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第一章
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しおりを挟む「どうしたの?」
「ヴィオレット様。これは王子殿下にと?」
「えぇ。ストレスを与えないように少しずつだけど、実行していかなきゃいつまで経っても目標達成できないもの」
「目標、ですか。しかし……」
料理長が渋るのも無理はない。これでまたベルナールに偏食生活へ逆戻りなんてされたらコトだ。
「何も難しいことはないわ。まずはそこに書いているものを一つずつでいいの。揚げ物はできるだけ避けて、野菜を多めに。ご飯の量をいつもの四分の一にして、おかわりをさせない。そして、夜の十時以降は夜食を出さない。ね? まずはこの揚げ物をーってところからやってみて。私はこの早食いをしないっていうのを言い続けるから」
「ヴィオレット様」
「いい? これはベルナールのため、ひいてはこの国のためなの。将来国王となることが約束されている彼が外交の場で他国から侮られてもいいの?」
「それは……しかし……」
煮え切らない態度の料理長も、しばらく睨み続けると私の圧力に負け、分かりましたと頷いてくれた。
あぁ、良かった。これでダメだと言われようものなら、ベルナールの婚約者としての立場や公爵家の力を使わなきゃいけないかと思った。むしろそれくらしたら私の本気具合も伝わるだろうか。
「ですが、揚げ物は控えるとして、野菜を多めには正直難しいです」
「あら、どうして?」
野菜を使ったメニューも結構たくさん教えたはずだ。ロールキャベツやポトフといったぱっと思いつくものから、豆腐ハンバーグなどの変わり種まで。それこそ前世で培った創作料理への意欲をフル稼働させて考え出したものまでつぎ込んだとも。
それなのに、なぜ?
「もし野菜を多めにしたとして、殿下がそれに反発して王宮では食事をとらず、外でお済ませになるようになれば私達では管理ができません」
「……その危険性は確かにあるわね」
「それに、殿下は普段からそう同じものを何度も運ばせるということはなさいませんよ?」
「え?」
「殿下が次をご所望の料理はいつも決まってヴィオレット様がお考えになられたものか、ヴィオレット様のご実家であるフーリエ公爵家で召し上がったものと同じメニューのものです」
そして、それを聞いて絶句している私をよそに、料理長は言葉を続けた。
「本当に美味しいと感じられるものしか、殿下は二口目をお召し上がりになりません。そして決まって私をお呼び出しになり、この料理の作り方を教わった時のことを話すようにと仰せです。それはそれは楽しそうに聞いておいでで」
「あっ! いけない! 急な用事を思い出したわ! じゃあ、料理長。よろしくね!」
急いで立ち上がって踵を返し、厨房の片隅を急ぎ足で駆け抜けた。こうでもしないと、嬉しさに緩んだだらしのない顔を料理長や通りがかった料理人達に見られることになっただろう。それは絶対に嫌だった。
なんだか信じられない話を聞いた気がするけれど、ただ純粋に嬉しさが勝っている間は喜んでいられた。幼馴染が自分の考える料理を楽しんでくれているのだと。
そんな喜びをひとしきり噛みしめて冷静になった時、ふと気づいたのだ。
「……そんなに料理好きなら、新しい婚約者になる子は料理好きの子がいいわね」
料理をする貴族の子女は珍しいから、今の内にリストアップしておかなければいざという時間に合わなくなる。
家に帰ったら早速三番目のお兄様に聞いてみようか。お兄様達の中で一番女性経験が豊富だと自称他称しているお兄様なら誰かしらは目星をつけてくれるだろう。
普段はチャラ男滅びろとか女の人をとっかえひっかえしているのを見るたび思ってるけど、口には出したことはもちろんない。
妹というだけで可愛がられ、愛でられる私を恨む女の人達から謂れのない悪口を言われたこともあったし、これでおあいこにしてあげよう。
帰る前に王妃様へご挨拶に伺ったら先程のケーキがだされ、断り切れずに今度は一つ丸ごと食べてしまった。美味しかった。とっても。
だって、この国の女性の中で一番偉い方に固辞できるほど身の程知らずじゃない。必然的に食べるしか選択肢がない。しかも、王妃様は私が甘い物が好きだということも知っている。完全なる善意の塊だ。
……間違いなく料理長の陰謀だ。
屋敷に戻ったら死ぬ気で運動をしよう。
そう心に決め、帰りの馬車に乗り込んで王宮を後にした。
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