気持ちはよく分からなかったけれど、殿下が少し晴れやかな顔になったのを見て、私はひとまず安心した。



その晩から突然師匠と殿下が剣の修行を開始した。殿下が師匠に頼み込んだらしい。私も相手をしますと殿下に言ったが、あっさり断られてしまった。

殿下のお世辞にも上手いとは言えない剣さばきを見て、この数日でなんとかできるわけではないのにと思いつつも、殿下の熱心に頑張る姿を見ているのはとても嬉しい気分になった。
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