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「賊の方はどうだ?」
ボルタはこれ以上何を聞こうと特に有益な情報が得られないと思い次の話題に移す。
「賊か…今回のような直接的なものはどうかわからん。だが『MYO』の情報によるとヴァルガード帝国が自国の犯罪者を他国に追いやっていると聞いたな。捕まえてたら密入国させ金や奴隷の女性を使って何かさせているらしい。ただ武器を流してる話は聞かないが……師匠なら何か知ってるかもしれん連絡を取ってみよう。」
「そうかすまんな。あの方も失踪について調べてるそうだが進展はないのか?」
「……すまん。俺にもその話はわからんのだ。師匠も不確かな情報を流すわけにいかないと言っててな。だが今回の件なら協力してくれるやもしれん。師匠はレインがお気に入りのようでなこの件でなんらかの疑いがあることを匂わせれば解決までしてくれるだろう。紳士的でないが背に腹はかえれん。」
「…この礼はまたしよう。」
いつ紳士的なことを話していたのか疑問に思いつつ聞かなかったことにするボルタ。バーミリオン流の人間は時折訳のわからないことを口にすることも有名な話だ。とりあえず無視する、話題を転換することも大事な付き合い方である。細かいことは気にしてはいけない集団だ。
「あぁ、今レインが城に居るらしいな。会ってこようと思うのだがいいか?」
「あぁ、そうだな。っとそうだ!さっき外に出て言ったみたいだから今城にはおらんぞ。」
「ぬ?どういうことだ?」
「昨日パトラ様が言ってたんだが馬のいない車をそのレインが作ったそうでな。今日はその車で来ると言っていたのだが今しがた出て行くのが窓から見えてな。」
「何!?馬のいない車だと?」
「あぁ。人の力で走るのだが人力車とも違い馬車よりも早いそうだ。まぁ『MYO』の人間と聞けば人力車であっても馬より早いだろうがな。」
「ハハ!違いない。だが気になるな。どこかの宿にいるだろうし見て来るとしよう。」
「もし良さそうなら買い取れないか交渉してきてくれ。」
「あぁわかった。行って来る。」
そう言って別れるとミッドは足早に門兵の元へと行く。
ボルタはミッドの背中を見送ると誕生祭の会場へと足を向ける。
レイン達が部屋に戻ると深くため息を吐く。
「はぁ~…やっちゃったな…」
「大丈夫ですか?」
「お兄ちゃん?」
心配そうに顔を覗き込む2人にぎこちない笑顔を向けると頭を撫でる。
「俺は大丈夫だよ。それよりパトラがね…」
「パトラおねぇちゃんなら次会った時にごめんなさいしたら許してくれるよ。」
「そうです。ロアの言うとおりですよ!私たちのようなものにも優しくしてくれたパトラ様なんですから!」
「う~ん…そうだね。ちゃんと謝ってからだよね。」
2人に励まされてちょっと元気が出てきたレイン。
レインの表情が少し明るくなると2人の顔も花が咲いたように明るくなる。
「あ!そうだそうだプルシアーナのネックレス!」
そこでようやくプルシアーナのネックレスを置いてきたことを思い出す。
レインは自身のイベントリを開いて代わりになる結界生成機能のあるネックレスを検索する。
いくつか種類があるが制限のあるものやステータス依存のもの、自身の魔力を使うものなどプルシアーナに使えそうのないものを省いて行く。女性であるプルシアーナがつけてもなんらおかしくないシンプルなネックレスを探していると一つ良さげなものに目が止まる。
==============
神狼牙の首飾り レア度10
耐久 ーーー
品質 A
神狼の牙を使った首飾り。
神狼の加護が込められており1日3時間程度外敵から身を守ってくれる。
獣人種に大きな恩恵を与えるとされている。
==============
これは詳細な鑑定ができない神獣の素材が使われた神器で世界に4個存在する。
神器が4個と聞くと多いと思わないでもないがゲームであるときはこの4個でも少ないと言ってたぐらいだ。世界に1つしかないアイテムもあるがそれを思うと比較的良心的な神器である。
獣人であればステータス上昇に状態異常耐性も上がるためにかなり人気のアイテムだがレインにしてみればただのおしゃれアイテムであった。
なお獣人の中でも犬人・狼人なら更に上昇するので喉から手が出るほど欲しいアイテムで神狼フェンリルに認められた証である。フェンリルを信仰している集落に入った時にこの首飾りをしていることを見られるとその村の人間ががこぞって押しかけ子孫を作ってくれと言われるある種のハーレム神器で男女ともにモフラーがこぞって狙ったものである。レインはモフラーというわけではなかったがコレクターとして欲していたために争奪戦に参戦した。
ちなみに4個のうち1個はNPCの神狼の巫女が持っているため実質3個しかない。神狼の森にいるフェンリルの依頼をクリアすることで得られるこのアイテムを持っているのはレイン以外は女性プレイヤーなので現実となった今ではレインしか犬耳ハーレムできないのだがゲーム時代に堪能したレインはもうどうでもいい。
このアイテムは神狼から認められなければ所持できない神器というだけあって譲渡不可アイテムであり、デスペナのロストもなく闇職にも盗まれることはない。ただ自身の配下やパーティー内での貸し借りはできるためプルシアーナに装備させることができる。貸しているときは本来の力の半分も効果を発揮しないが半分でも十分すぎる。
「これにしよう!」
神狼の首飾りを取り出すとプルシアーナの首にかけるレイン。
淡い光を放つ牙がプルシアーナの胸元に映える。牙から漏れ出る光がプルシアーナの中へと流れ込むように胸元へと吸い込まれていく。
「ひゃぅ!」
レインが何かすごい代物を出したことだけはわかったがその牙に見ほれて呆然としてたプルシアーナ。悔い飾りから体の中に入ってくる光に驚き悲鳴をあげる。直後、腹の底から熱い力の塊のようなものが溢れ出し身体中を駆け巡る。
とっさに首飾りを触ろうとしたが手がすり抜けてしまい何が何だかわからないプルシアーナ。
(へぇすり抜けるんだ…譲渡不可ってそうなってんだなぁ)
現実になった今譲渡不可アイテムはどうなるんだと思っていたが手がすり抜けるのかと感心する。
「なんですか!これなんですか!!」
「え?結界魔道具の代わりの首飾りだけど?」
悪びれもなくむしろやり遂げた感を匂わせるレイン。
ただイベントリから取り出して首に掛けただけなのだがなぜか誇らしげだ。
「あの、なんか、胸に入って、くるような、う…お腹の底から突き上げてっ!はぅ」
「あれ?プルシアーナ?どうしたの?ねぇ!大丈夫?」
「おねぇちゃん!」
ストンとその場に崩れ落ちて上気させる顔。息を荒げて何か気分が高揚しているようだ。
レインはついさっきやらかした後だというのにまた何かやってしまった学習しない自分に腹立たしく思いながら首飾りを外すためプルシアーナに近づく。
よく考えずとも魔道具で一喜一憂したのに神器など与えるほうの感覚がおかしいのだがゲームに染まった頭をすぐに切り替えるのも難しい。
「ごめん!すぐに外すから!」
「だ、大丈…です、よ。レイ…私の、思っての…ですから。苦し…ないんです。これで、足を、引っ張ら…い…もんね。私、一緒に…レインさんと一緒にいたいですから!」
レインが首飾りを外そうとするとする手を掴んでプルシアーナが力強い目を向ける。
プルシアーナは力が溢れてくることに酔ってきているのだが自分がこの首飾りに耐えれるとレインと一緒にいることができるような気がしている。高揚して気分が良くなるような力が溢れて気持ち悪いようなよくわからない感情の渦に揉まれながらもレインと一緒にいたいと強く思うようになってきたプルシアーナは必死にこの激しい力の渦を受け入れる。
常識がずれているところがあるが両親と同じくらい暖かく優しいレインの側にいたいと本心から思うようになっている。自分が孤児で可哀想だから一緒にいてくれることぐらい理解していると思いつつその同情で一緒にいれるのならそれでもいいとさえ思う自分の醜さに嫌気がさしていたところだったのだ。近くにいるためには必要なことだと必死に耐える。
レインと一緒にいるために
ロアナと一緒にいるために
自分の弱さに負けないために
レインはプルシーアーナの力強い目に戸惑いながらもどうしていいのかわからないでいた。
安易な言動で怒らせたパトラ、安易に神器を与えてしまって今何かに耐えているプルシアーナ。自身の軽率な行動がみんなに迷惑をかけている。
異世界モノの小説ではどうだったか?
ゲームの設定は?
今自分はどうしたらいい?
これは夢?それとも現実?
どうしたら正解なのか自分は誰かと一緒にいてはいけないのではないか?
何もかもわからない。
ただプルシアーナはレインの目を強く見据え「一緒にいたい」と言った。
(俺はまだゲーム感覚なんだな。浮かれすぎてるんだな。プルシアーナはゲームのNPCなんかじゃないんだよな。)
頭の中が少しづつクリアになっていく。
浮かれ気分でゲームを楽しんでいた。そんな自分を今更客観視することができたようだ。
神器と言われるアイテムが力を与えるのになんの代償もないとなぜ思ったのか。
アニメみたいにすぐ体が順応するはずなどないだろうに。
なんのために神獣の許可がいるのだ!体が耐えれるのか見るためだろうと今なら理解できる。
(もっと今の情報を知らないと。大きな事件があって5年も経てばお金の価値が変わってるよな?魔道具であの騒ぎならどの程度のアイテムならいいんだ?レア度は?品質は?職人ってどの程度?ゲームの時との差異は?)
何もわからない。
情報を知ろうとしてなかったからだ。聞いていた、いや聞こえていた情報だけでもどれだけ重要なものがあったのか今更思い知る。
もっと慎重に真剣に聞いておけば!
なんであっさり聞き流して適当な相槌をしていたのか!
戻れるのならあの時の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。
悔やんでも仕方がないとこれからのことを考える。目の前で呻き声をあげるプルシアーナが心配でまともに考えはまとまらないが情報収集をしなければいけないことだけはわかった。
収集
レインの得意分野である。
なぜ今までしなかったのかアホだと思う。
情報も収集するのが楽しいハラハラドキドキするものだったじゃないかと自分に言い聞かせるが問題はレインの詳報収集がいつもどこか虫食い状態であることだ。興味のある分野には突出してるが世情を知るには不安がある。
そうこう考えている間にプルシアーナの様子が安定してきている。
「ふ~ふ~…レインさん。もう、んっ…ハァ、もう大丈夫です。これでレインさんの足を引っ張りませんよ。一緒にいれますね!」
満面の笑みでそういうプルシアーナだが疲労の色が濃い。
嬉しい反面無理して欲しくないレインはすぐに布団を用意して寝かせる。
「頑張ったね。疲れたでしょ?ちょっと休むといいよ。ロアナも一緒にいてあげて。俺は…元気が出る食べ物を買ってくるよ。」
「わかった!おねぇちゃんのお世話するよ。」
さっきまで心配していたロアナが元気よく返事するとタオルでプルシアーナの汗を拭き始める。レインは飲料水を布団のそばに置くと部屋から出ていく。出る前に知らない人を部屋に入れないように言って連絡用魔道具を一つロアナに手渡すと使い方を簡単に説明する。これも今は貴重なものだろうがこればっかりは仕方ないと自分に言い聞かす。
旅館の出入り口に着くとどこかでみたことのあるローブ姿の筋肉ドワーフを見つけたレイン。
(あれ?どっかでみたことあるような?どこだっけ?ローブ姿だし魔法職?なんかちょっと嫌な予感が……まさか!)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
レインがすでに城内にいないことを聞いたミッドは門兵の元へときていた。
「ミッド様誕生祭はよろしいのでしょうか!」
ミッドを見つけた門兵が背筋を正して緊張した面持ちで迎える。
「ご苦労。楽にしていいぞ。ちょっと聞きたいことがあるだけだ。」
「は!」
楽にしていいと言われても直立する以外にどうしろというのだと思いつつ門兵はミッドを詰め所へと案内しようとする。
「ここで構わん。大したことではないでな。」
「は!ではどのようなご用件でしょうか!私に分かることでしたら何なりと!」
「そう緊張せずとも良い。レインという冒険者がここを通ったはずだ。どこの宿に泊まってるか知りたいだけなのだが聞いておらんか?」
「は!レイン殿であればパトラ様との謁見が済んだということで現在泊まっている『月下風雲』に戻るとのことです。何か要件があるのでしたら呼んで参りますがいかがいたしましょう?」
「いや、構わん。私用に兵を使おうとは思わんよ。ちょっとした知り合いでな。向こうは覚えてるかわからんがちと挨拶したかっただけだ。出かけてくる。」
「承りました!」
なんとも仰々しい門兵に眉をしかめつつ城を出る。
(いつもいつもなんでああ緊張しておるのだ?真面目はいいがちと張り切りすぎだろう。難儀な性格よな。)
ミッドは自身の筋肉といかつい外見を棚上げしているが普通は筋骨隆々のいかついドワーフの上官にあったらこんなものだろう。もし何か粗相があってぶん殴られれば命に関わる。ましてやミッドはバーミリオン流。その筋肉量は常人のそれではない上に筋肉の質も段違いで実用的なものである。見せるだけでなく実践仕様のその筋肉で軽く小突かれでもしようものなら全治一週間は確実。
ドワーフ×バーミリオン流とかなんの冗談だとめまいがするほどの狂気である。
レインの居場所を聞き出したミッドは久しぶりに会う弟弟子にちゃんと覚えてもらえているのか心配になりつつも一緒に鍛えた中なのだから覚えてるはずだと意気揚々『月下風雲』に足を運ぶ。
この街で一番高級と言われる旅館『月下風雲』は高ランク冒険者御用達である。さすが弟弟子だと機嫌よく入口をくぐると番台に向かいレインが帰っていることを確認するミッド。
部屋の場所を教えてもらうか呼び出してもらうか考えていると視線を背中に感じる。ふと振り返るとそこにはレインが驚愕の表情でミッドを見ているようだった。
(ハハハ!驚いておるということは覚えておるのだな!)
ガクブルなレインとは裏腹に上機嫌のミッド
近い未来エルトゥールル公国兵士たちから混ぜるな危険と言われる二人の再開である。
ボルタはこれ以上何を聞こうと特に有益な情報が得られないと思い次の話題に移す。
「賊か…今回のような直接的なものはどうかわからん。だが『MYO』の情報によるとヴァルガード帝国が自国の犯罪者を他国に追いやっていると聞いたな。捕まえてたら密入国させ金や奴隷の女性を使って何かさせているらしい。ただ武器を流してる話は聞かないが……師匠なら何か知ってるかもしれん連絡を取ってみよう。」
「そうかすまんな。あの方も失踪について調べてるそうだが進展はないのか?」
「……すまん。俺にもその話はわからんのだ。師匠も不確かな情報を流すわけにいかないと言っててな。だが今回の件なら協力してくれるやもしれん。師匠はレインがお気に入りのようでなこの件でなんらかの疑いがあることを匂わせれば解決までしてくれるだろう。紳士的でないが背に腹はかえれん。」
「…この礼はまたしよう。」
いつ紳士的なことを話していたのか疑問に思いつつ聞かなかったことにするボルタ。バーミリオン流の人間は時折訳のわからないことを口にすることも有名な話だ。とりあえず無視する、話題を転換することも大事な付き合い方である。細かいことは気にしてはいけない集団だ。
「あぁ、今レインが城に居るらしいな。会ってこようと思うのだがいいか?」
「あぁ、そうだな。っとそうだ!さっき外に出て言ったみたいだから今城にはおらんぞ。」
「ぬ?どういうことだ?」
「昨日パトラ様が言ってたんだが馬のいない車をそのレインが作ったそうでな。今日はその車で来ると言っていたのだが今しがた出て行くのが窓から見えてな。」
「何!?馬のいない車だと?」
「あぁ。人の力で走るのだが人力車とも違い馬車よりも早いそうだ。まぁ『MYO』の人間と聞けば人力車であっても馬より早いだろうがな。」
「ハハ!違いない。だが気になるな。どこかの宿にいるだろうし見て来るとしよう。」
「もし良さそうなら買い取れないか交渉してきてくれ。」
「あぁわかった。行って来る。」
そう言って別れるとミッドは足早に門兵の元へと行く。
ボルタはミッドの背中を見送ると誕生祭の会場へと足を向ける。
レイン達が部屋に戻ると深くため息を吐く。
「はぁ~…やっちゃったな…」
「大丈夫ですか?」
「お兄ちゃん?」
心配そうに顔を覗き込む2人にぎこちない笑顔を向けると頭を撫でる。
「俺は大丈夫だよ。それよりパトラがね…」
「パトラおねぇちゃんなら次会った時にごめんなさいしたら許してくれるよ。」
「そうです。ロアの言うとおりですよ!私たちのようなものにも優しくしてくれたパトラ様なんですから!」
「う~ん…そうだね。ちゃんと謝ってからだよね。」
2人に励まされてちょっと元気が出てきたレイン。
レインの表情が少し明るくなると2人の顔も花が咲いたように明るくなる。
「あ!そうだそうだプルシアーナのネックレス!」
そこでようやくプルシアーナのネックレスを置いてきたことを思い出す。
レインは自身のイベントリを開いて代わりになる結界生成機能のあるネックレスを検索する。
いくつか種類があるが制限のあるものやステータス依存のもの、自身の魔力を使うものなどプルシアーナに使えそうのないものを省いて行く。女性であるプルシアーナがつけてもなんらおかしくないシンプルなネックレスを探していると一つ良さげなものに目が止まる。
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神狼牙の首飾り レア度10
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神狼の加護が込められており1日3時間程度外敵から身を守ってくれる。
獣人種に大きな恩恵を与えるとされている。
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これは詳細な鑑定ができない神獣の素材が使われた神器で世界に4個存在する。
神器が4個と聞くと多いと思わないでもないがゲームであるときはこの4個でも少ないと言ってたぐらいだ。世界に1つしかないアイテムもあるがそれを思うと比較的良心的な神器である。
獣人であればステータス上昇に状態異常耐性も上がるためにかなり人気のアイテムだがレインにしてみればただのおしゃれアイテムであった。
なお獣人の中でも犬人・狼人なら更に上昇するので喉から手が出るほど欲しいアイテムで神狼フェンリルに認められた証である。フェンリルを信仰している集落に入った時にこの首飾りをしていることを見られるとその村の人間ががこぞって押しかけ子孫を作ってくれと言われるある種のハーレム神器で男女ともにモフラーがこぞって狙ったものである。レインはモフラーというわけではなかったがコレクターとして欲していたために争奪戦に参戦した。
ちなみに4個のうち1個はNPCの神狼の巫女が持っているため実質3個しかない。神狼の森にいるフェンリルの依頼をクリアすることで得られるこのアイテムを持っているのはレイン以外は女性プレイヤーなので現実となった今ではレインしか犬耳ハーレムできないのだがゲーム時代に堪能したレインはもうどうでもいい。
このアイテムは神狼から認められなければ所持できない神器というだけあって譲渡不可アイテムであり、デスペナのロストもなく闇職にも盗まれることはない。ただ自身の配下やパーティー内での貸し借りはできるためプルシアーナに装備させることができる。貸しているときは本来の力の半分も効果を発揮しないが半分でも十分すぎる。
「これにしよう!」
神狼の首飾りを取り出すとプルシアーナの首にかけるレイン。
淡い光を放つ牙がプルシアーナの胸元に映える。牙から漏れ出る光がプルシアーナの中へと流れ込むように胸元へと吸い込まれていく。
「ひゃぅ!」
レインが何かすごい代物を出したことだけはわかったがその牙に見ほれて呆然としてたプルシアーナ。悔い飾りから体の中に入ってくる光に驚き悲鳴をあげる。直後、腹の底から熱い力の塊のようなものが溢れ出し身体中を駆け巡る。
とっさに首飾りを触ろうとしたが手がすり抜けてしまい何が何だかわからないプルシアーナ。
(へぇすり抜けるんだ…譲渡不可ってそうなってんだなぁ)
現実になった今譲渡不可アイテムはどうなるんだと思っていたが手がすり抜けるのかと感心する。
「なんですか!これなんですか!!」
「え?結界魔道具の代わりの首飾りだけど?」
悪びれもなくむしろやり遂げた感を匂わせるレイン。
ただイベントリから取り出して首に掛けただけなのだがなぜか誇らしげだ。
「あの、なんか、胸に入って、くるような、う…お腹の底から突き上げてっ!はぅ」
「あれ?プルシアーナ?どうしたの?ねぇ!大丈夫?」
「おねぇちゃん!」
ストンとその場に崩れ落ちて上気させる顔。息を荒げて何か気分が高揚しているようだ。
レインはついさっきやらかした後だというのにまた何かやってしまった学習しない自分に腹立たしく思いながら首飾りを外すためプルシアーナに近づく。
よく考えずとも魔道具で一喜一憂したのに神器など与えるほうの感覚がおかしいのだがゲームに染まった頭をすぐに切り替えるのも難しい。
「ごめん!すぐに外すから!」
「だ、大丈…です、よ。レイ…私の、思っての…ですから。苦し…ないんです。これで、足を、引っ張ら…い…もんね。私、一緒に…レインさんと一緒にいたいですから!」
レインが首飾りを外そうとするとする手を掴んでプルシアーナが力強い目を向ける。
プルシアーナは力が溢れてくることに酔ってきているのだが自分がこの首飾りに耐えれるとレインと一緒にいることができるような気がしている。高揚して気分が良くなるような力が溢れて気持ち悪いようなよくわからない感情の渦に揉まれながらもレインと一緒にいたいと強く思うようになってきたプルシアーナは必死にこの激しい力の渦を受け入れる。
常識がずれているところがあるが両親と同じくらい暖かく優しいレインの側にいたいと本心から思うようになっている。自分が孤児で可哀想だから一緒にいてくれることぐらい理解していると思いつつその同情で一緒にいれるのならそれでもいいとさえ思う自分の醜さに嫌気がさしていたところだったのだ。近くにいるためには必要なことだと必死に耐える。
レインと一緒にいるために
ロアナと一緒にいるために
自分の弱さに負けないために
レインはプルシーアーナの力強い目に戸惑いながらもどうしていいのかわからないでいた。
安易な言動で怒らせたパトラ、安易に神器を与えてしまって今何かに耐えているプルシアーナ。自身の軽率な行動がみんなに迷惑をかけている。
異世界モノの小説ではどうだったか?
ゲームの設定は?
今自分はどうしたらいい?
これは夢?それとも現実?
どうしたら正解なのか自分は誰かと一緒にいてはいけないのではないか?
何もかもわからない。
ただプルシアーナはレインの目を強く見据え「一緒にいたい」と言った。
(俺はまだゲーム感覚なんだな。浮かれすぎてるんだな。プルシアーナはゲームのNPCなんかじゃないんだよな。)
頭の中が少しづつクリアになっていく。
浮かれ気分でゲームを楽しんでいた。そんな自分を今更客観視することができたようだ。
神器と言われるアイテムが力を与えるのになんの代償もないとなぜ思ったのか。
アニメみたいにすぐ体が順応するはずなどないだろうに。
なんのために神獣の許可がいるのだ!体が耐えれるのか見るためだろうと今なら理解できる。
(もっと今の情報を知らないと。大きな事件があって5年も経てばお金の価値が変わってるよな?魔道具であの騒ぎならどの程度のアイテムならいいんだ?レア度は?品質は?職人ってどの程度?ゲームの時との差異は?)
何もわからない。
情報を知ろうとしてなかったからだ。聞いていた、いや聞こえていた情報だけでもどれだけ重要なものがあったのか今更思い知る。
もっと慎重に真剣に聞いておけば!
なんであっさり聞き流して適当な相槌をしていたのか!
戻れるのならあの時の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。
悔やんでも仕方がないとこれからのことを考える。目の前で呻き声をあげるプルシアーナが心配でまともに考えはまとまらないが情報収集をしなければいけないことだけはわかった。
収集
レインの得意分野である。
なぜ今までしなかったのかアホだと思う。
情報も収集するのが楽しいハラハラドキドキするものだったじゃないかと自分に言い聞かせるが問題はレインの詳報収集がいつもどこか虫食い状態であることだ。興味のある分野には突出してるが世情を知るには不安がある。
そうこう考えている間にプルシアーナの様子が安定してきている。
「ふ~ふ~…レインさん。もう、んっ…ハァ、もう大丈夫です。これでレインさんの足を引っ張りませんよ。一緒にいれますね!」
満面の笑みでそういうプルシアーナだが疲労の色が濃い。
嬉しい反面無理して欲しくないレインはすぐに布団を用意して寝かせる。
「頑張ったね。疲れたでしょ?ちょっと休むといいよ。ロアナも一緒にいてあげて。俺は…元気が出る食べ物を買ってくるよ。」
「わかった!おねぇちゃんのお世話するよ。」
さっきまで心配していたロアナが元気よく返事するとタオルでプルシアーナの汗を拭き始める。レインは飲料水を布団のそばに置くと部屋から出ていく。出る前に知らない人を部屋に入れないように言って連絡用魔道具を一つロアナに手渡すと使い方を簡単に説明する。これも今は貴重なものだろうがこればっかりは仕方ないと自分に言い聞かす。
旅館の出入り口に着くとどこかでみたことのあるローブ姿の筋肉ドワーフを見つけたレイン。
(あれ?どっかでみたことあるような?どこだっけ?ローブ姿だし魔法職?なんかちょっと嫌な予感が……まさか!)
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レインがすでに城内にいないことを聞いたミッドは門兵の元へときていた。
「ミッド様誕生祭はよろしいのでしょうか!」
ミッドを見つけた門兵が背筋を正して緊張した面持ちで迎える。
「ご苦労。楽にしていいぞ。ちょっと聞きたいことがあるだけだ。」
「は!」
楽にしていいと言われても直立する以外にどうしろというのだと思いつつ門兵はミッドを詰め所へと案内しようとする。
「ここで構わん。大したことではないでな。」
「は!ではどのようなご用件でしょうか!私に分かることでしたら何なりと!」
「そう緊張せずとも良い。レインという冒険者がここを通ったはずだ。どこの宿に泊まってるか知りたいだけなのだが聞いておらんか?」
「は!レイン殿であればパトラ様との謁見が済んだということで現在泊まっている『月下風雲』に戻るとのことです。何か要件があるのでしたら呼んで参りますがいかがいたしましょう?」
「いや、構わん。私用に兵を使おうとは思わんよ。ちょっとした知り合いでな。向こうは覚えてるかわからんがちと挨拶したかっただけだ。出かけてくる。」
「承りました!」
なんとも仰々しい門兵に眉をしかめつつ城を出る。
(いつもいつもなんでああ緊張しておるのだ?真面目はいいがちと張り切りすぎだろう。難儀な性格よな。)
ミッドは自身の筋肉といかつい外見を棚上げしているが普通は筋骨隆々のいかついドワーフの上官にあったらこんなものだろう。もし何か粗相があってぶん殴られれば命に関わる。ましてやミッドはバーミリオン流。その筋肉量は常人のそれではない上に筋肉の質も段違いで実用的なものである。見せるだけでなく実践仕様のその筋肉で軽く小突かれでもしようものなら全治一週間は確実。
ドワーフ×バーミリオン流とかなんの冗談だとめまいがするほどの狂気である。
レインの居場所を聞き出したミッドは久しぶりに会う弟弟子にちゃんと覚えてもらえているのか心配になりつつも一緒に鍛えた中なのだから覚えてるはずだと意気揚々『月下風雲』に足を運ぶ。
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部屋の場所を教えてもらうか呼び出してもらうか考えていると視線を背中に感じる。ふと振り返るとそこにはレインが驚愕の表情でミッドを見ているようだった。
(ハハハ!驚いておるということは覚えておるのだな!)
ガクブルなレインとは裏腹に上機嫌のミッド
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身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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