《婚約破棄返し》あなたの婚約者、浮気しています〜なぜか隣国の王子が私に教えてくれました。

おしどり将軍

文字の大きさ
2 / 5

提案

しおりを挟む
彼の家は意外と自宅から近いところにあった。

あまり目立たぬように徒歩できたので、長い距離を歩かされないで助かったと彼女は思う。

こぢんまりした邸宅だったので、本当に王子が住んでいるところなのかなと思っていたが、中に招かれて入ってみると、内装や家具の一つ一つがきらびやかでセンスを感じさせるものばかりであった。一時的に借りているということだったが、王子が入る前から、相当手を入れている様子がよくわかる。

落ち着かない気持ちで椅子に座り待っていると、「いらっしゃい」と彼が登場した。涼やかな緑色の瞳には笑顔が浮かんでいる。今日はメガネをかけていて、知的で穏やかな印象を受けた。彼の顔をマジマジと見るのは初めてだったので、みんながいつも大騒ぎしている理由がよくわかった。ちょっと、オーラが強くて圧倒されそうになる。

メイドが紅茶の良い匂いをさせて部屋に入ってきた。彼女は美しいティーカップに琥珀色こはくいろの液体を優雅な所作で注ぎ込み、音もなく部屋から出ていった。

「よかったらどうぞ」

目の前にはいつの間にか白色に輝く砂糖菓子が、白地に金と薄青い模様が描かれているお皿の上に置かれてあった。お菓子はきっと、口の中に入れたら涼やかな舌触りを残して、あっという間にとけていくに違いない。いつもだったらすぐに手にとってしまうところだったが、今日はそんな気分にはなれなかった。

「手紙の件なんですが……」

「その前に。あらかじめ言っておきたいことがあるんですが」

「なんでしょう」

「僕はあなたが最も幸せになる方法を選びたい。あなたを傷つけたくないんです。だから、なにも言わずに僕に従って欲しいんです」

「どういうことでしょう」

「つまり、何も言わずに、速やかにフェリックス君と別れていただきたいのです」

「おっしゃる意味が全くわかりませんが」

「それが、全ての面でうまくいき、あなたが最も傷つかなくてすむ唯一の方法だと僕は考えています」

クラウディアは激しく憤慨ふんがいして、その場を立ち上がった。

「いい加減にしてください。あなたは私だけでなく、フェリックスに対しても大変侮辱しています。金輪際、あのようなデマを流さないでください」

すると、その声を制するかのような勢いでステファンが言った。

「デマではありません。あなたの婚約者 フェリックスは、僕の婚約者である公爵令嬢 アレクサンドラと不貞を行なっている。それも一度や二度ではない。1ヶ月以上前から」



彼女が落ち着くのを待って、ステファンは話を始めた。

親同士が勝手に決めてしまったので、自分は婚約者のことをよく知りたくて留学に来た。彼女は大変魅力的ではあったが、しばらくすると様子がおかしいことに気がついた。嫌な噂も耳にしたので、真相を突き止めるため、いろいろ行動した結果、深い仲になっている男性がいることを突き止めてしまった。

「それが、フェリックスだったんですね」

「そう。そして、僕は決定的な証拠をつかんだので、彼女との婚約を破棄しようと思っていたのですが、同時に、フェリクスにも婚約者がいることがわかったのです」

「それが、私、ですか」

「そう。僕の一存であなたの人生をめちゃくちゃにするわけにはいかなかったので、こうして、あなたに話をしているのです」

「私に構わず、話を進めたらいいじゃないですか」

「そうはいきません。僕が婚約破棄を一方的に行うと、国同士の間で問題になりかねません。そして、婚約破棄をする正当な理由を周囲に説明する必要がありますが、その際はフェリックスの名を出さないわけにはいかなくなるでしょう。そして、その話がもれでもしたら、たちまちスキャンダルになることでしょう。ここのお国柄は不貞には大変厳しいようですしね、宗教的に」

「そして、何より、あなたの婚約者が不貞を働いたということがオープンになれば、世間はかなり厳しい目を向けてくるでしょう。そして、不貞をされた側のあなた自身の名誉まで傷つけてしまうことになります」

「そんなことがないよう、ここで僕が話したことをあなたの婚約者に言って、内々に婚約解消できれば、あなたに不名誉なレッテルがつかない。それに彼らもその後正式に結婚さえすれば、不貞騒ぎも自然となくなるでしょう」

「それは、そうですが……」

「帰ったらあなたのご両親とよく相談してみてください。僕は、あなたが婚約解消されたのち、うまいこと理由をつけて婚約解消します。これで、皆丸くおさまるということです」

彼女は釈然としない気持ちで彼の話を聞いていた。

確かに思い当たることはあった。

公爵令嬢アレクサンドラは男性ウケはいいが、周囲の女性に対してはかなり高慢に振る舞っていて、そのためか男性遍歴の嫌な噂はいつも飛び交っていた。

その上、最近では目の敵のようにクラウディアに嫌がらせをするようになっている。そして何よりフェリックスがクラウディアに対してずいぶん冷たくなって来たのだ。

昔は結構優しい人だと思っていたのに、乱暴な言葉づかいをするようになり、あからさまに、こちらを下に見るような発言が目立ってきた。結婚が近いので少しナイーブになっているのかと思い、あまり口には出さないでおこうと思っていたのだが。

「大変ショックだと思います。でも、傷は浅い方がきっと治りも早いはずです」

彼は優しく声をかけてくれた。しかし、これで本当にいいのだろうか。何かだまされているのではないのだろうか。

何もかもが信じられなくなったクラウディアはステファンのことまで信じられなくなってきていた。

隣国の王子が一介の子爵令嬢をだますなんて理由は全くないはずだとは思いながらも、自分がきっちりと事実を確認してから前に進むことを彼女は選びたかった。たとえ、その事実が自分自身を傷つけることになっても。

「あなたの持っている証拠を見せてはいただけませんか?」

ステファンはけわしい表情をして、少し黙っていたが、すぐに彼女の方を見据えてこう言った。

「今度、婚約者と会うのはいつなのでしょうか?」

「今日は夕食を一緒にとる予定になっています」

「うん、それなら、明後日の夜も一緒にいたいと言ってみてはどうでしょう。彼は明後日にアレクサンドラと会う予定になっているはずです。もし、あなたのことを優先するなら、まだ、あなたの方に心が残っているのかもしれません」

「断られたら?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約破棄されたので、もうあなたを想うのはやめます

藤原遊
恋愛
王城の舞踏会で、公爵令息から一方的に婚約破棄を告げられた令嬢。 彼の仕事を支えるため領地運営を担ってきたが、婚約者でなくなった以上、その役目を続ける理由はない。 去った先で彼女の能力を正当に評価したのは、軍事を握る王弟辺境伯だった。 想うことをやめた先で、彼女は“対等に必要とされる場所”を手に入れる。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

処理中です...