籠ノ中ノ蝶

綾織 茅

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第一章―飛び立つことさえ許されず―

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「先生! 革命弾いて下さい!!」
「革命? あの有名なのかな?」
「はい!」


 合同授業で一緒になった他クラスの女の子にねだられ、月代先生がピアノの鍵盤に指を置いた。


「じゃあ、弾くよ?」


~~~♪♪♪~~♪♪~♪~


 月代先生の演奏が始まると、いかな依理とて口を閉じ、その演奏に耳を傾けた。

 いつもプロの演奏を聞いている依理をも黙らせるなんて、本当に凄いことだと思う。

 それくらい凄く上手い演奏だった。


「すごい……いひゃいいひゃい!」
「ふん」


 素直に感嘆の声を上げたのがまずかったのか、依理に頬をぎゅーっと引っ張られた。

 餅じゃないんだから。うぅ……地味に痛い。


「ピアノが上手くたって、他がヤバかったら一緒でしょうが。男はね、普通の顔に優しい性格よ」
「うぅーん。まぁ確かに」


 それにしても、やけに実感こもってたような。

 依理さん。

 今度そこら辺じっくりと聞かなきゃね。


「すごーい!」
「先生、すっごく素敵でした!」
「超上手ーい!」


 この他にも、どこかのアイドルかと思うくらいの歓声(悲鳴?)が上がった。

 月代先生はそれの一つ一つにお礼を言っていく。

 こういうの見てると、依理が言ってるような人には見えないんだよなぁ。普通にみんなと接してるし。

 もしかして、嫌よ嫌よも好きのうちってやつかな?

 だったら応援……


「小羽ちゃん? あなた、今、何をお考えになられました?」
「な、何でもない、デス」


 目が全然笑ってないのに、顔は笑ってる。

 こ、怖い……。


「じゃあ、次はこの曲を弾いてあげる。知ってる人はどれくらいいるかな?」


 月代先生は再び指を鍵盤の上で滑らせ始めた。

 先程とは違い、今度はゆっくりとした曲だ。

 ……何だろう。とっても懐かしい。


「依理、この曲の名前って」
「ショパンの“雨だれ”よ」


 ……“雨だれ”

 何だろう。

 聞いてると、安心できるというか、心が温かくなるというか。

 不思議な気持ち。


「……」


 依理が黙ってこっちを見てきたのには気づいてたけど、月代先生から目が離せなかった。

 さっきの演奏より、序盤の難度は格段に落ちてる。

 だけど、私にはこっちの曲の方が心にすんなりと入っていった。

 すると。


「……え? 今……」


 じっと見ていた月代先生と目が合った……気がした。

 気がしたというのも、私の前にいた子達もそう思ったみたいで、隣の子と騒いでた。

 自意識過剰かぁ。

 その後も女の子達の勢いはすごいもので、今日の授業は先生のソロコンサート化して終わった。


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