異世界って色々面倒だよね

綾織 茅

文字の大きさ
36 / 65
隣国でのオタノシミ

1

しおりを挟む




□■□■



 御前会議から数日後。


「んじゃー、いい子にしてるんだぞ?」
「……」


 おいおい、そんな顔をしてくれるなよ。
 ジョシュアはまるで親に捨てられた子供のように絶望に涙を……って泣くな! お前に泣かれると、私だって行きたくないっ!

 ひしっと抱き合う私達を周囲は同情半分呆れ半分で見守ってくれている。


「ほら、サーヤ。そろそろ出発の時間だろう?」
「あぁ。悪いね、頼んだよ」
「任せときなって!」
「あたしらがちゃあんと面倒みとくからさ」


 近所の頼もしいおばちゃん達の頼もしい言葉。それを聞くやいなや後ろから両肩を叩かれる。振り向きたくないと本能が言ってるよ、これ。しかし、振り向かない私にイラッとしているのだろう、段々と強められる手の圧力。


「このまま首、絞められたい?」


 冗談じゃねぇ!とでも言えば、もちろん冗談なんかじゃないよ、と返されるのがオチ。
 自分の首は自分で守ろう。私はすぐさま立ち上がり、後ろを向いた。するとそこには想像していた通り、いつもの服装とは違い旅装束に身を包んだユアンとシーヴァが。
 私が愛想笑いでニコッと笑うとユアンもニコッと笑う。その笑顔に騙される女の子多数。騙されちゃいかんよ、そこの彼女達。この人、顔は特上、性格も大変トクジョウ。あえてのカタコトに察してくれ。


「さぁ、行きますよ。時間が惜しい」
「了解です。じゃあジョシュア、そいつとお利口にな」


 頭をガシガシと撫でくりまわし、用意されていた馬車に乗り込んだ。シーヴァが出発の合図を出すと緩やかに馬車は走り出した。
 後ろの小窓を覗くと、ジョシュアがドラゴンを抱え、しょんぼりとしている。それをおばちゃん達が懸命に慰め、角を曲がった所で見えなくなってしまった。視線を前に向けると何やら含みがある笑みを浮かべる魔王サマその一、ユアンがこちらを見ていた。


「……なんですか?」
「いや? 君達二人は相変わらず仲が良いようでなによりだよ」
「いいじゃないですか。誰に迷惑をかけているわけでもなし。……まぁ、近所の方達にはお世話になっている分思う所はありますが」
「そうだよねぇ。仲がいいのは結構。でもそれが他人の迷惑になるようなら考えものだよねぇ」


 ニコニコと愛想のいい笑顔を続けるユアン。私は外で馬上の人となっている常識人に救いの手を求めた。


「リヒャルト! あんたの上司怖い!」
「……」


 すっと視線をそらすことでリヒャルトは一人難を逃れた。
 う、裏切りだ。酷い裏切りにあったぞ。


「そういえばサーヤ。死の番人の件、まだ弁解を聞いてなかったよね? 丁度時間が十分あるんだし、話してごらんよ」


 ちなみに笑顔の裏に隠された言葉を付け加えると、言い訳できるもんならなぁ、がもれなく追加されるのは間違いない。

 あぁ、世の無常。なんで私がこんな目に。
 誰が悪いのか。もちろん犯人は別にいる。逆恨み? 断じて違う! こんな絶対的時間の猶予を作った奴らのせいじゃあなかろうか? その通りだ!

 私はその犯人達に華麗なる復讐を誓った。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...