アメン

平 一

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表紙:


 通信端末を乗っ取って、いきなり画面に映し出された異星人の分離個体アバターは、短髪の美少年のような少女の姿をしていた。

「アンドロメダ銀河の平定と講和条約の締結による今次大戦の終結に伴い、旧王朝の政権は公式に消滅し、その権利・義務は新政権に承継されることが確定しました。銀河系の中央星域と外周星域の境界に位置する、ここ太陽系第三惑星〝地球〟において私、帝国本土防衛司令官アモンは、本惑星に潜伏する旧帝国系武装組織の構成員に対し、寛大なる処遇を約して投降を呼びかけるものです」

図1:勧告


「私はこれから行ういささか長い説明により、皆様の誤解を払拭ふっしょくできるよう願っております。かつては私達もまた、反対者でした。しかし同時に、自らの正当性を絶対視することなく、問い直し続けた者でもあります。例えば私達が大戦勃発に至るまでに経験した懊悩おうのう逡巡しゅんじゅんの過程は、まさにそのあかしです」

「発展途上種族に対する文明開発計画は、帝国の草創期から実施され、またその存在意義のひとつにもなった重要な事業でありました。しかしある時、この計画に対し、銀河系の覇権維持とアンドロメダ銀河侵略に向けた軍事種族確保のため、帝国の上層部が違法かつ非道な干渉を行ってきたことが判明したのです。当時の文明開発長官であった現皇帝サタンは正義と忠誠、良心と義務の狭間で苦悩しました。〝先帝〟すなわち当時の皇帝種族に似た神を中心に、自ら悪役を演じる神話まで用いて育んだいとし子《ご》達が、その健全な進歩を歪められ、時には滅亡してしまう悲劇は、彼女にとって耐えがたい苦痛でした」

図2:悲嘆


「サタンは計画に対する干渉の中止を求めて先帝に直訴し、秘密の保持を誓約したうえで改善を願い出ようとしました。しかし、産業種族であった彼女の民政部門副長官アスモデウスは、それを制止しました。彼女は外交関係が広く、帝国の内部事情に詳しかったので、当時の皇帝諮問機関たる枢密院を構成する〝中枢種族〟の腐敗と権力闘争の実態を知っていました。そのため、かかる情報は知った時点でその者の地位に危険を及ぼし、直訴に至っては破滅さえ招きかねないことを指摘したのです。彼女はまた帝国の成立と発展においては、主として軍事種族からなる〝中枢種族〟の貢献が不可欠であったことも考え、両種族の友好種族である科学省長官ストラスとも協議して、より穏便な対応を模索するよう勧めました」

図3:助言


「しかし、サタンの依頼を受けて事件を調査する過程で、ストラスもまた恐るべき事実を発見し、葛藤に苦しむことになります。科学省に委任された先進種族での融合体複製計画にも、同様の意図が隠されていたことが判明したのです。彼女は帝国に関する社会科学的統計やその矛盾を分析した結果、かくも大規模にして背信的な秘密政策は、もはや内部的な手段では変更不可能であるとの結論に至りました。また対外的な真相暴露による是正の試みも、告発者の抹殺に加えて事実の隠蔽と侵略の早期決行、あるいは責任の所在を巡る中枢種族間の内戦をもたらす可能性が高いことを報告したのです。残念ながらこれらの予測は後に、全て現実化してしまいました」

図4:分析


「こうした閉塞状況は、永い歴史を有する知的種族の集合意識さえも、絶望あるいは自暴自棄に導き得るものでした。しかしアスモデウスは再び、逆境に置かれた現皇帝を助けます。彼女はそれまで、職務遂行のため精力的に多数の種族と交流・交渉を重ね、〝未来あるもの〟の文明開発に貢献してきた実績から、〝熱情王〟の別名を得たほどの種族でありました。そこで彼女は現皇帝に、いかなる道を選ぼうと安全の保証はない以上、自衛策を講じた上で良心の声に従うもやむなしと助言する一方、自らの友好種族グラシャラボラスとアドラメレクを通じ、親衛軍の一部と外周星域に事実を通知して協力を求めたのです」

「ストラスもまた同様に、種族複製計画の成果を圧制と侵略ではなく、多種族間の相互理解と能力向上という本来の目的のために用いることを願いました。そこで彼女も、姉妹種族のアミーとヴォラクをそれぞれ親衛軍と正規軍に派遣して、来たるべき事態に備えます。そして彼女は科学的予測に基づき、事態の打開が遅れるほど内戦の発生確率と予想規模は増し、当時すでに量産段階にあった超新星兵器の配備状況を考慮すれば、帝国全土の壊滅さえも危惧されると指摘して、サタンの決断を促しました」

「サタンはかねてより発展途上種族に対して、次のような基本知識の普及に努めていました。それは、『国家には軍事力などの強制力も必要だが、その権力が国内問題の否定や転嫁のため恣意しい的に濫用らんようされた場合には、存立目的である社会的利害の調整を阻害し、かえって自らの衰退または滅亡を招く』というものです。後に彼女は当時をかえりみて、『そうした悲劇がよもや帝国全体に渡って生じることまでは、予測・予防し得なかったことを悔いています』と述べました。もとよりそれは、現皇帝のみの過ちでないことは明らかです。しかし彼女は、戦闘種族の量産という目的のために発展を損なわれ、星々の大海に儚く消えた幾多の種族をいたみ、事態の改善に身命を捧げようと決意したのでした」

図5:決意


「彼女とアスモデウス、そして私の可動惑星は、中心星域への帰還を装ってその外縁部に到達すると、星域内の複数経路を通じた公開通信により、事実の通報と是正の請願を行いました。しかし、これに対する回答は、その随員である軍事部門の副長官、すなわち私に彼女の処刑を命じる追討勅令でした。さらに私が異議を申し立てると、その私をも討滅すべく派遣された者は、私と同じ星系で文明を育んだ姉妹種族カイムだったのです」

図6:刺客


「カイムから奇襲を受けた私は苦渋の選択により、彼女の惑星と武器衛星群を撃破しました。しかし私もまた心身、特に士気の面で深刻な損傷を被り、戦闘不能に陥ってしまったのです。直属の護衛戦力を失った現皇帝とアスモデウス、そして傷ついた私を助けたのは、救援に駆けつけた科学長官ストラスと、正規軍のアスタロト艦隊でありました」
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