籠ノ中ノ蝶

綾織 茅

文字の大きさ
27 / 91
第三章―愛するが故に―

1

しおりを挟む



「小羽。迎えに来たよ」


 聞き覚えのある声に、俯せていた顔を上げると、初めて会った時と変わらない笑顔を浮かべた月代先生が立っていた。


「先、生?」


 先生は夏なのに黒い長袖の服を着ていた。

 どうしてここが、とか、どうやってここに、とかはもうどうでもいい。

 私の手と足につけられた手錠を見て、先生の表情がすっと消えていった。


「小羽。可哀相に。こんな醜い枷をつけられて、汚い籠に閉じ込められて」


 先生は私の髪を指に巻きつけ、頬をゆっくりとなぞった。


「僕の小羽がこんな所に一分一秒でも長くいるなんて堪えられないな。……でも」


 先生の目が一瞬だけ赤に染まった気がした。


「……先生?」


 妖しく笑う先生から目がそらせない。

 まただ。

 またあの時と同じ。体が動かない。


「僕以外の男を家に入れる小羽も悪いんだよ? 小羽の家に入れるのは僕だけでいい。……ねぇ、小羽? 悪い子にはお仕置き、必要だよね?」


 お仕置き?

 先生、助けにきてくれたんじゃないの?

 夏だったのと、部屋着として肩が出る服だったのが災いした。

 先生は私の肩に唇を寄せた。

 その瞬間、独特な痛みが僅かに広がった。

 チュッと音を立てた後、先生は顔を離し、唇をペロリと舐めた。


「なっ! ……何したんですか!?」
「お仕置きと、小羽が僕のモノだっていう印づけ……かな?」
「印づけって、私は先生のモノでもないですっ!」
「大きな声を出したら駄目だよ。それに……今の状況分かってる? 僕がこのまま帰ったらどうなると思う?」
「……っ! 待って!」


 そのまま本当に帰っていきそうになる先生の腕に、必死になってしがみついた。

 確かに先生も怖い。

 でも、ここでこの先ずっと監禁されるなんて。

 そっちの方が断然嫌だった。


「分かればいいんだよ。大丈夫。悪いことした大人にもきちんとお仕置きしないといけないだけだから」


 先生の瞳が鋭い輝きを帯びている気がする。

 まさか、ね。


「手錠の鍵も取ってくるよ。あまり無理して外そうとしちゃ駄目だよ? ほら、赤くなってる」
「あ、あの。お、お仕置きって……」
「知りたい?」


 あまりにも妖しい笑みだったので、腰がひけてしまった。

 フルフルと左右に首を振る。


「……うん。小羽は知らなくていいんだよ。……そんな顔しないで? 警察につきだすだけ」
「……そっ、か」


 妙なことを想像してしまった私は安心して一息ついた。


「じゃあ行ってくるから。戻ってくるまで一眠りしてるんだ」
「……え、でも」
「大丈夫。絶対戻ってくるから」


 先生の左手が私の両目を覆ったかと思うと、ふっと意識が途切れた。

 私が覚えているのはここまでだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

処理中です...