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3 誘拐!おさけ女!

36.いままでで、一番やばい。

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ずりずりと引きずられて、

 マイホームこと愛の巣こと…………マンションに連れ込まれた。

「い、いやー、お風呂入って寝ようかなっ」と目も合わさないようにして誤魔化し、

 とりあえずお風呂に直行しようとした襟首を後ろからガッ! と掴まれる。

「…………あのぅ、」
「誤魔化そうったって、逃げられると」

 一段の低い声が凄み、
 おろおろと後退りするわたしを、ジリジリ壁に追い詰めてくる。

 屈んで逃げようとしたら、ダンッ!! と、大きな手が壁に叩きつけられた。

 なんか、ミシッて壁が鳴った気がした。
 
 背筋がヒュンとして、見上げたその顔は猛烈に怒っている。それはそれは怒っている。
 激おこヤクザモード、ONって感じに。

「……………つばやさん、あのぅ、あへへ、えへへ……?」
「ヘラヘラする余裕がどこにあんだ?』

 殺気。
 そう、もうなんか、殺気がえげつない。

「……楽しかったか?」

 無表情だった顔に、恐ろしい笑みが宿る。目はギラギラしたまま、口元だけ吊り上がって、

「俺に、黙って、知らねぇ男と飲んで…………
楽しかったか?」
「いやいやいや! いや! 誤解!!」

 全力で首を振るけど、全く伝わらない。
 
 焦るわたしの手首を、すごい力で掴みあげられる。

 鋭い瞳に、黒い炎が灯った、気がした。

「……あ、あの」

 なんだか、よくない空気を感じてわたしは口を開いてみる。掴みあげられた腕を放してほしくて、ちょっと抵抗してみたら、

「…………みかる、」

 やけに優しい声で囁かれたかと思うと、

「ちゃんと、自分が誰のものなのか、教えてやる。一からな」


 血の気が引いた。そのまま、壁に追い詰められたままーーーーわたしは、今までで一番激しいキスが、嵐のように襲ってきた。



○○。



「んっ、やだ、っ、あ、んんん、んっ、んぐっ、ぷぁ、っっっ、あぁ、やらぁ、」

ーーかれこれ、どのくらいになるのだろうか。

 すっかりへにゃへにゃになって立てなくなったのに、つばやさんは全く容赦してくれない。ずっと、いらいらした表情でわたしの口内を責め立てる。

「ん、やっ、もうっやだ! しつこい! いや!」
「誰に向かって言ってんだ、どの口が」

 暴れて抵抗する両手を掴まれ、
 涙目で睨みつけるのを冷徹に見下される。

「うざい!」
「は?」
「う、うざいっ、ちょっと飲んだだけじゃん束縛ヤクザ!」

 普通に嫌だったから、わたしは吠えて噛み付く。

ーーーーと、今までにないほど、ぞっとするような冷たい瞳がこっちに向いた。

「ーーーー許さねぇ」

 呟いた言葉が、ひどく身体に突き刺さる。なんだか、まずいことをしてしまったことにわたしはようやく気がついた。

 これ、たぶん、あれだ。

 ふざけて許される限度超えたぐらいキレたんだ。

 そのことに気づいたのは、
 大きな冷たい手が首にかけられ、
 ゆっくりと力をいれられ、

「…………やっ、うっ、…………」
「…………ほら、なんか言えよ」

 苦しむわたしの顔を見て、
 おぞましい笑みを浮かべていた。


「ごめんなさいも言えねえのか」
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