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第8話 ナイアスへの想い(王太子視点)
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◇◇◇ ジョージ・ガーネット王太子視点になります ◇◇◇
僕はなんてひどい男なんだ。
僕はあの日から自分を責め続けている。
きっかけは、あの晩たまたま起きた時にナイアスがいなかったことに気がついてしまったことだ。
多分、見回りに行っているのだろう。そう思っていたけれど、なかなか帰ってこないナイアスを心配して、僕は周辺を探してみた。そして、知らず知らずに滝の方に向かって歩いていた。
それほど道は険しくなかった。暗かったけれど月の光を頼りに滝の方までたどり着けた。道を抜けると滝の水が滝壺に落ちる音が聞こえてきた。白絹のような滝を見て僕は少し感動した。
僕はそこに誰かいることに気がつき、そして、見てしまったのだ。月明かりに照らされている彼女の姿を。
ナイアスは女性だった。
まさかと思ったが、間違いなく彼女だった。
そして、その事実はとても衝撃的であったけれど、何よりも彼女の美しさに魅惑されてしまった。月明かりに照らされた彼女は、まるで、水の精霊みたいだったから。でも、僕はすぐにこんなことをしてはいけないと気づき、慌てて休憩所に戻った。
すぐに横になったが、胸の鼓動は抑えきれない。そして、彼女の美しい姿が頭に浮かんでは、すぐに打ち消そうとした。でも、どんなに忘れようと思っても忘れることができなかった。
自分がとても卑劣な人間に思えてきた。彼女は僕のために命を捨てる覚悟をしてまで僕のところに来てくれたのだ。それなのに、なんて自分は卑しい人間なのだろう。
自分はこれから生きるか死ぬかの戦いをしなければならない身だ。この森から王都に無事逃れても、まだまだやらなくてはいけないことが山積みしている。
国の人たちは皆心配しているはずだ。そして、自分の無事を祈って、心細く思っているに違いない。一刻も早く辿り着き、シャーリー王国の奴らをこの国から一掃しなくてはいけない。
それなのに……
彼女はとても美しかった。あんな女性は見たことがない。彼女の本当の姿は、水の精霊だと言われても僕は素直に信じることだろう。それだけ、神々しくまた、圧倒的に美しかった。
安易な気持ちで手を触れてはいけないような存在。そのようにも感じた。それなのに、俺は穢らわしい目で見てしまったのだ。過ちを取り返したかった。この目をくり抜いてしまいたかったが、もう、頭の中には彼女の美しい姿がはっきりと焼き付いてしまっていた。
彼女が戻ってきた。
僕が寝ているふりをしていたら、彼女はアーロンと交代して、僕の横ですぐに寝息を立て始めた。
手を伸ばせばすぐに届くところに彼女は寝ている。暖かな体温を感じる。僕はすぐにでも抱き寄せてキスをしたかった。でも、それは許されることではない。それも分かっていた。
ゆっくりと目を開けて彼女をみる。
彼女の綺麗な横顔。大きなまつ毛が揺れている。その短めの金髪も女性として意識してしまった今では、とても好ましいと思った。
だがこれだけははっきり言える。断じて彼女の美しさだけに、僕は惹かれていたわけではない。
僕は一眼見た時から彼女のことを好ましいひとだと思っていた。
その、清潔感のあるキビキビとした身のこなし。受け答えもしっかりしていて、とても知性的だった。しかも、剣の腕は公爵領はもちろん、もしかしたら、王国内でも一二の達人だ。そんなすごい人なのに、なんら驕ることなく礼儀正しい態度を崩さない。
そんな彼女がこんな危機的状況に陥った僕を、自分の全てを投げ出してでも助けに来てくれたのだ。僕を見捨てることだってできたはずなのに。
だから、言い訳めいているけれど、彼女が女性とわかった今、僕が恋に落ちることは避けることができなかった。それだけ素晴らしい女性だったからだ。
でも、今、僕らは本当にやるべきことがあるはずだ。そして、僕のことを王太子殿下としてしか考えていない彼女に対し、状況を弁えず言い寄るなんてもってのほかだと思っている。
僕に言い寄られても彼女はきっと困るに違いない。卑劣にも立場を利用して、彼女をものにするなんてことになってはいけない。絶対にこの気持ちは彼女には知られないようにしないといけない。
僕はそう考えて、悶々と眠れない一夜を過ごした。
◇
翌日、彼女と一緒に水汲みに行った。
とても幸せだった。
彼女はいつもと変わらない笑顔を見せてくれる。でも、彼女を女性として意識してしまうせいか、いつも以上に心が惹きつけられる。
彼女は歩く時、しっかりした足取りで、姿勢正しく歩く。彼女の周りにはいつも涼やかな風が流れているみたいだ。
彼女とダンスを踊ってみたい。きっと、彼女だったらどんなドレスも似合うに違いない。僕は優雅に踊っている彼女のことを考えてみた。その横に自分がいることができるなら。なんて、素敵なことだろうと思った。
◇
次の休憩地に来た時、彼女に問い詰められてしまった。私の何が気に入らないのかと。できるだけ自然な態度を取ろうと気をつけていたのに、彼女にさとられてしまった。
もちろん、彼女のことが気に入らないなんてことはない。むしろ、大好きなのだから。でも、そんなことは言えない。彼女の負担になってはいけない。
それに、僕がどうして彼女が女性であることを知ったのかということを教えなければならない。
間違いなく、軽蔑されるだろう。
それがとても怖かった。彼女はきっとそれでも自分を守ってくれるだろう。でも自分はそんな彼女に守ってもらうような価値のある人間なんだろうか。
彼女に軽蔑されたくない。
でも、この場で懺悔して、全てを許してもらいたい気持ちも同時にある。
いったい、どうすればいいのだ。
考えれば考えるだけ、自分がおかしくなりそうだった。
◇
少しでも彼女の負担を減らそうと、アーロンに頼み込んで剣の修行をしてみた。彼は困った顔をしていたが、僕が熱心に頼み込むと引き受けてくれた。
以前から、剣術を習ってはいたが、アーロンに教わると今まで習ってきた剣術と実践とは全く別だと感じた。
このような過酷な世界で、彼女はやっているのだ。大変な修行を積み重ねて。
なんとか少しでもものになるよう頑張ってみよう。支えてもらっているばかりではない自分、そんな自分を彼女に見せたくもあった。
できれば、彼女のことを守ってあげられるようになりたい。
確かに彼女の方がはるかに強いことは分かっている。
でも、きっと僕にだって、何か彼女の支えになることができるはずだ。そのことを証明したら、もしかしたら、彼女は僕の方を振り向いてくれるかもしれない。
僕はもっと頑張ろうと心に決めた。
僕はなんてひどい男なんだ。
僕はあの日から自分を責め続けている。
きっかけは、あの晩たまたま起きた時にナイアスがいなかったことに気がついてしまったことだ。
多分、見回りに行っているのだろう。そう思っていたけれど、なかなか帰ってこないナイアスを心配して、僕は周辺を探してみた。そして、知らず知らずに滝の方に向かって歩いていた。
それほど道は険しくなかった。暗かったけれど月の光を頼りに滝の方までたどり着けた。道を抜けると滝の水が滝壺に落ちる音が聞こえてきた。白絹のような滝を見て僕は少し感動した。
僕はそこに誰かいることに気がつき、そして、見てしまったのだ。月明かりに照らされている彼女の姿を。
ナイアスは女性だった。
まさかと思ったが、間違いなく彼女だった。
そして、その事実はとても衝撃的であったけれど、何よりも彼女の美しさに魅惑されてしまった。月明かりに照らされた彼女は、まるで、水の精霊みたいだったから。でも、僕はすぐにこんなことをしてはいけないと気づき、慌てて休憩所に戻った。
すぐに横になったが、胸の鼓動は抑えきれない。そして、彼女の美しい姿が頭に浮かんでは、すぐに打ち消そうとした。でも、どんなに忘れようと思っても忘れることができなかった。
自分がとても卑劣な人間に思えてきた。彼女は僕のために命を捨てる覚悟をしてまで僕のところに来てくれたのだ。それなのに、なんて自分は卑しい人間なのだろう。
自分はこれから生きるか死ぬかの戦いをしなければならない身だ。この森から王都に無事逃れても、まだまだやらなくてはいけないことが山積みしている。
国の人たちは皆心配しているはずだ。そして、自分の無事を祈って、心細く思っているに違いない。一刻も早く辿り着き、シャーリー王国の奴らをこの国から一掃しなくてはいけない。
それなのに……
彼女はとても美しかった。あんな女性は見たことがない。彼女の本当の姿は、水の精霊だと言われても僕は素直に信じることだろう。それだけ、神々しくまた、圧倒的に美しかった。
安易な気持ちで手を触れてはいけないような存在。そのようにも感じた。それなのに、俺は穢らわしい目で見てしまったのだ。過ちを取り返したかった。この目をくり抜いてしまいたかったが、もう、頭の中には彼女の美しい姿がはっきりと焼き付いてしまっていた。
彼女が戻ってきた。
僕が寝ているふりをしていたら、彼女はアーロンと交代して、僕の横ですぐに寝息を立て始めた。
手を伸ばせばすぐに届くところに彼女は寝ている。暖かな体温を感じる。僕はすぐにでも抱き寄せてキスをしたかった。でも、それは許されることではない。それも分かっていた。
ゆっくりと目を開けて彼女をみる。
彼女の綺麗な横顔。大きなまつ毛が揺れている。その短めの金髪も女性として意識してしまった今では、とても好ましいと思った。
だがこれだけははっきり言える。断じて彼女の美しさだけに、僕は惹かれていたわけではない。
僕は一眼見た時から彼女のことを好ましいひとだと思っていた。
その、清潔感のあるキビキビとした身のこなし。受け答えもしっかりしていて、とても知性的だった。しかも、剣の腕は公爵領はもちろん、もしかしたら、王国内でも一二の達人だ。そんなすごい人なのに、なんら驕ることなく礼儀正しい態度を崩さない。
そんな彼女がこんな危機的状況に陥った僕を、自分の全てを投げ出してでも助けに来てくれたのだ。僕を見捨てることだってできたはずなのに。
だから、言い訳めいているけれど、彼女が女性とわかった今、僕が恋に落ちることは避けることができなかった。それだけ素晴らしい女性だったからだ。
でも、今、僕らは本当にやるべきことがあるはずだ。そして、僕のことを王太子殿下としてしか考えていない彼女に対し、状況を弁えず言い寄るなんてもってのほかだと思っている。
僕に言い寄られても彼女はきっと困るに違いない。卑劣にも立場を利用して、彼女をものにするなんてことになってはいけない。絶対にこの気持ちは彼女には知られないようにしないといけない。
僕はそう考えて、悶々と眠れない一夜を過ごした。
◇
翌日、彼女と一緒に水汲みに行った。
とても幸せだった。
彼女はいつもと変わらない笑顔を見せてくれる。でも、彼女を女性として意識してしまうせいか、いつも以上に心が惹きつけられる。
彼女は歩く時、しっかりした足取りで、姿勢正しく歩く。彼女の周りにはいつも涼やかな風が流れているみたいだ。
彼女とダンスを踊ってみたい。きっと、彼女だったらどんなドレスも似合うに違いない。僕は優雅に踊っている彼女のことを考えてみた。その横に自分がいることができるなら。なんて、素敵なことだろうと思った。
◇
次の休憩地に来た時、彼女に問い詰められてしまった。私の何が気に入らないのかと。できるだけ自然な態度を取ろうと気をつけていたのに、彼女にさとられてしまった。
もちろん、彼女のことが気に入らないなんてことはない。むしろ、大好きなのだから。でも、そんなことは言えない。彼女の負担になってはいけない。
それに、僕がどうして彼女が女性であることを知ったのかということを教えなければならない。
間違いなく、軽蔑されるだろう。
それがとても怖かった。彼女はきっとそれでも自分を守ってくれるだろう。でも自分はそんな彼女に守ってもらうような価値のある人間なんだろうか。
彼女に軽蔑されたくない。
でも、この場で懺悔して、全てを許してもらいたい気持ちも同時にある。
いったい、どうすればいいのだ。
考えれば考えるだけ、自分がおかしくなりそうだった。
◇
少しでも彼女の負担を減らそうと、アーロンに頼み込んで剣の修行をしてみた。彼は困った顔をしていたが、僕が熱心に頼み込むと引き受けてくれた。
以前から、剣術を習ってはいたが、アーロンに教わると今まで習ってきた剣術と実践とは全く別だと感じた。
このような過酷な世界で、彼女はやっているのだ。大変な修行を積み重ねて。
なんとか少しでもものになるよう頑張ってみよう。支えてもらっているばかりではない自分、そんな自分を彼女に見せたくもあった。
できれば、彼女のことを守ってあげられるようになりたい。
確かに彼女の方がはるかに強いことは分かっている。
でも、きっと僕にだって、何か彼女の支えになることができるはずだ。そのことを証明したら、もしかしたら、彼女は僕の方を振り向いてくれるかもしれない。
僕はもっと頑張ろうと心に決めた。
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