人外統率機関元老院ー仕事は増えても減ることなしー

綾織 茅

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予算会議は大荒れ模様

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◇◆◇◆



 数日前、灰塵かいじんに消えた私の努力の結晶とも言うべき報告書を再度書きあげた。書きあげきったのはもはや執念というべきかもしれない。負けず嫌いの精神がここで上手いこと力を発揮してくれた。自分で自分を褒めたい。


「じゃあ、こちら各所に提出してきますねー」
「あ、うん。よろしく」


 たまった書類の束を抱え、長身の優男風の青年――ナルがにこやかな笑みをたずさえて執務室から出ていった。

 先日いきなり私の前に現れたかと思えば、翁から私の下につくようにと命じられて来たのだと言う。そんな話、全く聞いていなかったし、部下も弟子も取るつもりはさらさらない私は最初、第六課の課長であるフェルナンド様へ彼を突き返そうかとした。

 すると、だ。それを察知したのか、はたまた偶然なのか、彼は私の手が回っていなかった部分に気が付き、あまつさえ指摘してくる始末。それならばといくつかやらせてみればこれがなかなかどうして。広大な元老院中を文字通り飛び回った彼は、私の部下という周囲からの認識をしっかりと獲得していた。それも一日もたたずして。

 “こいつ、使える”

 はっきり言って、疲れてた。ものすっごく。

 だって、せっかく書きあげた報告書はちりにされ、やり直しを余儀なくされた。その間にも新しく来る患者に応援要請。正直、パンク寸前だった。労働基準局? 元老院うちがソレもになってる場合はどないせぇっちゅうんじゃって、どこかの国のどこかの地域の言葉で反抗していたかった。

 だからこそ、そう思ったって仕方ない。だって、疲れてたんだもの。もうこれで今まで頑なに拒否してた下を持つことを許容してしまえる。そして、許容してしまった。


「あー、どこで間違ったかな」


 椅子の背もたれに寄りかかり、天井へ目を向けながらそんなことを呟いてみる。

 そのまましばらく何もせずにボーっとしていると、いささか性急気味にドアがノックされた。

 変な話だけれど、周囲を混沌こんとんに叩き落すのが趣味なのかと真剣に思わさせられるあの三大魔王もノックはきちんとする。妙なところで育ちの良さが出るのだ。もっときちんとすべき所があるだろとド正論を言えた者は残念ながらまだいない。

 入室の許可を出すと、ドアが勢いよく開けられる。飛び込んできたのは、使いに出していたナルだった。


「し、星鈴様っ!」
「どうした? また第三課の度を超えた訓練で怪我人? それとも」
「それどころじゃないですよっ! 第二課にこの間の襲撃時に使用した薬種代を予算計上するよう補正予算案を出しに行ったら、院全体で緊急予算会議をすると!」
「は?」
「これ、これっ! 見てください! 第二課で渡された書類です!」


 ナルが顔面に押し付けかねない勢いで見せてきたのは、一枚の決定通知書。
 そのたった一枚ペラの紙には、まったくもって納得し難いことがずらずらと書かれていた。


「各課の予算案を全て却下!? どういうこと!?」
「なんでも、財務担当であるシャルルさんが上司である第二課長の潮様に進言されたみたいでっ」
「馬鹿か! 他は知らんが、うちが費用を削ってみろ! すぐに立ち行かなくなるのは目に見えてるだろうが!」


 第六課が司るは、医療。
 多岐に渡る薬を扱うため、それに伴う材料費。薬を作るための道具のメンテナンスおよび購入費。包帯、消毒液、外科手術用の器具、白衣に術衣の購入費。管轄する薬草園の水などの管理費だって馬鹿にならない。そして、薬は良いものだけではなく、そして、薬草からだけではない。毒を持つ生き物だって数多飼っている。その飼育代だってかかる。書類の用紙や筆記具代などの雑費をしょっ引いても結構な金額になるのは致し方ないことだ。

 予算が削られることによって起こる品不足。
 果ては“患者の死”だ。
 たとえ運ばれてきたのが味方でなく、敵だったとしても、第六課うちに運ばれてきた時点で、私達の患者に他ならない。

 何より、救えるはずの命を取りこぼす。
 それは私の、私達の矜持きょうじゆるさない。

 今だって使いたい薬を我慢して、ある薬、作れる薬でやりくりしているというのに。
 これ以上何かを我慢させられる? 冗談じゃない!


「星鈴様?」
「今すぐ第二課長の潮様の元へ抗議しに……いや、先にフェルナンド様の所か」


 疲れているからと悠長に椅子に座っている場合ではない。

 通知書を引っ掴んで、狼狽うろたえているナルと共に部屋を後にした。


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