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第三章―愛するが故に―
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しおりを挟む「小羽。迎えに来たよ」
聞き覚えのある声に、俯せていた顔を上げると、初めて会った時と変わらない笑顔を浮かべた月代先生が立っていた。
「先、生?」
先生は夏なのに黒い長袖の服を着ていた。
どうしてここが、とか、どうやってここに、とかはもうどうでもいい。
私の手と足につけられた手錠を見て、先生の表情がすっと消えていった。
「小羽。可哀相に。こんな醜い枷をつけられて、汚い籠に閉じ込められて」
先生は私の髪を指に巻きつけ、頬をゆっくりとなぞった。
「僕の小羽がこんな所に一分一秒でも長くいるなんて堪えられないな。……でも」
先生の目が一瞬だけ赤に染まった気がした。
「……先生?」
妖しく笑う先生から目がそらせない。
まただ。
またあの時と同じ。体が動かない。
「僕以外の男を家に入れる小羽も悪いんだよ? 小羽の家に入れるのは僕だけでいい。……ねぇ、小羽? 悪い子にはお仕置き、必要だよね?」
お仕置き?
先生、助けにきてくれたんじゃないの?
夏だったのと、部屋着として肩が出る服だったのが災いした。
先生は私の肩に唇を寄せた。
その瞬間、独特な痛みが僅かに広がった。
チュッと音を立てた後、先生は顔を離し、唇をペロリと舐めた。
「なっ! ……何したんですか!?」
「お仕置きと、小羽が僕のモノだっていう印づけ……かな?」
「印づけって、私は先生のモノでもないですっ!」
「大きな声を出したら駄目だよ。それに……今の状況分かってる? 僕がこのまま帰ったらどうなると思う?」
「……っ! 待って!」
そのまま本当に帰っていきそうになる先生の腕に、必死になってしがみついた。
確かに先生も怖い。
でも、ここでこの先ずっと監禁されるなんて。
そっちの方が断然嫌だった。
「分かればいいんだよ。大丈夫。悪いことした大人にもきちんとお仕置きしないといけないだけだから」
先生の瞳が鋭い輝きを帯びている気がする。
まさか、ね。
「手錠の鍵も取ってくるよ。あまり無理して外そうとしちゃ駄目だよ? ほら、赤くなってる」
「あ、あの。お、お仕置きって……」
「知りたい?」
あまりにも妖しい笑みだったので、腰がひけてしまった。
フルフルと左右に首を振る。
「……うん。小羽は知らなくていいんだよ。……そんな顔しないで? 警察につきだすだけ」
「……そっ、か」
妙なことを想像してしまった私は安心して一息ついた。
「じゃあ行ってくるから。戻ってくるまで一眠りしてるんだ」
「……え、でも」
「大丈夫。絶対戻ってくるから」
先生の左手が私の両目を覆ったかと思うと、ふっと意識が途切れた。
私が覚えているのはここまでだった。
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