【R18/完結】勇者の盾は魔力供給を拒めない

香山

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第10話 決戦

「では優斗、よろしく頼むよ」

 最後の魔法標識に勇者が触れると魔界岳が姿を現す――
 その伝承通り、優斗が石柱に触れた瞬間、視界いっぱいに広がる山が現れた。

「これが……魔界岳か……」

 目の前に現れた巨大な山に一同が息を飲む。

「すごいな……こんなに大きいとは思わなかった……」
「ええ、それに……」
「あぁ、禍々しい気配だね」

 フォリオの言葉を引き継ぐようにベルトランが言う。遥か高くそびえたつその山の頂上は侵入者を拒むように黒い靄に覆われていた。

「魔王は恐らく頂上にいる。一気に行こう! 肉体強化・盾エンチャント・ステータス!」

 優斗が呪文を唱えると体が淡く光った。身体の奥から力が湧き上がってくる。

「よし、行くぞ! 山頂まで一気に走るんだ」

 優斗の合図でエデュアルドが走りだす。ベルトランが優斗を抱えそれに続き、さらにイラ、フォリオと続いた。
 ここから先は魔物の群れと遭遇する可能性が高い。戦闘が最小限になるよう、短時間で山頂まで駆け抜ける必要があった。

「来るぞ!」

 先頭を走りながらエデュアルドが叫ぶ。木々の間から現れたのはゴブリンの群れだった。

武器強化・盾エンチャント・ウェポン! エディ!」
「ああ」

 エデュアルドが優斗の魔法で強化された剣を振り下ろす。一瞬にして辺りに血飛沫が舞った。

「残りはボクが仕留める! 猛炎発火イグニッション!」

 イラが放った炎の弾がゴブリンの頭を吹き飛ばす。

「すまない、助かる」

 エデュアルドが礼を言う間も無く次の敵が現れる。

風刃斬撃サイクロン!」

 間髪入れずにフォリオの風魔法が敵を切り裂いていく。
 流れるような連携で、一行はあっという間に山肌を駆け上っていった。



「もうすぐ山頂だ!」

 優斗が叫んだその時、突然地面が大きく揺れた。

「地震!?」
「違う、これは……っ」

 エデュアルドの声と同時に、足元の岩が崩れ、全員は真っ逆さまに落ちていった。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
聖防御壁ホーリーシールド!」

 エデュアルドが咄嵯に張った障壁のおかげで怪我こそなかったものの、全員が深い穴に落下した。

「……ここは……?」

 綺麗に着地したエデュアルドが顔を上げるとそこは洞窟のような場所だった。

「うぅ……死ぬかと思った……みんな無事?」
「私は、大丈夫です」
「ユートこそ、怪我はないかい?」
「ねえ、」

 無事を確かめ合う中で、イラが声をあげた。

「どうやらここが目的地みたいだよ。ほら……」

 そう言って指差した先には、巨大な赤竜が佇んでいた。竜はこちらを睨みつけながら、どこか覚えのある魔力を放っていた。

「魔王は竜種か……」

 どんな生物が魔王になるかはその時々で異なるが、もとより魔力の高い竜種が魔王になればその能力は最強クラスと言って良いだろう。
 どう接近しようかと考えていると、不意に優斗が声を上げた。

「待って! 人がいる!」

 優斗が指さす赤竜の足元に、黒い人影が見えた。

「人……? なぜこんなところに……」

 黒いローブに身を包んだその人物の頭には、銀色に光る二本の角が生えていた。

「もしかして、あのヒトが魔王なんじゃ……」
「人型の魔王……聞いたことはありませんが……」

 イラの言葉にフォリオが眉をひそめる。魔王は魔界にいる生物が魔王の核を取り込んで変化したものだ。人が魔界の、こんな深くに来るとは考えにくい。だが確かに、そこにいる人物の背格好は人間のものだった。
 こちらの気配に気付いたのか、その人物がゆっくりと振り返る。青年の黒い双眸はエデュアルドの後ろを捉えると、大きく見開かれた。

「……と……」

 小さく呟かれた言葉に誘われるように、優斗がふらふらと前に出る。咄嗟に伸ばした手は空を切った。

「綾斗兄さん……?」
「優斗……優斗なのか? まさか、本当に……?」

 その言葉に優斗は弾かれたかのように走りだす。止めなくてはと、そう思っていてもその場の空気に呑まれて動けないでいた。
 優斗が青年の胸に飛び込んいく。青年はそれをしっかりと受け止めた。

「兄さん……兄さん……合いたかった……」
「優斗、一人にしてごめん。大きくなったね」

 二人は抱き合ったまま静かに泣いていた。

「ど、どーゆーこと?」

 すっかり置いてけぼりになった一行の中で、イラが困惑の声をあげる。青年は顔を上げてこちらを順々に見つめると何かに思い至ったように口を開いた。

「君たちは勇者の……優斗の仲間?」
「ああ、そうだ。貴方は、魔王なのか?」

 ようやく落ち着きを取り戻したエデュアルドが問いかけると、その人物は困ったように笑いながら答えた。

「どうやらそうみたいだね」



「とりあえず話をしようか。どうぞ、こちらへ」

 魔王――綾斗が右手を上げると、洞窟だったその場所は一瞬にしてシンプルな造りの部屋へと変わった。真ん中には6人掛けのテーブルセットが置かれており、赤竜は天井の高さに合わせて小型化していた。

「すごーい! 空間魔法? 召喚魔法? これだけの魔法を詠唱無しで発動するなんて、一体どうやったの?」
「イラ、少し落ち着きなさい」

 興奮気味のイラをフォリオが宥める。空気が緩んだところで、綾斗が口を開いた。

「僕は勇者としてこの世界に召喚されたんだ。優斗のひとつ前の勇者としてね」
「前回ですか……あまり記録が残っていないのですが、勇者のあなたがどうしてここに?」
「魔王討伐の記録が残っていないのは当然かもね。あの時、パーティは全滅したから」
「えっ!?」

 綾斗の言葉に全員が息を飲む。綾斗は大したことでもないかのように淡々と話を続けた。

「魔王の討伐自体は成功したんだ。みんなで力を合わせて魔王を倒して、さあ封印だ、ってなった時だったよ」

 そこで一旦言葉を区切ると、綾斗は長い睫毛を伏せた。

「盾の3人が、ベルを……ベルナール王弟殿下を殺したんだ」

 誰も言葉を紡げない中、綾斗の独白だけが静かな部屋に響いた。

「僕が召喚された頃、前国王が崩御されたばかりでね。跡継ぎを誰にするかで揉めていたんだ。結局ベルナール殿下の兄が王位を継いだんだけど、即位後もベルナール殿下を押す声が絶えなくて……。兄弟仲は良かったし、ベルナール殿下は王になる気なんてさらさら無かった。それは旅の間にも本人の口から何度も語られたことだよ。それなのに、奴らは……」

 綾斗は俯いて拳を強く握る。その手からは赤黒い血が流れ出ていたが、本人は気にしていないようだった。

「だから、僕が奴らを殺した。僕の殺意に核が呼応して、僕はこの力と引き換えに核の器――魔王になった」

 綾斗が掌を開く。淡い光と共に先程まで流れていた血は跡形も無く消えた。
 重苦しい雰囲気の中、赤竜がふわりと近づき綾斗の頬に擦り寄った。

「ふふ、ベル……慰めてくれるのかい?」

 その名を聞き、それまで目を伏せて黙り込んでいたベルトランは弾かれたように顔を上げた。

「アヤト殿、その竜は――」
「この子はね、ベルナール殿下の亡骸から生まれたんだ。だからベルって名付けた。僕が長い眠りに入る前も、眠りから覚めた後も、ずっと傍に居てくれたんだよ」

 綾斗は懐かしむような眼差しを向けながら赤竜の頭を撫でた。その竜から感じる魔力は王家の――ベルトランの魔力とよく似ていた。

「眠りにつく前に決意してたんだ。次の勇者が来たらどんな手を使ってでも抵抗してやろうって。でも……優斗が勇者だったなんてね」

 綾斗が悲し気に笑って目を伏せる。しばらく目を閉じていたが顔を上げると決意に満ちた表情をしていた。

「優斗の仲間の皆さん、どうか僕を殺して欲しい」
「そんなっ! なんでだよ!」

 優斗が綾斗の腕に縋りつく。綾斗はゆるゆると首を振った。

「それが一番良い方法なんだ。それに僕はもうすぐ死ぬ。ほら、見てごらん」

 綾斗の細い指がローブの前を寛げる。光の下に晒された胸元には、魔王の核である赤い結晶とそれを取り巻くように黒い霧のような物が溢れ始めていた。

「これは……」
「魔王としての力が暴走し始めているんだよ。遠くない未来に僕の自我は完全に消えるだろう。そして世界を滅ぼそうとするはずだ。その前に殺して欲しい。どうか」
「そんな事、出来るわけねえだろ!!」
「これまでの魔王と同じだよ。器を破壊して核を封印するだけ。それが一番いい方法なんだ」

 激昂する優斗を宥めるように、綾斗は優しく抱きしめた。

「最後に優斗に会えたし、もう生きることに未練はないよ。それに本望でもあるんだ。やっと、ベルナール殿下の元へ行ける」

 優斗をそっと離すと、綾斗はその瞳を見つめながら微笑んだ。

「……俺は認められない」

 それまで静観していたベルトランだったが、絞り出すように言うと何か思い付いたのか、ハッとした顔をした。

「そうだ、王家の宝剣を使って何とかならないかな」
「――その手があったか!」

 その提案に、エデュアルドは暗雲から光が差し込んだように感じた。

「そうだよ! 魔王の核って要は大きな魔石ってことだし!」
「魔獣の時と同じように核を破壊できれば、あるいは……」

 口々に案を述べながら立ち上がる。希望が見えてきた。皆の顔に笑顔が浮かんできたその時だった。

「やめてよ」
「兄さん……?」

 今まで黙っていた綾斗が低い声で呟く。柔らかかったその表情は冷たく、無感情なものへと変わっていた。

「僕はベルナール殿下の……ベルのいない世界なんかで生きていたくない」

 綾斗の身体からゆらりと黒い魔力が立ち昇る。部屋中に張り詰めるような緊張感と息苦しさが満ちた。

「兄さん、そんな……」
「君たちが僕を殺さないのなら――」

 パキン、と何かが割れる音と同時に周囲の様子がもとの洞窟へ戻る。

「僕がこの世界ごと僕を殺すよ」

 禍々しい魔力を纏いこちらを見つめる綾斗の姿は、まさに魔王そのものだった。
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