トラブルメーカー系モブに転生したけど主人公が優秀すぎて何も起こらない

香山

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第2部

01 7年ぶりの王都

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荘厳な部屋の中央で、魔法陣の四隅に立った魔術師が口々に呪文を唱えている。注がれた魔力は中央の魔法陣を満たし、やがて光の渦となった。
これは転移魔法用の魔法陣、転移陣だ。遠くの空間に人や物を瞬時に移動させる転移の魔術は、転移陣を目印として魔力で二つの転移陣同士の空間を繋ぐ魔法である。
転移陣は主要な都市の神殿に設置されているが、転移魔法には多くの魔力が必要で、ふつう3~4人の魔術師が協力しないと発動できない。そのため非常に高額な移動方法となっており、多くの人は長距離でも馬車で移動する。
俺も自分が転移魔法を使うのは久々で、魔法が紡がれる様子にテンションが上がっていた。
ちなみに例外的に、リリーのような『空間転移』スキルの持ち主は一人で転移陣を動かすことが出来る。リリーは凄い才能の持ち主なのだ!

「転移可能になりました。どうぞ、お進みください」
「わかった、ありがとう」

魔術師の中でもひときわ立派な杖を持った女性の言葉に、ギルが簡潔に答える。

「しっかり掴まっててね」

ギルの言葉に頷いて、俺はギルの首に巻き付けた腕にぎゅっと力を込めた。俺を抱いたままのギルが魔法陣に足を踏み入れる。軽い浮遊感の直後、ぐるりと視界が回転したのかと思うと、次の瞬間にはもう周囲の景色は一変していた。

「レイライト殿下、ギルバート様。ようこそおいでくださいました」

転移魔法独特の感覚から立ち直る間もなく、俺たちを出迎えたのは白髪交じりの男性だった。

「お迎えありがとうございます、リンドマン侯爵」
「宰相!? どうしてここに?」

驚く俺に対してギルは涼しい顔をしていた。どうやら事前に連絡されていたらしい。宰相――リンドマン侯爵は、俺たちに向かって恭しく頭を下げた。

「陛下よりご下命を賜っておりますゆえ。さあ、こちらへ」

宰相に促されてギルが歩き出してようやく、自分がまだ抱き上げられている事を思い出す。

「ギル、ありがと。下りるよ」

ポンポンと肩を叩いて下ろしてもらうと、転移魔法の名残か少し足がもつれた。

「ほら、危ない。やっぱり運んであげるよ」
「もう大丈夫だって。ちょっとふらついただけだよ」
「じゃあ支えるから。ちゃんと掴まりながら歩いてね」
「はーい」

ギルに腰を支えてもらいながら、転移陣のある部屋を出る。ひとりで歩けないのは少し恥ずかしかったけど、そんな俺の様子にも宰相は笑顔を崩さなかった。

「王太子殿下が来たがっていたのですが、来なくて良かったのかもしれませんね……」
「宰相? 早く行こう」
「失礼しました。どうぞこちらへ」

転移してきた神殿から、王宮までは馬車で10分くらいだ。王家の紋章のついた馬車に乗り込み、窓の外を眺める。
ここは王都の中心。石畳の敷かれた道に沿って、洗練された建物が立ち並んでいた。

「久しぶりだな~!」
「本当に。7年ぶりだからね」

俺たちが正式に婚約者になってから半年。季節は再び巡り、秋に差し掛かっている。
今回、俺たちが王都へ来た理由。それは、3つあった。

まず1つ目は、義兄上の戴冠式に参加する為だ。義兄上がついに王になる。その儀式の場に、王家の末席として俺も招待されたのだ。もちろん王家の一員として参加する義務はあるが、それ以前に家族として、純粋にお祝いしたかったから、招待されてとても嬉しかった。

2つ目の理由は、ギルの叙爵の為だ。義兄上が王になった後、最初に行う公務が国の功労者への叙爵の儀で、戴冠式の後すぐに行われる。王宮の広間で義兄上から勲章を授かるギル……想像するだけでかっこいい!

そして3つ目。叙爵されたギルと王弟となった俺との結婚を、神殿に報告する為だ。
この国の結婚は、王都の神殿本部に認められて初めて成立する。前世流に言うと、市役所に婚姻届を提出する、みたいなシステムだ。
郵送で届けたり、各地の神殿の支部経由で届けても良いんだけど、折角なら直接届け出ようということになった。さらに、その後簡単な結婚式も予定している。本格的な結婚式は辺境領でやるけど、義兄上にも俺の晴れ姿を見てほしかったから。


馬車は王宮の門をくぐり、敷地の東端にある離宮の前で止まった。
数代前の王が寵妃のために作ったと言われているこの白百合離宮は、俺が生まれた時から辺境領に行く時まで住んでいた離宮だ。
王都に滞在中、俺たちはここで過ごすことになっている。

「変わってないな~」
「そうだね。あの時のままだ」

住む人がいなくなってもしっかりと手入れされているらしい。庭の草木は整えられ、白亜の壁には染み一つ無い。
ギルも俺の友人としてよくここに来ていたから、懐かしそうに目を細めていた。

ギルにエスコートされて馬車を降りると、玄関の前に懐かしい面々が並んでいた。その中のひとり、姿勢の良いロマンスグレーの男性が一歩前に出て深々と頭を下げた。

「お帰りなさいませ、レイライト殿下、ギルバート様」
「ロッド! 久しぶりだな!」

ロッドは俺が住んでいた時からこの離宮を管理してくれていた家令だ。今でもここが綺麗に保たれているのは彼のおかげらしい。

宰相と別れて離宮に入る。ロッドに案内されたのはかつての自室だった。
辺境に移った時大事なものは持っていたけど、大きな家具なんかは持っていけなくて残していったっけ。大きなシャンデリアも白いテーブルセットも当時のまま、ほこり一つついていないようだ。

「わぁ、懐かしいな。ロッドが綺麗にしておいてくれたんだろ? ありがとう」
「仕事ですから。ですが、喜んでくださって光栄です。ごゆっくりお過ごしください。ギルバート様には客間を用意させていただきましたので、こちらへ――」
「ここで一緒に泊まれば良いじゃん」

王都に住んでいた頃はお泊り会と称してよくこの部屋に泊まっていったものだ。だから当然、今回もギルと一緒に泊まるつもりだった。
この部屋なら水回りは完備されているし、奥の寝室はキングサイズのベッドがあるから大人の男二人でも十分寝れる。

「しかし未婚の若者同士が同室というのは……」
「問題ないよ。だって、こ……婚約者、だし? それにお付き合いをしてるから。ね、ギル?」
「ああ、レイが大切だからね。婚前交渉絶対にしないと誓うよ」

ギルの笑顔にたまらず腕に抱きつく。流れるような動作で抱き寄せられるまま、ギルの胸に頬を摺り寄せた。

「ギルバート様がそう仰るのでしたら……」

俺たちの真面目な関係性が伝わったようだ。ロッドはそれ以上何も言わず、下がっていった。

「この後は空き時間だけど、どうしようか。久しぶりの王都だし、街にでも行く?」
「いや、いい。ここでゆっくりしようよ」

病弱だったころは、離宮から出ることはほとんどなかった。王都の街での思い出なんて数えるほどしか無い。当時の俺の世界は、この離宮にあるものとギルとリリー、ただそれだけ。だから折角ギルと過ごせる今日は、ここで思い出に浸りたかった。

「わぁ、見て! この絵本!」
「レイはその本大好きだったよね。懐かしいな」

数代前の側妃様の私物だというこの本は、深い紺色の革に金の留め具が付いた豪華な装丁で眺めているだけでもため息が出るほど美しい。
でも、それ以上に――

「この絵本が好きだった理由ってさ、挿絵の王子様がギルそっくりだったから、なんだよね……」

颯爽と魔物を退治する涼やかな目元の黒髪の王子様。助けられる姫の方に自分を重ねて読んでたっけ。
言ってて恥ずかしくなってきちゃって誤魔化しついでに表紙を撫でた手に、ギルの手が重なった。

「俺はレイの王子様になれた?」
「ひゃぁっ!」

反射的に顔を上げた先。ギルの顔が思ったより近くにあって、つい変な声が出た。

「俺にとっては、ずっと、王子様だよ……」

心臓がバクバク高鳴り、顔から火を噴いているんじゃないかと思うくらい熱くなる。赤くなった頬を両手で隠していると、ギルは揶揄うようにおでこにキスしてきた。

「っ! もう! ギル!」
「はは、可愛いよ、レイ」

ギルの胸に顔を押し付けてポカポカ殴る。こうすれば表情も見られないし一石二鳥だ。

俺の抵抗なんて意にも介さず、ギルはクスクス笑っていた。

「あー、ほんと、可愛い」
「うぅ……」

独り言のような軽い口ぶりでも、可愛いと言われる度に喜んでしまう。
耐えきれず顔を上げた俺の唇に、ギルはちゅっと口付けた。



そんな風にしていたら、あっという間に寝る時間になった。

ベッドにダイブしてごろごろ転がる。ふかふかな布団の感触を堪能していると、少し遅れてギルもベッドに入ってきた。
並んで横になる。大きなベッドは大人がふたり手足を広げても十分すぎるほど広い。
でも俺はギルの左腕にぴったりとくっついた。

「こうしているとお泊まり会の時を思い出すね」
「ギルを無理やりベッドに引きずり込んで、一緒に寝てもらってたっけ。あの時は楽しかったな」
「俺は正直辛かったよ」
「ご、ごめん」

まだ12歳だったとはいえ同衾なんてはしたなかった。無自覚だったけど我ながら大胆な事をしていたものだ。
独り反省していると、ギルはそうじゃなくてと俺を抱き寄せて耳元に囁いた。

「俺はあの時からレイが好きだったから、我慢するのが辛かったんだ」
「っ!!」

低く甘い声に心臓が跳ねる。寝ながらギルの方に向き直って、鼻先が触れ合う距離で見つめ合った。

「キスしても?」

こくんと小さく頷くと、柔らかく唇が重なり、そっと離れた。

「あの時も、こうしたくてたまらなかった」

はにかんだギルの表情がなんだかくすぐったく感じて、ギルの胸に擦り付いて匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。
一定のリズムで背中を撫でられていると、徐々に意識がぼんやりしてきた。

「眠いの?」
「ん……」

ここは温かい腕の中。世界で一番安心できる場所。

「ぎる……すき……」

最後まで伝わっただろうか。ギルが笑った顔を見たような気がしたが、確かめる術もないまま俺は眠りへと落ちていった。





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