7 / 27
予算会議は大荒れ模様
1
しおりを挟む◇◆◇◆
数日前、灰塵に消えた私の努力の結晶とも言うべき報告書を再度書きあげた。書きあげきったのはもはや執念というべきかもしれない。負けず嫌いの精神がここで上手いこと力を発揮してくれた。自分で自分を褒めたい。
「じゃあ、こちら各所に提出してきますねー」
「あ、うん。よろしく」
たまった書類の束を抱え、長身の優男風の青年――ナルがにこやかな笑みを携えて執務室から出ていった。
先日いきなり私の前に現れたかと思えば、翁から私の下につくようにと命じられて来たのだと言う。そんな話、全く聞いていなかったし、部下も弟子も取るつもりはさらさらない私は最初、第六課の課長であるフェルナンド様へ彼を突き返そうかとした。
すると、だ。それを察知したのか、はたまた偶然なのか、彼は私の手が回っていなかった部分に気が付き、あまつさえ指摘してくる始末。それならばといくつかやらせてみればこれがなかなかどうして。広大な元老院中を文字通り飛び回った彼は、私の部下という周囲からの認識をしっかりと獲得していた。それも一日もたたずして。
“こいつ、使える”
はっきり言って、疲れてた。ものすっごく。
だって、せっかく書きあげた報告書は塵にされ、やり直しを余儀なくされた。その間にも新しく来る患者に応援要請。正直、パンク寸前だった。労働基準局? 元老院がソレも担ってる場合はどないせぇっちゅうんじゃって、どこかの国のどこかの地域の言葉で反抗していたかった。
だからこそ、そう思ったって仕方ない。だって、疲れてたんだもの。もうこれで今まで頑なに拒否してた下を持つことを許容してしまえる。そして、許容してしまった。
「あー、どこで間違ったかな」
椅子の背もたれに寄りかかり、天井へ目を向けながらそんなことを呟いてみる。
そのまましばらく何もせずにボーっとしていると、いささか性急気味にドアがノックされた。
変な話だけれど、周囲を混沌に叩き落すのが趣味なのかと真剣に思わさせられるあの三大魔王もノックはきちんとする。妙なところで育ちの良さが出るのだ。もっときちんとすべき所があるだろとド正論を言えた者は残念ながらまだいない。
入室の許可を出すと、ドアが勢いよく開けられる。飛び込んできたのは、使いに出していたナルだった。
「し、星鈴様っ!」
「どうした? また第三課の度を超えた訓練で怪我人? それとも」
「それどころじゃないですよっ! 第二課にこの間の襲撃時に使用した薬種代を予算計上するよう補正予算案を出しに行ったら、院全体で緊急予算会議をすると!」
「は?」
「これ、これっ! 見てください! 第二課で渡された書類です!」
ナルが顔面に押し付けかねない勢いで見せてきたのは、一枚の決定通知書。
そのたった一枚ペラの紙には、まったくもって納得し難いことがずらずらと書かれていた。
「各課の予算案を全て却下!? どういうこと!?」
「なんでも、財務担当であるシャルルさんが上司である第二課長の潮様に進言されたみたいでっ」
「馬鹿か! 他は知らんが、うちが費用を削ってみろ! すぐに立ち行かなくなるのは目に見えてるだろうが!」
第六課が司るは、医療。
多岐に渡る薬を扱うため、それに伴う材料費。薬を作るための道具のメンテナンスおよび購入費。包帯、消毒液、外科手術用の器具、白衣に術衣の購入費。管轄する薬草園の水などの管理費だって馬鹿にならない。そして、薬は良いものだけではなく、そして、薬草からだけではない。毒を持つ生き物だって数多飼っている。その飼育代だってかかる。書類の用紙や筆記具代などの雑費をしょっ引いても結構な金額になるのは致し方ないことだ。
予算が削られることによって起こる品不足。
果ては“患者の死”だ。
たとえ運ばれてきたのが味方でなく、敵だったとしても、第六課に運ばれてきた時点で、私達の患者に他ならない。
何より、救えるはずの命を取りこぼす。
それは私の、私達の矜持が赦さない。
今だって使いたい薬を我慢して、ある薬、作れる薬でやりくりしているというのに。
これ以上何かを我慢させられる? 冗談じゃない!
「星鈴様?」
「今すぐ第二課長の潮様の元へ抗議しに……いや、先にフェルナンド様の所か」
疲れているからと悠長に椅子に座っている場合ではない。
通知書を引っ掴んで、狼狽えているナルと共に部屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる