1 / 6
1 悪魔
しおりを挟む
ああ、地球の学校から調査学習に来た学生さん達だね? 昔の地球と帝国のやり取りを体験した人間に、当時からの話を聞きたいっていう……どうぞ、どうぞ。 ……あの時私は中米の密林で、敵を待ち受けていたんだ。超軽量の増力外骨格と光学迷彩は、私が敵に気づかれず、樹上から狙撃するのを可能にしてくれるはずだった。
そこからさらに遡ること十数年前、奴等は宇宙からやってきた。君達には常識なのかもしれないけど、当時の私の知識や考えがどう変わっていったかを知ってほしいから、我慢して聞いてほしい。公式には異星人との〝最初の接触〟となる、〝月面の戦い〟の映像は衝撃的なものだった。人類の基地のすぐそばで、沢山の複眼と触手を持った大きな黒い球体が、宇宙服を着た人間達を投げ飛ばしていたんだ。
情報は錯綜した。なぜ人々は、月にないはずの武器らしきものを持っていたのか? どちらが先に攻撃をしたのか? 偶発的な事故なのか? そうこうするうちに奴等は地球にやって来て、こともあろうに銀河帝国の新たな皇帝種族〝サタン〟と名乗り、平和的な交流を求めると言いながら、太陽系を含む広大な宙域の〝統治宣言〟を行った。またその直後に、世界各地で不可解な核融合発電所の爆発が起きたことも重なって、人々は大混乱に陥った。各国の対応は分かれたが、我国ではAIネットの遮断を含む報道管制が行われ、戒厳令が敷かれた。異星人に対する意見の違いから、いくつかの国々で〝悪魔狩り戦争〟または〝地球内戦〟と呼ばれる紛争が起きた。
しばらく後に混乱は治まったが、気づいてみると世界連邦ができ、異星種族サタンを中心とする〝新帝国〟に加盟していた。どうやら私達は、星間戦争に巻き込まれたらしい。残念なことに〝新帝国〟を導く〝理事種族〟には、悪魔や古代神の名を持つ種族が多かった。〝旧帝国〟の〝中枢種族〟には天使の名を持つ種族が多いというのにね。だがそれは、かつて異星人達が人類など、多くの発展途上種族の文明化を助けた時の名残だと説明された。
銀河系の最先進種族達は、量子頭脳網への人格転移により、高度な技術開発・政策決定能力を持ち、まさに神か悪魔のような力を得ていた。量子頭脳の仮想現実内で行われる様々な模擬実験は、分離体や分離個体という、外部派遣用の量子頭脳や人工身体の活動改善に役立てられる。また、そうした種族は〝種族融合体〟や〝心結ぶもの〟と呼ばれるように、共有人格の形成能力をもち、国際機関の理事国のように、種族まるごと星間帝国の役職を務めることもできる。
かつてはサタンも、発展途上種族の文明支援を担当する文明開発長官だったのだそうだ。初めは友好種族達と共に多神教の神々を演じて、人類などの発展を助けていたという。しかし後には公式な接触に備えて、皇帝種族や中枢種族のような神・天使達と、自ら悪役を演じる悪魔が対立する、善悪二元論の神話を用いるようになった。
だがその一方、中枢種族を初めとして帝国建設に貢献した軍事種族達は、銀河系が統一されると仕事がなくなり、腐敗や抗争に陥った。中枢種族は皇帝種族までも傀儡化し、配下の種族を率いて権力闘争を繰り広げたあげく、遂には内戦を始めてしまった。この戦争は、後に〝大戦〟と呼ばれる大規模なもので、それに巻き込まれた皇帝種族は滅亡、帝国も崩壊の危機に陥った。そこで、新興の技術・産業種族や穏健派の軍事種族は、行政種族サタンを中心として、国家の再建と復興のための新政権を設立した。かくして神様にも例えられた皇帝種族は〝先帝〟種族となり、サタンが新皇帝になったというわけだ。
私の国では、そんな情報を丸ごと信じることはできないとして、世界政府とは一定の距離を取り続けた。しかし十数年の歳月が過ぎて、ついには新帝国の戦勝宣言が出されるに及び、我国も世界連邦に本格加盟することになった。そこで私は旧帝国を支持する組織の一員として、その最後の砦といえる私達の村落を守ることになった。なぜかって? 連邦政府が私達を〝保護〟するために村へ来る、という連絡を受けたからだ。まともな人間なら、神様の方につくのは当然だろう!? 少なくとも私達は、そう思っていたんだ。
そこからさらに遡ること十数年前、奴等は宇宙からやってきた。君達には常識なのかもしれないけど、当時の私の知識や考えがどう変わっていったかを知ってほしいから、我慢して聞いてほしい。公式には異星人との〝最初の接触〟となる、〝月面の戦い〟の映像は衝撃的なものだった。人類の基地のすぐそばで、沢山の複眼と触手を持った大きな黒い球体が、宇宙服を着た人間達を投げ飛ばしていたんだ。
情報は錯綜した。なぜ人々は、月にないはずの武器らしきものを持っていたのか? どちらが先に攻撃をしたのか? 偶発的な事故なのか? そうこうするうちに奴等は地球にやって来て、こともあろうに銀河帝国の新たな皇帝種族〝サタン〟と名乗り、平和的な交流を求めると言いながら、太陽系を含む広大な宙域の〝統治宣言〟を行った。またその直後に、世界各地で不可解な核融合発電所の爆発が起きたことも重なって、人々は大混乱に陥った。各国の対応は分かれたが、我国ではAIネットの遮断を含む報道管制が行われ、戒厳令が敷かれた。異星人に対する意見の違いから、いくつかの国々で〝悪魔狩り戦争〟または〝地球内戦〟と呼ばれる紛争が起きた。
しばらく後に混乱は治まったが、気づいてみると世界連邦ができ、異星種族サタンを中心とする〝新帝国〟に加盟していた。どうやら私達は、星間戦争に巻き込まれたらしい。残念なことに〝新帝国〟を導く〝理事種族〟には、悪魔や古代神の名を持つ種族が多かった。〝旧帝国〟の〝中枢種族〟には天使の名を持つ種族が多いというのにね。だがそれは、かつて異星人達が人類など、多くの発展途上種族の文明化を助けた時の名残だと説明された。
銀河系の最先進種族達は、量子頭脳網への人格転移により、高度な技術開発・政策決定能力を持ち、まさに神か悪魔のような力を得ていた。量子頭脳の仮想現実内で行われる様々な模擬実験は、分離体や分離個体という、外部派遣用の量子頭脳や人工身体の活動改善に役立てられる。また、そうした種族は〝種族融合体〟や〝心結ぶもの〟と呼ばれるように、共有人格の形成能力をもち、国際機関の理事国のように、種族まるごと星間帝国の役職を務めることもできる。
かつてはサタンも、発展途上種族の文明支援を担当する文明開発長官だったのだそうだ。初めは友好種族達と共に多神教の神々を演じて、人類などの発展を助けていたという。しかし後には公式な接触に備えて、皇帝種族や中枢種族のような神・天使達と、自ら悪役を演じる悪魔が対立する、善悪二元論の神話を用いるようになった。
だがその一方、中枢種族を初めとして帝国建設に貢献した軍事種族達は、銀河系が統一されると仕事がなくなり、腐敗や抗争に陥った。中枢種族は皇帝種族までも傀儡化し、配下の種族を率いて権力闘争を繰り広げたあげく、遂には内戦を始めてしまった。この戦争は、後に〝大戦〟と呼ばれる大規模なもので、それに巻き込まれた皇帝種族は滅亡、帝国も崩壊の危機に陥った。そこで、新興の技術・産業種族や穏健派の軍事種族は、行政種族サタンを中心として、国家の再建と復興のための新政権を設立した。かくして神様にも例えられた皇帝種族は〝先帝〟種族となり、サタンが新皇帝になったというわけだ。
私の国では、そんな情報を丸ごと信じることはできないとして、世界政府とは一定の距離を取り続けた。しかし十数年の歳月が過ぎて、ついには新帝国の戦勝宣言が出されるに及び、我国も世界連邦に本格加盟することになった。そこで私は旧帝国を支持する組織の一員として、その最後の砦といえる私達の村落を守ることになった。なぜかって? 連邦政府が私達を〝保護〟するために村へ来る、という連絡を受けたからだ。まともな人間なら、神様の方につくのは当然だろう!? 少なくとも私達は、そう思っていたんだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
小日本帝国
ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。
大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく…
戦線拡大が甚だしいですが、何卒!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる




