婚約破棄はダイエット達成後でお願いします~他の令嬢に申し訳がたちません~

綾織 茅

文字の大きさ
13 / 14
第一章

12

しおりを挟む
 


 可愛い子には旅をさせよということわざがあった。
 本当に可愛い存在なら甘やかすのではなく、こうすべきだったのだ。最初から。

 挑戦状まがいの贈り物が送られてきた二日後、私は王宮へ登城した。
 可愛い可愛い私の癒し、今や後悔の対象でしかない我が婚約者様の元を訪れるためだ。

 案内役の女官の後ろについていき、ベルナールの私室の中から返事が返ってきて入室を許された。中に入ると、ベルナールは机に向かって何やら書き物をしている最中だった。一礼して椅子に座るや、早々に今日の訪問の理由である本題をベルナールに告げた。


「……な、なんだって!?」


 お父上である国王陛下から後学のためと渡されたのだろう書類の束を見つつ、何かカリカリと紙に書きつけていたベルナールは私の言葉に驚きを隠せないようだ。持っていた書類を取り落とし、床にひらひらと舞い落ちていくのを拾おうともせずに私の顔を凝視してきた。


「だから、お兄様達のうち誰かにお願いして、付き合ってもらうわ」


 ベルナールの顔からさぁっと血色が引いていく。元々外に出てどうこうするような性格ではないし、王妃様譲りの白い肌のせいでそれが一層顕著だった。心なしか唇の端がふるふると小刻みに震えている気もする。


「ぼ、僕にそんな趣味はないっ!」
「え? なにを言ってるの? 近衛士官は貴方達王族を警護するのが仕事でしょう? そのついでに運動にも協力してもらうだけよ。痩せられたらそのままずっと運動を趣味にする必要はないわ」
「……え?」
「私のおすすめは断然ジョルジュお兄様ね。エルネストお兄様はやるとなったらとても厳しいし、シモンお兄様は……」


 シモンお兄様の名を出すと、ベルナールは首を左右にブンブンと振った。犬猿の仲、というよりも、一方的にシモンお兄様がベルナールに対して敵意を持って接し、ベルナールはそれに対して苦手というより恐怖心を植え付けられているというところだろう。

 誰かと濁して言ったものの、選択肢は三つあるようで一つだけしか用意されていなかった。

 ベルナールは大きく息を吸い込んだかと思えば、今度は大きく息を吐いて見せた。


「……ヴィーはいつも言葉が足りない」
「そうかしら? ごめんなさい」


 じとっと恨みがましい目を向けられ、私は明後日の方を向いて誤魔化した。


「……っ」


 ちらりとベルナールの方へ視線だけ向けると、何か物言いたげに口を開いては閉じを繰り返している。


「どうしたの?」
「……なんでもない」


 なんでもない顔ではない顔をしているから聞いているというのに、自覚がないのだろうか。そこの壁にかけられている鏡を見れば分かるけれど、自分では全くもって分からないらしい。

 まぁ、本人がなんでもないと言い張っているのだから、それ以上深くは追及しないでおいた。


「じゃあ、ジョルジュお兄様が仕事を抱えないうちにお願いしてくるわ。スケジュールとかはまた手紙を出すから、待っててね」


 出された紅茶を飲み干し、椅子から立ち上がった。


「ヴィー!」
「なに?」
「あ、あの……その、だな……」


 大きな声を上げて呼び止めたというのに、なかなか続きの言葉が出てこない。

 幼馴染としての情けだとしばらく待っていてあげると、意を決した顔つきで私の方を見てきた。


「その……ご、ごめんなさい!」


 机にぶつけそうな勢いで頭を下げられ、少し面食らってしまった。口調こそ誰に似たのか少々尊大なものになって来ているとはいえ、王族だし概ね問題ない。問題があるとすれば、それは。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

処理中です...