《婚約破棄返し》あなたの婚約者、浮気しています〜なぜか隣国の王子が私に教えてくれました。

おしどり将軍

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婚約破棄返し

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晩餐会が始まった。

きらびやかな広間では色とりどりに着飾った女性たちと、彼女たちをエスコートする男性たちで、ごった返していた。なにしろ、王主催の晩餐会である。それも隣国の王子 ステファンが来賓ということで、この場に臨む王の意気込みはすごいものがあった。

そんな喧騒の中から離れて、クラウディアはバルコニーに一人たたずんでいた。

こんなところに来るような心理状態ではなかったが、仕方がなかった。

なにしろ貴族全員が出席する義務があるということで、両親に引きずられるようにしてやってきたのだ。

両親にはまだ何も言えてなかった。

いつか、言わなければいけないことはわかっていたし、婚約解消もする必要があった。結婚式まで、もう1ヶ月を切っているのだ。

でも、彼女の中の時計は壊れ、時間は止まったままになっていた。

馬鹿騒ぎが広間から聞こえてくる。今日の主賓はステファン王子だ。王の横で楽しげにしゃべっている。貴族たちが先を争って彼の前にくる。彼らと楽しげに話している王子はまるで他人のように見えた。

「あら、一人なの」

声のする方向を見ると、アレクサンドラがグラスを片手に微笑んでいた。



「何の用ですか?」

「あら、冷たいじゃない」

クラウディアは彼女を睨みつけたが、全く気にする素振りも見せずにアレクサンドラは彼女の横までやってきた。

「理由はわかっているはずです。もう、私のそばに来ないでください」

「まるで、被害者みたいね」

「どういうことですか?」

「しらばっくれるのもいい加減にしてくれる。ステファンはここにきた時からあなたのことを気にしていたわ。いつから、彼を誘惑していたの? フェリックスには結婚までと言って許さなかったのに、清純そうな顔をしていやらしい人ね。まあ、彼はあんたなんかに誘われても、女としては見られないので手を出す気は起きないって言っていたけど」

「誘惑なんかしていません。それに、王子と直接話をしたのは最近です。あなた方が不貞を働いてらっしゃるという話を聞いてからです」

「どんな手管てくだを使って彼を誘惑したかは知らないけれど、成金子爵の娘の分際で、公爵令嬢の私に無礼を働いたこと、きっちりと償わさせていただきますわ」

アレクサンドラは言いたいことを言うと、唖然としているクラウディアを残し、大広間の方へと行ってしまった。



「どうかしましたか?」

気がつくとステファン王子が目の前にいた。心配そうな顔をしてこちらを見ている。

「あなたがアレクサンドラと話をしているのを見かけたので、こちらにきたのですが、何か言われましたか?」

「あなたを誘惑したと言っていました。そして、私に罪を償わせると」

「いったい、どういうことなんだろう」

「わかりません」

「もう、今日は帰った方がいいかもしれない。行きましょうか」

そして、ステファン王子とクラウディアが大広間に行こうとした、ちょうどその時。

「みなさん、みなさん聞いてください」

周囲は静まり返り一人の女性に注目が集まった。アレクサンドラだった。彼女は父であるレイカールト公爵に支えてもらいながら、王の前へと歩んでいた。

彼女の両目からは大粒の涙がこぼれ落ち、この異変がただごとではないことを人々は感じ取った。



「私はある人たちに、屈辱を受けました。それは、それは……」

そこまで言って、アレクサンドラは父の方を向いた。レイカールト公爵の顔は怒りでゆがんでいた。

「王よ、偉大なるクロップ王よ。我が娘は汚され、そして、屈辱にまみれています。いま王に問います。我が国の中で許されざる行為を行なったものは、いくら位が高くても神の下で裁かれる。そうでございますな」

「もちろん、その通りじゃ。神の名の下には皆平等。それは王とて例外ではない。それが我が国の誇り、我が国の文化なのじゃ」

「それは異教徒でも例外ではないでしょうな」

「もちろんじゃ。他国の中ならともかく、我が国の中で、不届きなことがあったら、必ずワシが神の名の下に罰してみせる。例外はない」

クロップ王はここぞとばかりに胸を張って見せた。

「では、勇気を持って告発します。その罪を犯したその人物こそ、そこにいらしゃいます
ローク家王子 ステファンなのです」

ライカールト公爵が指差したところ。それは、ちょうど、大広間に入ってきたステファン王子たちだった。



王の前にと引き出されたステファン王子とクラウディア。王子はいつものような冷静な表情だったが、クラウディアはあまりの状況にただただおびえていた。

「王子よ。あなたは我が娘の婚約者であるにも関わらず、大変なことをしでかしてしまいましたな」

公爵は蛇のように執念深い目つきで詰問し始めた。

「私が何をやったというのです」

「あなたは婚約者がいるにも関わらず不貞を行なった。そこの女とな」

その途端周囲がザワザワとし始めた。

「違います。誤解です。そんなことはしていません」

クラウディアが叫んだ。

「それどころか、フェリックスとアレクサンドラの不貞の現場を見ました。私たちが証言いたします」


「それって、言い逃れじゃない。他に証拠はあるの。あなたたちだけじゃあ証拠にならないわ」

アレクサンドラが厳しい口調で反論した。

「私たちにはちゃーんと証人がいるのよ。出ていらっしゃい」

そこに二人の男性が出てきた。

「私は見ました。彼女は少なくても、ステファン王子の家に2回は訪問しています。しかも、馬車などを使わず、人目をしのんでコソコソと入っていくところを見ています」

「私も見ました。昨日の晩、二人は夜道を歩いていました。クラウディアはステファン王子にしなだれかかった様子で、二人は深い関係に違いないと思います」

その言葉を聞いて、クラウディアも必死に反論した。

「それは、あなたたちがひどいことをして、それでとてもショックで」

「また、嘘をついてる。周りを見てごらん。みんな、あなたたちのことを疑っているわ」

周囲の厳しい視線に耐えきれず、クラウディアは下を向いた。


「ことは一国には収まりますまい」

アレクサンドラの父であるレイカールト公爵が言った。

「王子よ、あなたとアレクサンドラの婚約はただの婚約ではない。国と国との信頼関係を結ぶための婚約でもあったはずだ。それなのに、それをぶち壊すなんて、なんていう愚かな王子だ。恥を知れ恥を」

「ですが、その程度で国と国との信頼関係が失われるものなのですか?」

「その程度! なんたることだ。その発言。まさしく異教徒の台詞ではないか。非文明的で浅ましい。そんな野蛮人に娘をやるわけにはいかない」

「ですが、そんなことをしたら国と国との関係にヒビが入るのでは?」

「もちろんそうだ。だが、その責は全てあなたにある。償っていただきますぞ」


「クロップ王よ。その通りなのですか?」

「そうじゃ。ワシの国の宗教はそなたの国とは違って厳格なのじゃ。だから、国のためだからといって、不貞を見逃して結婚させるわけにはいかないのじゃ」

「つまり、不貞をするということは、一国の関係を破壊するほど、悪い行為なわけですね」

「そのとおり」


「もう、言い逃れることはできないわ。あなたとの婚約を破棄します。全ての責任を取ってちょうだい」

アレクサンドラが叫んだ。

「俺もクラウディアと婚約破棄するぞ。こんな女はたくさんだ。地獄に堕ちろ」

フェリックスが叫ぶと

「なんとけがらわしい。こんな女見たことないわ。こんな女を息子の嫁にだなんて、だからあんな低級貴族の娘との婚約なんて最初から反対していたのよ」

息子であるフェリックスに加勢するように、今までクラウディアには優しかったクライフ伯爵夫人までが同調した。


「私たちは慰謝料を請求します。金貨5000枚ずつ。二人それぞれに」

「俺もだ。俺も同等の権利がある」

アレクサンドラとフェリックスの目はギラギラと輝いていた。


レイカールト公爵はそれではとても足りないとこう付け加えた。

「両国の関係を破綻させたんだ。お前の国から賠償金ばいしょうきんをいただいてやる。そうでなければ戦争になるぞ」


「それだけじゃ済ませてはいけません」

フェリックスの父であるクライフ伯爵も叫んだ。

「王子はともかく、子爵一家はこの国の貴族だ。まずはこの女に鞭打ちを食らわせてやれ、不貞の罪は重いんだ。それに、子供の責任は親の責任でもある、子爵一家の財産は我々がもらう。そして、奴らの爵位を取り上げろ。そうだ、この国に恥をかかせたんだからもう奴隷にしてしまえばいいじゃないか、一家まとめて奴隷にして他国に売り払ってしまえ、もう二度とこの国の地は踏ませてはいけない。なあみんな」

そうだそうだ、そんな声が周囲から聞こえてきた。


その時、誰かが倒れる音がした。クラウディアの母であるルーベンス子爵夫人が倒れたのだ。夫のルーベンス子爵が彼女のそばに行って介抱している。

ステファン王子や、クラウディアは彼らの元へとすぐに駆け寄った。

「大丈夫ですか」

「お母さん。お母さん」

「この場から逃れようと思って、仮病を使いやがって」

クライフ伯爵が苦々しい様子でこう言った。


「王よ、彼らだけでも別室で介抱させてあげてください。我々はここに残りますから」

ステファン王子は彼女の様子を見て王に願い出た。

「良い。連れて行ってやれ」

ルーベンス子爵は二人を気にしながらも、夫人を連れて大広間から出て行った。



クラウディアは青い顔をして震えている。

彼らが去っていくまで黙っていた王子がようやく口を開いた。

「王よ。もちろん私に弁明の場を与えてくださるのでしょうね」

「わしの前で嘘をついたら厳罰じゃぞ。分かっておるな」

その言葉に王子はうなずいた。

「分かっていますとも。それでは皆さん。皆さんに今一度確認したいのです」

静まり返った大広間、誰も返事はしない。周囲は全て敵という状況になっていた。

「不貞を働くのはそんなに悪いことなんでしょうか。いえ、確かに悪いことではありますが、皆さんが言ったことを全て行うほどではないと思うのですが」

あおるような王子のセリフに皆の敵意は一層強まっていった。

「そなたの国ではそうかもしれんが、この国ではそうはいかん。何せ、高潔こうけつな精神を持つ国民性じゃからな」

王がみんなを代表するかのように答えた。

「では、仕方ありませんね。始めさせていただきます」





「まずはベークマン先生。こちらへ」

初老の紳士が王の前にやってきて、持っていたカバンをその場で下ろし、右手を軽く上げて王に宣誓した。彼は貴族たちの間では医師として名声を博している人物だった。

しかし、この晩餐会には呼ばれていなかったはずなので、なぜ彼がここにいるのか、皆は不思議そうに彼を眺めていた。

王子はにこやかな顔で彼に質問を始めた。

「では、先生。先生は今まで、貴族の皆さんを主に診察されていたと思いますが、貴族の方以外で最近診察した人はいましたか?」

「クライフ家の使用人を、この半年で3人診たよ」

観衆の目はクライフ家の方に集まった。フェリックスとその両親は驚いた顔をしている。

「何かの病気ですか?」

「いえ、妊娠したかどうかを確認しただけだな。そして、3人ともが妊娠していた」

「ほう、それで、相手は誰と」

「そこにいる、フェリックス・クライフ様ですな」

ベークマンは睨みつけるようにしてフェリックスの方を見た。

その途端一部の人間がヤジが飛ばす。クライフ伯爵一家は、皆顔を真っ赤にして怒りだした。

「嘘をつくな。このヤブ医者め。どこにそんな証拠がある」

すると、ベークマン先生はカバンの中から書類を取り出して、彼らの前に叩きつけた。

「いいですかな。ここに全てが書いてある。診察の詳細や、いろいろな情報がな。彼女たちが妊娠したとわかった途端、二束三文で伯爵家を追い出された。診察代はおろか、実家に帰る旅費もない有様じゃった。ワシは旅費を出してやったが、彼女たちの運命を考えると涙が出てくる。父親が不明の子供を持つ女性が、この国でどんな目にあうか、貴様ら貴族は分かっているのか! もう嫌だ。ワシは田舎に帰る。金払いがいくらよくたって、お前らなんか診てやるもんか」

彼は激しくののしった後、カバンを置いて、その場を出ていった。

その時、バーンと音がした。

アレクサンドラがフェリックスに平手打ちをしていた。

「私というものがありながら、なんていう恥晒しなの。使用人なんかに手を出すなんて」

「許してくれ、アレクサンドラ。悪気はなかったんだ。あれは遊びなんだ」

皆が静かにこのやり取りを見ていることに気がついて、すぐに、二人は黙ったが、周囲は疑惑の眼で彼らを見るようになった。

「次行ってもいいですかね」

問いかけに答えるものはいなかったが、王子は話をつづけた。




「では次に、アルフレット・スミット、ダニエル・ファン・バステン、ロヴィー・ヘールスの三名、出てきてください」

いずれも、伯爵、侯爵などの令息だった。呼ばれるとは思っていなかったらしく、オドオドしながら王の前に出て、形ばかりの宣誓をした。

「一週間前、君たちは3人で、スヴィンケルス侯爵夫人の家で、パーティに出席していたね」

3人ともに頷く。

「そこで、何を話していたか覚えているか?」

「覚えてませんよ。そんなこと。酒も入っていましたしね」

リーダー格のダニエル侯爵令息が答えた。ほかの二人もうなづいている。

「では、思い出してもらいましょうか。あなた方は私がそばにいるのにも関わらず、自慢していましたよね、大声で。アレクサンドラがいかにいい女だったかを」

「違う、違うわ。何かの間違いよ」

真っ青になったアレクサンドラの方を王子は冷たい目で見た。

「あなたには聞いていません。で、ダニエル君、どうなんだい。他の二人も黙っていちゃわからないじゃないか。でもここでの発言には気をつけろよ。王の前で嘘を言ったらどんな目にあうかわからないからな」

「それから付け加えさせてもらうと、その話を聞いている人間は他にもたくさんいる。もし、お前らが嘘を言った場合は……」

「お、俺たちは…… 嘘はついていない。確かに彼女と寝たのは確かだったが、あれは向こうから誘ってきたからで、俺たちは悪くない。悪くないんだ」

3人は、周囲のはげしい怒号の中、コソコソとその場を去っていった。

「では、次に……」

王子がさらに続けようとすると、アレクサンドラが言った。

「わたしたちをいくら貶めようとしても無駄よ。あなたたちの疑いは全く晴れていないわ」

「ですから、それを証明しましょう。セシル・ゼーマンさん。いらしてください」



セシル夫人が現れた。彼女は周囲の目を気にしながら王の前に行き、震える手で宣誓を行った。

「セシルさん。あなたは昨晩どこにいましたか?」

「校舎の管理人室にいました。夫と一緒に住み込みで管理をしていましたから」

「そこで、僕らと話をしたんですよね」

「はい、ステファン様はクラウディア様と一緒におられて。お嬢様は大変お加減が悪そうでしたので、管理人室で少し休んでいかれるように申しました。ですが、クラウディア様は一刻も早く帰りたいとおっしゃられたもので、お見送りだけでもと思い外に出ました」

「それで?」

「ステファン様に旧校舎で何か物音がするから、見に行ってきて欲しいと言われました。夫がいなかったものですから、私だけで門に行ってみると鍵が開いていました。不審に思った私が旧校舎の中に入ってみると……」

「いや! いや! いやーーーー」

アレクサンドラが叫んだ後、その場に崩れ落ちた。フェリックスは激しい怒りの表情でセシルの方に行こうとしたが、すぐに王子が駆けつけ、苦もなく腕を捻り上げてその場に押さえ込んだ。セシル夫人はおびえて後退りしている。

「このやろう。殺してやる。殺してやる」

涼しい顔で王子は押さえつけていた。

「さあ、皆さん。彼らをどういたしましょうか。先ほど、皆さんが言っていたことを全ておこなってしまうと、この二人、それどころか、この二人の一家は大変なことになってしまいそうなんですが」

王子は周囲を見回したが、彼らは生贄いけにえを黙って見逃してくれるほど慈悲深くは見えなかった。

「構わん」

王が激しく叫んだ。

「全て実行しろ、この恥晒しめが、我々の国の威信まで汚しおった」

「それではお任せしますよ」

そう言って王子は嫌がるフェリックスを彼らに引き渡した。

「さあ、クラウディア。行こうか」

「待って、待ってよ。ステファン。助けて、助けてちょうだい。あなたは婚約者じゃなかったの。ねえ」

「クラウディア、本当に愛しているのはお前だけだ。俺はだまされたんだ。この女に、だから、俺だけでも助けてくれ」

クラウディアは悲しそうな顔で、元婚約者の顔を見ていた。

「ごめんなさい」

「くそ、俺がアレクサンドラなんかにだまされなければ、幸せな家庭を築けていたのに、この女のせいで、俺の未来は台無しになってしまった」

「何よ、このろくでなし。だましたのはあなたじゃないの。ねえ、お願い、私だけでも助けて。奴隷なんかいや、私は公爵令嬢よ。下賎げせんな人たちとは違う高貴な人間なのよ」

王子は呆れた様子で二人の姿を眺めていたが、ため息をついてこう言った。

「本当はもっと穏便な形でお別れしたかったのですが。その方がクラウディアにとっていいと思っていましたから。でも、あなたたちは、自ら墓穴を掘ってしまいましたね、しかも、家族全員を巻き込むなんて」

「待って、許して。謝るから、この通りだから」

「君たちは、僕より、クラウディアに謝ったほうがいいと思いますよ。彼女の方がずっと傷ついているだろうから。もう遅いですが」

そして、王子はクラウディアを連れて大広間を出て行こうとしたが、振り向いてこう付け加えた。

「ああ、そうだ、言い忘れていた。今日であなたとの婚約を破棄します。あなたの望み通りにね」

王子たちが立ち去った後、アレクサンドラやフェリックスの泣き喚き、哀願する声だけが、その場に響いていた。



二人はクラウディアの母親が休んでいる一室に入って行った。子爵夫人はベッドで横になっていたが、もう意識を取り戻していて、入ってきた二人を見上げている。彼女のそばには夫のルーベンス子爵が座っていた。

「お父さん、お母さん、心配おかけしました」

「どうなったんだ」

二人が部屋に入ると父親は椅子から立ち上がった。

「ステファン王子が…… 王子が私の無実を証明してくれました」

「そうか」

そう言って、父親はクラウディアを抱きしめた。クラウディアは今までこらえてきた涙を抑えきれず、父の胸で泣きじゃくっていた。母親も起き上がり、3人で抱き合いながら、ただ、皆で涙を流していた。

ステファン王子は無言でその様子を確かめると、部屋を後にした。すると背後からすぐに父親が出てきて王子に声をかけた。

「王子」

「なんでしょう」

「娘の無実を証明していただいて、誠にありがとうございました。なんてお礼を言って良いのか」

「僕のことは気にせず、今はただ、娘さんに寄りそってあげてください。言葉はいらないと思います」

立ち去ろうとする王子に深々と礼をしてから、ルーベンス子爵は急に天を仰ぎ両拳を握りしめ、ブルブルと体を震わせた。

「ただ、とても残念なのは、今回のことが皆に知れ渡ってしまったことです。娘はもう一生結婚できず、日陰者で暮らさなきゃなりません。何も悪いことはしていないのに。それが不憫で不憫で親としてただただ悔しいのです」

ステファン王子は慈しむような目でルーベンス子爵を見た。

「その点は心配しないで大丈夫ですよ」

「どうしてですか」

「もちろん、

月の明かりに照らされて、ステファン王子は不敵な笑みを浮かべていた。
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