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密会
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夕食を終えると、フェリックスは嫌そうな表情を浮かべてクラウディアの部屋に入ってきた。
「いったい、何の話なんだい」
「ええ、その、最近あんまり会う機会が減っていると思って、少し、お話がしたかったの。もうすぐ結婚だし。これからのことについても……」
「いやいや、疲れているんだ。その話は後でもいいだろう」
フェリックスは彼女が全て話し終わるのを待たずに、かぶせるようにして彼女の話を中断させた。
「これ以上、何を話すっていうんだい。式の日取りは決まっているし、準備も任せているんだろう。俺は最近忙しいんだから、どうでもいいような話なんて聞きたくないな」
「どうでもいいって、そんな……」
「じゃあ、俺はこの辺で。ご馳走になったな」
出ていこうとするフェリックス。クラウディアは止めようかどうか、躊躇したが、勇気を出して言った。
「あの、明後日の夜に会いたいんだけど。少しだけでいいから。大切な話があるの」
「今じゃダメなのか?」
「はい」
「別の日にしてくれないかな。その日は用事があるんだ」
「何の用事なの?」
その瞬間、フェリックスの顔はゆがんだ。
「詮索なんかするな! そんなに俺が信用できないのか」
フェリックスはクラウディアを怒鳴りつけると、すぐに背中を見せ、彼女を一人残してスタスタと部屋を出ていった。
◇
ショックを引きずったまま、もう二日目になってしまった。今晩、もしかしたらフェリックスはアレクサンドラと会うのかもしれない。
何もする気が起きなくて、クラウディアはベッドの上で寝転んでいる。
この前、ステファン王子が言っていた言葉を思い出す。
”それが、彼の答えだということです”
フェリックスは本当に不貞を働いているのだろうか。もしかしたら、あの時は気が立っていて、つい怒鳴ってしまったのかもしれない。きっとそうよ、そうなんだわ。
何とかそう思い込もうとしたが、しばらくすると、王子の言葉が再び頭をもたげてくる。もやもやした気持ちを抱えたまま、ついに、今日になってしまった。
いつもだったらどんなことがあっても、後回しにはしないできちんと対処してきたつもりだった。今は身動きひとつ取れない。
(私って、こんなダメな人間だったっけ)
フェリックスと付き合う前はこんなんじゃなかった。友人が恋の悩みで苦しんでいる時も、明るく励まして、背中をいつも押してあげていた。友人はどうしてそんなつまらないことで悩んでいるんだろうと思うことすらあった。
でも、自分のことになった途端、こんなふうになってしまうなんて。あの時の自分を叱ってやりたい。
今はただ、全てを失うのが怖い。でも、誰にも相談できない。
そんな時、ステファン王子の顔が思い浮かんだ。
(勇気を出して、前に進もう)
彼女は立ち上がると、外出の準備を始めた。
◇
クラウディアとステファン王子は、向かい合ったまま互いに押し黙っていた。
彼女は王子の部屋に通されてからもずっとそんな感じだった。王子は彼女が話を切り出すのをじっと待っていた。どちらも手をつけないままのティーカップから、芳醇な香りが部屋にいっぱいに広がっている。
やがて、彼女が口を開いた。
「フェリックスが今どこにいるかわかっているのですか?」
王子は彼女をじっと見たまま、どう答えたらいいかを考えあぐねていた。
「聞いてどうします?」
「私は確かめたいのです。フェリックスが本当に私を裏切っているのかを。もし、誤解なら私は大変な罪を犯していることになります。未来の夫を疑っているのだから」
「わかりました。行きましょう」
ステファン王子は立ち上がるとこう言った。
「決して、自分を責めるような真似はしないでください。真実であれ、誤解であれ」
クラウディアはしずかにうなずいた。
◇
コツコツコツコツ
あたりはもう暗い。街灯が点々と並んでいる道を、無言で歩く二つの影。足音が夜の底で響いていた。
「ここです」
ささやくようなステファン王子の声を聞いて、クラウディアはたった今夢から覚めたかのように目を見開いた。
クラウディアが着いた場所は旧校舎のある場所だった。
改修する予定になっていて、普段は関係者以外立ち入り禁止のはずだった。一向に作業を開始する気配がなく、友人たちの間ではいつになったら工事が始まるんだろうという話をしたことがある。
「入りましょうか」
「でも鍵がかかっているのでは」
旧校舎の周りにはぐるりと塀がある。そして門には鍵がかかっているはずだった。
しかし、王子は手慣れた様子で懐から鍵を取り出した。
「どうしてそれを」
驚くクラウディアにも、王子は冷静な様子だった。
「行きましょう。まだ、彼らはきていないと思います。いつも、もう少し遅くになってから現れますので」
それ以上質問することをあきらめ、クラウディアは彼の後をついていった。
門から入るとしっかり鍵を閉め、王子は校舎の入り口がよく見える藪の中に向かっていった。
「何があっても、声を上げてはいけませんよ」
黙ってうなずくクラウディア。二人は藪の中に身を隠した。
しばらくすると
門を開ける音が聞こえ、二つの影が入ってきた。一人は松明を持っており、揺れる光が手元を照らしている。
「あっ」
彼らが藪に最も接近した時、彼らの顔が闇の中から浮かび上がり、クラウディアは思わず声を漏らした。
アレクサンドラと、そして、フェリックスだった。
彼らは物音に気がつかずに、そのまま、過ぎ去り、そして、校舎の中に入っていった。
呆然とするクラウディアの肩をステファン王子は軽く抱き寄せた。彼女の肩は小刻みに震えていた。
「もう彼のことはあきらめましょう」
静かな夜に彼の声だけが響いている。
「婚約を解消して、あんな男のことなんか忘れた方がいい。あなたなら、もっとふさわしい相手がいるはずです。そのほうがきっと幸せに……」
「どうして、あなたはそんなに冷静なんですか!」
クラウディアは彼の手を払いのけて、にらみつけた。
「あなたの婚約者でもあるんですよ、彼女は。あなたは冷たすぎる。あんまりです」
「待ってください」
王子の制止を振り切って、彼女は校舎へと向かった。
音を立てないよう、静かに廊下を歩いていく。
彼らの入っていった教室はすぐにわかった。松明の光が漏れていたからだ。
(大丈夫、きっと、大丈夫だから)
そして、クラウディアは静かに教室の戸を少しだけ開けると、信じがたい光景が目に入ってきた。
彼女の切ない願いは完全に打ちくだかれる。崩れ落ちる彼女を、王子は倒れる寸前、背後で支えた。
帰り道、王子が何かを話しかけていたが、クラウディアには全く耳に入ってこなかった。あまりに悲しすぎて、涙さえ流れてこない。そして、彼女の脳裏にはあの光景が繰り返されていた。
アレクサンドラと目が合った瞬間
彼女は間違いなくクラウディアをあざ笑っていた。
◇
旧校舎の教室内で、二人の男女がいた。
「バレちゃったわよ、フェリックス」
「えっ、どういうことだ」
「あなたの可愛い婚約者さん、さっき、ここに見にきていたわ」
絶句しているフェリックス。その顔を悪戯っぽい目で見ているアレクサンドラ。揺れる松明が彼女を怪しく照らしていた。
「まずいぞ、このままじゃ。バレたら婚約破棄されてしまう」
「あら、いいじゃない。それなら、それで」
「ばか言うんじゃない。俺の実家が破産してしまう」
伯爵家は領地経営がうまくいっていないのにも関わらず、派手好きで有名な一家だった。借金問題が酷すぎて、もう破産寸前になっていた。
フェリックスはアレクサンドラと結婚したかったが、借金問題を抱えていたので、公爵家からは了解が得られず、金目当てに裕福な子爵令嬢 クラウディアに近づいたのだ。
「それなら、慰謝料を請求すればいいじゃない」
「お前バカか、浮気がバレた方が慰謝料とられるんだぞ。婚約破棄された方が請求するなんてことができるもんか」
「ふふふ、それができちゃうのよ」
「どう言うことだ」
「もう一人一緒にきていた人がいるのよ。私の婚約者だけどね」
「だったら、もっとまずいじゃないか」
「バカねえ。公爵家の力を侮らないことよ。ステファン王子が怪しい動きをしていたから、監視をつけていたんだけど、彼、いつの間にかクラウディアと親しくなっていたみたい。今頃は二人で慰めあってるかもよ」
「何だと。俺に黙って浮気していたのか、あいつら許せねぇ」
「こっちはちゃーんと目撃者を用意しておいたから、二人が付き合っているって簡単に証明できるわ。私たちが関係していることを知っているのはあの人たちだけ。こっちが先手をとって、婚約破棄をしかけたら、証人もいるし、周りを味方につけることができる。こちらの勝利間違いなし」
「そうか、子爵家も裕福だが、王子はもっと金持ってそうだからな。莫大な慰謝料を奪い取って、俺たちの結婚祝いにしようじゃないか」
「明日の晩餐会で仕掛けるわよ。王主催だから貴族以上は絶対に出席しなきゃいけないしね。もちろん、王子も。観衆は多ければ多いほどいい。これは見ものよ」
「そうか、お前は本当に頭がいいな。それにいい女だ」
「クラウディアよりも?」
「当たり前さ。クラウディアとは大違いさ」
フェリックスがアレクサンドラを抱きしめてくる。彼に押し倒されながら、彼女は王子のことを考えていた。
(これで、あの男に復讐ができる)
実のところアレクサンドラは、フェリックスからステファン王子に乗り換えようと思っていたのだが、全く相手にされていなかった。それどころか、彼がクラウディアのことばかりを気にかけているので内心、腹を立てていたのだ。そして、誘惑が全く通じないことを知ると、この上もない屈辱を味わった気がして、復讐を企んだのだ。
(あんな、低級貴族のしみったれた田舎娘なんかに、私が負けるはずないじゃない)
王子がこちらの身辺調査を始めたことを知ると、それを逆手にとり、クラウディアとステファンをはめることを思いついた。作戦はうまく行っている。
(ごめんなさいね、クラウディア。これも全部、ステファンが悪いのよ。婚約者である私に全く興味を示さなかったから)
今までだったら、どんな男だって彼女の魅力には勝てなかったのに、王子は彼女の誘惑を全てはねのけていた。プライドの高い彼女にとって、それはどんな仕打ちよりも酷い行為だった。
(見てなさいステファン。公衆の面前で赤っ恥をかくといいわ。私の足元でひざまずかせて、許しを乞わせてやる)
とりすました王子の顔が、苦痛にゆがむ様子を思い浮かべながら、彼女はちょっとした興奮を味わっていた。
「いったい、何の話なんだい」
「ええ、その、最近あんまり会う機会が減っていると思って、少し、お話がしたかったの。もうすぐ結婚だし。これからのことについても……」
「いやいや、疲れているんだ。その話は後でもいいだろう」
フェリックスは彼女が全て話し終わるのを待たずに、かぶせるようにして彼女の話を中断させた。
「これ以上、何を話すっていうんだい。式の日取りは決まっているし、準備も任せているんだろう。俺は最近忙しいんだから、どうでもいいような話なんて聞きたくないな」
「どうでもいいって、そんな……」
「じゃあ、俺はこの辺で。ご馳走になったな」
出ていこうとするフェリックス。クラウディアは止めようかどうか、躊躇したが、勇気を出して言った。
「あの、明後日の夜に会いたいんだけど。少しだけでいいから。大切な話があるの」
「今じゃダメなのか?」
「はい」
「別の日にしてくれないかな。その日は用事があるんだ」
「何の用事なの?」
その瞬間、フェリックスの顔はゆがんだ。
「詮索なんかするな! そんなに俺が信用できないのか」
フェリックスはクラウディアを怒鳴りつけると、すぐに背中を見せ、彼女を一人残してスタスタと部屋を出ていった。
◇
ショックを引きずったまま、もう二日目になってしまった。今晩、もしかしたらフェリックスはアレクサンドラと会うのかもしれない。
何もする気が起きなくて、クラウディアはベッドの上で寝転んでいる。
この前、ステファン王子が言っていた言葉を思い出す。
”それが、彼の答えだということです”
フェリックスは本当に不貞を働いているのだろうか。もしかしたら、あの時は気が立っていて、つい怒鳴ってしまったのかもしれない。きっとそうよ、そうなんだわ。
何とかそう思い込もうとしたが、しばらくすると、王子の言葉が再び頭をもたげてくる。もやもやした気持ちを抱えたまま、ついに、今日になってしまった。
いつもだったらどんなことがあっても、後回しにはしないできちんと対処してきたつもりだった。今は身動きひとつ取れない。
(私って、こんなダメな人間だったっけ)
フェリックスと付き合う前はこんなんじゃなかった。友人が恋の悩みで苦しんでいる時も、明るく励まして、背中をいつも押してあげていた。友人はどうしてそんなつまらないことで悩んでいるんだろうと思うことすらあった。
でも、自分のことになった途端、こんなふうになってしまうなんて。あの時の自分を叱ってやりたい。
今はただ、全てを失うのが怖い。でも、誰にも相談できない。
そんな時、ステファン王子の顔が思い浮かんだ。
(勇気を出して、前に進もう)
彼女は立ち上がると、外出の準備を始めた。
◇
クラウディアとステファン王子は、向かい合ったまま互いに押し黙っていた。
彼女は王子の部屋に通されてからもずっとそんな感じだった。王子は彼女が話を切り出すのをじっと待っていた。どちらも手をつけないままのティーカップから、芳醇な香りが部屋にいっぱいに広がっている。
やがて、彼女が口を開いた。
「フェリックスが今どこにいるかわかっているのですか?」
王子は彼女をじっと見たまま、どう答えたらいいかを考えあぐねていた。
「聞いてどうします?」
「私は確かめたいのです。フェリックスが本当に私を裏切っているのかを。もし、誤解なら私は大変な罪を犯していることになります。未来の夫を疑っているのだから」
「わかりました。行きましょう」
ステファン王子は立ち上がるとこう言った。
「決して、自分を責めるような真似はしないでください。真実であれ、誤解であれ」
クラウディアはしずかにうなずいた。
◇
コツコツコツコツ
あたりはもう暗い。街灯が点々と並んでいる道を、無言で歩く二つの影。足音が夜の底で響いていた。
「ここです」
ささやくようなステファン王子の声を聞いて、クラウディアはたった今夢から覚めたかのように目を見開いた。
クラウディアが着いた場所は旧校舎のある場所だった。
改修する予定になっていて、普段は関係者以外立ち入り禁止のはずだった。一向に作業を開始する気配がなく、友人たちの間ではいつになったら工事が始まるんだろうという話をしたことがある。
「入りましょうか」
「でも鍵がかかっているのでは」
旧校舎の周りにはぐるりと塀がある。そして門には鍵がかかっているはずだった。
しかし、王子は手慣れた様子で懐から鍵を取り出した。
「どうしてそれを」
驚くクラウディアにも、王子は冷静な様子だった。
「行きましょう。まだ、彼らはきていないと思います。いつも、もう少し遅くになってから現れますので」
それ以上質問することをあきらめ、クラウディアは彼の後をついていった。
門から入るとしっかり鍵を閉め、王子は校舎の入り口がよく見える藪の中に向かっていった。
「何があっても、声を上げてはいけませんよ」
黙ってうなずくクラウディア。二人は藪の中に身を隠した。
しばらくすると
門を開ける音が聞こえ、二つの影が入ってきた。一人は松明を持っており、揺れる光が手元を照らしている。
「あっ」
彼らが藪に最も接近した時、彼らの顔が闇の中から浮かび上がり、クラウディアは思わず声を漏らした。
アレクサンドラと、そして、フェリックスだった。
彼らは物音に気がつかずに、そのまま、過ぎ去り、そして、校舎の中に入っていった。
呆然とするクラウディアの肩をステファン王子は軽く抱き寄せた。彼女の肩は小刻みに震えていた。
「もう彼のことはあきらめましょう」
静かな夜に彼の声だけが響いている。
「婚約を解消して、あんな男のことなんか忘れた方がいい。あなたなら、もっとふさわしい相手がいるはずです。そのほうがきっと幸せに……」
「どうして、あなたはそんなに冷静なんですか!」
クラウディアは彼の手を払いのけて、にらみつけた。
「あなたの婚約者でもあるんですよ、彼女は。あなたは冷たすぎる。あんまりです」
「待ってください」
王子の制止を振り切って、彼女は校舎へと向かった。
音を立てないよう、静かに廊下を歩いていく。
彼らの入っていった教室はすぐにわかった。松明の光が漏れていたからだ。
(大丈夫、きっと、大丈夫だから)
そして、クラウディアは静かに教室の戸を少しだけ開けると、信じがたい光景が目に入ってきた。
彼女の切ない願いは完全に打ちくだかれる。崩れ落ちる彼女を、王子は倒れる寸前、背後で支えた。
帰り道、王子が何かを話しかけていたが、クラウディアには全く耳に入ってこなかった。あまりに悲しすぎて、涙さえ流れてこない。そして、彼女の脳裏にはあの光景が繰り返されていた。
アレクサンドラと目が合った瞬間
彼女は間違いなくクラウディアをあざ笑っていた。
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「えっ、どういうことだ」
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「まずいぞ、このままじゃ。バレたら婚約破棄されてしまう」
「あら、いいじゃない。それなら、それで」
「ばか言うんじゃない。俺の実家が破産してしまう」
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フェリックスはアレクサンドラと結婚したかったが、借金問題を抱えていたので、公爵家からは了解が得られず、金目当てに裕福な子爵令嬢 クラウディアに近づいたのだ。
「それなら、慰謝料を請求すればいいじゃない」
「お前バカか、浮気がバレた方が慰謝料とられるんだぞ。婚約破棄された方が請求するなんてことができるもんか」
「ふふふ、それができちゃうのよ」
「どう言うことだ」
「もう一人一緒にきていた人がいるのよ。私の婚約者だけどね」
「だったら、もっとまずいじゃないか」
「バカねえ。公爵家の力を侮らないことよ。ステファン王子が怪しい動きをしていたから、監視をつけていたんだけど、彼、いつの間にかクラウディアと親しくなっていたみたい。今頃は二人で慰めあってるかもよ」
「何だと。俺に黙って浮気していたのか、あいつら許せねぇ」
「こっちはちゃーんと目撃者を用意しておいたから、二人が付き合っているって簡単に証明できるわ。私たちが関係していることを知っているのはあの人たちだけ。こっちが先手をとって、婚約破棄をしかけたら、証人もいるし、周りを味方につけることができる。こちらの勝利間違いなし」
「そうか、子爵家も裕福だが、王子はもっと金持ってそうだからな。莫大な慰謝料を奪い取って、俺たちの結婚祝いにしようじゃないか」
「明日の晩餐会で仕掛けるわよ。王主催だから貴族以上は絶対に出席しなきゃいけないしね。もちろん、王子も。観衆は多ければ多いほどいい。これは見ものよ」
「そうか、お前は本当に頭がいいな。それにいい女だ」
「クラウディアよりも?」
「当たり前さ。クラウディアとは大違いさ」
フェリックスがアレクサンドラを抱きしめてくる。彼に押し倒されながら、彼女は王子のことを考えていた。
(これで、あの男に復讐ができる)
実のところアレクサンドラは、フェリックスからステファン王子に乗り換えようと思っていたのだが、全く相手にされていなかった。それどころか、彼がクラウディアのことばかりを気にかけているので内心、腹を立てていたのだ。そして、誘惑が全く通じないことを知ると、この上もない屈辱を味わった気がして、復讐を企んだのだ。
(あんな、低級貴族のしみったれた田舎娘なんかに、私が負けるはずないじゃない)
王子がこちらの身辺調査を始めたことを知ると、それを逆手にとり、クラウディアとステファンをはめることを思いついた。作戦はうまく行っている。
(ごめんなさいね、クラウディア。これも全部、ステファンが悪いのよ。婚約者である私に全く興味を示さなかったから)
今までだったら、どんな男だって彼女の魅力には勝てなかったのに、王子は彼女の誘惑を全てはねのけていた。プライドの高い彼女にとって、それはどんな仕打ちよりも酷い行為だった。
(見てなさいステファン。公衆の面前で赤っ恥をかくといいわ。私の足元でひざまずかせて、許しを乞わせてやる)
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