35 / 65
勘違いしちゃったお姫様
31
しおりを挟む廊下に出ると外で待機しているはずの衛兵が床に倒れ伏し、側には壁にもたれかかるようにして死の番人が立っていた。
うん、大丈夫。気を失っているだけだ。じきに目を覚ますだろう。
「どうやって出てこれた……と聞くのは愚問だな」
「そうでもないよー? 結構頑張ったんだからね。君、術式複雑にしすぎ。危うく出られないところだったよー」
「出られないようにしたつもりだったんだけどね」
甘かった。神殿の地下にある牢に繋いどいたんだけど、私もユアンもいない隙を狙って出てきおった。あー、またユアン達に何言われるか分かったもんじゃない。
「大人しく牢に戻れと言っても聴く気はあるか?」
「うーん。ないね」
清々しいまでの笑顔。誰か鈍器を貸してくれ。
綺麗な赤い花模様をつけて返すから。
「あっと、忘れるところだった。これ」
「……なんだ、これは」
「君のことがバレちゃってー。自分にも料理を作って欲しいってワガママ言うんだよ」
はい? バレちゃって? 誰に?
しかもワガママは自分にブーメランだろうが。胸に手を当ててよく考えろ。
「せっかくだし、半年後に魔王様の生誕祭があるからそこでってことになったから。そこで、これ。招待状」
「いらんわ」
なんで魔王サマ倒そうとしてる奴を自ら招こうとしてんのさ。バカなの? バカなんだね? バカなのか。
ジョシュアや、意外と頭脳戦だけに絞れば今のお前でもいけるかもしれません。
「じゃあ渡したから。まったねー」
「またがあってたまるか」
本当なら捕まえなきゃいけないんだろうけど、今は目撃者はいない。面倒なことしてもう一回捕まえ直すのも疲れるんだよ。
それにしてもこの王宮では魔術は使えないとか前にシンが言ってたような。どこが? フツーに使えてますが?
こりゃあ魔術師達の怠慢ですね。騎士団の後は魔術師達で憂さ晴ら……ゲホン。教育的指導をしましょうか。
「サーヤ、その招待状どうするつもり?」
「こんなもの持ってたらどこで魔王サマ方にバレるか分からん。燃やすに決まってる」
シンが姿を現し、招待状をジトッと睨みつけた。
もちろん魔王サマ方は某お二人だ。むしろ本物の方が偽物じゃああるまいか。そんな錯覚が神殿や官僚達の心中にあるからまともに魔王退治なんて考えないんじゃ。……ありえそうだから怖くて聞けない。
「ジョシュアは?」
「起きて庭で剣の稽古をしてる」
「相手は?」
「リヒャルトがしてくれてる」
「ならいいや」
ミハエル辺りだったら速攻で帰って変態を家から叩き出している。純粋で清らかなジョシュアに妙なこと教えられちゃたまったもんじゃない。
「はー。面倒なことが山積みだわ」
「なに一つ解決してないのはサーヤのサボり……なんでもないですよ、うん」
言いたいことがあるなら最後まで言えばいいのに。言い終わった後の五体満足の保証はしないけど。
「さぁて、今度こそ本当に帰りますか」
家への転移魔術を展開し、次の瞬間には我が家のリビング。私が帰ってきたのに気づいて家の中に駆け込んでくるジョシュア。その後ろからはドラゴンとリヒャルト。
「お帰りなさい!」
「ただいま。いい子にしていたか?」
「うん!」
「リヒャルト、貸しイチな?」
「……はい」
今日の御前会議の出席はリヒャルトが持ち込んできた仕事だった。なんでもユアンが出かけ際に捕獲して連れて行くように言ったとか。捕獲って私は家畜か!
別に一緒に行かなくても一人でもいけるし、行かなかった時のことを考えると欠席は許されない状況でリヒャルトの出番はなかった。ならば有効活用。ジョシュアが起きてくるまで待ってもらって稽古をつけてくれと言ったら即快諾。本当にできた奴だよ、リヒャルトは。
しかし、それはそれ、これはこれ。しっかりと休日の至福の時間の邪魔をしたツケは払ってもらおう。
「んー。やっぱり我が家が一番だなぁ」
ジョシュアを抱きしめながらの一言。ジョシュアはニコニコと満面の笑みを浮かべている。
やっぱりココが一番だと思います。それを邪魔する奴らには……どうしてやりましょうかね。フフフ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる