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第一章
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しおりを挟む可愛い子には旅をさせよということわざがあった。
本当に可愛い存在なら甘やかすのではなく、こうすべきだったのだ。最初から。
挑戦状まがいの贈り物が送られてきた二日後、私は王宮へ登城した。
可愛い可愛い私の元癒し、今や後悔の対象でしかない我が婚約者様の元を訪れるためだ。
案内役の女官の後ろについていき、ベルナールの私室の中から返事が返ってきて入室を許された。中に入ると、ベルナールは机に向かって何やら書き物をしている最中だった。一礼して椅子に座るや、早々に今日の訪問の理由である本題をベルナールに告げた。
「……な、なんだって!?」
お父上である国王陛下から後学のためと渡されたのだろう書類の束を見つつ、何かカリカリと紙に書きつけていたベルナールは私の言葉に驚きを隠せないようだ。持っていた書類を取り落とし、床にひらひらと舞い落ちていくのを拾おうともせずに私の顔を凝視してきた。
「だから、お兄様達のうち誰かにお願いして、付き合ってもらうわ」
ベルナールの顔からさぁっと血色が引いていく。元々外に出てどうこうするような性格ではないし、王妃様譲りの白い肌のせいでそれが一層顕著だった。心なしか唇の端がふるふると小刻みに震えている気もする。
「ぼ、僕にそんな趣味はないっ!」
「え? なにを言ってるの? 近衛士官は貴方達王族を警護するのが仕事でしょう? そのついでに運動にも協力してもらうだけよ。痩せられたらそのままずっと運動を趣味にする必要はないわ」
「……え?」
「私のおすすめは断然ジョルジュお兄様ね。エルネストお兄様はやるとなったらとても厳しいし、シモンお兄様は……」
シモンお兄様の名を出すと、ベルナールは首を左右にブンブンと振った。犬猿の仲、というよりも、一方的にシモンお兄様がベルナールに対して敵意を持って接し、ベルナールはそれに対して苦手というより恐怖心を植え付けられているというところだろう。
誰かと濁して言ったものの、選択肢は三つあるようで一つだけしか用意されていなかった。
ベルナールは大きく息を吸い込んだかと思えば、今度は大きく息を吐いて見せた。
「……ヴィーはいつも言葉が足りない」
「そうかしら? ごめんなさい」
じとっと恨みがましい目を向けられ、私は明後日の方を向いて誤魔化した。
「……っ」
ちらりとベルナールの方へ視線だけ向けると、何か物言いたげに口を開いては閉じを繰り返している。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
なんでもない顔ではない顔をしているから聞いているというのに、自覚がないのだろうか。そこの壁にかけられている鏡を見れば分かるけれど、自分では全くもって分からないらしい。
まぁ、本人がなんでもないと言い張っているのだから、それ以上深くは追及しないでおいた。
「じゃあ、ジョルジュお兄様が仕事を抱えないうちにお願いしてくるわ。スケジュールとかはまた手紙を出すから、待っててね」
出された紅茶を飲み干し、椅子から立ち上がった。
「ヴィー!」
「なに?」
「あ、あの……その、だな……」
大きな声を上げて呼び止めたというのに、なかなか続きの言葉が出てこない。
幼馴染としての情けだとしばらく待っていてあげると、意を決した顔つきで私の方を見てきた。
「その……ご、ごめんなさい!」
机にぶつけそうな勢いで頭を下げられ、少し面食らってしまった。口調こそ誰に似たのか少々尊大なものになって来ているとはいえ、王族だし概ね問題ない。問題があるとすれば、それは。
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