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まずは手早く作れるものから作成開始だ。
バランスボールとメディシンボールを作るとミッドに使い方を簡単に説明する。
するとどうしたことだろうか?
作業場にいた兵士たちの顔色がみるみる悪くなって行く。
「あ…やべ」
「ミッド様が笑って…」
「お、俺ちょっと用事が…」
レインは自身の作った筋トレ用品の説明を終えると兵士の青ざめた顔に気づく。
どうしたのかと考えたが自身のしでかしたことに気づ…かなかったことにする。
「レイン!では一緒に試そうか。」
「いえ、まだ作るものあるんでその辺の兵士と頑張ってください。」
まさかこっちに話を降ってくるとは思わず目線をさまよわせながら生贄を差し出す。
(兵士諸君!俺がミッドの拷問に付き合わないため生贄となってくれたまへ)
絶望に染まった兵士達がレインに恨みがましい視線を送る。
(ふっ!そんな視線向けようともミッドの拷問から逃れるために君たちを売るのにためらいなど…ない!)
「そうかそれでは仕方ないな。では試してくる。」
ざわつく兵士達からスッと目をそらすとせっせとトレーニング器具を作る。
絶対拷問を受けたくない!ただそのための言い訳を作るために…
面白半分に作るトレーニング用品は魔法を付与し魔道具化させる。
ゴムチューブには刻印魔法で魔力を込めれば込めるほど硬くなり伸ばしにくくなるようにして一本で負荷を変化できるためいちいち交換することなく自分で負荷の調整ができる優れものだ!魔力が少ない人にとっては意味がないように思うがまぁいいだろう。
ランニングマシーンは金属の板がついており魔石を使って魔力を補充する魔道具にしている。
金属板で速度と斜度が変化できるようになっており付属の腕輪をつけると心拍数を測ることができるのでどれだけの負荷がかかっているのか調べることも可能だ。これで筋トレをサボることはできないだろう。自分で首を絞めてるように思ったがミッドと会うことはほとんどないので多分大丈夫。同様にエアロバイクも作成。もちろんどのトレーニング器具も5台は作るようにしているので兵士の皆さんから歓声が聞こえる。喜んでくれているはずなので黄色い声が聞こえるはずなのだが怒声が混じっているような気がする。多分疲れからくる幻聴に違いない。
ウエイトトレーニングマシンも作りこちらも魔力を使って負荷を変化できるようになっている。魔石消費型になっているので誰でも使えるようにしている。どれもこれも地球のトレーニング用品を参考にしたものだが使っている技術は魔法によって強引に再現したものだ。見た目は同じだがかかる負荷も仕組みも多分違う。
色々と作ってみたが酸素濃度を変える機能付きのマスクはかなりのものだと思う。低酸素状態を作りそこで筋トレするのは地球でも使われている手法であるのだが、高酸素にすると疲労回復を早めてくれるので効率よくトレーニング可能。また、筋トレ以外にも単純にガスマスクとなる優れものだ。
普通につけて日常生活を送るだけでもトレーニングになりそうなのでこれは余分に作る。
レインが作った器具をミッドが兵士たちと一緒にタノシソウに使っているのを横目にせっせと作っては筋トレの誘いに来るミッドに「まだ作るものがあるから」と視線をそらして新たな器具を作成する。その度突き刺さる視線が多少痛いがミッドの拷問に比べればそよ風のようだ。
ミッドから逃れるために作り続けた筋トレ用品がどんどん兵士たちの体をいじめるがレインには関係ない。
関係ないったら関係ない。
酸素マスクは低酸素にも高酸素にもできるためより効率的にトレーニングができると嬉しそうな兵士たちがレインに向けて感謝を訴えかけていると思えばいいのだ。だいたい声が大きいし何言ってんのかわからん。
◇マスク着用(低酸素モード)
「なんだこれ!」
「くるし…」
「うっ!体重い!」
マスク着用(高酸素モード)
「うわ!めっちゃ息しやすい!?」
「疲れがとれるなぁ」
「え?もうワンセットするんですか!?」
「なんてもの作ってんだ!!」
「殺す気ですか!?」
「もうやめて~」
「し…死ぬ……」
「悪魔だ…あんたは悪魔だ!」
(よ、喜んでる喜んでる。うん、あんなに喜んでくれるなんて…)
「レイン!これはいいな!?バーミリオン門下の皆にもどうだ?特にこのマスク!簡単な運動でもかなりの負荷がかかるぞ!?」
ミッドの喜ぶ顔に身震いしながらも絶対に、絶対に一緒にトレーニングだけはしないように筋トレ用品を作り続ける。
それはもう悪魔に魂を売るかのごとく貢物を作り続ける。
兵士の喜ぶ声に軽く手を合わせて心の中では成仏してくれるようにと南無阿弥陀仏と唱える。
この世界で効果があるのかはわからんが精神的にはちょっと楽になった。
夕方になり屍のように横たわる兵士たちが量産されることになったが横たわりながらも足をしっかり地面から浮かしていたり、上半身をそらしたりして腹筋や背筋に負荷をかける兵士たちを見ると既に末期のようだ。
ミッド特性プログラムの被害者はいつもこうだ。そろそろ第二段階に移るだろうがその前にここから逃げなければならない。一応紳士を自称しているミッドなので女性には筋トレを強要していないらしく女性陣は兵士たちを不自然なまでに見ようとせず自転車を楽しんでいるようだ。まだぎこちないが一日で乗れるようになるのはすごい身体能力だなと思いながらプルシアーナとロアナを連れて旅館に撤退することにしたレイン。
さすがにもう城から出て行っても文句など言うものはいないだろう。むしろ兵士たちはもっと早く出て行って欲しかったんじゃないかとさえ思うがミッドから逃れるためには仕方のない犠牲だったのだと思いたい。
城を出ると旅のための備品を購入しに行く。靴に食器、食料と買い足して行くだがよく考えると靴以外に必要なものはほとんどない。強いて言えば今日使った分を補充したいのだが買い足せるものは以外と少ない。鉄や銅といった金属を買い足したいところなのだが今金属の流通が少ないらしく武器を鋳つぶすのが早いような気もする。
ゴム製品を作るために必要な薬品や簡単な魔法陣を描くための魔石なんかも少なくなってきている。薬品はなんとかできそうだが魔石の方は今の世情からするとレインが持ってる魔石は大きさ・品質共に出回っているものよりも良いようで人前で使いにくいのだ。まぁ人前で使わなければいいだけなんだが。
道具屋で低品質の魔石を買ってついでに下級のポーションも何本か買い求める。正直必要なさそうだが人前で使える下級ポーションの数が心もとなかったのだ。とは言えゲーム時代の1.2倍の値段になってるのはいかがなものだろうか?品質や効果も低いように見えるしどこまで物価の高騰があるのかかなり気になる。
自分で作ってもいいと思ったがここまで品質をおとして作るのは逆に難しい。
買い物して見ると改めて情報収集の大切さがわかる。こうした日用品や冒険者に必要な道具の値段を見るとどれだけ職人が不足しているのか物流が悪くなっているのかがなんとなくわかってくる。
貨幣価値が下がり物の値段が上がると感覚ではちょっとした値上げだがよく考えると大幅な値上げを行なっていることに気づくわけだ。どれだけ視野が狭まっていたのかと後悔したところで遅いのだが命の危機に陥るまでの失態でないだけマシだと思うことにした。
買い足したものはほとんどないが二人に新しい靴を買ってあげるとすごく喜んでいた。ボロボロで靴としての用途をなしていたのか怪しい布製のものだったがきちんと衝撃吸収できるように靴底に革を使った歩きやすいものになった。ならしていないものなので靴擦れの心配もあるが歩く旅でもないので多分大丈夫だと思う。
あとは生理用品に使えそうなものを購入した。使い捨てと考えると簡単に手に入るもので作りたいので道具屋で手に入るもので作る予定だ。
買い物に出たついでとばかりに冒険者ギルドによってプルシアーナとロアナの冒険者登録をすることにしたのだがロアナは断られてしまった。
ゲームの設定では登録には年齢制限がなかったのだが今は登録する際に12歳以上でなければできないと言われてしまったのだ。より正確にいうと冒険者の刻印が一定以上の身体能力に達していないと定着しないためになれないのだが、ゲームで登録できないことなどあり得ない。そんなことしようものならゲームを開始できずただのバグになってしまうのでアバターを何歳の設定にしてようが登録できていた。
だが現実世界となった今、子供が刻印の定着に必要な身体能力を持つことは稀であり毎回テストするにも冒険者になりたいものは多すぎるために年齢による規制をかけているそうだ。
それもそのはずイベントリが使えるようになればどれだけの物資を運べることになるのか考えただけでも膨大な量になる。と言っても刻印の定着には身体能力以外にも条件はある。ゲーム設定のままならギルドのルールを犯すと消失したりするようになっている。これがいわゆる闇落ちになるわけだ。プレイヤーで刻印がないのは闇職である。
ここで刻印がなければイベントリやいろんな補助を受けられないのか?というとそれは違った。闇職であっても冒険者の刻印の下位互換になる何かを取得することができるらしい。それが何かは闇職の人間しか知らないわけだがこの世界ではどうなっているのか心配だ。噂によればその何かはカルマ値によって補助機能を拡張できるらしい。よってゲームの時はカルマ値を上げるために犯罪を犯すプレイヤーも多かったのだが、闇職プレイヤーがこの世界に来て今もそれを続けてるものがいればどうなることやら……
閑話休題
現在は12歳未満の登録希望者は冒険者見習いというものに登録して依頼中はCランク以上かつギルドの信頼を得た実力冒険者と一緒に行動することを義務付け、Eランクの依頼までしか一緒に受けることができないという条件を整える必要がある。
12歳までは見習いとして仕事をこなし本登録までに冒険者のイロハを覚えることで生存率をあげる目的なのだという。本登録の際には試験を受けることでDランクまでの資格を得る制度があるために7歳ぐらいでとりあえず見習い登録して採取クエストを手伝う冒険者の子供や兵士の子供なんてのもいるそうだ。
ゲーム時代レインが刻印を調べたときの基準はステータスの合計が50以上で刻印が定着していた。ゲーム開始時のキャラメイクは50をランダムに割り振られ追加で種族毎に決められた能力値を与えられる。追加分は自由に割振れていたので刻印が定着する条件を余裕で達していた。だが現実となった今ではステータスというものが見えないために基準が全くわからないようだ。数値化しようにもその日の体調次第で筋力、体力は変化する。魔力だって体調によって増減するのだから絶好調の時には冒険者登録可能だが体調を崩すと刻印が消えましたなんて事件もあったらしい。ゲームではその日によってステータスが変動することなどないが今は違うということだ。
当然刻印が消えてしまえばイベントリ内のものがその辺に散らばるわけで危険物を持っていた場合その場でご臨終なんて事件もあったのだとか。
その事件以降体力や魔力のテスト内容が厳しくなったらしい。あとは自己責任だ。
登録の条件を聞いた時にはレインも驚きはしたが確かに誰でも登録できれば色々と問題も多いだろうと納得する。
今の刻印がどういった条件で定着するのかは公表されていないが以前のものに比べて厳しいということだけは確かなようだ。その割に刻印の性能は良くないというのだから納得がいかない。
夕方の就業時間間近ということもあり正式に冒険者登録をするための試験が受けられなかったが明日の朝一になら受けられるということなのでプルシアーナの試験予約を済ませる。ロアナは銅製の見習い証を発行してもらい見習い登録を済ませておく。もちろんレインが保護者だ。
王都への出発時刻は城を出る前に聞いたところ作ったばかりのエルル改に荷物を載せるのとミッドの緊急性のある仕事を片付ける必要があるために朝食を食べて少ししてからでも十分間に合うと教えてもらっていたので多分大丈夫。
一通り用事を終えると今日で最後となる『月下風雲』の部屋に帰ってくる。
今日の夕食は肉じゃがのようだ。しっかりと味のしみたジャガイモが癖になりそうな晩御飯だった。
お吸い物と茄子の煮浸しもなかなかいい味をしていたのだがロアナはナスを食べると喉が痒くなったようでプルシアーナに食べてもらっていた。はじめは好き嫌いはダメだと怒られてる様子だったのだがレインが体質的|(アレルギー等)に食べれない人がいることを説明すると勿体無いからとプルシアーナが食べていた。その代わりにプルシアーナは肉じゃがのジャガイモと人参をロアナのお皿に入れて食事の量を調節していたようだ。
レインはしっかりした姉だと感心しつつ楽しい夕食を終える。
食後は明日からの王都行きの準備だ。ちなみに王都の名前はファルガと言いこの国を守護している『大地の化身』が名付けたという設定だった。何人かの上位プレイヤーはその大地の化身にあったことがあるようで掲示板には大きさを自在に変化させる象のようなモンスターでベヒモスの原種ではないかと書かれている。
王都にはエルル改で向かう予定なので特に旅支度というほどのものはいらないのだが、カバンや服装は防犯上高価なものものは控える必要がある。大きな被害のなかったエルトゥールルは盗賊の類は他国に比べると少ないがいることはいる。現にパトラが襲われていたのだから危険はある。よってあまり高級なものを身につけていると襲われる危険性もあるため最低限の安全性を保った装備品で行くことにした。ゲーム時代の感覚でいると痛い目を見ることはこの数日でよく身にしみた。
とはいえエルル改自体が異様に目立っているため気にしたところで意味はないのだが……
カバンは先ほど新調して空間拡張の魔法によって見た目の数倍入るものを買ってある。冒険者登録できればイベントリが使えるようになるのだが今の刻印は昔のものよりも性能が悪く個人差はあるが大体20キロほどの容量だとの噂だ。これが多いのか少ないのかは意見が分かれるだろうがレインの感覚では少なすぎる。
他にもイベントリは収納に特化しすぎていて取り出す時にはやや面倒なのだ。刻印からウインドウと呼ばれる四角い画面をいちいち呼び出して操作しなければいけないし、取り出す際は急に目の前か手の上に出てくるために扱いに慣れるまで時間がかかる。戦闘中なら大きなスキとなるのですぐに使うものはショートカット用のポーチやマジックバックを使うのが一般的だ。ショートカットポーチはプレイヤーの初期装備であるためにこの世界の住人は持っていないのでプルシアーナとロアナはマジックバック一択になる。
高価なものではあるが小さなマジックバックは意外と流通しているためにそう目立つことはない。ちょっと頑張れば平民でも買えるほどの値段だ。
これもプレイヤーが空間魔石を使わないマジックバックを開発したためなのだがそれ自体は問題ない。性能は一部の例外はあるが動物は入らない、カバンの口より大きいものは入らない、時間経過する、液体がなぜか膨張してしまうなど多少不便なことはあるがその利便性を思えば許容範囲内だろう。
二人に購入したものはリュックとポーチタイプでどちらも低品質品だ。まだ戦闘訓練をしていないため襲われるリスクが低いものにした。
服にお金、非常食、ポーションなどいざという時に役立ちそうなものを二人に渡して自分の使いやすいよう自由にしていいことを伝えてレインは自身の準備を始める。
バランスボールとメディシンボールを作るとミッドに使い方を簡単に説明する。
するとどうしたことだろうか?
作業場にいた兵士たちの顔色がみるみる悪くなって行く。
「あ…やべ」
「ミッド様が笑って…」
「お、俺ちょっと用事が…」
レインは自身の作った筋トレ用品の説明を終えると兵士の青ざめた顔に気づく。
どうしたのかと考えたが自身のしでかしたことに気づ…かなかったことにする。
「レイン!では一緒に試そうか。」
「いえ、まだ作るものあるんでその辺の兵士と頑張ってください。」
まさかこっちに話を降ってくるとは思わず目線をさまよわせながら生贄を差し出す。
(兵士諸君!俺がミッドの拷問に付き合わないため生贄となってくれたまへ)
絶望に染まった兵士達がレインに恨みがましい視線を送る。
(ふっ!そんな視線向けようともミッドの拷問から逃れるために君たちを売るのにためらいなど…ない!)
「そうかそれでは仕方ないな。では試してくる。」
ざわつく兵士達からスッと目をそらすとせっせとトレーニング器具を作る。
絶対拷問を受けたくない!ただそのための言い訳を作るために…
面白半分に作るトレーニング用品は魔法を付与し魔道具化させる。
ゴムチューブには刻印魔法で魔力を込めれば込めるほど硬くなり伸ばしにくくなるようにして一本で負荷を変化できるためいちいち交換することなく自分で負荷の調整ができる優れものだ!魔力が少ない人にとっては意味がないように思うがまぁいいだろう。
ランニングマシーンは金属の板がついており魔石を使って魔力を補充する魔道具にしている。
金属板で速度と斜度が変化できるようになっており付属の腕輪をつけると心拍数を測ることができるのでどれだけの負荷がかかっているのか調べることも可能だ。これで筋トレをサボることはできないだろう。自分で首を絞めてるように思ったがミッドと会うことはほとんどないので多分大丈夫。同様にエアロバイクも作成。もちろんどのトレーニング器具も5台は作るようにしているので兵士の皆さんから歓声が聞こえる。喜んでくれているはずなので黄色い声が聞こえるはずなのだが怒声が混じっているような気がする。多分疲れからくる幻聴に違いない。
ウエイトトレーニングマシンも作りこちらも魔力を使って負荷を変化できるようになっている。魔石消費型になっているので誰でも使えるようにしている。どれもこれも地球のトレーニング用品を参考にしたものだが使っている技術は魔法によって強引に再現したものだ。見た目は同じだがかかる負荷も仕組みも多分違う。
色々と作ってみたが酸素濃度を変える機能付きのマスクはかなりのものだと思う。低酸素状態を作りそこで筋トレするのは地球でも使われている手法であるのだが、高酸素にすると疲労回復を早めてくれるので効率よくトレーニング可能。また、筋トレ以外にも単純にガスマスクとなる優れものだ。
普通につけて日常生活を送るだけでもトレーニングになりそうなのでこれは余分に作る。
レインが作った器具をミッドが兵士たちと一緒にタノシソウに使っているのを横目にせっせと作っては筋トレの誘いに来るミッドに「まだ作るものがあるから」と視線をそらして新たな器具を作成する。その度突き刺さる視線が多少痛いがミッドの拷問に比べればそよ風のようだ。
ミッドから逃れるために作り続けた筋トレ用品がどんどん兵士たちの体をいじめるがレインには関係ない。
関係ないったら関係ない。
酸素マスクは低酸素にも高酸素にもできるためより効率的にトレーニングができると嬉しそうな兵士たちがレインに向けて感謝を訴えかけていると思えばいいのだ。だいたい声が大きいし何言ってんのかわからん。
◇マスク着用(低酸素モード)
「なんだこれ!」
「くるし…」
「うっ!体重い!」
マスク着用(高酸素モード)
「うわ!めっちゃ息しやすい!?」
「疲れがとれるなぁ」
「え?もうワンセットするんですか!?」
「なんてもの作ってんだ!!」
「殺す気ですか!?」
「もうやめて~」
「し…死ぬ……」
「悪魔だ…あんたは悪魔だ!」
(よ、喜んでる喜んでる。うん、あんなに喜んでくれるなんて…)
「レイン!これはいいな!?バーミリオン門下の皆にもどうだ?特にこのマスク!簡単な運動でもかなりの負荷がかかるぞ!?」
ミッドの喜ぶ顔に身震いしながらも絶対に、絶対に一緒にトレーニングだけはしないように筋トレ用品を作り続ける。
それはもう悪魔に魂を売るかのごとく貢物を作り続ける。
兵士の喜ぶ声に軽く手を合わせて心の中では成仏してくれるようにと南無阿弥陀仏と唱える。
この世界で効果があるのかはわからんが精神的にはちょっと楽になった。
夕方になり屍のように横たわる兵士たちが量産されることになったが横たわりながらも足をしっかり地面から浮かしていたり、上半身をそらしたりして腹筋や背筋に負荷をかける兵士たちを見ると既に末期のようだ。
ミッド特性プログラムの被害者はいつもこうだ。そろそろ第二段階に移るだろうがその前にここから逃げなければならない。一応紳士を自称しているミッドなので女性には筋トレを強要していないらしく女性陣は兵士たちを不自然なまでに見ようとせず自転車を楽しんでいるようだ。まだぎこちないが一日で乗れるようになるのはすごい身体能力だなと思いながらプルシアーナとロアナを連れて旅館に撤退することにしたレイン。
さすがにもう城から出て行っても文句など言うものはいないだろう。むしろ兵士たちはもっと早く出て行って欲しかったんじゃないかとさえ思うがミッドから逃れるためには仕方のない犠牲だったのだと思いたい。
城を出ると旅のための備品を購入しに行く。靴に食器、食料と買い足して行くだがよく考えると靴以外に必要なものはほとんどない。強いて言えば今日使った分を補充したいのだが買い足せるものは以外と少ない。鉄や銅といった金属を買い足したいところなのだが今金属の流通が少ないらしく武器を鋳つぶすのが早いような気もする。
ゴム製品を作るために必要な薬品や簡単な魔法陣を描くための魔石なんかも少なくなってきている。薬品はなんとかできそうだが魔石の方は今の世情からするとレインが持ってる魔石は大きさ・品質共に出回っているものよりも良いようで人前で使いにくいのだ。まぁ人前で使わなければいいだけなんだが。
道具屋で低品質の魔石を買ってついでに下級のポーションも何本か買い求める。正直必要なさそうだが人前で使える下級ポーションの数が心もとなかったのだ。とは言えゲーム時代の1.2倍の値段になってるのはいかがなものだろうか?品質や効果も低いように見えるしどこまで物価の高騰があるのかかなり気になる。
自分で作ってもいいと思ったがここまで品質をおとして作るのは逆に難しい。
買い物して見ると改めて情報収集の大切さがわかる。こうした日用品や冒険者に必要な道具の値段を見るとどれだけ職人が不足しているのか物流が悪くなっているのかがなんとなくわかってくる。
貨幣価値が下がり物の値段が上がると感覚ではちょっとした値上げだがよく考えると大幅な値上げを行なっていることに気づくわけだ。どれだけ視野が狭まっていたのかと後悔したところで遅いのだが命の危機に陥るまでの失態でないだけマシだと思うことにした。
買い足したものはほとんどないが二人に新しい靴を買ってあげるとすごく喜んでいた。ボロボロで靴としての用途をなしていたのか怪しい布製のものだったがきちんと衝撃吸収できるように靴底に革を使った歩きやすいものになった。ならしていないものなので靴擦れの心配もあるが歩く旅でもないので多分大丈夫だと思う。
あとは生理用品に使えそうなものを購入した。使い捨てと考えると簡単に手に入るもので作りたいので道具屋で手に入るもので作る予定だ。
買い物に出たついでとばかりに冒険者ギルドによってプルシアーナとロアナの冒険者登録をすることにしたのだがロアナは断られてしまった。
ゲームの設定では登録には年齢制限がなかったのだが今は登録する際に12歳以上でなければできないと言われてしまったのだ。より正確にいうと冒険者の刻印が一定以上の身体能力に達していないと定着しないためになれないのだが、ゲームで登録できないことなどあり得ない。そんなことしようものならゲームを開始できずただのバグになってしまうのでアバターを何歳の設定にしてようが登録できていた。
だが現実世界となった今、子供が刻印の定着に必要な身体能力を持つことは稀であり毎回テストするにも冒険者になりたいものは多すぎるために年齢による規制をかけているそうだ。
それもそのはずイベントリが使えるようになればどれだけの物資を運べることになるのか考えただけでも膨大な量になる。と言っても刻印の定着には身体能力以外にも条件はある。ゲーム設定のままならギルドのルールを犯すと消失したりするようになっている。これがいわゆる闇落ちになるわけだ。プレイヤーで刻印がないのは闇職である。
ここで刻印がなければイベントリやいろんな補助を受けられないのか?というとそれは違った。闇職であっても冒険者の刻印の下位互換になる何かを取得することができるらしい。それが何かは闇職の人間しか知らないわけだがこの世界ではどうなっているのか心配だ。噂によればその何かはカルマ値によって補助機能を拡張できるらしい。よってゲームの時はカルマ値を上げるために犯罪を犯すプレイヤーも多かったのだが、闇職プレイヤーがこの世界に来て今もそれを続けてるものがいればどうなることやら……
閑話休題
現在は12歳未満の登録希望者は冒険者見習いというものに登録して依頼中はCランク以上かつギルドの信頼を得た実力冒険者と一緒に行動することを義務付け、Eランクの依頼までしか一緒に受けることができないという条件を整える必要がある。
12歳までは見習いとして仕事をこなし本登録までに冒険者のイロハを覚えることで生存率をあげる目的なのだという。本登録の際には試験を受けることでDランクまでの資格を得る制度があるために7歳ぐらいでとりあえず見習い登録して採取クエストを手伝う冒険者の子供や兵士の子供なんてのもいるそうだ。
ゲーム時代レインが刻印を調べたときの基準はステータスの合計が50以上で刻印が定着していた。ゲーム開始時のキャラメイクは50をランダムに割り振られ追加で種族毎に決められた能力値を与えられる。追加分は自由に割振れていたので刻印が定着する条件を余裕で達していた。だが現実となった今ではステータスというものが見えないために基準が全くわからないようだ。数値化しようにもその日の体調次第で筋力、体力は変化する。魔力だって体調によって増減するのだから絶好調の時には冒険者登録可能だが体調を崩すと刻印が消えましたなんて事件もあったらしい。ゲームではその日によってステータスが変動することなどないが今は違うということだ。
当然刻印が消えてしまえばイベントリ内のものがその辺に散らばるわけで危険物を持っていた場合その場でご臨終なんて事件もあったのだとか。
その事件以降体力や魔力のテスト内容が厳しくなったらしい。あとは自己責任だ。
登録の条件を聞いた時にはレインも驚きはしたが確かに誰でも登録できれば色々と問題も多いだろうと納得する。
今の刻印がどういった条件で定着するのかは公表されていないが以前のものに比べて厳しいということだけは確かなようだ。その割に刻印の性能は良くないというのだから納得がいかない。
夕方の就業時間間近ということもあり正式に冒険者登録をするための試験が受けられなかったが明日の朝一になら受けられるということなのでプルシアーナの試験予約を済ませる。ロアナは銅製の見習い証を発行してもらい見習い登録を済ませておく。もちろんレインが保護者だ。
王都への出発時刻は城を出る前に聞いたところ作ったばかりのエルル改に荷物を載せるのとミッドの緊急性のある仕事を片付ける必要があるために朝食を食べて少ししてからでも十分間に合うと教えてもらっていたので多分大丈夫。
一通り用事を終えると今日で最後となる『月下風雲』の部屋に帰ってくる。
今日の夕食は肉じゃがのようだ。しっかりと味のしみたジャガイモが癖になりそうな晩御飯だった。
お吸い物と茄子の煮浸しもなかなかいい味をしていたのだがロアナはナスを食べると喉が痒くなったようでプルシアーナに食べてもらっていた。はじめは好き嫌いはダメだと怒られてる様子だったのだがレインが体質的|(アレルギー等)に食べれない人がいることを説明すると勿体無いからとプルシアーナが食べていた。その代わりにプルシアーナは肉じゃがのジャガイモと人参をロアナのお皿に入れて食事の量を調節していたようだ。
レインはしっかりした姉だと感心しつつ楽しい夕食を終える。
食後は明日からの王都行きの準備だ。ちなみに王都の名前はファルガと言いこの国を守護している『大地の化身』が名付けたという設定だった。何人かの上位プレイヤーはその大地の化身にあったことがあるようで掲示板には大きさを自在に変化させる象のようなモンスターでベヒモスの原種ではないかと書かれている。
王都にはエルル改で向かう予定なので特に旅支度というほどのものはいらないのだが、カバンや服装は防犯上高価なものものは控える必要がある。大きな被害のなかったエルトゥールルは盗賊の類は他国に比べると少ないがいることはいる。現にパトラが襲われていたのだから危険はある。よってあまり高級なものを身につけていると襲われる危険性もあるため最低限の安全性を保った装備品で行くことにした。ゲーム時代の感覚でいると痛い目を見ることはこの数日でよく身にしみた。
とはいえエルル改自体が異様に目立っているため気にしたところで意味はないのだが……
カバンは先ほど新調して空間拡張の魔法によって見た目の数倍入るものを買ってある。冒険者登録できればイベントリが使えるようになるのだが今の刻印は昔のものよりも性能が悪く個人差はあるが大体20キロほどの容量だとの噂だ。これが多いのか少ないのかは意見が分かれるだろうがレインの感覚では少なすぎる。
他にもイベントリは収納に特化しすぎていて取り出す時にはやや面倒なのだ。刻印からウインドウと呼ばれる四角い画面をいちいち呼び出して操作しなければいけないし、取り出す際は急に目の前か手の上に出てくるために扱いに慣れるまで時間がかかる。戦闘中なら大きなスキとなるのですぐに使うものはショートカット用のポーチやマジックバックを使うのが一般的だ。ショートカットポーチはプレイヤーの初期装備であるためにこの世界の住人は持っていないのでプルシアーナとロアナはマジックバック一択になる。
高価なものではあるが小さなマジックバックは意外と流通しているためにそう目立つことはない。ちょっと頑張れば平民でも買えるほどの値段だ。
これもプレイヤーが空間魔石を使わないマジックバックを開発したためなのだがそれ自体は問題ない。性能は一部の例外はあるが動物は入らない、カバンの口より大きいものは入らない、時間経過する、液体がなぜか膨張してしまうなど多少不便なことはあるがその利便性を思えば許容範囲内だろう。
二人に購入したものはリュックとポーチタイプでどちらも低品質品だ。まだ戦闘訓練をしていないため襲われるリスクが低いものにした。
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でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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