憧れのゲーム世界へ

胸脇苦満

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城から出てまずはお昼ご飯にする。
貴族街を抜けると高級なお店が立ち並ぶ通りに出る。先ほどもらったお金もあるために懐は暖かい。まぁレインの懐はもともと暖かいを通り越しているのだがもう手に入りにくい旧硬貨を使わなくてもいいのはありがたい。

昼食に入ったお店はステーキ屋さんだった。
ライブクッキングスタイルのお店で目の前で出来上がる料理が食欲をそそる。
モンスターの肉を使った料理が目玉ということでお勧めを注文したところバッファブルという像のように巨大な牛のザブトンステーキ。ただ焼いて塩胡椒を振っただけなのだが甘い脂と心地よい歯ごたえで日本のA5ステーキともいい勝負な逸品だ。
調味料も高価になってる今こうしたシンプルな味付けが多いようで料理人にとっては調味料がないことに創作意欲がわかないものが増えてきているらしい。個人的にはこういう時こそとも思うが日本人とは気質が違うのかもしれない。
ダンジョンの浅い階層で取れる調味料は自然栽培より若干味は劣るが取れなくなると大きな問題であり今現在はかなり流通量が少ない。
徐々に冒険者も増えて昔のようにダンジョンアタックをするものも増えてきているものの至る所でダンジョンからモンスターが溢れるスタンビートが起こっているようで被害も多いようだ。
ここでも世界融合による問題が出ている。
ダンジョンの構成の変化も一つなのだが世界中が混乱に陥っていたここ数年の間ダンジョン探索・迷宮探索が滞ってモンスターが際限なく湧き続けたために起こった出来事なのだ。
ゲームであれば一定以上はわかないようにストップがかかるがあいにくここは現実世界である。
モンスターが無限とは言わないまでも沸き続けるスポットが人の都合に合わせてストップしてくれるはずもないのだ。

レインはレストランで食事しつつ料理人と世間話がてら情報蒐集をすると今世界全体で起きている問題に浮かれていられないかもしれないと気持ちを引き締める。
個人の感情でいうならこの世界に来れたことが嬉しいことであるがその原因となった事件によって世界中の人間が混乱しているとなれば1人浮かれてもいられない。

食事をすませると今度は宿を取ることにする。
レインはこれから城の中で仕事もあるが2人を巻き込むのも忍びない。
プルシアーナとロアナの疲労度を考えると宿に置いていった方がいいだろう。こうなってくるとアトーリアのフェリタニカに預けてくる方がよかったのではないかと思えてくるが過ぎたことは考えても仕方ない。
レインは城から比較的近い宿屋をとると2人を残して城に戻ると新しい車を作成する。


この日二台のエルルを作り上げたレインだが初めに納品したものとは異なり攻撃機能がないものを作った。戦争云々で変な疑いを避けるためだ。
さすがに戦車として使えるような代物をポンポン作るのまずいとミッドに釘を刺されて防御に重点を置いた仕組みにしてある。エルルを考えると攻撃に魔力を使っていては1日も持たずに魔力が枯渇する恐れもあったのでそれを考慮すれば攻撃性能などつけることはできないのだがそれも工夫次第なので釘を刺されたのだろう。
レイン自身も職業とスキルを収集しただけなので本職の人間に比べるとかなり落ちるので元々防御特化にするつもりだった。
ものを集めるのが好きなのであって作るのが好きなわけではないのでこれぐらいの妥協はなんとも思わない。

半日仕事で依頼を達成した翌日
レインは2人を連れて王都の観光をしていた。
せっかく来たのだから遊んで帰らないと損だと思ったのだ。
ゲームと比べると若干広く感じる町並みを眺めつつブラブラと店を冷やかす。
2人にとっては初めての王都ということもあってかすごく楽しそうにしている。
王都にあるギルドも冷かしつつふと結婚のことを思い出す。

「確かランクがB以上だと」
「え?なんですか?」

ポツリとつぶやいた内容にプルシアーナが反応する。

「あぁ結婚のこと思い出してね。冒険者だとどうやって結婚したらいいのかと思って。」

レインの言葉に顔を真っ赤にしたプルシアーナはアワアワとしつつも嬉しそうだ。
ギルドの受付で結婚について話を聞いてみると国に所属するか否かでも仕組みが変わるそうだ。
どこの国にも所属しない場合は特に結婚に縛りはない。それどころか国所属のものよりも法的にゆるいのでランクによる重婚は無視できる。ただしエルトゥールルに籍を置くものは重婚をする場合はそれ相応の力を示す必要があった。冒険者としてなのか証人としてなのか知識の面でもいい。なんらかの才能を持っていない限り重婚が認められていないとのことだ。
レインはどこの国にも属していない。強いていうならマイホームが「紀ノ国」にあるためそこだろうか?
となるとレインには重婚に対しての規制は全くない。これがいいことなのかというと一概にそういうわけでなない。
規制が緩いということは国は最低限しか守ってくれないということだ。
どこの国にも所属しないというのはそれ相応のリスクがあるということだ。

レインはその説明を聞いたのち2人に質問する。2人とも今年分の住民税を払っているので今年度はまだエルトゥールル国民である。レインと結婚するということは国から籍を抜きフリーの冒険者として活動することであり今受けることができる各種公的施設・サービスの有料化することになる。
正直なところ田舎暮らしの孤児院育ちでは最低限の教育と医療以外に大したサービスは受けていないのでロアナはともかくプルシアーナは公共施設もサービスも特に使うことはないのですぐに同意した。ロアナの方も2人と同じがいいということもあり二つ返事で同意する。といってもロアナはまだ結婚できる年齢ではない。冒険者の中での結婚できる年齢は正式に冒険者登録のできる12歳以上なのであと3年後ということになる。

結婚の手続きをすませるとまた街の中を散策しエルトゥールルの結婚での夫婦の印である方位磁石付きのブレスレットを購入した。
夫婦の歩く道しるべとしてエルトゥールルの商人が羅針盤を購入したのが由来だそうで羅針盤が小型化しブレスレット型の方位磁石となってからはお揃いの方位磁石付きブレスレットを購入するようになったそうだ。
商人らしいというかなんというか由来となった商会は今もエルトゥールルで一番大きな商会と聞けば自分たちの馴れ初めを商売にした商魂たくましい夫婦と言えるのだろう。



王都での用事も済ませたレインは宿に戻ると個人用の車を作成することにした。目立たないようにと思う反面中途半端なものは自分たちの身の安全を確保する意味では問題がある。
とはいえ王都で作る工房を持ってるわけでもなく城で作るのも許可を取ることはできないであろうことはわかっているので自転車を4台作ることにした。なぜ4台かというとミッドがアトーリアに帰るためのものだ。
転移魔法がある世界なのになぜ使わないのか?と思うものも多いだろう。
実は無課金で覚えられる転移魔法は目視範囲の短距離転移魔法だけだ。長距離は失伝した技術であるとされプレイヤーのみしか覚えられず課金することでしか覚えることができない。
課金アイテムとして存在する転移魔法は使い捨てのスクロールとテント型のマーカーを残して使用する。スクロールは自分が知っている場所であればどこにでも転移可能、テントは一度展開すると数日は収納できず転移で戻ると特定のアイテムを使ってテントにある転移魔法陣を修繕する必要が出るため安易に使うこともできない。面倒な設定付きで課金してまで欲しいものなのか微妙だ。

レインが持っているのはマイホームと毎年リリース記念で1回無料で回せる課金ガチャで手にいれたスクロールが1つにテントが2つ。そしてマイホームの反応がないということでマイホームの転移が使えるのかどかわからない上に使えたとしても今行きたい場所とは別の場所。要するにどこにも転移できない。
え?スクロールを使え?
無理無理消耗品使ってまでいくような意味がない。
ゲームじゃなくなった以上再現不可ではなくなっているはずなので研究すれば量産できるかもしれないものをおいそれと使えるもんですか!?

てな訳で移動手段は確保する必要がある。
工房がない以上自転車が妥当なところなのだ。
錬金術はかなり万能なもので金属の加工もできる。欠点として鍛治師のものより耐久が低かったりしっかりとしたイメージがなければ金属の厚さが均一でなかったり魔力を湯水のごとく消費することなどのデメリットもあるがそれでも設備がほとんどない場所でものづくりができるのだから十分だ。

作成したのは普通の自転車にちょっと衝撃吸収の魔法を強めに付与して電動自転車のようにサイクルアシストをする身体強化魔法を付与した特注品が3台と衝撃吸収のみがついてるものが1台。
本当はマウンテンバイクを作りたかったが4台作ることを考えると時間の兼ね合いで辞めることにしたのだ。
夜のうちに作って朝にはここを出ようと思っているので時間は大事。2人のレベリングに良さそうな場所も見つけてある以上そっちを優先したほうがよさそうなのだ。
作り終えた自転車をイベントリに収納すると明日の朝一番ミッドに自転車に私に行くことを2人に伝えて就寝することにした。
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