人外統率機関元老院ー仕事は増えても減ることなしー

綾織 茅

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不正は絶対許すまじ

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 他人には秘密にしておきたい物を隠す時、大抵が自分の目の届く範囲にする。近くてもいけない、遠くてもいけない。

 生徒達が寝起きする寮はそんな場所の一つである。だが、自室に保管など、決してしないだろう。今回のように内偵が入るのを承知していれば、自室に保管していたモノが動かぬ証拠となるのは誰でも考えつく。

 寮の前まで到着すると、ひとまず周囲を見回ってみた。

 例の薬に使われている薬草は、そのままの状態であれば仄かにかぐわしい匂いがする。それを乾燥させ、粉末状にすると、匂いは柑橘系のものへと変わる。

 その匂いがしないかと、所々で探ってみるが、いずれの場所でも匂いはなかった。

 完全に密閉された容器に入れられているか、ここにはないか。


「……ふむ」


 フェルナンド様達と別れてから二、三十分ほど。そろそろ今回の獲物ターゲットが動き出してもいい刻限が近づいてきた。

 今、この場で動いているのは私だけだが、仕事を全て引き受け、フェルナンド様達はただついてきただけ……の、はずがない。

 彼らの役目。それは監視、選別、そして揺さぶり。何も知らない生徒は別に何の問題もない。だが、後ろめたいことがある者はどうか。

 なりはまだ長じておらずとも、一つの課を統べるフェルナンド様。そして、司法を司る第四課ほどではないが、正しい情報を得るために相手の心の奥底まで覗き込む六課の手練れ達。
 彼らが滑らせる視線と一瞬でも視線を交わしてしまえば、踵を返し、すぐにでもその場から逃げ出したくなるだろう。

 寮の屋上まで上がり、ソレが来るのを待つ。

 そして、案の定、ソレは百も数えないうちに現れた。

 栗色のふわふわとした髪で、少し大きめの丸眼鏡をかけた小柄な少年だ。周囲をキョロキョロと気にしつつ、寮の裏手へと回る。その顔は随分と青褪あおざめていた。

 少年が向かう先には噴水やベンチ、花壇などがある。彼は小走りで噴水へと駆け寄った。そして、その噴水の中に手を差し入れ……。


「はい、ストップ」
「あっ」


 突然背後から腕を掴まれた少年は、肩をびくりと揺らし、こちらを恐々と仰ぎ見てきた。顔色は先程よりもより一層青白さを増している。


「元老院第六課の星鈴よ。その手に掴んだ物を見せてくれるかしら」
「……っ」


 相手は子供だからと、口調こそ随分と柔らかくした。が、これはお願いではなく、命令だ。
 少年もそれが分かっているのか、おずおずと手に取った小箱を差し出してくる。

 保護魔術でもかけられていたのか、水の中にあったというのに全く濡れていない。目眩めくらましの術もかけられていただろうから、そこにあると知らなければ誰も見つけることはなかったのだろう。

 そばかすが浮かぶ顔を伏せた少年に、逃げる素振りは全く見られない。本来なら動けないようにしておくのだが、本人にその意思がないのならばその必要もない。

 少年のことは一旦置いておいて、小箱を開けてみる。すると、やはり例の薬草が束になって入っていた。量にして、約五回分ほど。


「うん。当たりだね。一緒に学園長室まで来てもらうよ?」
「……はい」


 大人しく従ってくれるのは何よりだが、それにしても彼の様子がいささか気にかかる。

 こういう件に関わっているにしては、なんというか、小心者すぎるのだ。
 とてもじゃないが、こうして暴かれるに決まっていることをしでかせるような者には見えない。これが演技だというなら、随分と演技達者なことだが、おそらく違うだろう。

 と、なると。
 ……まだ他にもいるな。

 まぁ、それを問い詰めるのはフェルナンド様達と合流してからでもいい。

 転移門を出し、僅かに躊躇ためらいを見せる少年の背を押す。少年の後に続き、門をくぐった。

 集合場所と指定された学園長室では、フェルナンド様とナルが私達を待っていた。他は怪しい行動を取る者がいないか、それとなく監視する役についたらしい。


「ご苦労様、星鈴」


 出迎え早々に労いの言葉をかけてくれるフェルナンド様。
 私も口角をニッとあげ、それに応えた。

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